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1章【巨人の湖編】
第1話・意志と本能。
しおりを挟む────⋯⋯決して、楽な道のりでは無い。
だが挫けるな。オヌシは多くの魂を救うことの出来る存在じゃ。
オヌシが諦める事、即ち世界の終わりだという事を心に刻め。
⋯⋯じゃがその身は人、あまりに非力過ぎる。
これからオヌシが行く世界で力を持った存在に、魂の宿を移そう。
力を磨け。やるべき事は自ずと見えてくる──⋯
燗筒 紅志────⋯⋯
オヌシに⋯神の加護を授けよう──────⋯⋯⋯
燗筒 紅志よ!!挫けるな!!────────⋯⋯⋯⋯
いずれ⋯君臨者となる者よ──────────⋯⋯
NOW LOADING⋯
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
⋯あれから、どれ程の時間が経ったのだろうか⋯?
あの時、口では拒んでいた事を⋯何故、俺の身体は、俺の意思は『前へ』と訴えたのだろう。
あの⋯神様だっけか?力を持った存在だとか、加護だとか⋯あと『君臨者』⋯?世界の?俺が?まさかな⋯
──トスンッ⋯
微かな音と共に、重力と圧迫感が一気に現れる。
考え事の最中だったのもあり、最初は驚いたが、状況は直ぐに理解した。
(これは卵の中だ⋯⋯僅かに光が透けている⋯)
俺は⋯どうやら人間の姿ではないらしい。
動物か⋯?卵という事は鳥類⋯?いや、感覚だが大きさが違う。かなり大きい。多分、1mより小さいくらいの⋯
(出るか⋯?いや、出られるのか?かなりの強度がありそうだが⋯)
力いっぱい殴りつけると、鈍い音が響いた。
しかし、ビクともしない。というか痛い。
(だが⋯⋯卵の状態という事は、それを狙う動物もいるだろう。⋯不味い、それなら早い事出なければ⋯)
その後、何十分か何時間か分からないが、脚も使ったりして足掻き続けた。少しづつではあるが、着実に亀裂もできて、大きくなっている。後は時間の問題だった。
──ピキィッ⋯
明らかに、今までと違う手応え。
俺は両脚に力を込め、一気に亀裂が大きい場所を蹴っ飛ばした。
(うおおおぉぉぉぉああっ!!!!)
バキン!!と大きな音を上げて殻が割れる。
思ったより激しく割れず、砕けた殻を手で退けながら、這い出でる様にして俺はやっと自由の身になった。
「⋯⋯!!」
俺は、目に飛び込んできた世界に絶句した。
絵に書いた様な、どこまでも広く澄み渡った青い空。深く青々と生い茂った木々の森。それの反対側に見える、海と見間違えそうになるほど大きな湖。
なんて、美しい世界なんだろう。と、俺の転生して初めての感想はそんな簡単なものだった。これを簡単と言うのは少し違うか⋯?
⋯うん。今、そんな事はどうでもいい。
唯、この世界、この光景を目に焼き付けて置きたい。
「悪く⋯⋯無いかもな。」
ポツリと呟く。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯いや、待てよ?今、俺は日本語を口にしたか?いや、日本語に聞こえたが、日本語を喋った様な感じがしなかったぞ?何か⋯喉が震えた様な⋯
「⋯⋯あ、い、う、え、お⋯」
同じだ⋯何かが違う気がする。
言葉を喋れているのか?人にこの言葉は通用するのか?
色々考えた結果『叫んでみる』という答えに行き着いた。1つの音を強く意識してみる事で感覚を掴みたかったのだ。
⋯──深く、深く息を吸う。
当たり前の様にある空気も、澄んでいて綺麗だ。とても美味い。行動の一つ一つが俺にとって新鮮で『楽しい』とも感じる程だ。
少なくとも、感情が他人より薄かった俺がそう感じているのだから、本当に凄いのであろう。
──ッグルオオォオオォオオォオアァァアァッッ!!
辺りの山々や、森林から一斉に鳥が飛び立つ。
足元の小石が微弱に揺れ動き、妙な高揚感が身体に伝わった。
心地良いのだ。
自分という強者の存在を知らしめている⋯
それは野性的で、己の中で爆発する、理性の付け入る余地の無い感情だった。
「ッッッ────⋯」
暫くは言葉を失った。
⋯人間では無い。ゲームなどでしか聞いた事の無い様な、モンスターや魔物と呼ばれる類の咆哮だった。
しかし、それに勝って高揚感が脳裏に濃く焼き付いている。
『本能』と『理性』⋯この2つを同時に相手するのは骨が折れそうだ。
俺は⋯俺が俺でなくなってしまう様な気がする。
⋯少し、歩こう⋯そうしながら、考え事はしよう。
NOW LOADING⋯
「面白い子が来たね⋯これは。もしかしたら、諦めるのはまだ早かった⋯かもしれないね♪」
未知の場所。
狭く、音も無く、僅かな光も届かない洞窟の奥深くで、1人の少女が呟く。方向も分からない様な暗闇の中、少女は唯一点を見つめながら、独りでに微笑んだ。
この世界は終焉が近い。
まさか⋯こんなタイミングで現れるなんて誰が考えたかな?もう少し早く来ても良かったんじゃないかな?
「挨拶ぐらいはしに行こうかな?私の⋯いいや、『この世界の』希望となる者にね♪」
少女は嗤う。
求めていた者が漸く来た。どれ程の時間待った事か。
遂に動き出した大きな歯車。もう止められない。
真紅の瞳が、暗闇の中で光る。崩れゆく洞窟の瓦礫の合間から、巨大な白い龍が咆哮する姿があった──⋯
◀NOW LOADING◀
「⋯⋯⋯。」
何だったんだ?今の寒気は⋯?
身体全体の細胞が沸騰する様な、極度の緊張感。そして、本能が訴えてくる『恐怖』の感覚⋯。何かとんでもない事が起きているという直感。
言葉では到底言い表せない、この気持ちの悪さ。
早く心を落ち着かせたい。そう出ないと恐怖で気が狂ってしまいそうだ。
「⋯スゥ──⋯⋯ハァ────ッ⋯」
深呼吸を何度も繰り返す。
心臓の心拍数の上がり方が尋常ではない。まともに息が出来ない。非常に苦しく、呼吸困難に近い状態だった。
──────⋯⋯⋯
暫くしてやっと落ち着いてきた。
俺は、急いで近くにある水を探した。喉の乾きが、口内に舌が張り付かせる。さっきは緊張で冷や汗も凄かったが今は一滴も流れていない。
ずっと深呼吸をしていたので口も乾いた。つまりオレは身体の中の水分を一気に使い、脱水症状を起こしていたのだ。⋯⋯⋯あまりの恐怖で。
「ハァ゛──────ッ⋯⋯」
呼吸が掠れる。
それ程、深刻な状況なのだろう。急がねばならない。
どうする⋯?あの湖までは軽く2~3kmはありそうだ。流石にそこまでは身体が持たないし、着く前に死ぬ。
──ピチャン⋯ッ⋯
不意に、水が滴る音が聞こえた。
意識が朦朧としていて、本当に聞こえたのかは分からなかったが、一か八か行ってみようと瞬時に考えるのは、無理も無い状態だった。
音がした方向は分かった。
俺は力を振り絞って歩き出した。緊張と恐怖で脚が震え、上手く歩けない。それでもゆっくりと着実に進んで行った。
ゆっくりと動く小さな生き物。
それは、弱肉強食の世界では強者の格好の的だ。
背後から相手に気付かれない様に歩み寄り、仕留める。
自然の摂理に『卑怯者』なんて言葉が通用するのだろうか?答えはNOだ。当たり前の事であり、最も効率的だからだ。
⋯⋯自然の摂理は、彼に最初の試練を課そうとしていた。唯、1つの生命として、弱肉強食の世界に生きる者として、避けては通れぬ道を自然は示す。
彼に、無数の黒い影が忍び寄る。
自然は、いつ何時であっても美しく、理不尽なのである。
生き残るには、力を示し、二度と立ち上がらせない様に
捻り潰すしか方法は無いのだ。
逃げる事が生き残る方法と言うのなら、それは生き残る事ではなく、この自然の中に生きる者として『死』を意味する事となるのだ。
己を『弱者』と主張し、強者に逃げる背を見せつける。
これが生き残る方法と言うのだろうか?
そう、これは避ける事のできない自然の絶対な摂理。
運命を変えるには、方法は他に無い。
『勝ち』『喰らい』『力を示す』唯、それだけの事だ。
生きる者として、生きる為に──⋯
NOW LOADING⋯
1滴⋯1滴⋯
落ちてくる水は、ある程度の大きな水溜りとなっていた。
俺はそれを見るや、ほぼ無意識に走り出した。冷たい水が喉を伝わっていくのが分かる。生き返った、と思った。
ふと、水面を見る。
矢張、そこに映ったのは人間の姿の俺では無かった。俺が見たのは、碧の瞳を持った竜だった。
身体は銀色で、光が淡く反射している。
姿勢が低く、二足歩行形。
翼は退化していて、代わりに腕の様に曲げられて、長く内側に曲った鉤爪が指の役割を果たしている。
尻尾があり、全長の3分の1程をしめている。特に棘など武器になる様な物は生えておらず、鞭の様によくしなるのが特徴だった。
鋭い牙に、頭の先から僅かに伸びる角の様なもの。
まとめるとそんな感じだった。
中々悪くない姿で安心した。貧弱そうで不細工な生き物にでもなっていたら、嫌だからな。
そんな事を考えてる内に大変な事に気が付いた。
来た道を忘れてしまった。無我夢中で来たので一々道を記憶している余裕などなかったのだ。
しかも此処は鬱蒼と木々が生い茂った森の中。
こんな所にいて大丈夫なのか?と、自分に問いかけた。
勿論、そんな筈が無かった。
野生の勘、という物だろうか?背後から寒気を感じ、右側の林に飛び込み、すかさず振り返る。
──バッシャァァンッ!!
大きな水しぶきが上がっていた。
あの水溜りに飛び込んだのか?馬鹿な奴だ、と思った。だが、そんな簡単な話ではある筈無かった。
「⋯⋯!!」
飛び込んだであろう者の姿が無かったのだ。
一気に緊張が身体を駆け巡る。⋯⋯後ろ!!と瞬時に感じてまた、飛び退く。
「グルルル⋯」
獲物を取り逃して『ソレ』は苛立っていた。
此方と向きあっている時に感じる寒気。⋯そうか、これが『殺気』か。あと2つ⋯いや、3つか⋯?殺気がするな⋯。
背後に2つ、左の林に1つ、そして正面のこいつ⋯
俺には『逃げ』の一択しか頭の中に無かった。
戦い方なんて知らないし、傷付きたくも無い。俺は、殺気が薄れたごく一瞬の間に右側へ走り出した。
数秒遅れて奴等も走って追い掛けてくる。
この俺の意思がある竜は、脚が発達した種族なのか、かなりの速度が出ている。翼が退化していたので、地上での行動に特化してるのだろうか?
感覚だが、原付バイクの最大速度くらいは出ているんじゃないか?辺りの林が横線に見える程、景色が流れている。それでも、俺が正確に木々を避けられているのは、この種族の基礎的な運動能力が高いからだろう。
「「「⋯⋯⋯!!⋯⋯⋯!!」」」
奴等の唸る声や、足音が遠くなっていく。
逃げ切った、助かったと思った。⋯林を抜けるまでは。
「⋯⋯なッ!?」
思わず声が漏れた。
個人的には『NA』と発音したし、俺もそう聞こえた。多分、人には通じないが。
⋯⋯⋯いや、そんな事はどうでもいい。
そんな事を考えてる暇は無い。俺は勢いよく鉤爪を地面に突き立てた。爪が鋭いのか、中々止まらない。砂煙があがり、小石が弾け跳ぶ。
右前脚を地面に叩き付け、ドリフトする様に停止する。
左後脚の踵辺りに地面が触れていない。そう感じた俺は、バッ!と勢いよく振り返った。
──ドクン⋯ッ
自分の心臓が鼓動する音がはっきりと聞こえた。
額に大粒の汗が流れ、視界が一回転する様な気持ち悪さに襲われる。
大地が真っ二つに割られ、片方だけ残った様な明らかに異様な光景は、断崖絶壁。
一歩踏み出せば、奈落の底。
絶対に生きては帰れない、と直感的に思った。
覗くと、唸る様な音をたてて風が地の底から地上へ吹いているのが分かった。ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうな程、深い 深い暗黒の世界が広がっていた。
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