ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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「だから、パーティーを組むから誰か紹介してって言ってるじゃないですか」
「ウチでは推奨しかねます。ていうか、そんな時間ないわ」

 受付嬢は眼をさらにギリッと釣り上げ、低い声でつっ返す。ギルド職員たちも、この領主からの討伐依頼の対応に忙殺されている。その不機嫌オーラに当てられたニコラと呼ばれた少年は、ぐぬぬと怯んで押し黙った。鮮やかなターコイズブルーの目が、恨めしげに窄められる。

 冒険者としての実績を積んでる最中の駆け出しであるニコラには、Cランクから上の中堅たちに知り合いなどいない。そんな自分へまともに取り合ってくれる奇特な先輩を自力で探すのは困難だった。
 現に先日、見事に失敗してこの受付嬢にパーティー結成を阻まれてしまった。

「おば……おねーさんがあの時、言いがかりつけてパーティー登録してくれなかったから」
「登録して送り出したら、あんたは今頃マスキュリベアーのお腹の中でしょうよ。あの連中、あんたを囮に使う気満々だったもの」
「だっ、だから紹介を」
「そんな・時間は・無いっ。…悪い事言わないから、諦めなさい。群れは何処にいてもおかしくないの。我がギルドは、不必要な被害を出す気はありません」
「……このケチおばはん」

 悔し紛れの悪態を置き土産に、ニコラはサッとカウンターから踵を返した。受付嬢の怒声が飛んでくるが振り返らずにギルドを出る。

 ニコラは重い息を吐いた。Eランクより一つ上とはいえ、まだまだ単独で外に出るには危険とされている実力の者。それがDランク冒険者だ。魔物が跋扈する地域での依頼は、受けれたとしても薬草採取か護衛依頼の数合わせくらい。
 なのであの受付嬢の態度は、ギルドの人間として取って然るべきものといえた。むしろ何事も「自己責任」と片付けられるが当然のこの界隈で、そんな義理も無いのにタチの悪い冒険者から自分を庇ってくれた、義理深きおばはんだ。
 分かっちゃいるが、ニコラは村へ忍び込むのを諦める気はなかった。

 7日前。ヤキュウのチームメイトであるナダが消息を絶った。
 この街の少年少女で結成されたヤキュウメンバーに、ニコラもナダも所属していた。メンバーは洗濯屋の倅や商会の小姓、そして身寄りのない冒険者といった面子で、みな仕事の片手間に集いプレーしていた。ヤキュウへの強すぎる情熱を滾らせる者もいれば、コミュニティの一環としてみなしている冷めたやつ、「みんなでワイワイ楽しいねぇ~」としか思ってない妖精さんタイプなど様々だ。喧嘩やいざこざが絶えないのに何故か瓦解しないという、奇跡の集団だった。もっとも、どこのヤキュウチームも大体そうらしいが。
 ニコラはこの街の孤児だが、ナダは他所から流れてきた子供だった。街から1日離れた村に祖父が一人で住んでいると聞いたことがある。…マホチェク村はちょうど、ここから1日はかかる距離にあった。

 ただ一つの心当たりであるその村は現在、魔物の襲撃で壊滅したと立ち入りが制限されている。街の検兵と冒険者たちが調査に入っていて、それなのに遺族ですら入ることを許されないのだった。
 しかも話を聞くと、その冒険者というのもそこそこ名の知れたパーティーが2組ばかし。調査というなら、なぜそんな少人数で事にあたるのか。

 怪しい。全くもって腑に落ちない。殆どの冒険者たちは気にもしていないが、ニコラは疑念でいっぱいだった。ギルドと、その向こうにいるであろう偉い人間どもへの。

「おい、ニコラ!」

 くさくさと路地を歩いていると、大声で呼び止められる。チームメイトの少年3人が人の波をぬってニコラの元へやってきた。

「どうだった?」
「村を見に行けそう?」
「…いんや」
「そうか……」

 浮かない返事に、3人は一様に顔を曇らせる。やがてそのうちの一人が、重々しい空気を払拭するように明るい声を出して言った。

「まぁさ!ナダが村のヤツに巻き込まれたって決まったわけじゃないだろ?」
「…だよな。明日にでもひょっこり顔出したりして」

 そうそう、と頷き合う二人に続いて真ん中の少年が口を開く。チームのキャプテンだ。

「どっちにしても今後の練習をどうするか、はっきり決めなきゃならない。一度みんなで集まるつもりだ」

 ニコラが短く「そうか、分かった」と返すと、キャプテンたちはぽん、とニコラの肩に手を置いてから去っていった。

 ナダの詳しい生い立ちを、ニコラは知らない。興味もなかった。温厚で誠実な人柄。プレーもそんな感じ。同じ冒険者同士だが、どうにも気に入らないやつだ。そんな間柄であるのをメンバーは知っているので、彼らはニコラの素っ気ない態度に何とも思っていない。
 まさか単身ででも、街を飛び出して消息を追おうとしているなんて思ってもいないだろう。

 そこにあるのは友情でも、同情でも、仲間意識でもない。とあるひとつの口約束だ。


『なー、おい。レイクブルーベルの群生地見つけたって本当かよ』
『うん、本当だ。道に迷った時、まぐれで』
『ずるいぞ、おれにも場所教えろ!』
『それが人にものを頼む態度かよ。…ま、まぁいいか。わかった。今度一緒に行くか』
『よし!二言は無いな?今度ってのはいつだ?明確な日時はお前が決めろ。配分は6:4?5:5?おれも採取するんだから5:5でいいよな?間違っても7:3じゃないよな?おれたちチームメイトだもんな』
『ひいぃ』


 ニコラは、まぁまぁ銭ゲバであった。

 レイクブルーベルとは、水の魔力を蓄えた薬草であり、そこそこ上質なポーションにも、水の回復魔法の補助にも使える優れた素材だ。
 Dランク冒険者としては絵に描いたような超優良案件。労力に見合いすぎる稼ぎが期待できると、ニコラは大喜びだった。それなのに。

「あの野郎。間違っても巻き込まれてんじゃねーぞ…」

 足を進めながらひとりごちる。兎にも角にも、あいつの所在を確かめない事には始まらない。
 向かう先は、ちょくちょく日銭稼ぎを融通してもらっている人物のもとだった。仕事柄ナダとも面識がある男で、街外れの一角にて寂れた治療院をひらいている。確か、ナダの祖父が腰を思いっきりやった時にあの村を訪れている筈なのだ。

 生まれ育った街の通りを、右へ左へ突き進む。甘い匂いがする菓子屋の裏路地へ侵入し、ショートカット。階段を二段飛ばしで駆け降りて、しけた教会広場へあっという間に辿り着いた。

 やってるのか閉まってるのかも分からない目当ての建物に、ニコラは構わずノックと同時にドアを開け放った。

「旦那ーっ、こんちわー」

 ボロく寂れた外観に反し、中は意外と整頓されて清潔だった。窓が小さいせいでやや薄暗い。その薄暗いカウンターの向こう側から、くぐもった「誰だ?」という老人の声が上がる。

「ニコラだ。ちょっと聞きたい事があって」
「なんだあ?またお前か」
「おう、悪いね」

 奥の部屋からのっそりと主人が出てくる。小柄で白髪のアラスターという老人だ。どうせ暇だろ、という本音をおくびにも出さずニコラはヘラヘラと謝る。


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