親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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白魔法の文献編

182話『検問所にて 2』

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しばらくして、機能停止していた私の脳がハッと状況を理解しようと

動き出す。

ぼんやりと魔法陣を消すベリアル様を見つめている場合ではなかった。



せっせと魔法陣を消しているベリアル様に私は声をかけた。



「手伝います」



「いや、いい」



ウエストポーチから刷毛を取り出そうとすると、

ベリアル様から拒否の声が上がった。



どういう事かと屈んで魔法陣とベリアル様を確認すると、

魔法陣を消しているんじゃなくて、書き直しているのだという事が分かる。



(さっきの音って、まさか魔法陣が壊れる音!?)



「これって……」



私をチラ見して頷くベリアル様に、

魔法陣が壊れる音だったのだと確証を得る。





「いや~。逃げられちゃったよ~」





後ろからの声に驚いて振り向くと、

ポアソン君がボロボロの格好で横たわっていた。


そう、横たわっていた。

ボロボロの格好で。

燕尾服はズタズタで破れた服の間から見える褐色の肌は血に濡れている。



「ポアソン君!?」 「ポアソン!」



ベリアル様と声がかぶる。





私達は急いで駆け寄り、ポアソン君の状態を確認する。

ポアソン君は上半身を起して「イテテ」と言いながらベリアル様を見つめる。



「申し訳ありません。 陛下。

 取り逃がしてしまいました」



「それはいい。

 エミリア、ポアソンを魔法陣に移動させる。

 そこで治療をしてくれ」



「わかりました。

 ポアソン君、少し失礼します」



私はベリアル様の指示に頷いてポアソン君を支える。

ベリアル様と左右から肩を貸して、魔法陣まで移動した。

魔法陣は書き直しがされていてちゃんと発動もしている状態だ。

ポアソン君を座らせる。

傷口をポーチから取り出した清潔な布でふき取る。

ふき取った傷口が土で汚れていないことを確認して万能治癒を発動させた。

致命傷はないけれど浅い切り傷が多すぎる。



「ポアソン、何があった?」



「先ほど立ち去ったフードの者にやられました。



 フードの者が陛下とエミリア様に仕掛けていた魔法は高度な監視魔法です。

 後を追った後、戦闘になりました。



 ですが、相手が悪かったです。

 こちらの動きを把握した動きに、仲間が複数いました。

 それも暗殺を得意としたような動きの仲間が複数です。



 フードの女の姿は赤い髪、赤い目をしていました。

 声も湖で戦った女と同じ声、同じ剣筋でした。

 こちらは防戦一方でしたが」



ポアソン君は悔しそうに俯いて握りこぶしを作った。

「湖で戦った女ってことは、

 さっきのフードの人物はリーテ様ってことですか?」



だけど、さっきまでリーテは私達と同じ部屋で寝ていた。

私達が部屋を出た後、追ってきたというの?



私の不安を2人は感じ取ったのか、険しい表情になった。



「そのようです」



ポアソン君が頷いた。



「ポアソン。

 お前一人では対抗できなかったという事で間違いないか?」



苦い顔でポアソン君は頷く。



「暗殺を得意とした者達の特徴は?」



「全員、黒装束でした。

 フードの女以外は全員男です」



全員男の暗殺集団……



ポアソン君の情報にベリアル様は何か考え込んでいた。

とりあえず、ポアソン君の治療は終わった。

「いかがいたしますか?」



ポアソン君の問いかけにベリアル様は答える。



「ポアソン、お前の命が大事だ。

 取り逃がしたのは正解だっただろうな。

 そのまま追っていたら、命が危なかった」



そこまで言ってベリアル様はため息をついた。

そして言いにくそうな表情で続けた。





「ポアソン。

 ヴェルマに行き、至急アスタロットを連れて来い」



ベリアル様の言葉に、目が泳ぐというか、

酷く動揺するような表情でポアソン君はベリアル様を見つめる。



「アスタロット様を……ですか……。

 陛下は、そこまでしなければいけない敵だと?」

「そうだ。

 来させる理由は緊急だとでも言え。

 どうせヴェルマに居ても何もすることが無いはずだ。

 アスタロットのいない間のヴェルマは……お前の妹にでも任せよう」



「連れてくる場所はどこにいたしましょうか?」



「私に会う必要はない。

 ポアソンの隠れ家にでも連れて行けばいい。

 後は、ヤツに任せる」



「監視の方は?」



「引き続き続けてくれ」



「……承知いたしました」



ため息交じりにポアソン君が了承する。



どうしたんだろうか?

2人の会話に違和感がある。

なんというか、アスタロットさんを呼ばなくちゃいけないほど

切羽詰まった状態だけど、できれば呼びたくないような。

のろのろと立ち上がったポアソン君は体を確認して私のほうを向いた。



「エミリア様、治癒を施していただき感謝いたします。

 どうか、ベリアル陛下を頼みます」



ポアソン君はそれだけ言ってシュッと目の前で消えていった。

まるで忍者だ。



とりあえずベリアル様に視線を向ける。

私の不安げな視線に気づいたのか、ベリアル様は私の手を取った。



「確かめたい事がある。

 エミリア、ここで起こったことは他言無用だ」



ベリアル様の言葉に頷く。



確かめたい事。



私も確かめたい。



さっきのフードの人物がリーテ様だとしたら、

今、検問所の宿屋の大部屋で眠っている人物は何者なのか?

もしフードの人物がリーテ様なら大部屋には居ない事になる。



至急、戻って確認しなければ。

私とベリアル様は、魔法陣を適当に掃いて大部屋へ戻ることにした。




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