猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【地獄のスパルタ訓練編】

第126話・飛拳 II

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「──飛拳」
 
 アインが、静かに呟く。
 直後、銀翠(ぎんすい)に輝く魔力が、拳の形で打ち出された。
 俺の飛拳とアインのソレは、真正面から衝突。
 激しい轟音を響かせ、二つの光が周囲を眩く照らした。

「どうだ? 俺のデキはよう」
「⋯⋯ちぇ、ヒトの技パクるなよ」
「ヘヘッ。面白そうな技だったから、ついな」
「ついってなんだ、ついって」
    
 軽く笑うアインに、俺はイナバウアーの姿勢で受け答える。
 俺の飛拳を打ち消したアインの飛拳を、咄嗟に回避する為に生まれた体勢であった。
 全く、技をコピーされた挙句、オリジナルを超えられるとはショックだぜ⋯⋯
 って、本来飛拳は、アインの実践を元に考案した技。
 やろうと思えば、アインなら真似をするのは難しく無いか。
 
「──ふぅっ。仕切り直しだ!」
「よォし、その意気だぜ。こいッ!」

 逸した上半身を戻し、アインと対峙する。
 ⋯⋯ふと思ったが、やはり尻尾というのはイイもんだ。
 身体を逸らす時、尻尾を後ろに叩き付ける勢いを利用して即座に躱せたし。
 “この動き”⋯⋯上手くいけば、使い道があるかもな。
(──さて。今それはいいとして、このシュチュエーション⋯⋯どうするべきかね。
 先の飛拳までの流れに対応された以上、もう接近戦に拘(こだわ)る必要も無いか)
 ⋯⋯が、とはいえ、だ。
 俺の得意は物理格闘で、どの道は、

「──ッ!!」

 接近。コレしかないよなぁ。
 
──ボッッ!!
  
 初撃はシンプルに右ストレート。
 顔面に向けて打ったソレを、アインは首を傾げるだけで回避する。
 余裕な笑みを浮かべるアインに対し、俺は即座に拳を引いて1歩下がった。
 直後、素早く逆立ちをした俺は、片手を軸として横回転。遠心力を味方に、うねりを付けて尻尾を薙ぎ払った。

「ン~っ、便利なモンだなァ」

 スレスレの所で、アインは尻尾を受け止める。
 伝わってくる固く握られた感触から、俺を逃がす気はないのだと察した。
 しかし、大丈夫だ。尻尾を掴まれた際の対応手段は、ティガを相手に学習済みだからな。

「ぬんがァ!」
 
 思い切り回転し、尻尾を千切る。
 ブレイクダンスってこんな感じなんだなぁと思いつつ、俺は回転したまま跳ねた。
 空中で身体を捻り、そのままアインに蹴りを見舞う。
 しかし、吸い込まれる様に顔面に向かう右脚が、直撃する寸前。
 俺が命中を確信したタイミングで、奇妙な鈍いが響き渡った。

「──ヒュウ♪」

 アインは、戯(おど)けた表情で口笛を吹く。
 その顔の真横には、小皿程の翠色の結界が張られていた。
 ⋯⋯成程。そもそも、アインは【暴魔(ぼうま)】の異名を持つ男だ。
 その名から分かる様に、得意とするのは格闘ではなく魔力の扱い。
 今までは素手で俺に付き合っていただけで、実際は──

「⋯⋯ハッ!」

 上等だ、楽しくなってきたぜ。
 ⋯⋯折角だし、試してみたかった事をやってみるか。
 アインが相手なら、絶対に乗ってくれる筈だ。

 「お? 。⋯⋯いいぜ」
 
 両手をポケットに突っ込み、アインは仁王立ちをする。
 その、一見すると無防備な格好に反して、彼の魔力は荒々しく迸(ほとばし)っていた。
 巻き上がる風により、アインのコートがバタバタと靡く。
 圧倒的強者の立ち姿に、俺は牙を剥いて笑った。

「──来い!」
「~~ッ!!」
 
 目を瞑ってしまう程、堂々と輝いて見えるアイン。
 畏怖さえ生まれる歓喜を感じつつ、俺は自身の両の手を強く握り締めた。
 体内の魔力を操作し、拳に集中させる。通常と飛拳となんら変わらない流れだが、2つ異なる点がある。
 集中させる魔力の量は、少なめである事。魔力を集中させる先は、両方の拳である事だ。

「ハアアッ!!」
 
 右拳。左拳。右拳。左拳。
 交互を、高速で。俺自身ですら、たった今どちらの拳を突き出しているか分からない程の速度で打つ。
 全身全霊の一心不乱。アインに当てる事だけを意思として、飛拳を乱打した。
 俺は、この技を『飛連拳(ひれんけん)』と 呼んでいる。

──ガガガガガガガッ!!

 無数の飛拳に、アインは無数の結界の展開で対応する。
 それも、一撃一撃を正確に。
 ⋯⋯自分全体を結界で覆う事もできるだろうに、それでも付き合ってくれるアインにはホレちまうな。

「⋯⋯ン、」

 バチン! と、アインが片手を叩(はた)く。
 正しくは、無数の結界をすり抜けて来た飛拳を素手で掻き消したという状態だ。
(──『飛連拳(ひれんけん)』。攻撃方法そのままの安いネーミングだが⋯⋯中々使えるぜ)
 威力、速度、射程。どれをとっても溜めた一撃には敵わないが、手数だけで欠点を補える優れ技だ。
 アインも全力を出していないとはいえ、現状ではアイツの結界の展開速度を上回れているのが事実。
 この勢いのまま押し切りたい所だが⋯⋯

「ほいっとな」
「お!?」

 そうは問屋が卸さない⋯⋯って、何だ今の!?
 放った飛拳が、急に俺に戻ってきやがったぞ!!
 別で放っていた飛拳が相殺してくれたが、危うく当たるトコだったぜ⋯⋯
 
「おいおい。そんな驚くなよ。魔力の流れの方向性を反転しただけだぜ?」
「⋯⋯何言ってるか分からん」

 いやマジで。Uターンしてきたんなら分かるが、今のはそうではなかった。  
 ⋯⋯例えば、自分に撃たれた弾丸の向きを変えたとする。
 だが、そうした所でエネルギー自体の方向性は変わらないので、弾丸はそのまま直進する⋯⋯らしい。
 飛拳だって同じだ。受け流したのならばまだ分かるが、真逆に帰ってくるとは一体⋯⋯?
 
「──んま、折角だ。ついでに教えておいてやる。
 魔力が一定方向に進んでいる場合、当然だがそれには方向性があるワケだ。 
 そんでもって、真っ直ぐと向かってくるソレの“芯”をブッ叩くと⋯⋯
 さて、どうなると思う?」
 「⋯⋯さぁ?」

 首を傾げる俺に、アインは図を描き出す。
 いくつかの並んだ矢印に向かって、反対方向から大きな矢印が進んでいる様なものだ。
 そしてその大きな矢印は、複数の矢印の先端の中央に書かれた「芯」という箇所に命中。
 後ろへ押し出された「芯」に吊られる形で、複数の矢印が進行方向を逆転させた。

「──こう、だ。“芯”をピンポイントで、尚且つ一定の力で叩く。強すぎちゃあ、掻き消しちまうからな。
 イ~イ感じの具合で叩きゃあ、“芯”が進行方向の後ろへ押し出される。
 そんでもって、その周囲の魔力はソレに巻き込まれて方向を反転させるってワケだ。
 ⋯⋯まぁ、普通に防いだり躱した方が手っ取り早いし、コレはちょっとした遊び心ってヤツだぜ」
「⋯⋯やっぱり、アンタが何言ってんのか分かんねぇ」

 魔力の“芯”だなんて、そんな概念があんのかよ。
 考えた事も無かったが⋯⋯いいな、勉強になったぜ。

──ズダンッッ!!

 強く、大地を踏み締める。
 締める音さえ聞こえる程に、拳を強く握る。
 魔力を、ありったけの魔力を右拳に凝縮した。

「ハハハッ!! いいねぇ!! 大好きだぜ、お前のそういうトコ!!」

 歓喜を表情に、アインは大きく笑う。
 どうやら、“俺の思惑”を理解してくれた様だ。
 今のやり取りで、『飛連拳』が通用しない事は分かった。
 だから、やめる。手数に頼るのは、もういい。
 その代わり──

「全力で行く⋯⋯!!」
「あァ、避けぁしねぇ!! 思いっ切り来やがれッ!」

 ──『飛穿拳(ひせんけん)』。
 金翔竜を葬った、一撃に特化した飛拳だ。
 蒼炎の完全会得により、その威力は格段に上がっている筈。
 アインの“芯”を捉える技術に、飛穿拳が通用するか。試さずには居られないぜ⋯⋯!!

「づあぁーーッ!!」
「⋯⋯!?」
  
 放たれた一撃に、僅かだがアインが表情を変える。
 ──それが、俺が最後まで見ていた光景だった。
 全力で気張ったあまり、目を閉じてしまったからだ。
 だが、しっかりと感じた。
 全身を叩く突風。聞こえてくる轟音。地面が焦げた匂い。舞い上がり、口に入ってきた砂の味⋯⋯って、

「ペッ! ペッ! ⋯⋯おッ!?」

 砂のマズさを感じつつ、右腕の違和感に覚える。
 あの時と同じだ。初めてティガに飛拳を見せた時の“アレ”。
 技の威力に、肉体が──
(いや、耐えられるッ。今なら⋯⋯!!)
 全身を巡る激痛をグッと堪え、俺は目を勢いよく開く。
 刹那。入ってきた目の前の光景に、俺は絶句した。

「ホントにスゲェ奴だぜ、お前は」

 アインは、優しい笑みを浮かべる。
 彼が目の前に張った結界には、微細ではあるが亀裂が生じていた。
 多分だが、飛穿拳の“芯”を捉える事が出来ず、アインは仕方無く結界を張った。
 だが、想定よりも威力が高くヒビが入った⋯⋯といった所だろう。つまりは⋯⋯

「──俺の予測を超えた技だった。よくやったな」
「⋯⋯は、ハハッ」

 思いもよらない成果に、思わず笑ってしまう。
 喜びに打ち震える俺に、アインはゆっくりと歩み寄って来た。

「仕上げは完了だ。蒼炎を完全にモノに出来た様だしな」
「あぁ。⋯⋯付き合ってくれてありがとう、アイン」
「んやァ。俺が好きでやった事だ、気にすんなよ。
 さぁ、回復がてら、今後の課題とでも向き合うとするか」
 
 俺に回復魔法を掛けつつ、アインは胡座をかく。
 ⋯⋯不思議な感じだ。治されているから、明確に傷はあるのだと分かるのだが、疲労が極めて薄い。 
 これくらいなら、人間の身体で縄跳び100回やった方がまだ辛いぜ。

「──早速だが、一番肝心な事から話そうぜ。
 お前、戦闘中の俺を見てて何を思った? 何を感じた?」
「⋯⋯ヘッ。馬鹿にすんなよ、アイン。
 戦闘を始める前、アンタは“魔力の循環”の話をしていた。
 それを、俺に実際に体感させたかったんだろ?」
「ほう⋯⋯?」

 ⋯⋯まぁ一応、気付いてはいた。
 戦闘開始時に、アインは一定量の魔力を纏った。
 そして、スタートから終了までその分の魔力だけで戦闘を行っていた。
 技術や経験による魔力のやり繰りの上手さは、勿論あったのだろう。だが、それ以上に──

「アンタの魔力が減らない事に疑問があったんだ。
 そこで魔力感知に意識を向けてみたら、発散した魔力がずっとアンタの身体の周囲に留まっていた。
 そしてその魔力は、再びアンタの纏った魔力へと戻る動きを見せていて⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。⋯⋯ほほう」
「何とか真似出来ないかと努力してたんだが⋯⋯まぁ残念ながら、な」
「いや、そこまで理解できてんなら上出来だ。
 今後の目標である“魔力の循環”が、一気に近付いたぜ」
 
 俺の肩に腕を回し、アインが俺を揺らす。
 上機嫌な彼に、俺は褒められた嬉しさを隠しながら笑った──⋯
  


 
 ⋯──この日、魔王城付近では奇妙な現象が発生した。
 空に向かって、蒼い拳の様な光が放たれ、数kmに渡って雲を掻き分けたのである。
 まるで、天空が割れたかの様な“その現象”だが、実は偶然 目撃していた冒険者がいる。
 当人としては、腕試しのつもりで魔王の領域にまで足を運んだ訳だが、彼は“その現象”を一目見て即座に帰還。
 後に、目撃した事を仲間に語った。それはもう語りに語りまくった。
 そして、それを聞き付けたギルドの職員を初め、数多の学者に同じ話をさせられる事にもなった。

 最終的に「魔王、若しくは魔王幹部の仕業である」と結論付けられたが、実際は違う。
 だが、真実は誰しもが思い至らない事なので、そうなるのは必然で、当然で、当たり前である。

 グレイドラゴンの、それも生後1年にも満たない幼体。
 それが、今回の事態の原因であったとは──
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