猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第143話・もう一つ、あと一つ

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 ──3つの新技を開発した翌々日。
 俺は、久し振りにギルルとの鍛錬に臨んでいた。
 最近は、炎輪形態や範囲攻撃のビーム、搦手(からめて)のプチ炎槍と、色んな能力を一気に身に付けたからな。
 実戦でも支障なく使用出来る様に、技を身体に馴染ませておこうと考えた訳だ。

「もー、ズルいー。そのメラメラした姿やめてー」
「ヒトの攻撃をヒョイヒョイ躱す奴の台詞か? ソレが」

 “炎装”を使用しつつ、ギルルと並走する。
 互いに接近しては、殴り、殴られ。防ぎ、防がれ。躱し、躱され⋯⋯。一撃のみの攻防を、繰り返し行う。
 走りながら幾度も左右を入れ替わり、揃って突き出した拳が衝突した事で、ようやく互いが停止するに至った。

「もうすぐ当たっちゃうー。痛いのやだー」
「ハッ。どうせ当たってもビクともしないクセに──よッ!」

 言い終えると同時に、ビームを打ち出す。
 扇状に広がる紅い閃光は、炎装形態での発射によって凄まじい勢いでギルルへと迫った。
 『ひえー』と棒読みな悲鳴を上げつつ、ビームの左サイドへと上半身だけ倒すギルル。
 直後に、ビームは彼の上半身があった空間を素通りした。
 無論、読み通りの展開である。
 ギルルを相手に、こんな大雑把な攻撃が当たる筈も無い。
 ⋯⋯いや。相手がギルルでなくとも、結果は同じだな。
 攻撃範囲こそ広いが、発射までの魔力チャージも発射の速度自体も遅い技だ。余程の隙が無ければ、掠めるのだって困難だろう。
 だが、当たるにしろ当たらないにしろ、攻撃範囲が広い事は此方の有利に働きやすい──。

「っ。」

 クン、と。俺は右手の人差し指と中指を振る。
 俺の思惑を察知したのか、ギルルは上空へと飛び跳ねた。
 ⋯⋯くそう、やはり魔王幹部。一筋縄ではいかないらしい。
 範囲の広いビームに隠れる様、ギルルが回避した反対側からプチ炎槍を撃ってみたが⋯⋯。
 チッ、自分のビームが邪魔でギルルの姿が確認できないな。
 上に回避したのは、俺の攻撃を逆手に取る為だったか。

「ツンツン。僕の勝──」
「せいッ!」

 背後から肩を叩くギルルへ、即座に後脚を突き出す。
 素早く後ろ蹴りを回避したギルルに、ビームを止めた俺は右手を僅かに動かした。
 揃えた人差し指と中指。──それとは別で、親指。
 それぞれの指でプチ炎槍を操作し、ギルルヘ追撃を図る。
 俺の後方から飛び出した2のプチ炎槍は、ギルルに高速で向かって行った。

「んもうっ」

 その場で立ったまま、ギルルは炎槍を回避し続ける。
 周囲を飛び交う炎槍に、もの凄く鬱陶しそうな表情を浮かべるギルルだが⋯⋯
 華麗に躱してはいるものの、どうやらこの炎槍の本当の性能には気付いていない様子だ。実に好都合である。

「これウザい!」

 痺れを切らし、ギルルは炎槍を叩き落とす。
 1本目が地面に墜落するより早く、彼は2本目も撃墜した。
 そして、不服そうに此方へと視線を戻す──よりも早く、俺は自分のやや上空から“3本目”をギルルに放った。
 小細工無しで、真っ直ぐと。
 
「もうっ、まだあるの?」
 
 ギルルの右手が、最後の1本を弾く為に動く。
 それと同時に、俺は思わず口角を上げた。

 ──のは、炎槍を打ち出した瞬間だ。
 初めから、2本の炎槍には炸裂効果を付けずに発射した。
 残りの1本だけには、前にアインに言われた通り 時限式の炸裂効果を付与。
 人差し指と中指で2本の囮を操作しつつ、親指で“本命”の1本を上空にて維持していた。
 そして、それが炸裂する直前まで残しておいた上で、囮の炎槍2本で“これは単なる小技”とギルルに認識させておく。
 “ただの魔力の塊だ”。“さっきと同様に弾けばいい”。
 そう考えさせ、技への警戒を可能な限り下げておいてからの、“本命の1本”を⋯⋯ッ!!

「ん? なにコレ?」

──バァァァァンッッ!!

 爆音と眩い光が、ギルルの真正面で炸裂する。
 その瞬間に、俺は全身全霊で地面を蹴っ飛ばした。
 僅かしかないのだ。突然の出来事とはいえ、生物の身体と意識が硬直している時間は。
 ましてや今回の相手は、魔王幹部と呼ばれる程の存在。
 出し惜しみや、何かを懸念している暇など無い。

「はああッ!」

 炎槍の余波。立ち込める黒煙の正面に、左脚で踏み込む。
 腰を右に大きく捻り、渾身の力で右拳を突き出した。
 思い切り力を込めたあまり、魔力が拳に集中して⋯⋯
 ⋯⋯ん? なんだ? 。てっきり、飛拳みたいな感じになると思っ──

「うへー、危なかったー」
「あ、」

 ガッシリと掴まれる感触が、右腕に現れる。
 黒煙が晴れると、案の定 ギルルが俺の右手首を鷲掴みにしている姿があった。
 ぐぬぬ。確かに、炎槍が炸裂する直前、訝(いぶか)しむ表情を浮かべた様に見えたが、対応されるとは⋯⋯

「ふぬーっ」
「く⋯⋯」
 
 ギルルが、俺の手首に掛ける力を強める。
 ギシギシと骨が軋む音が聴こえるし、このままへし折られるのも時間の問題といった所か。
 こうなっては仕方が無い。未だ不安定だし、なんなら戦闘中に何秒維持出来るかも不明だが⋯⋯
 腕を折られては、戦闘の続行も難しくなるだろう。
 背に腹はかえられぬってやつだ。ここは1つ、ギアを上げるとしよう。

──ゴウッ!!

 全身の蒼炎が、更に大きく燃え上がる。
 轟音を響かせ、肩甲骨辺りから二つの蒼い火柱が立ち昇る。
 その火柱の頂点。炎の畝(うね)りの先端は、ぐるりと廻って背中の腰にそれぞれ向かう。
 身体から離れ、そして帰還した蒼色の火柱は、輪を描く姿が最終形となった。

「え? なにそれ、聞いてない」
「そりゃあ、俺だって他人に見せんのは初めてだからな」

 ──炎装改め、炎輪形態。
 歌舞伎の仁王襷(におうだすき)を彷彿とさせるこの形態の真価は、発散する魔力の再吸収。つまり、“魔力の循環”である。
 一見すると荒々しい姿だが、性能自体は使用する魔力の拡張を主としている。言うなれば、省エネ形態だ。
 
「⋯⋯先に言っとくが、俺はこの形態にまだ慣れてない。
 派手に動きながらの維持も、10分以上は持たないと思う。
 だから、現状での使い道は一つ──」

 深呼吸をして、ゆっくりと構えを作る。
 左脚を大きく後ろに下げ、右脚は強く踏み込む。
 抉る勢いで大地を左手で掴み、鉄塊の如く固めた右拳を後ろへと引いた。

「⋯⋯あ、そういうコト?」
「あぁ。維持が続かなくなるまでに、“全燃焼”する。それが、俺が考えた炎輪形態ただ一つの使い道だ」

 省エネ形態、まさかの脳筋使用だ。
 消耗を抑えれるからこそ、雑に 派手に 大胆に魔力を使う。
 ⋯⋯へへ。男なら、やはり後先考えずに行動だぜッ!
 
「え~⋯。こーゆー時って、ティガとかアインヘルムの出番じゃない?」
「そんな事言ってもなぁ。『お前に1発当てる』ってのが、この鍛錬の目標だし。
 ⋯⋯。それに、そもそも俺は高望みしないタイプなんだよ」
「え? それって、僕がアイツらより低い奴って言ってる?
 僕の事バカにしてるの? 怒ってもいい? ねぇ」

 ズンッ! と、ギルルが威圧を放つ。
 まぁ本人としては、ちょっとムッとした程度なのだろう。
 実際、放った台詞とは違って、いつもと同じ表情だし。
 というか、あんなのが本気で威圧してきたら、俺は失神してるだろうしな。

「バカにはしてない。⋯⋯けど、ティガやアインよりはマシだと思ってる」
「あーっ、カッチーン。はい、ヤっちゃうね」
「お手柔らか頼む⋯⋯ぜッ!!」

 スタートダッシュを決め、ギルルに突撃する。
 挑発する気は無かった、とは言わない。寧ろ、あった。

「ふんっ!」
「ぐ⋯⋯」

 俺の右ストレートを、ギルルは肘打ちで迎撃する。
 魔王幹部が少々気合いを入れただけの打撃は、俺の右拳を完全に粉砕した。
 血は大量に繁吹(しぶ)いて、亀裂の入った骨や砕けた骨まで見事に露出。肉も剥がれたのが垂れ下がっていて⋯⋯
 グロデスクな見た目に違わず、激痛が腕を駆け巡っている。
 だが、そんな事態にも関わらず、俺は牙を出して笑っていた。

「なに笑ってんの?」
「色々⋯⋯思う事がな」

 ギルルに問われ、俺は笑みを少しづつ抑える。
 ここ最近の俺は、ずーーっと自己鍛錬かアインとの勉強会でマトモに⋯⋯
 いや。そもそも魔王城に来てからは、ロクに戦いをしていなかった。
 名目上、“戦いと呼ばれる行為”をした日もあったかもしれないさ。例えば金翔竜の時とかな。
 ただ、基本的には蹂躙に次ぐ蹂躙、虐待に次ぐ虐待って感じだったワケだ。
 そうなった時に、今の、このシュチュエーション──。
 ⋯⋯はは。全然、らしいじゃないか。こんなに戦いらしい事をするのは、久し振りだ。
 全身全霊のありったけ。本気の全力ぶつかってゆける至福。
 ⋯⋯堪らないぜ。

「──30秒。それで、俺は全部を使い切る。だから⋯⋯」
 
 言葉の続きは、出てこない。
 だって、俺はギルルに何かをして欲しい訳ではないから。
 ただ俺は、俺自身の欲求の為に、やりたい事をやりたい。
 だから、誰かに投げ掛ける言葉なんて、必要無いんだ。

「ッッガルオォアァァァァァァァ──ッッッッ!!!」

 全力咆哮。蒼炎爆裂。
 そして、俺はギルルへと殴り掛かった。
 既に治した右拳を突き出すと同時に、同じく右側から尻尾での殴打を繰り出す。
 右サイドからの同時攻撃に対し、ギルルはまず俺の右拳を首を傾げて躱した。
 続く尻尾は、素早く踏み付けて地面に固定。俺の更なる行動を制限した様だ。

 ──残り28秒──
 
 軽く跳ね、空中で身体を真横に倒しながら捩(よじ)る。
 言うなれば、トリプルアクセルの真横verである。
 回転の勢いで尻尾を引き抜き、ついでに抜けた時の慣性を利用して再度尻尾を打ち込んだ。

 ──残り25秒──

 『うわ』と声を漏らしつつ、ギルルは横に逸れる。
 直後に尻尾が振り下ろされたその地点は、大きな斬撃の跡の様な割れ方をしていた。
 だが、既にギルルしか見えていない俺に、周囲の状況を把握する余力は無く──。
 重力に身を任せた着地の遅さに苛立ちを覚えつつ、俺はつま先が地面に触れると同時に動き始めた。
 次の攻撃を。次の次の攻撃を。と、ただ只管(ひたすら)に意識を攻撃に向ける事だけに、俺は全神経を使っていた。

 ──残り22秒──

 次なる一手は、少々特別なモノになる。
 ごく僅かな知性で、俺はそう考えた。
 “それ”は、アインとの新技開発で、最後に披露した技だ。
 そしてその技の発端となったのは、俺が蒼炎を身に付けた日の、アインとの手合わせである。
 俺が放った飛拳に対して、アインもまた飛拳を放った。
 力量差によって俺の飛拳が打ち消され、アインの飛拳はそのまま俺に向かってきて⋯⋯

「──フッ」
「ん?」

 僅かに零れた笑みに、ギルルが気付く。
 俺は“思惑”に気付かれない様に、即座に至近距離での打撃戦へと持ち込んだ。即ち、インファイトである。

 ──残り19秒──

 インファイト。
 読んで字のごとく、相手の懐に飛び込む戦法だ。
 そして、俺の場合。加えて、今回の場合。
 この戦法は、極めて効果を発揮すると云える。
 まず、俺のグレイドラゴンとしての身体的特徴。
 姿勢が人間でいう猫背、つまり前屈みになっている。

「ちょ、グイグイ来すぎー」
「ハッ! まだまだだぜ!」

 反撃を喰らいつつ、強引に前進する。
 流石のギルルも被弾こそしていないが、俺の攻撃を受け流しつつも少しづつ後退し始めた。

 ──残り15秒──

 グレイドラゴンの身体的特徴は、他にもある。
 強靭な筋肉が備わる 種としての特筆すべき点の一つ、脚だ。
 陸上で活動する為に必要な走力。それが、一目で優秀だと知らしめる部位である。
 人間や、魔族の様な人型の生物からすれば、かなり短めに見えるであろう、グレイドラゴンの脚⋯⋯
 
「ん~もうっ!」

 一歩分、ギルルが前に出る。
 俺は、大きく口角を上げた。“条件”が揃ったからである。
 “グレイドラゴンは基本前屈み状態”。“グレイドラゴンは脚が短い”。──そして、“インファイト”。これらを複合するとどうなるか?
 簡単である。“俺の脚への警戒が疎かになる”だ。
 ただでさえ短く、視点の高さの違いでギルルからは見えずらいであろう俺の脚。
 加えて、インファイトによって、今は拳や肘での打撃のみで遣り取りをしている状況。
 まさか、思ってもいないだろう。
 俺の様な相手から、“蹴り”が放たれる可能性など。
 
「⋯⋯残り、10秒」
「それが何──」

 ギルルが言い終える刹那、俺は尻尾を振り上げる。
 直後。思い切り地面へと叩き付け、その勢いを利用して上半身を大きく後方へ逸らした。
 以前のアインとの手合わせで、アインの飛拳を回避する為に咄嗟に考案した尻尾と身体の動かし方だ。
 そして2日前の新技開発にて、その動きを元に作り出したのが、この技。
 上半身を逸らす動きに合わせて脚を前に出し、膝を一気に伸ばす事で前蹴りを放つ技である。

「う、」

 目を見開き、回避に移ろうとするギルル。
 成程、察知が早い。⋯⋯が、もう手遅れだぜ。
 
 ──残り7秒──

 左指を、クイと動かす。
 一本の小さな炎槍が、俺の背後から飛び出した。
 ギルルの顔面へと向かうソレに、本人は苦しげな表情を浮かべる。
 炎槍を先に対処しようとしたのか、ギルルは手を大きく振り上げた。
 “完全に掻き消してしまえば、光も音も問題無い”。といった所だろうか。

 ──残り3秒──

 手を振り下ろすギルルに合わせ、俺は炎槍を停止させる。
 彼の手が空を切ったのを確認した俺は、即座に炎槍を再発進させる。
 仕方無く、といった様子で目を瞑るギルルだが、その対応が間違いだと気付くのは何秒後かな?
 なんせ、この炎槍に炸裂効果は付与していない。
 大切なのは、“意識にを作り出す事”だ。
 別に、その隙間が驚愕や混乱でなくたって、僅かに動揺さえしてくれればそれでいい。

 ──残り1秒──

 魔力が切れかかる、その刹那、

 ──残り0.5秒──
 
 俺は、ただ目一杯に、右脚を突き出したのだった。
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