48 / 195
1章【王都編】
第46話・星の加護。
しおりを挟む王都クローネ、とある広場。
入り組んだ道の先にあるその広場には、滅多に人が訪れない。その理由は前述の通り、辿り着くのに一苦労するからだ。
その為、王都の一般市民ですら、この場所の存在を知っている者は数少ない。⋯⋯と、前置きはここまでとして。
その広場では現在、ちょっとした事件が発生していた。
「ばッ、莫迦なッ!?」
1歩後退りし、黒い外套姿の男は狼狽する。
正確にはこの男を含める5人の男達であるが、その点は彼らが囲んでいる相手にとって、どうでもいい事だった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
周囲を見渡し、男達の中心にいる者は睨みを効かせる。
彼の表情には、多少の不満と疑問が浮かべられているが、その理由は2つある。
1つは、用事があるにも関わらず、足止めを食らっている現状への不満。2つ目は、何故に自分がこんな目にあっているのかという疑問だ。
(ったく、これから集会所に向かわにゃいかんってのに⋯⋯)
銀槍竜こと燗筒 紅志は、内心舌打ちをする。
つい先程に目が覚めた彼は、ヴィルジールの言っていた通り集会所へ向かおうとしていた所、襲撃にあったのだ。⋯⋯まぁ襲撃と言っても、『着いてきてください』と言われて素直に着いて行った結果がコレなのだが。
「ぜッ、☾精神支配☽が効かないだと⋯ッ!?」
「そんな訳あるか!もう一度だ!」
「馬鹿を言うな!一度やって効かぬと分かった相手に──」
言い争い始めた男達を見ながら、銀槍竜は溜息をつく。
彼らの言う『ゼルレフト』という物が、何らかの魔法である事は理解していた。実際、彼らに案内されたこの広場でソレを食らったからだ。
誘導されるまま広場へ入り、中央に立った瞬間に魔法陣が起動。此方が反応する間も無く、完全に被弾したのだ。怪しげな男達と不穏な展開に、緩くは無い警戒をしていたのにもかかわらず、である。
結果としては無傷だが、魔法の発動に反応出来なかった手前、銀槍竜は内心で胸を撫で下ろす。もし今のが物理的な攻撃を発生させる魔法だった場合、ダメージは免れなかったな、と。
とはいえ、無事に済んだ事に変わりは無い。
外傷を与えないタイプの魔法だったとしても、身体に異変は見られない。男達の様子からしても、時間経過で能力が発動する様な魔法でもないらしい。
「く⋯ッ、この事がギルドマスターに知れれば、どんな処罰を受けるか分からんぞ⋯」
「か、かくなる上は⋯⋯ッ!!」
何やら覚悟を決めた様に、銀槍竜へ距離を詰める男達。
懐からを何か取り出した彼らを見ながら、銀槍竜は静かに口を開いた。
「アンタらが何者かなんて知った事じゃないが⋯⋯」
「「「!?」」」
言葉を発した魔物に、男達は目を見開かせる。
喋る魔物は初めてだったのか、それとも開口と共に銀槍竜が闘気を放ったからか⋯⋯。理由はどうであれ、男達はこの現状に動きをピタリと止めたのであった。
「アンタらが俺を殺す気なら、コッチもその気で抵抗させてもらう」
そう言い終えると同時に、銀槍竜は金属の生成を始める。
液体の様に形状を変化させる金属は、獣の唸り声にも似た不気味な音を広場に響かせた──⋯
NOW LOADING⋯
一方その頃、クローネ・ギルドの集会所。
鐘の音が鳴り響く集会所内には、王都到着時に伝えられた通り、各ゼクス達が集合していた。
「お、もう集まってんな」
集合をかけた張本人であるヴィルジールは、集会所2階から下を見渡す。1階には、既に到着したゼクスメンバーの姿があり、円卓を囲んでそれぞれ時間を潰していた。
「あら」
シルビアが、階段を下りてくるヴィルジールを発見する。
直後、椅子から立とうと足に力を込めた彼女は、ほんの一瞬だけ前屈みになった。
それに際して視野も下部へと移動したが、次にヴィルジールが視界に入った時、シルビアはある事に気が付く。そして、彼女は小さく溜息を零し、浮かせた臀部を椅子へと戻したのだった。
「⋯その大きな坊やは?」
卓上へ肘を付いたシルビアは、手のひらに顎を乗せると、呆れた口調でヴィルジールへ尋ねる。彼の背にはソールが担がれており、イビキをかいていたのだ。
「オママゴトのやりすぎでな。⋯全く、酷い寝相の坊やだぜ」
「うィ~⋯坊やだァ?ぶっ飛ばすぞォ」
「分かった分かった。寝てろ、お前は」
おままごと⋯もとい、アルコールの大量摂取である。
魔導列車で移動していた間、満足に酒を飲めていなかったソールは、ここに来て一気に欲を解放したのだ。
王都到着時に真っ先にギルドに向かった理由も、単に集会所内で提供される酒が美味いからである。
「ホント、世話のかかる奴だな⋯」
適当な円卓を足で引き寄せ、ソールを投げ置くヴィルジール。衝撃をものともせず寝返りを打つソールを背景に、彼は他ゼクスメンバーへと号令を掛けた。
「そんじゃ、全員集まった事だし、今後の説明から入るぞ」
「⋯いや、待て」
説明に移ろうとしたヴィルジールが、軽く息を吸い込んだその時。1歩前に出たハクアが、ヴィルジールの次の言葉を遮った。
「何故、このタイミングで説明を挟む必要がある?」
「何故って⋯⋯アンタ、予定も知らずに行動するのは嫌でしょう?」
不満気な表情のハクアを、シルビアが宥める。
シルビアはこの瞬間、不満の矛先が自身へ向くのを覚悟した。⋯⋯が、しかし、
「『予定も知らずに』⋯⋯だと?シルビア、お前聞かされていないのか?」
「⋯⋯え?」
振り返ったハクアの表情からは不満が消え、代わりに疑問で埋められているのであった。
「⋯アンタは聞かされているの?」
「あぁ。今回の迎撃戦に向け、王都ギルドマスターから挨拶がある。⋯と、俺を呼びに来たギルドの職員が言っていた」
シーン⋯と、空間が静まり返る。
『一旦集会場に集合』としか伝えられていなかったシルビアやシュレン達は、ヴィルジールへと視線を移した。
自分に集中する視線に、ヴィルジールは指で頬を掻く。
この状況に気まずさを覚えた彼は、鼻で軽い溜息をついて肩を落とした。どうやら、目の前の彼らには悪い事をしてしまったと気がついた様だ。
「いや⋯⋯まぁ、大した用事でも無いし、伝えるタイミングは適当でいいかな~⋯と?」
「ア・ン・タ・ねぇ~!」
「スマンスマン!悪かった!ごめんなさい!」
悪びれながらも言い訳を述べたヴィルジールの耳を、シルビアが引っ張る。膝を折り、情けない声で謝罪を行うヴィルジールを眺めながら、ハクアは顔を覆う。ここまで阿呆だとは、思ってもみなかった⋯と。
「ハァ⋯⋯もういい、ソイツはアテにならん」
「分かったわ」
ポイッと投げ捨てられたヴィルジールは、その場で蹲る。
アテにならないと言われ、メンタルがやられてしまった様だ。シクシクと啜り泣く声を無視しながら、シルビア達はハクアを中心に予定の把握へと移ったのだった。
「今から、集会場3階の特別会議室へ向かう。
⋯詳しくは俺も聞かされていないが、王都のギルドマスターがわざわざ出てくる案件だ。この場の俺達だけの為、という訳ではないだろう」
「⋯僕達以外にも、誰か来るって事ですか?」
「そうだ。⋯大体の検討はつくがな」
シュレンの疑問に、ハクアは淡々と答える。
その間、完全に除け者のヴィルジールは、静かに立ち上がっていた。眉間に皺を寄せ、首を前後に撫でる彼に気が付いたのはサンクイラただ1人だった。
彼のその動作が何を示すかは、彼女には分からない。
だが、何かを深く考え込んでいるのは確かだ。⋯もしくは『何かを感じ取ろうとしている』ようにも見える。
⋯⋯と、ここまでサンクイラが思考を巡らせた時、隣にいたニナが彼女の肩を叩いた。
「いいのよ、ほっといても。バカには治療が必要なの」
「え、あ⋯⋯別にそういうワケじゃ⋯⋯」
「いいから、無視無視」
そう言われ、サンクイラはやや強引に向きを戻される。
そして当のヴィルジールは、内心で大きく頭を捻っていた。
(⋯⋯まさか)
サンクイラの予想通り、彼は感じ取ろうとしていた。
自身の魔力感知内で動きを見せる、とある魔力の流れを。
その正体は、今まさに戦闘中の銀槍竜の魔力だった。
しかし、この王都という冒険者が無数に居る街で、ピンポイントでの魔力の判別というのは簡単では無い。
だからこそ、ヴィルジールですら魔力感知を絞る必要があったのだが⋯⋯
「兎に角、話は理解したわ。早く向かいましょ」
「おい、何しているヴィルジール。貴様もいい加減、重要性を理解しただろう」
「⋯⋯あぁ、そうだな。今行く」
ヴィルジールの集中は、途中で切れる事となった。
『考え過ぎか』と、自己納得に至った彼は、階段を上るシルビア達の後を追う。これより、銀槍竜に加勢が入る事は無かったが、問題は無かった。
ただ、この後に起こる『ちょっとした問題』を除いては──⋯
11
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる