猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第144話・暗黒

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 空を見上げながら、俺は周囲を見渡す。
 右側には、口をへの字にするギルルが。視界の下の端には、幼女の白髪と緑の光が見える。
 俺が軽く溜息を付くと、それに気付いたのかギルルが顔を覗き込んできた。

「も~ごめんて~」
「いいって。大丈夫だから」

 地面に仰向けになりながら、ギルルに片手を軽く挙げる。
 もう一方の手で自身の脚を撫でつつ、俺は首を上げて下半身へと目をやった。
 ⋯⋯うむ。どうやら、状態まで回復した様だ。

「──全く。やり過ぎだよ、ギルル」
「いやぁ、ちょっとムキになっちゃた。ホントにごめ~ん」
「ちゃんと反省してるの? もう」

 ギルルを小突き、幼女は腕を組む。
 俺への回復魔法を止めたという事は、完全に治ったと解釈してもいいだろう。
 どれ、物は試しだ。まずは立ち上がってみようか。

「あぁっ。ゆっくりね、ゆっくり」
「大丈夫だって。ホラ、もう⋯⋯」

 ピョンピョンと跳ね、幼女に無事をアピールする。
 まぁそりゃあ、訳だし、心配する気持ちも分かるが⋯⋯
 俺だってヤワじゃないしな。老人みたいな扱いは困るぜ。

「⋯⋯なぁ、ギルルぅ」
「ん~? なぁに?」
「どうだった? 俺の蹴りは」
「んー⋯。まぁ、ビックリしたかな? 意外だったというか」

 そうかぁ。そうだよなぁ。
 あれだけ工夫した技だし、やっぱ褒めて欲しいよなぁ。
 ⋯⋯まぁとはいえ、結局命中はしてないんだけども。




「⋯──あはっ♪」

 俺の前蹴りが迫るあの瞬間、ギルルは大きく笑った。
 とても愉快そうな表情で、彼は片手を俺の脚へと向ける。
 そして、直後に俺の下半身が全て吹き飛んだ。
 だが、俺がその事実を知ったのは、幼女に話を聞かされてからだ。
 下半身が消えた感覚も、ギルルが放ったであろう攻撃も、俺はまるで何も認識していなかった。
 ⋯⋯いや。認識できなかった、というのが正解か。
 魔力切れ寸前で、意識を保つのもギリギリだった事もある。
 しかし、それ以上に、ギルルの行動が早過ぎたんだ。
 例え、あの時の俺が万全の状態だったとしても、同じ結果だった筈だ。
 『ギルルに勝てなかった』。その結果は──⋯




「まさか、蹴りが来るとはねー。わ!? って感じだったよ。
 ⋯⋯あっ、直前のアレもよかったね。火の棘みたいなヤツ。
 フツーの棘と思いきや爆発する棘。からの、またフツーの棘とはねぇ。
 流石の僕も、あのタイミングなら爆発する棘が来ると思っちゃったよ」
「あぁ。その場の思い付きとはいえ、自分でも悪く無いと思ってるぜ。
 ただの小技かと思えば、厄介な効果が付いている。だが、その効果だけに意識を向けていると、それもまた隙に繋がる⋯⋯ってな」
「でもまぁ! 僕には通用しないけどね!!」
「いちいち言うなよ⋯⋯。これでも、かなり落ち込んでんだ」

 あーあ、マジでマジで。
 あの状況、絶っ対に当たると思ってたんだけどなー。
 出力全開の炎輪形態と新技の数々を持ってして、ギルルには全く通用が⋯⋯
 いや。そもそもあの戦いは、未だ不安定の炎輪形態と実戦で未使用だった新技を慣らす為に行ったもの。
 色んな技が初使用であった事を考えるなら、今後の扱い方について反省をするべきか。
 ⋯⋯うん。クヨクヨしてたって成長しないぞ、俺。

「あーっ、クソーっ、まだまだ強くなるかー!!」
「え~⋯もういいよ~。僕が疲れちゃうから」
「フフフ♪ まぁ、そう言わずに。最後まで付き合ってあげてよ、ギルル」
「も~⋯⋯。後で美味しいものちょーだいね?」
「うん! このアリアおねーさんにまっかせなさい!」

 ポムンと胸を叩き、幼女は鼻を鳴らす。
 相も変わらず、ギルルは美味しい食べ物に目が無い様だ。
 今度、街に出る機会でもあれば、何か買って帰ろうかな?
 ⋯⋯あ、いや。そう云えば、俺の金って王都クローネに置き去りの状態だったか。残念。

「──まぁ、それはそれとして。紅志に伝えておく事がある」
「伝えておく事? 良い知らせか?」
「いいや、悪い知らせ。──オーガに、新たな動きがあったんだ」
「新たな動き⋯⋯?」
 
 話を聞くと、黒異種“以外”の戦力を投入して来たとの事。
 それはつまり、“転生者”の参戦を意味する事になる。
 転生者は、アリア側とオーガ側にそれぞれ分かれている話は知っていたが、遂にか⋯⋯
 人間と人間の争い。戦争が始まってしまった事実は、心苦しいものがあるぜ。 
 話し合いで解決して欲しいというのは、俺だけの願いでは無い筈だが⋯⋯。

「前にも言った通り、オーガ側の転生者は洗脳をされている。
 だけど、その内容は“アルノヴィアと魔王に敵意を持つ”っていう、意識に働きかけるモノだ。
 だから、“それ以外”に被害をもたらす様な人は、本人の性格にもよるけど、基本的には無い」
「⋯⋯とは言っても、幼女や魔王に敵対するんなら、それの仲間達にも敵意が生まれるんじゃないか?」
「うん。だから──。⋯⋯こんな事はしたくないんだけど、“選別”をしようと思ってるんだ。
 オーガ側の転生者との戦闘が発生した場合、可能なら拘束して、無理なら一度⋯⋯その、亡くなってもらう。
 で、フィリップの奪還後、他の人々と同様に生き返らせる処置を取る。⋯⋯けど、何か罪を犯しているなら、その内容と大きさに応じて⋯⋯」
「償える罪なら、ちゃんと償わせる。それすら無理なら、俺らの宇宙での人生は諦めたもらう⋯⋯か?」

 コクリと頷き、幼女は溜息を零す。
 本当は、“選別”といった事もしたくは無いのだろう。
 だが、俺としては必要な事だと思う。“赦されない罪は無い”なんて言葉はあるが、実際はそんな訳が無いんだ。
 幼女の言った通り、オーガ側の転生者は基本的には人に迷惑を掛けない連中の筈。
 つまり、人々に被害を及ぼしている奴らは、元から破壊行為や迷惑行為への罪悪感が欠如している連中だ。
 若しくは、以前に白厳が言っていた“恵まれた力に溺れた者”であるか⋯⋯。
 まぁどの道、救いようのない人間というやつだ。
 俺だって聖人君子じゃない。私利私欲の為に他人に犠牲を強いる奴は、それ相応の罰を与えられるべきさ。

「別に細かい事はいいじゃん。皆殺し皆殺し」
「ギルル⋯⋯。貴方にも戦線に出てもらうつもりだけど、そこまで悪く無い人は殺しちゃダメだからね?」
「そんなの見た目じゃ判断できなぁーい。ぶっ殺すー」
「質・疑・応・答! 会話を用いて判断しなさい!」

 ブーブーと頬を膨らませるギルルに、幼女はその頬をつねる。
 子どもっぽい遣り取りだが、内容は凄まじく物騒だな。
 ⋯⋯やれやれ。ギルルには勝てなかったし、オーガは新手を寄越すし、前途多難だぜ全く。

「──あ、そうだ。ついでにもう1つ話がある」
「先に言っとくが、悪い話なら間に合ってるぞ」
「まぁ、一応は悪く無いかな? 単に、オーガの呼び名が増えたってだけで」
「ボケ老人か?」
「ザコジジイじゃない?」
「違う。──無数の黒い存在を操り、そして本人の意思や目的すら真っ黒である。⋯⋯と、そこら辺を含めて、人類は彼をこう読んでるらしいんだ」

 一呼吸置いて、幼女はゆっくりと口を開いた。



「暗黒神、と」
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