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テスト期間編。
134話『異変 2』
しおりを挟むシュゼルツ様に話を聞いた内容は、想像を絶する内容だった。
まず、コルト近隣の森に出現した魔物は1体では無く複数いたのだ。
出現した魔物を討伐するために王都に知らせに向かった者が、
兵を連れてコルトに戻るまでにあと1日以上はかかること。
そして、その複数の魔物の内の3体が
コルトの街の西門に向かってきたということ。
街の魔物を討伐するために、森から戻ったお母様は、
星霊憑きという事もあり、西門の最前列で戦っていた。
しかし、魔物の不意打ちを受けて怪我を負ったのだという。
「魔物の毒ガスを受ければ、この街にはびこる病と同じ症状になります。
怪我を負われたエレノア様の状態段階は現在3です。
必死で医師達が交代で治療を試みていますが、まだ目が覚めないのです。
このままでは、手遅れになる恐れもあります」
話を聞いた私に目眩が襲う。
私の顔色は真っ青に染まっていることだろう。
「そ、そんな……」
「エミリア、大丈夫か?」
ベリアル様がそっと支えてくれた。
「エレノア様は、もし自分に何かあった場合は、
エミリア様と護衛の方を頼るようにと……」
だから私達を呼びに来たと?
確かに、お母様の血縁者である私は治癒魔法は得意だ。
家族の中では、お母様の次くらいの腕前だ。
でも、私よりもちゃんとした知識のある、医師免許を持つ先生達のほうが
有能な気がするのだ。
単純な治癒魔法の能力なら、ナナリーのほうが上だろう。
戦う力を求めての人選なら、ベリアル様は打ってつけだ。
だけど、私は別だ。
私が行ってどうにかすることが出来るの?
魔物とだって、戦える力は私には無いのに……。
そんな事を考えていたら、両肩をポンとベリアル様に叩かれる。
「エミリア、大丈夫だ。 君の事は、私が絶対に守る。
エミリアは、自分のできる事だけをやるといい」
ベリアル様の励ましで幾分か、気持ちに余裕がもてた。
私にできること……
そうだよね。私は、私に出来ることをすればいいのよね。
「分かりました。
お母様の元へ向かいます」
私とベリアル様は、シュゼルツ様と兵士の後に続いて馬で駆け出した。
私は馬に1人では乗れないので、ベリアル様の前に横乗りさせてもらった。
遠くから見える西門は閉ざされていた。
外から激しい衝撃音が聞こえてきている。
何者かが、門を外側から壊そうとしている音のようだった。
西門の内側では、複数の兵士が倒れ、
門の周りの石壁が削れて瓦礫が転がっている状態だった。
複数のクレーターから黒煙が上がっていたので、魔法の痕跡も窺える。
そして、兵士達に囲まれて、
黒いイノシシの魔物が禍々しい黒い靄を漂わせて佇んでいる。
街の中に1匹だけ魔物が入り込んでいる状態だった。
「ヴェルフェボアか……」
苦い顔でつぶやくベリアル様の声を私は聞き逃さなかった。
ヴェルフェボア。
それは、吟遊詩人や旅の傭兵達の冒険譚の本に数多く語られる魔物の1体だ。
1匹だけなら、毒ガスに気をつければ傭兵や兵士でも
対処ができると言われている。
しかしこの魔物は数が増えると、とても厄介なのだ。
仲間意識が強く、1匹やられると他のボアは力を増す。
毒ガスを吐く特性も、その土地によって毒の種類が変わる。
毒の種類によっては、とても危険な魔物だと知らされていた。
でも、おかしい。
ゲームに出てくる魔物は、あんな禍々しい魔物じゃなかった。
サルの姿をしていて、凶暴ではあったけれど、
体からもあんな黒い靄なんて出ていなかったはずだ。
シュゼルツ様は、西門から少し離れた旅宿の前で馬を停めて降りた。
西門まで300メートルくらいだろうか。
私達も後に続いて降り立つ。
兵の一人に手綱を渡して、宿の中へ向かう。
宿の中は、簡易の救護所となっていた。
血まみれの兵士達がシーツを敷いた床に寝かされていて、
見覚えのある祭服に身を包んだ医師達が、
兵士達の治療を施している最中だった。
兵士全員の症状は、今回の流行り病に一致する症状だった。
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