猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【真実編】

第73話・やろうぜ

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王都クローネから、東に約3kmの戦場。
そこから、更に北へ⋯⋯


「──大体、5kmくらい離れたか」


左手をポケットに、バルドールは周囲を見渡す。
辺り1面砂と岩のみの光景は、正に荒野と言った具合だった。
強い日差しが照りつける荒野の中、バルドールは顔に掛かる日光を遮る。そして、ゆっくりと上半身を後ろへ振り向かせた。


「いい気分か?」

「⋯⋯ぼちぼちだ」

「ならよかった」


僅かな会話を挟み、バルドールは煙草に火をつける。
吐き出した煙の向こう側には、地面に項垂れる1匹のドラゴンの姿があった。


「うぅ⋯気持ち悪ぃ⋯⋯」


銀槍竜は、目を回していた。
“この場所”に来るまで、空を超高速で飛んでいたからである。
無論、彼本人に飛行能力は無いので、バルドールに抱えられての空の旅であった。


「おいおい。この程度で目ぇ回してるなら、あのファリドとかいう棒切れ坊やにどうやって勝ったんだよ?」

「自主的な平面運動と、抱えられた状態での上下移動はワケが違うだろ⋯⋯」


ヨロヨロと立ち上がり、銀槍竜は空を仰ぐ。
呻き声を上げた後、彼はしばらく深呼吸を繰り返した。そして、バルドールが煙草を吸い終えた頃になって、ようやく正常な状態に戻ったのだった。


「──さて」


そう切り出したのは、銀槍竜だった。
ストレッチをしつつ首や肩甲骨を鳴らす彼は、静かにバルドールのリアクションを待った。


「⋯ま、次に会えるのも、いつかは分からんトコだったしな」

「素直になれよ。我慢できなかったんだろ?」

「⋯~ッ」


バルドールは、ポケットに両手を突っ込む。
軽く俯き、歓喜の表情を隠そうとする彼に、銀槍竜は半身に構える。対するバルドールは、一歩だけ右足を前に出した。

両者を中心に轟々と地面が揺れ、砂煙が浮き上がる。
だが、銀槍竜とバルドールの周囲だけは、異様に静かだった。
2人から溢れ出る魔力が、周囲の空気を押し退けているからだ。


「⋯⋯する程度の価値にはなった様だな」

「有難い事にな。アンタが、を見逃した結果だ」


リーゼノールにて、2人が初めて出会った日。
その日に交わした『約束』が、果たされようとしていた。


「やろうぜ、バルドール」

「フッ⋯、言うじゃねえか。俺の目は、節穴じゃあ無かったってワケだ」


迸る両者の闘気が、一層洗練される。
地面の揺れと、風の音が止んだ──⋯



NOW  LOADING⋯



「んん?銀ちゃんドコいったぁ?」

「さぁ?前線で別れてから、僕は見てないですけど⋯」


銀槍竜達が消えた戦場は、混乱していた。
といっても、それは極めて些細なモノ。無数の黒異種を凌ぎきったゼクス達にとっては、後回しになる話題であった。

“不測の事態”はあったものの、前線のゼクスの負傷者ばゼロ。
魔力の過剰使用によって、アイリスが流血する事態もあったが、現在は治療によってほぼ完治。

作戦を終えてみれば、完全勝利といっても過言ではなかった。


「⋯⋯で、何があった?」


各々が勝利に湧く中、ハクアは尋ねる。
彼の前には、横たわりながら傷を癒すアイリスの姿があった。
傷こそほぼ治っているが、今は立ち上がる体力も無い様で、重々しく瞼を開けた彼女は、


「知らない、男がいた⋯⋯」 


と、小さく一言だけ残し、再び目をつむった。
ハクアは、加えて質問しようとしたが、彼女の衰弱ぶりを見てそれを断念。仕方なく、周囲にいたツエン達へ対象を変えた。


「僕達も知らない人でした。ただ、とんでもない魔法を放って空の黒異種を一気に⋯」

「そうなんです!!しかもその後、前線から抜けてきた人型の黒異種を一瞬で蹴散らして!!」


興奮気味に話すツエン達を見て、ハクアは考える。
戦場後方で発生した、“翼竜型黒異種が一瞬にして殲滅された光景”は、簡単に納得できる情報では無かったからだ。


(──アイリスの容態からして、一度空への迎撃魔法が途切れたのは、彼女に魔力切れが発生したからだろう。そして、直後に空へと放たれた蒼白い光は、その“男”とやらが⋯⋯)


何者だ、とハクアは腕を組む。
次に彼が質問したのは、“蒼白い光”の直後に発生した“赤い光”についてだった。


「それは、あの銀槍竜っていうグレイドラゴンが⋯」

「アイリスさんが使った魔法とそっくり⋯というか、同じでした。確か、☾炎槍の雨フランツェ・レーゲン☽とか⋯」

「⋯⋯そんな莫迦な事が⋯」


銀槍竜が放ったその魔法が、まさか見様見真似であった事は、ハクアも思い至らない。ただ、グレイドラゴンが、その次元の魔法を扱えるという事実に驚愕した。


「⋯お前達は、先に王都へ帰って休め。この話は、俺からギルドマスターに伝えておく」


額を覆うハクアは、ツエン達に解散指示を出す。
担架にアイリスを乗せ、彼らは王都へと帰還を始めた。


「全く、とっとと本人らに問い詰めてやりたいとこだ。⋯銀槍竜め、一体何処に──」

「ハクアっ!」


舌打ちをするハクアに、悲鳴にも似た声が聞こえる。
何事かと振り返った彼の視線の先には、ひどく焦った様子のシルビアの姿があった。


「ジールを見なかった!?どこにも居なくて⋯!!」

「ヴィルジールか?見てないが⋯⋯何を焦っている?」

「分かんないけど、ヘンなのよ!!妙な胸騒ぎがするの!」


尋常な焦り方ではないシルビアは、ハクアに詰め寄る。
様子を見ていたニナとサンクイラは、素早く彼女を取り押さえる。その瞬間、シルビアを宥めるニナ達は、感じていた。

押さえているシルビアの手から、肩から、激しく打つ心臓の鼓動を。


「きっと、ジールに⋯⋯彼に何かあったんだわ。最近、彼の様子が変だから、アタシはずっと気にかけてたんだけど、迎撃戦が始まったらちゃんと来てくれて⋯。最初は、大丈夫だわって思ってたんだけど、いつの間にか視界から消えてて⋯⋯。その瞬間から胸騒ぎはしてたんだけど、迎撃戦が終わったら、いつの間にか魔力感知にも反応しなくなってたの。アタシ分かるの。彼とは長い付き合いだから、こんな胸騒ぎがする時って本人に何かあった時だって。それに──」

「お、落ち着いて下さいシルビアさん!」

「どうしたの!?あなたらしくないわよ!?」


呼吸すらせずに話すシルビアを、サンクイラとニナは揺する。
いつもの落ち着いた姿とは違い、激しく動揺している彼女を見て、2人は目を見開いていた。


「──多分、ヴィルジールを最後に見たのは、俺だろうな」

「え⋯」


その時、彼女達の間にファリドが割り込む。
ピタリと慟哭どうこく止めたシルビアは、ファリドへ近寄った。彼女の肩に手を添えていたニナが、いつ自身の手からシルビアが離れたか気が付かない速さで。


「全部!全部話して!」


子供が駄々をこねるように、シルビアはファリドへ迫る。
初めに彼女を宥めたフェリドは、ゆっくりと、先程見たヴィルジールの様子を語り始めたのだった──
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