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テスト期間編。
130話『合同研修 5』
しおりを挟む次の日の朝、早朝を告げる鐘の音で私とキャシーさんが目を覚ますと、
ベリアル様とセンラ君の姿は見えなかった。
コートや靴がないことから、先に起きて部屋を出ているようだ。
2人の気遣いに感謝して、私達は着替えを済ませる。
朝の支度を終わらせて、出窓を開ける。
下の庭ではベリアル様とセンラ君が剣で打ち稽古をしていた。
センラ君は汗だくになっているのに対して、ベリアル様は涼しげだ。
「すごいですね」
キャシーさんも庭を見つめてつぶやいた。
「センラは、ああ見えても、かなりの腕前なんですよ。
王都では兵士達の訓練場に、たびたび足を運んでいて。
ベテラン兵士の大人相手でも一歩も引けを取らなかったのに……」
「それは凄いですね……」
私は素直に驚いた。
王都の兵士は外への巡回で魔物との実戦経験もあるはずだ。
そんな相手に一歩も引けをとらなかったセンラ君をベリアル様は
軽々といなしている。
そういえば、湖の時に騎士家のコンラート様との打ち合いでも、
片手だったよね……?
あれ? ベリアル様、強すぎない?
そんな事を考えてベリアル様を見つめていると、
庭のベリアル様に気づかれた。
やさしく微笑んで手を振ってくれる。
朝から爽やかイケメンがまぶしー!!!
隣のキャシーも、まぶしー!! ってなってる。
イケメン耐性がないと辛いよね! 分かるよ!!
そして、私も手を振り返した。
この後、ベリアル様とセンラ君が部屋に戻ってきた。
センラ君は汗をかいたらしく濡らしたタオルで汗をふき取っている。
ベリアル様は、特に汗一つかいていなかった。
でも、私はベリアル様の髪型がちょーっと気になった。
適当に手櫛で梳かしただけなのだ。
綺麗な白銀色なのに、もったいない。
私は、ベリアル様を絨毯に座らせて、自分の櫛で髪を梳く。
見た目以上に細くてツヤツヤだった。うらやましい。
悔しかったので、髪で遊んでやるもん!
後ろの低い位置でお団子にして金の髪飾りで留める。
丸い尻尾みたいで可愛い。
褐色の肌にお団子ってちょっと色っぽいとか考えてしまった。
ベリアル様も私にされるがままで、ちょっと楽しそうだった。
センラ君の着替えが終わったので、朝食に向かう。
2階まで良い匂いが漂ってきているのでね。
もう朝食は出来上がっているだろう。
ちなみに、今日の予定は朝10時から宿舎前の広場に集合だ。
朝食はおのおの好きな時間に食堂で食べてもいいらしい。
現在時刻は8時だ。まだまだ時間はある。
ゆっくり朝食を食べて、そのあと準備に取り掛かる予定だ。
階段を下りて食堂に向かう。
廊下から食堂内の喧騒が聞こえてくる。
その中にひときわ大きな声が混じっていた。
「やめなさいって言ってるでしょ!!」
おや? この声は……。
私とベリアル様はお互いに視線を交わして頷く。
食堂の中では、ちょっとだけデジャヴな光景だった。
転んで食事をぶちまけたマリク君が、ライナーの服と靴をせっせと綺麗に
ふき取り作業中で、その取り巻きたちはゲラゲラ笑っている。
そして、そんなライナーに啖呵を切っている、
ピンクのゆるふわの髪の少女、ナナリーの姿があった。
「下級貴族風情が。僕に意見するな。
いや、下級貴族同士、お前らお似合いだな。
這いつくばって、ゴミでも拾ってろ」
ギャハハハと笑い声を上げるライナーとその取り巻き達。
ナナリーはわなわなと震えている。
これは、ちょっとまずいんじゃない?
周りを見回しても、まだジョシュアとシンシアは来てないようだ。
「いいかげんにしなさいよ!
あんたも、そんなヤツの命令をいちいち聞くんじゃないわよ!!」
話を振られて一緒に怒鳴られたマリク君は、ナナリーにビクリと反応した。
「貴様、僕を無視するなんていい度胸だな。
僕を誰だと思っている! 下級貴族の分際で……」
ライナーは握りこぶしを作って、手を振り上げた――
ナナリーは殴られると思ったのか、目を瞑った――
私はとっさにベリアル様に視線を送る。
アイメッセージは『止めてきて!』だ。
私のメッセージを受け取ったベリアル様は、一瞬でライナーのもとまで行き、
ライナーの腕を掴む。すかさず、私も移動した。
「おやめなさい」
ライナーとナナリーは急に現れたベリアル様と私に驚いている。
私は、『淑女の覇気』を発動し、ライナーのほうを向いた。
「騒がしいですよ。ライナー・ホスケンス様」
ライナーは、怪訝な顔で私を睨みつけるが、私の姿をパーティや建国祭で
見覚えがあるのだろう、ばつの悪い表情になった。
「エミリア様……」
「よくご存知ですね」
私は、美しい所作でライナーとその取り巻きにあいさつをする。
「私は、エミリア・ヴォルステインと申しますわ。
他の皆様も、お見知りおきを。
ライナー様、貴族たるものその地位に居る者はそれ相応の態度が
必要になります。
上流貴族なら下級貴族のお手本となるように心がけたほうがよろしいかと。
貴方の態度は目に余ります。
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よく考えて行動なさいませ」
たじたじになるライナーとその取り巻き。
私も人の事はいえないけれどもね。
以前教養の時間でやらかしちゃってるしね。
私の言葉に、ライナー達は「うっ」とうなり声を上げた。
ライナーはマリク君とナナリーを睨みつけた。
「エミリア様、失礼しました」
ライナー達は分が悪いと悟ったのか、
静かに頭を下げて、食堂を出て行った。
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