猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【地獄のスパルタ訓練編】

第117話・金翔竜

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 ──翌日。
 昨夜と同じく、俺はギルルとの鍛錬場に居た。
 俺の希望によって、本日はギルル相手の鍛錬ではなく、ティガとの“特訓”に励む事になったからだ。

「──ッしゃア! もういっちょこいッッ!!」

 両手を大きく広げ、ティガが構える。
 彼の力強い仁王立ちを前に、俺は拳を引いて踏み込んだ。
 ⋯⋯ありがたい。ティガが相手だからこそ、俺も遠慮無く打ち込めるというモノだ。
 
「ふッ!!」

 無空間に、突きを放つ。
 直後に生まれた拳形の魔力弾──『飛拳(ひけん)』──は、俺とティガの間合い100メートルを超音速で移動。ティガの眼前へと、文字通り瞬く間に迫った。
 だが、大型トラック並のサイズの攻撃を前に、ティガはその場から動かない。
 流石、魔王幹部。どうやら真正面から受け止める気らしい。
 
──ドンッッ!!
 
 直撃。そして、衝撃波。
 猛烈な突風が、周囲一帯に巨大な砂煙を巻き起こす。
 技を放った俺自身、思わず目を覆ってしまった中で、遠くからティガの声が聞こえてきた。
 
「よォしよし! 3cmは動いたぞッ!!」
「マジか!? やったぜオイ!!」

 ティガの台詞に、俺は歓喜した。
 “たった”ではない。俺にとっては、“も”である。
 あの、魔王幹部であるティガに『飛拳』を当て、その場から3cmも動かせたのだ。
 この成長は、喜ばずにはいられないぜ。

「昨日の今日で、肉体の魔力操作が身に付いてやがる。
 悪くねェ。いや寧ろ、イ~イ調子だぜ」
「そ、そうかぁ? それ程でも⋯⋯あるかもなぁ」

 ストレートに褒められ、俺はそっと照れを隠す。
 このコったら、ホントに人の扱いを分かってるんだからぁ~もう。

「──どうせなら、今日の内にもうちっと技を伸ばしておきてぇトコだな」
「技を、今日の内って。『飛拳』は完成したばっかりだし⋯⋯」
「いンや、技が完成したてだからいいんだ。
 技っつうのは、長く使ってると“そういう技”としか認識できなくなるからな」
「んん⋯⋯??」
「まぁ、細けぇこたぁいいんだよ。実践だ、実践」

 そう言って、ティガは踵(きびす)を返す。
 背を向けた彼は、俺に向けて「ン。」と、人差し指を2回倒した。
 どうやら、着いてこいというワケらしいが⋯⋯はて?  
 まぁ考えた所で分からなそうだし、兎に角ティガの後に続くか──⋯


NOW  LOADING⋯


「⋯──まだ歩くのかよ?」
「ンン~⋯ここら辺だと思うんだがなぁ⋯⋯」
 
 なんやかんやで、歩き続けること1時間。
 ティガに連れられやって来たのは、晴天の下の草原だった。
 一見すると⋯⋯というよりは、実際に美しい緑が風に靡(なび)く心地良い場所である。
  しかしながら、やはり魔王城からそう遠くないだけあって、空気中の魔力濃度は異常。
 並の冒険者や魔物であれば、呼吸するだけで魔力中毒を引き起こしそうな場所だ。
 とはいえ、俺は並の魔物ではないので、結局は心地の良い草原である事に変わりは無いのだが。

「──オッ、来た来た。紅志ィ、準備しろ」
「来たって、何がだ? 準備って言っても──」

 次の瞬間、魔力感知に反応が現れる。
 俺は、大いに驚愕した。
 平穏を打ち破った“ソイツ”の魔力反応。その移動速度が、異常なまでに速かったからだ。
 そして、そんな事実に目を見開いた刹那すら、一瞬の内に過去形になる事となる。

「キュアアァァ────ッッ!!」
「な、なんだコイツ!? いつの間に!!」

 引き立て役の様な台詞が、口をついて出る。
 それもそうだろう。遥か上空に感じていた筈の魔力反応の主が、気付けば背後に移動していたんだ。
 驚くなって方がムリがあるぜ。

「キュルルルルルッッ!!」
「⋯⋯ッ」

 此方を威嚇する唸り声に、思わず唾を飲み込む。
 黄金の様な鱗に覆われたソイツは、二対──四枚──の翼を大きく広げる。
 外側へ大きく湾曲した二本角に、脊椎に沿って隆起する黒色の外殻──。
 全身の“武器”を存分に構え、ソイツは琥珀色の眼光で此方を睨んだ。

「コイツは⋯⋯なんて名前だっけかな? えーっと⋯⋯
 まぁ、いいか。取り敢えず、飛行速度がウリの魔物だ。
 他所の地域じゃあ、ソレだけで生存競争を勝ち残ってるとか聞いたっけな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

 ティガが何やら説明しているが、ぶっちゃけ聞いてない。 
 コイツはやばい、やばすぎる相手だ。あまりに速すぎる。
 以前、リーゼノールでテュラングルを相手に経験した事を、嫌でも思い出させられるぜ。
(──“魔力反応の残像”⋯⋯また観る事になるとはな)
 思わず、溜息に似た笑いが零れる。 
 魔力感知内の対象の動きと、実際の対象の動き。それに誤差が生じるのは、対象との実力差が原因の一つだ。
 端的な話、此方の魔力感知の精度を、相手の移動速度が上回っている、と。言ってしまえば、それだけだ。
 ⋯⋯だがそれが、それこそが、山の様に大きな“差”を思い知らせる。
 
「──ティガ。なんか、こういう言い方はヘンかもしれないんだが⋯⋯」
「あン、どうした?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」 

 ──魔力感知の精度は、展開する者の力量によって変化する。
 無論、“魔力感知そのものを育成する”という事もできるが、それは一旦置いておこう。
 大事なのは、通常の場合に感知の精度がどんな風に成長していくか、である。
 答えは、反応速度の成長。
 対象を感知するという性能である以上、感知した情報を脳内で処理する速度は大切だ。
 情報は入ってくるが内容が理解できないだなんて、そりゃあ意味の無い事だしな。
 だからこそ、感知した情報を速やかに処理できる反応速度が必要になってくると。
 そして、それを踏まえて大事なのが、“反応速度が成長する条件”だ。
 
「⋯⋯その、」
「おう、なんだなんだ」

 ──反応速度。  
 それは、動体視力の良し悪しに影響を受けやすい。
 ならば、普段から素早く動く環境にいる者であれば、その厳しさに比例して動体視力=反応速度は上がる。
 それを考えた時、俺はどうだ。
 魔王城に来て、比喩抜きで血の滲(にじ)む努力をしてきた。
 魔王幹部を相手に、全力で逃げて、全力で当てに行き、それでも達成出来ない事もある。
 しかし確実に、魔力の質も、肉体強度も、そして反応速度も成長している。
 つまりは、魔力感知の精度も桁違いに成長している筈だ。
 ⋯⋯だが、目の前のコイツは、そんな俺の魔力感知にあろう事か残像をせやがった。
 それが意味する事は1つ。
 速度に関しては、俺より格上であるという事実だ。

「──感謝する」
「⋯⋯へッ、準備は万端な様だなァ? エェ?」
「あぁ。いつでもいける⋯⋯!!」
  
 オイシイぜ、コイツは。
 速度での格上⋯⋯。だが、あくまでその点だけだ。
 事実、アイツの魔力量自体は俺より少し低い程だし。
 早い話が、“速度特化”というワケだな。
   
「キュルアアア────ッッッ!!!」 

 深く構えた俺を見て、相手もやる気になった様子だ。
 ⋯⋯本当にオイシイ奴だぜ。ギルルの速度を仮定した相手としても、俺の成長の付き合う相手としてもな⋯⋯!!

「──ッガルオァアアァァアーーーーッッ!!」
   
 見つめ合い、そして思い切り咆哮さけぶ。
 竜二頭。戦いが始まった──
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