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1章【真実編】
第74話・悪魔の様な男。
しおりを挟む──ズドンッッ!!
俺は、渾身の力で膝蹴りを放つ。
衝撃音と共に、バルドールの身体が揺れた。
だが、当の本人は余裕な表情。
それもその筈、俺の膝とバルドールの腹部の間には、彼の手が差し込まれていた。
「フ~ン?」
膝蹴りを受け止めた右手を揺らし、バルドールは鼻を鳴らす。
『こんなもんか?』とでも言う様に、彼は俺に視線を送った。
(⋯ウソだろ。直で受け止めたってのに、アイツの右手無傷じゃねーか)
そんな事を考えながら、俺は再度攻撃のチャンスを伺う。
しかし、ハッキリ言って、全くコッチの攻撃が入るイメージが湧かない。というか、勝てるビジョンすらも。
戦闘開始から30分くらいたったが、攻撃を当てた回数はゼロ。
まさか、ここまで差があるとは⋯⋯。テュラングルやシルビア⋯ファリドとの戦いで、どうやら俺は『勘違い』していたらしい。
『俺って、強いんじゃないか』って。
「⋯⋯やめとくか」
唐突に、バルドールが呟く。
彼の台詞の意味を理解しかねた俺は、片眉を吊り上げていた。
⋯⋯いや、理解はしているか。
なんというか⋯こう、⋯あぁダメだ、やっぱ理解したくない。
落ち着け俺。相手は年上だぞ?実力も上だぞ?
その喉に突っかかってる言葉を引っ込めろ。
「⋯マァ、迎撃戦の直後だって事もあるしな。疲れてんだろ?
今日のトコは、やめ──」
「舐めてんじゃねぇぞ」
あ、あ~あ、言っちまった。
同時に、なぁんか吹っ切れちまったな~。
『つまんねー』みたいなカオしやがって。
何がなんでもブッ飛ばしてやるからな。
「⋯いや、気を悪くすんな。俺は全力のお前とやりてぇって話でだな⋯」
「そ、れ、が!舐めてんだよ!“今なら余裕で勝てます”ってその態度が!」
「⋯⋯⋯⋯実際、そうなんだが?」
ブチッと、何処から音が聞こえた。
自分の内側から、とんでもない勢いで魔力が湧き出てくるのが分かる。⋯そういえば、過去に『魔力の操作は気持ちが大事』って読んだっけ。
まぁ今はどうでもいいがッ!!
「ガォアァッッ!!」
「おいおい、どうした⋯⋯」
俺の拳の連打を、バルドールは片手で往なす。
自分で言うのもなんだが、俺の連打は片腕でも『ゼクス最強』とか言われてるファリドが防御に集中する程だった。
その連打を両腕で打っているというのに、この男と来たら。
ロクに焦りもしないで──ある意味では動揺しているが──簡単に対処してきやがる。
はぁー!ムカつく!
ゼッテーにあの顔面に一発ブチ込んでやる!
「よっと、」
「ンガッ!?」
奮闘虚しく、バルドールの膝蹴りがみぞおちに刺さる。
その軽い掛け声と裏腹に、信じられない程のダメージだった。
というか、意識がトびそうだった。
⋯⋯だが、
「捕まえた⋯ッ!!」
「お、」
バルドールの脚を引っ掴み、その場に固定。
彼がバランスを崩したタイミングで、死角から尻尾の先端を打ち込んだ。⋯が、それは簡単に片手でキャッチされる。
あー悔しい!
⋯なーんちゃって、対応されるのは計算のウチだぜ!
「おおっ?」
掴んでいる脚を引き寄せ、バルドールを後ろへ倒れさせる。
強靭な体幹で転倒は耐えてきたが、俺の目的はソレではない。
今の彼がしている、バランスを取るために“上半身を仰向け”にしている状態こそが俺の狙い。
上半身に伴って、頭も仰向けにさせるのが目的だ。
それによって俺が視界から外れる事で、その隙に攻撃を打ち込むって算段よ⋯!!
「まだ続ける気──」
と、それ以上を言わせず、俺は右腕を振り上げる。
バルドールと密着している以上、大きな動作は出来ないが、それでもコレは効くだろう。
「おらあァッ!!」
腕を曲げ、目一杯に肘を振り下ろす。
思わず声が出てしまったが、未だバルドールの視線はコッチに戻っていない。⋯まぁ今更攻撃に気付いた所で、回避も何も無いだろうが──
「ほいっ」
ぱしん。
そんな軽い音を響かせ、俺の肘打ちが受け止められる。
「⋯は?」
俺は、絶句した。
何故なら、バルドールの頭は仰向けのままで、視線も此方に向いていなかったからだ。見えてない攻撃を受け止めるなんて、普通は不可能だろう。
例えば、魔法による攻撃だったのなら分かる。
⋯⋯いや、魔力感知で気が付くとしても早すぎるのだが、それでも魔法攻撃だったのなら、まだ。
「──どうした、止まってるぜ?」
「ッ⋯!」
不敵な笑みを浮かべるバルドールから、俺は飛び退く。
足が解放された事で、彼はゆらりと体勢を元に戻した。
対する俺は、状況が飲み込めずに混乱状態。
脳をフル回転し、先程のやりとりについて考えていた。
(⋯候補としては、やっぱり魔力感知しかない。だが、あんなピンポイントの攻撃の感知なんて出来るのか⋯?)
そもそも『魔力感知』とは、文字通り魔力を感知する事だ。
それは勿論、相手の体内にある魔力も感知できる訳であって、相手の『位置』や『魔力量』を把握できる事にも直結する。
俺の場合、今の2つは当然として、相手の『大きさ』や『形』も認識が可能だ。俺より格上のバルドールが、その程度は出来るとして⋯⋯。まさかとは思うが、そんな事をやっているのか⋯!?
「⋯あぁ、不思議なのか?見えてないのに、俺が攻撃を受け止めた事が。コレはだな──」
「いや、待ってくれ。まず、俺の予想から聞いてくれ」
「ほう?聞かせろ」
「⋯⋯魔力感知を『戦闘に特化』させている。
『感知の限定』を極端に⋯まぁ仮に『1人』にするとして、常に相手を感知し続ける事で、目で見えていなくても行動が分かる様に⋯ってところか?」
俺の予想を聞き、バルドールは腕を組む。
軽く首を傾げた様子を見るに、どうやらハズレらしい。
「いい線はいっている。⋯が、『戦闘に特化』と『感知の限定』は間違いだな」
「⋯あくまで、修練によって成長した魔力感知の能力だと?」
「マァ、俺は修練とかダルい事した記憶は無いが、つまりはそういう事だな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
ひ、膝から崩れ落ちそうだ。
端的に言えば『死角ナシ』って話だし、そんな相手にどうしろってんだよ。
「──やれやれ。少し煽ってみたが、あの程度の技術で意気消沈たぁな⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
「やっぱり、もう少し待ってからにするぜ」
「⋯⋯っ」
あぁ、煽られてたのか。
通りで、次々と癇に障るセリフが出てくる奴だと⋯⋯。
想定より俺が弱くて落胆して、やる気を出させる為に吐いた言葉だったんだろうが、それでも酷い男だ。まるで悪魔だな。
「オラ、こっち来い。飛んで王都に戻るぞ」
広げた両腕を、バルドールはヒラヒラと動かす。
俺を抱えて飛ぶ為の格好なのだろうが、その様子は俺に直視できるものではなかった。あそこに行った時点で、俺の負けが確定してしまう様で。
「──悪かったな」
「なに⋯?」
俺の言葉に、バルドールは固まる。
まぁ俺も、突然謝られたら同じ反応をするだろうな。
「実を言うと、俺はまだ本気じゃなかったんだ」
「⋯⋯ハァ?」
傍から聞けば、負け惜しみとも取れる台詞だろう。
案の定、バルドールも口を半開きにしているし。
「⋯『この技』は、まだ未完成でな。加減が出来ないって理由で使ってなかったんだ」
「⋯⋯ほう?」
「けどさ、思ったんだよ。このなーんにも無い場所で、ちょー強いアンタになら、使ってもいいなって」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯。
⋯やるか。
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