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1章【地獄のスパルタ訓練編】
第121話・お前が邪魔だ
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幼竜は怯えていた。
今まで経験した危機は、大抵が「別の意識」が何とかしてくれていた。
純粋な魔物としての能力は自身の方が高いが、それを差し引いても「その意識」⋯⋯
もっと言えば、「その意識下にある肉体」は恐ろしく強かった。
何より特別だったのが、その意識が開発した“炎を纏う能力”である。
グレイドラゴンとしての限界を超えた強さは、尊敬や憧れを飛び越え、恐怖さえ覚える程であった。
「ウウウ⋯⋯!!」
──使えない。
どれだけ気張っても、心の底から念じても、“炎の能力”は発言しなかったのである。
同じ肉体を共有していながら、片方だけ同様の能力が使えない理由は2つ。
能力発動までのプロセスの理解度と、そもそもの「魔力の操作」の練度の違いである。
「──逃げずに牙を剥く──。その度胸は認めてやる。
だが、届かん。お前が如何なる努力をしようが、如何なる策を練ろうが、全てが無意味だ」
「グルルル⋯⋯ッ」
グレンデルの言葉は、幼竜には聞こえていなかった。
極限の緊張により、最大限の警戒と集中をしているからだ。
「──理由など気にした事は無いが、俺は人間が嫌いだ。
しかし、あの偽神(ごみ)も同様に嫌いだ。双方が争う事で片方が消えるのならば、我慢も仕方無い事だ。
⋯⋯だが、一つだけ我慢ならん問題がある」
「フーッ⋯⋯!! フーッ⋯⋯!」
「幼竜よ。お前という存在のせいで遅れが生じている。
お前の中にいる人間に加担する気は無い。⋯⋯だが、お前よりも其方(そちら)の方が使えるのは、極めて遺憾だが事実だ」
グレンデルが、1歩前に出る。
それと同時に、凄まじい量の魔力が彼から迸った。
「──幼竜よ。お前が邪魔だ」
「ガァァアアアアァーーッッ!!」
張った糸が切れた様に、幼竜が咆哮する。
危機を逃れる為、幼竜が真っ先にとった行動は、グレンデルへの攻撃であった。
彼自身、本能的に理解しているのである。
“逃げようと思って逃げれる相手ではない”、“背を向ければ殺される”という事を。
「ガアアァ!!」
「⋯⋯ほう」
──金属生成。
それは、グレイドラゴン本来の能力である。
鉤爪に金属を纏わせてリーチを伸ばす。身体の表面に金属を張って防御力を上げる⋯⋯。
基本的には、それが種としての限界能力だ。
しかし、この幼竜は並のグレイドラゴンではない。
見た目や成長速度もそうだが、通常種との最たる違いは所持する魔力の量である。
──ゴォ────⋯⋯ッ!!
喩(たと)えるなら、津波か雪崩。
自然災害級の「金属」が、グレンデルを呑み込まんと迫る。
液体の様な動きを見せる金属は、唸り声にも似た音を響かせた。
「魔力量⋯⋯。グレイドラゴンといえど、その違いによってここまで能力に差が出るか」
動じず、グレンデルは荒波を前に立つ。
押し寄せる金属をものともせずに、グレンデルは波の狭間に消えていった。
だが、彼を前にした幼竜は警戒を怠らない。
彼が立っていた場所を中心として、金属の流れを操作。
捩じり上げる様に、全ての金属を一点集中させた。
凄まじい轟音の後に完成したのは、銀色に輝く彫像の様な塊であった。
「グルルルル⋯⋯」
一転して、静寂が場を支配する。
その中で、幼竜は震える脚で立ち尽くし、怯えた瞳で正面を睨んでいた。
──紅志と幼竜。
それぞれにおける金属生成への認識は、大きく違う。
紅志は、あくまで「1つの手段」という認識である。
格闘による戦闘内にて、それをサポートする道具の作成に重きを置いている訳だ。
対して、グレイドラゴンであるこの幼竜。
彼にとって金属生成への認識とは、「防御・攻撃そのもの」というモノである。
「──見事だ、幼竜よ」
バキン! と、音を立て、金属に亀裂が入る。
稲妻が逆さに走るかの如く、亀裂はその大きさを増していった。
「グ⋯⋯ア⋯⋯」
幼竜は絶望した。
1つの手段では無く、「攻撃という行為そのもの」が、真正面から潰された瞬間である。
己の全身全霊を持って放った一撃を食らって、尚も無傷の相手。
それを目の当たりにして、幼竜は遂に諦めたのであった。
「ただの魔物としてならば、俺に牙を剥いた時点で称賛されて然(しか)るべきだ。
更にお前は、俺に全力の攻撃を打ち出す勇気まで見せた。
──素晴らしい。だが邪魔だ」
褒め、睨む。
相反する動作を、グレンデルは同時に行う。
その大きな緩急すら、幼竜には見えていなかった。
瞳に映るのは、自分を殺そうと此方に歩を進める魔族のみである。
「フ⋯⋯ッ、フ⋯⋯ッ、」
最早、後退りする事すら叶わない。
細かな呼吸を繰り返し、今にも来るであろう「死」を、ただ待つ事しか出来なかった。
「では、死ね」
グレンデルは、幼竜の頭に手を掛ける。
直後、その手から発生したのは、激しい電撃であった。
白目を剥く幼竜は、その全身が大袈裟なまでに痙攣する。
脳へ、直接電流を流し込まれているので、当然ではあるが。
「グ! ギャ! ギャア! アッ!」
壊れた目覚ましの様に、幼竜の口から音が出る。
その様子を、グレンデルは何の感情も持たずに眺めていた。
彼の思惑は、「目の前の肉体を支配する意識」を消失させる事にあった。
紅志の意識を司る箇所を避け、幼竜の意識だけにダメージを入れる。
そうする事で、幼竜のみを脳死させようとしているのである。
無論、その芸当は至高の領域に達する程に困難な事だ。
しかし、このグレンデルという魔族は、魔王幹部の肩書きを持つ男。
“この程度”は、喩えではなく片手間で可能な芸当なのである。
「⋯⋯ッ、⋯⋯ッ、」
声すら出なくなった幼竜から、グレンデルは手を離す。
地面へ崩れ落ちた幼竜を見て、グレンデルはその場を去ろうと踵(きびす)を返した。
二歩、四歩、八歩。グレンデルが歩を進める間、背後の幼竜は動かない。
当然である。幼竜の意識は、既に無いのだから。
「⋯⋯?」
──十歩目を踏み出す、その時だった。
(⋯⋯詰めが甘かったか)
内心で舌打ちをするグレンデル。
その視線の先には、音も無く立ち上がった の姿があった。
「────。」
「⋯⋯⋯⋯。」
静かに睨まれるグレンデルは、無言で対峙する。
右手に先程より強い電撃を迸らせ、静かに構えるグレンデル。
狙いは同じく頭部。より強い出力で、今度は必ず殺すとグレンデルは構えた。
「──何をしてるの?」
その幼い声に、グレンデルは咄嗟に振り向く。
そこには、凄まじい威圧を放つ幼女が立っていた。
「⋯⋯フン」
諦めた様に、グレンデルは電撃を収める。
改めて踵を返したグレンデルは、この場から去ろうと歩を進めた。
──ふと彼が視線をやると、幼竜は地面へ伏している状態であった。
「⋯⋯この件は、ゼルに伝えさせてもらうからね。
君は独断専行が過ぎる。自分が何をしたのか、ちゃんと反省して」
「俺は、魔王様の為に行動したまで。反省など無い」
そう言い残し、グレンデルは飛び立つ。
彼が去った後、幼女は猛紅竜を背負って魔王城へ向かうのであった。
「──三つ、か」
独り、グレンデルは呟いた。
今まで経験した危機は、大抵が「別の意識」が何とかしてくれていた。
純粋な魔物としての能力は自身の方が高いが、それを差し引いても「その意識」⋯⋯
もっと言えば、「その意識下にある肉体」は恐ろしく強かった。
何より特別だったのが、その意識が開発した“炎を纏う能力”である。
グレイドラゴンとしての限界を超えた強さは、尊敬や憧れを飛び越え、恐怖さえ覚える程であった。
「ウウウ⋯⋯!!」
──使えない。
どれだけ気張っても、心の底から念じても、“炎の能力”は発言しなかったのである。
同じ肉体を共有していながら、片方だけ同様の能力が使えない理由は2つ。
能力発動までのプロセスの理解度と、そもそもの「魔力の操作」の練度の違いである。
「──逃げずに牙を剥く──。その度胸は認めてやる。
だが、届かん。お前が如何なる努力をしようが、如何なる策を練ろうが、全てが無意味だ」
「グルルル⋯⋯ッ」
グレンデルの言葉は、幼竜には聞こえていなかった。
極限の緊張により、最大限の警戒と集中をしているからだ。
「──理由など気にした事は無いが、俺は人間が嫌いだ。
しかし、あの偽神(ごみ)も同様に嫌いだ。双方が争う事で片方が消えるのならば、我慢も仕方無い事だ。
⋯⋯だが、一つだけ我慢ならん問題がある」
「フーッ⋯⋯!! フーッ⋯⋯!」
「幼竜よ。お前という存在のせいで遅れが生じている。
お前の中にいる人間に加担する気は無い。⋯⋯だが、お前よりも其方(そちら)の方が使えるのは、極めて遺憾だが事実だ」
グレンデルが、1歩前に出る。
それと同時に、凄まじい量の魔力が彼から迸った。
「──幼竜よ。お前が邪魔だ」
「ガァァアアアアァーーッッ!!」
張った糸が切れた様に、幼竜が咆哮する。
危機を逃れる為、幼竜が真っ先にとった行動は、グレンデルへの攻撃であった。
彼自身、本能的に理解しているのである。
“逃げようと思って逃げれる相手ではない”、“背を向ければ殺される”という事を。
「ガアアァ!!」
「⋯⋯ほう」
──金属生成。
それは、グレイドラゴン本来の能力である。
鉤爪に金属を纏わせてリーチを伸ばす。身体の表面に金属を張って防御力を上げる⋯⋯。
基本的には、それが種としての限界能力だ。
しかし、この幼竜は並のグレイドラゴンではない。
見た目や成長速度もそうだが、通常種との最たる違いは所持する魔力の量である。
──ゴォ────⋯⋯ッ!!
喩(たと)えるなら、津波か雪崩。
自然災害級の「金属」が、グレンデルを呑み込まんと迫る。
液体の様な動きを見せる金属は、唸り声にも似た音を響かせた。
「魔力量⋯⋯。グレイドラゴンといえど、その違いによってここまで能力に差が出るか」
動じず、グレンデルは荒波を前に立つ。
押し寄せる金属をものともせずに、グレンデルは波の狭間に消えていった。
だが、彼を前にした幼竜は警戒を怠らない。
彼が立っていた場所を中心として、金属の流れを操作。
捩じり上げる様に、全ての金属を一点集中させた。
凄まじい轟音の後に完成したのは、銀色に輝く彫像の様な塊であった。
「グルルルル⋯⋯」
一転して、静寂が場を支配する。
その中で、幼竜は震える脚で立ち尽くし、怯えた瞳で正面を睨んでいた。
──紅志と幼竜。
それぞれにおける金属生成への認識は、大きく違う。
紅志は、あくまで「1つの手段」という認識である。
格闘による戦闘内にて、それをサポートする道具の作成に重きを置いている訳だ。
対して、グレイドラゴンであるこの幼竜。
彼にとって金属生成への認識とは、「防御・攻撃そのもの」というモノである。
「──見事だ、幼竜よ」
バキン! と、音を立て、金属に亀裂が入る。
稲妻が逆さに走るかの如く、亀裂はその大きさを増していった。
「グ⋯⋯ア⋯⋯」
幼竜は絶望した。
1つの手段では無く、「攻撃という行為そのもの」が、真正面から潰された瞬間である。
己の全身全霊を持って放った一撃を食らって、尚も無傷の相手。
それを目の当たりにして、幼竜は遂に諦めたのであった。
「ただの魔物としてならば、俺に牙を剥いた時点で称賛されて然(しか)るべきだ。
更にお前は、俺に全力の攻撃を打ち出す勇気まで見せた。
──素晴らしい。だが邪魔だ」
褒め、睨む。
相反する動作を、グレンデルは同時に行う。
その大きな緩急すら、幼竜には見えていなかった。
瞳に映るのは、自分を殺そうと此方に歩を進める魔族のみである。
「フ⋯⋯ッ、フ⋯⋯ッ、」
最早、後退りする事すら叶わない。
細かな呼吸を繰り返し、今にも来るであろう「死」を、ただ待つ事しか出来なかった。
「では、死ね」
グレンデルは、幼竜の頭に手を掛ける。
直後、その手から発生したのは、激しい電撃であった。
白目を剥く幼竜は、その全身が大袈裟なまでに痙攣する。
脳へ、直接電流を流し込まれているので、当然ではあるが。
「グ! ギャ! ギャア! アッ!」
壊れた目覚ましの様に、幼竜の口から音が出る。
その様子を、グレンデルは何の感情も持たずに眺めていた。
彼の思惑は、「目の前の肉体を支配する意識」を消失させる事にあった。
紅志の意識を司る箇所を避け、幼竜の意識だけにダメージを入れる。
そうする事で、幼竜のみを脳死させようとしているのである。
無論、その芸当は至高の領域に達する程に困難な事だ。
しかし、このグレンデルという魔族は、魔王幹部の肩書きを持つ男。
“この程度”は、喩えではなく片手間で可能な芸当なのである。
「⋯⋯ッ、⋯⋯ッ、」
声すら出なくなった幼竜から、グレンデルは手を離す。
地面へ崩れ落ちた幼竜を見て、グレンデルはその場を去ろうと踵(きびす)を返した。
二歩、四歩、八歩。グレンデルが歩を進める間、背後の幼竜は動かない。
当然である。幼竜の意識は、既に無いのだから。
「⋯⋯?」
──十歩目を踏み出す、その時だった。
(⋯⋯詰めが甘かったか)
内心で舌打ちをするグレンデル。
その視線の先には、音も無く立ち上がった の姿があった。
「────。」
「⋯⋯⋯⋯。」
静かに睨まれるグレンデルは、無言で対峙する。
右手に先程より強い電撃を迸らせ、静かに構えるグレンデル。
狙いは同じく頭部。より強い出力で、今度は必ず殺すとグレンデルは構えた。
「──何をしてるの?」
その幼い声に、グレンデルは咄嗟に振り向く。
そこには、凄まじい威圧を放つ幼女が立っていた。
「⋯⋯フン」
諦めた様に、グレンデルは電撃を収める。
改めて踵を返したグレンデルは、この場から去ろうと歩を進めた。
──ふと彼が視線をやると、幼竜は地面へ伏している状態であった。
「⋯⋯この件は、ゼルに伝えさせてもらうからね。
君は独断専行が過ぎる。自分が何をしたのか、ちゃんと反省して」
「俺は、魔王様の為に行動したまで。反省など無い」
そう言い残し、グレンデルは飛び立つ。
彼が去った後、幼女は猛紅竜を背負って魔王城へ向かうのであった。
「──三つ、か」
独り、グレンデルは呟いた。
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