猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第179話・“震”魔大戦【上昇】

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「──さてと、」

 ヴィルジールと合流し、俺は周囲を見渡す。
 乱戦状態⋯⋯というのは見て分かるが、一方的な蹂躙に近い状況の様だ。
 オーガ側の軍隊も、かなりの数と、先程のゴリラの様な新型黒異種──黒ゴリと呼ぼう──を新戦力に投入しているが⋯⋯
 コッチ陣営の連中があまりに暴れまくるので、大して効果は発揮していないらしい。
 
「ルオオオオーーッッ!!」
「お、」

 刹那、背後から強襲を受ける。
 正面に伸びた二本の角と、オーラの様に揺らめく黒いたてがみ
 さしずめ、二角獣バイコーンといった姿のその黒異種は、目測でも高さ5~6mは下らない体躯だ。
 二本の鋭い角を突き立てるソイツは、大地を震動させながら真っ直ぐと此方へ走って来る。
 対する俺は、猛突進の通過地点に立ち、両手と両足を大きく広げて待ち構えた。
 その直後。二本角が俺の胸に突き刺さる寸前に──

「ふんッ!!」

 両手で角を引っ掴み、強引に突進を受け止める。
 砂煙を巻き上げ、俺の身体は三歩分ほど後方へと下がった。
 しかし、それ以上は左脚を地面につっかえさせる事で押し込ませず、その場で留まらせる。
 黒い二角獣──黒角馬クロノバ──は、必死に俺を貫こうと力を掛けてくる。⋯⋯が、その脚は地面を抉るばかりで前進はしない。
 寧ろ、無理に踏み込むあまり体力を消耗したのか、徐々に押す力が弱まっていった。

「ルオ"ーッ! ルオ"ーッ!」
「それじゃあ──なッ!!」

 鼻息の荒い黒角馬クロノバの頭を高く持ち上げ、そして振り下ろす。
 それと同時に。俺は左膝を突き上げ、奴の顎下へと思い切り打ち込んだ。
 
──ガッ──ツンッッ!!!

 重厚な打撃音が轟き、黒角馬クロノバの全身が浮き上がる。
 空高く打ち上がったその肉体は、冗談の様に高速回転しつつ戦場のどこかへ吹っ飛んでいった。
 いつもの俺なら、ここで自画自賛しているトコだが──今は戦闘の、しかも乱戦の最中だ。
 敵を倒す度に一喜一憂している様では、いずれ背中をグサリといかれてチーンである。
  
「よし次ッ!」
「──パオオオオオオーーンッッ!!」

 俺の言葉に呼応するかの様に、黒異種が襲い掛かってきた。
 先程の黒角馬クロノバを、二倍近く上回る巨体が向かってくる光景は軽く恐怖を覚える。
 今度はゾウ⋯⋯というよりマンモスの姿をした黒異種だな。
 子どもの頃に図鑑で見たイラストよりも、体毛が長いし多く見える。例えるなら、黒色のモサモサに2つの赤い目の光が揺らめいてる様な⋯⋯
 まぁあまり気味の良い見た目じゃ無いし、なんならキモイ。

「オオオオオォーーッッ!!」

 長い鼻を振り上げ、黒いマンモス──黒象クロモス──が吼える。
 豪快な風切り音と共に薙ぎ払われる鼻。それを姿勢を低くする事で回避しながら、鼻が上空を通り過ぎるより早く、自分の尻尾を巻き付けた。
 ──と、そのタイミングで、また別の方向から黒狼の群れが向かってくるのを確認。
 巨体の黒象クロモスを引きり回し、遠心力を味方に付け、そして黒狼達へと⋯⋯ッ!!

「ぐぬうう──らァッ!!!」
「「「「ガルルルルルルッッ!!??!」」」」
 
 ブン投げられてきた黒象クロモスに、黒狼達が立ち止まる。
 何体かは素早く回避したが、少なからず20体が黒象クロモスの巨体の下敷きとなって消えた。
 当の黒象クロモスは、頭から落下したもののダメージ自体は少なかった様で、直ぐに起き上がってきた⋯⋯が、
 
「パオオ──」
「おおおあッ!!」

 黒象クロモスの鼻先から尻尾に掛けて、血飛沫が吹き出す。
 双剣状態のヴィルジールが、横に回転しながら刃を振るったのである。
 巨体とはいえ彼の斬撃が致命傷になったらしく、黒象クロモスは大きく倒れ込んで地響きを起こした。
 
「──うっし、ナイスコンビネーションってやつだな」
「バカ、今みたいなのは横取りって言うんだぜ?」
「それじゃあ、早くトドメを刺さなかった紅志おまえが悪い」
「は? マジどさくさに紛れてやっちまうぞ、アンタ」

 冗談を言い合いつつ、周囲の様子を窺う。
 敵の最前線をずっと向こう側まで押し込んでいるらしく、俺達の周りにはもう雑魚しか残っていない様だ。
 ついさっきの黒角馬クロノバ黒象クロモスといった黒異種が、ここの戦場では一番の大物だった感じだな。
 どうせなら、前線の連中の戦いを見物したい気もするが⋯⋯

「──あぁ、いたいた。アンタ、遅すぎじゃないのよ?」
「セイリス、なんでここに?」

 どういう理由か、最前線にいる筈のセイリスが現れた。
 彼女が先陣を切っていたのは間違いないので、この状況を考えると戦場をわざわざ一往復してきた事になるか。
 ⋯⋯え? それってやばくね? なんで装備が微塵も汚れていないんだ?
 息もちっとも上がってないし、なんなら汗の一粒も流してないんだけど? もしかしてサボってた?

「脚力が自慢の魔物なんじゃないの? 全くもう」
「え、あっ、ゴメンナサイ。身の安全を優先してて⋯⋯」
「まあ、アンタが死んだら元も子も無いのはあるかしらね。
 取り敢えず、アンタに“やっておきたい事”があるから、今は動かないでちょうだい」
「“やっておきたい事”⋯⋯? それって?」

 俺の質問に、セイリスは答えない。
 ただ、自身のギターを静かに構えて、今から行う事を示してみせた。

──ギュアアア────ンンッッ!!

 戦場に、エレキギターの快音が鳴り響く。
 数秒の沈黙。そして、セイリスによる演奏が始まった。

「これは⋯⋯?!」

 セイリスの足元に、地面に魔法陣が刻まれ始める。
 オレンジ色に光るそれは、激しさを増す演奏と共に拡大し、俺やヴィルジールの足元にまで到達した。
 
「──『音律組立式魔法陣』って言えば分かりやすいかしら。
 各音階に魔法式の一部が割り振られていて、それを演奏によって組み立てる⋯⋯というワケよ」
「へ、ヘぇ⋯⋯!!」

 凄いな、世の中には面白い道具があるもんだ。
 魔力の動きを見るに、セイリスは常にあのギターに魔力を注いでいる感じだな。
 演奏によって出力される魔法陣の一部は、音の大きさの違いによってサイズが変化している様だが⋯⋯
 僅かにでも演奏が狂えば、魔法陣として機能するものが作れない可能性だってある筈だ。
 それを、あれ程までに自信に満ち溢れた表情で続けるのは、流石人類の最高峰といったところだぜ。

 しかも、彼女が今作っている魔法陣⋯⋯!!
 一般的なソレと比べると⋯⋯。いや、比べ物にならない程に巨大だ。
 魔法の使用ではなく、魔法陣の制作の時点で莫大な魔力を使っているのに、当のセイリスは顔色一つ変えない。
 成程。あのギターの様な道具があれば誰でも出来るという訳ではなく、彼女の演奏技術と、なにより大量の魔力があってこその“これ”なのか。
 セイリスが持つ肩書きの【最響】。⋯⋯どういう意味かずっと気になっていたが、ようやく理解出来たぜ。

「コレで──完成おわりッッ!!」

 天空が、大地が、最後の一音で震え上がる。
 作り上げられた、半径50m以上にもなる大きさの魔法陣。
 演奏の終了と共に発動したそれは、即座に俺の身体に変化をもたらした。
 試さなくても分かる。今の俺は、身体能力が大幅に上昇している筈だ。
 血流が早くなっているのを感じるし、テンションがドンドンと上がってくる感覚がある。
 察するに、この魔法の効果は交感神経の大幅活性化。アドレナリンの強制分泌といった具合だろう。
 まぁ先程の演奏を聴けば、どの道ハイテンションになりそうだがな。

「──ふう。それじゃあ、私は前線に戻るから。くれぐれも、死なないでちょうだいね」
「あ! 待っ──。あぁ、行っちゃった。礼が言いたかったんだが⋯⋯」

 超速で走り去るセイリスを見送り、俺は自身を眺める。
 ふと違和感を覚えたが、どうやら無意識の内に炎装を発動していたらしい。
 彼女のアツい一曲による興奮で、心だけじゃなく身体まで震わされた様だ。

「なぁ、ヴィルジール。アンタも感じたか? 身体が内側から滾る様な⋯⋯って、アレ?」

 隣に居た(ハズの)ヴィルジールに目をやると、黒焦げの地面に風だけが通り過ぎた。
 魔力感知に意識を絞ると、どうやら前線へ向かっている様だが⋯⋯
 ううむ、こんなトコに一人ぼっちとはな。別に寂しくなんかないけど。
 アイツもテンション上がってたのかな? せめて一言でも掛けてくれてら嬉しかったな。別に寂しくなんかないけど。

「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯さて、」

 まぁここで立ち止まってても仕方が無い。
 俺も、ぼちぼち前線に向かうとしますかね。
 
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