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1章【王都防衛迎撃作戦編】
第66話・王都防衛迎撃作戦【衝突】
しおりを挟む「フッ──!!」
高速の連続刺突。
ファリドから放たれたその攻撃は、眼前の全ての魔物を貫く。
次々と魔物を蹴散らしながら、彼は魔物の軍勢を突っ切っていった。
「しゃアーッ!最優秀賞はいただきだぜーッ!」
意気揚々、元気一杯。
満面の笑みで魔物を屠るファリドは、ギラリと歯を光らせる。
銀槍竜との『試合』とは違い、ルール無用の『戦場』において、彼の暴れっぷりは遺憾無く発揮されていた。
「──フン、下らん」
ざんっ。
気味良い斬音と共に、シャルフ・ガムナマールの首が撥ねる。
激しい血の雨の中から、ハクアが現れた。
「⋯だが、仮に乗じてやるなら、最も優れているのは俺の方だ」
「はッ!口だけ眼鏡君じゃあねぇようだなッ!」
グルンと槍を振り回し、ファリドは構える。
その横で、ハクアは自身の武器に手をかざし、口を開いた。
「──☾重複☽」
静かな声で、ハクアは魔法を唱える。
その直後、彼が手にする全長1m程の片手剣を、白紫色の魔力が覆い始めた。
完成したのは、2mはある魔力の大剣。
炎の様なオーラを纏ったソレを振り翳し、ハクアは構える。
重心を深く落とす彼に、横に立つファリドはニヤリと笑った。
(──☾重複☽をソコまで極めるたぁな。やるぜ、コイツ)
ファリドが、内心で称賛を送る『ハクアが使用した魔法』。
その名の通り、武器の形に魔力を重ねる事で、リーチを伸ばす魔法である。無論、使用者によって効果には差が出る代物だ。
そして、ゼクス内で『この魔法』をここまで昇華できたのは、ハクアただ1人。仮に今、ファリドがハクアの真似をした所で、武器のリーチは伸びて1.2倍。
『ゼクス最強』の肩書きを持つ男がソレなら、現状で武器のリーチを2倍にしているハクアの技量がどれ程であるか、簡単に理解できるだろう。
「へッ!いいぜ、勝負といこうかッ!」
「下らんと言った筈だ。⋯⋯まぁ、結果のみを予測するなら、勝つのは俺だがな」
「じゃあ、その予測とやらを覆してやるぜッ!」
「⋯⋯上等だ」
不敵な笑みを浮かべる、ハクアとファリド。
大きく踏み込んだ両者は、魔物の軍勢へと突っ込んでいった。
そして、戦場の別の場所では。
桜色の髪を散らして、少女が上半身を仰け反らせていた。
「⋯よっと」
サンクイラは、前髪が数本散る程のギリギリで攻撃を躱す。
胸板の上を魔物の攻撃が通過するのを確認し、彼女は素早く空中へ飛び跳ねた。
(アレがトレント⋯。シルビアさんが、1人で10体も倒したっていう魔物かぁ⋯)
『トレント』
・3m程の樹木が、ゴリラの様な形をした魔物。
森林に生息し、基本的に擬態して生活している。
発達した腕は、木々を薙ぎ倒す程の筋力を持つ。
(──わ、向こうにもいる⋯⋯って、)
サンクイラの顔を、『何か』が掠める。
頬を生まれた擦り傷を確認し、彼女は髪を右耳にかけた。
(トレントの進化種⋯。そういえば、ガバンさんが言ってたっけ⋯⋯)
『ドルン・トレント』
・トレントの進化種。
30年以上の月日をかけ、身体中に無数の棘が形成されている。
飛ばす事も可能。半径50m内では弾丸に匹敵する速度がある。
「ふう──っ⋯⋯」
大きく深呼吸をして、サンクイラは弓を構える。
僅かに細められた瞳は、獣の様に敵を見据えた。
「ッ!!」
7発。
彼女が1秒間に放った矢の数である。
ある矢は、魔物の脳天を的確に貫通。
ある矢は、複数の魔物を貫き、広範囲にダメージを与える⋯。
7本の矢が屠った魔物の合計は、26体にも及んだ。
容姿が原因で侮られやすい彼女だが、その実力は間違いなくゼクス足るもの。寧ろ、24という若さでその領域に達している彼女は、中々に化け物なのである。
「ゴォアアァ──ッッ!!」
足を撃ち抜かれ、激昂するドルン・トレント。
ドラミングを轟かせ、空中のサンクイラへ向け無数の棘を射出した。
「ん⋯⋯」
──『前衛を必要としない弓使い』。
冒険者の中で、それはサンクイラが代名詞と言っても過言では無い。小柄な体格と、高い機動力によって、大抵の攻撃は回避できるからだ。
──だが。
彼女からすれば、『回避』とは『最終手段』だった。
「ふッ!!」
先程より早く、サンクイラは矢を放つ。
彼女は、迫ってくる棘の内、自分に命中する恐れがある物を分析。その全てを撃ち抜き、粉砕した。
そして、その直後。
ドルン・トレントは棘の射出を止め、大きく地面に倒れ込む。
その巨体の脳天、心臓、頸椎には、それぞれ1本の矢が刺さっているのだった。
「はぁ!怖かった!」
着地を済ませ、即座に矢の回収をするサンクイラ。
彼女にとって、『相手の攻撃』は『相殺する物』という認識であった。勿論、巨大な火球等は回避せざるを得ないが、先程の攻撃程度であれば、容易に対応できるのである。
見かけによらぬ、動体視力。
そして、本人でも気が付いていない“強い殺意”こそが、サンクイラ・ロレタードの武器であった。
「──順調だな、サンクイラ」
サンクイラが、矢の回収を済ませたその時。
ある男が、彼女へ話し掛けた。
「あっ!ヴィルジールさん!!来てくれてたんですね!」
「そりゃあ来るさ。大事な作戦だしな⋯」
斬り伏せた大量の魔物を背景に、ヴィルジールは苦笑いする。
風邪気味の様な、寝不足の様な、兎に角調子が悪そうな彼を見て、サンクイラは小走りで近寄った。
「だ、大丈夫ですか⋯?」
「ん?⋯あぁ、問題ないさ。昨晩は、少し寝れなくてな」
「そう、ですか⋯⋯」
サンクイラは思う。
“私にも、ホントの事は話さないんですね”、と。
シルビア程では無いが、サンクイラにもヴィルジールと共に過ごしたきた時間がある。それこそ、父や兄の様に接する程の関係を築けるくらいには。
「──あ、あのっ!」
「⋯ん、なんだ?」
「この作戦が終わったら、またご飯食べましょうね!シルビアさんと、銀槍竜と!⋯いや、出来れば皆と!」
「⋯⋯⋯⋯あぁ、そうだな」
表情を見せず、ヴィルジールは両剣を肩に担ぐ。
魔物の軍勢へと目をやった彼は、一言『じゃあ』と言い残し、走り去って行った。
自身の後ろで、少女が握った手を震わせていたとも知らずに。
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