猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第142話・新技開発【弾】

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 尻尾を、大きく畝(う)ねらせる。
 思い切り筋肉を引き伸ばし、とぐろを巻く様に動かす。
 ギギギ⋯⋯と、筋肉を伸ばす音が聞こえる程まで。そして、俺自身が痛みを感じるまで、尻尾を収縮させた。
 今にも千切れそうな程、弾性エネルギーが溜まった尻尾。
 その先端の僅か数ミリの箇所に、高圧縮した魔力を集中させる。──そして、起爆。
 瞬時に尻尾から力を抜き、溜めていた莫大なエネルギーを一気に解放。
 尻尾は、巻いたとぐろの逆方向に大きく回転を始める。
 一周し、二週し⋯⋯。最後の半周に尻尾が差し掛かったタイミングで、同時に俺は踏み込んだ。
 回転に合わせる様に。尻尾の先端へ遠心力がより強力に掛かる様に、全身を捻る。
 要領は──そう。鞭を、強靭な鞭を全力で振るうのと同じ様に⋯⋯ッ!!

──ッタアァァァァァンンッッッ!!

 甲高い破裂音が響き、直後に突風が発生する。
 “ソニックブーム”と呼ばれる、物体が音の壁を破った時に発生する現象である。
 広範囲に円形の衝撃波を齎(もたら)したソレに、俺は思わず驚愕で目を見開く。
 全身を突風が叩いた事に気付いたのは、次にアインに話し掛けられてからであった。
 
「──ほほう? 尻尾を極限まで収縮させ、それを解放するエネルギーで魔力の弾丸を撃ち出したのか」
「あ、あぁ。自分でも、ここまで強く撃ち出せるとは思っていなかったけどな⋯⋯
 それで、どうなった? 俺が発射した魔力弾の行方は?」
「なにィ? 自分で撃っといて見えねぇのかよ? 全くしょうがねぇ奴だな⋯⋯」

 ぽりぽりと頭を掻きつつ、アインは目を細める。
 太陽の光を遮る様に手のひらで顔を覆い、遠くを見つめるアイン。
 数秒してから『おっ』と声を漏らした彼は、俺に振り返って何度か頷いた。

「──超長距離の攻撃手段としちゃあ、まぁまぁだな。
 お前の魔力弾は、丁度 地平線の辺りで消滅したらしい。
 まで散らせてりゃあ文句無しだったが⋯⋯まぁ、良しとするぜ」
「そうか、それなら良かった。たった一発なのに、尻尾がもう痛てぇのなんの⋯⋯」
「ハッ。その程度は我慢できる様になんなきゃダメだな。
 超長距離攻撃の優れた点は、“相手の射程外”から“超高速”での“一撃必殺”を撃てる事だ。
 ンまぁ、今のお前じゃそこまでの威力はまだ出せないが⋯⋯
 それでも、いずれは一発で相手を殺れる技だと思えば、多少の痛みぐれぇどうって事ねぇだろ?」
「そう聞くと、まぁそうだな⋯⋯っと」

 尻尾を摩りながら、腰を降ろす。
 ギチギチとした痛みが続いているが、アインの言う通り 威力の期待値を考えれば我慢すべきか。
 ⋯⋯いやぁしかし、アインが理想とする合格点が『地平線の先の雲を散らす』とは。
 地平線の更にその先まで到達するって事は、重力を振り切れる速度が必要って訳だろ?
 第一だが第二だかの宇宙速度⋯⋯。そう、脱出速度と呼ばれるモノくらい俺だって知っているが⋯⋯
 人に求めるくらいなら、アインは当然可能なんだろうか。
 確かに魔族の実力は底知れないが、宇宙まで届く攻撃範囲を持っているとは少し信じられないな。

「──なぁ、アイン」
「あン? なんだ?」
「折角だし、手本が見たいなぁ~⋯⋯なんちゃって♡」
「おん、いいぜ。参考があった方が、鍛錬もやり易いしな」

 ⋯⋯えっ、軽いっ。
 そんな、いっちょやるか~的なノリで始められても⋯⋯
 あぁ、もうやる気なのね。もっとこう、カッコつけてやるぜ! みたいな雰囲気出すと思ってたけどな⋯⋯

「どうせなら、お前と同じ方がいいか」
「ん? 俺と同じって──」

 続きを言うより早く、アインに変化が現れる。
 全身から白い光を放ったかと思えば、その中でアインの影が大きく形を変えた。
 首が伸び、尻尾が生え、その全身はまるで──

「ほ、こんなモンだな」
「そんな事も出来んのかよ、魔王幹部ってのは」
「ん~? 誰でも出来るぞ、慣れりゃあな」

 光から現れたアインは、グレイドラゴンの姿で会話する。
 何気に初めての同族だが、目の当たりにした情報のせいで感動が薄いぜ。
 何だよ、魔物に変化するって。何だよ、誰でも出来るって。
 ⋯⋯つーか、同じグレイドラゴンなのに魔力の質が全然違うんだが?
 元が魔王幹部というのはあるが、同族でありながら明確に劣っているのって、オスとしての敗北感やべぇな。

「──肉体の年齢と使用する魔力はお前に合わせる。
 いいか。目ん玉ひん剥いてよォく見とけよ~?」
「お、おう。分かったぜ⋯⋯」

 肩を落とす俺を後目(しりめ)に、アインは構える。
 先程の俺と全く同じ動きで──。⋯⋯いや、なんか違うぞ?
 もっと腰を深く落としているし、尻尾の伸びが凄まじい。
 とぐろも四周程も巻けているし、アレなら尻尾の先端の加速に必要な距離も確保が──

「せいッ!」
「あ、」

 アインが、尻尾を振り抜く。
 それと同時に、俺の世界から音が消えた。
 比喩では無い。彼が放った一撃の衝撃音で、鼓膜が破れたのである。
 そして、俺が頭に響く金切り音に不快感を覚える頃。
 背中と後頭部に、鈍い痛みが発生している事に気が付いた。
 ──と。ここまでの事態を認識して、俺はようやく自分が吹き飛ばされた事を理解した。

「うーい、大丈夫か~?」
「あ⋯⋯う!? え!?」

 俺の負傷箇所を治しつつ、アインは此方に歩く。
 未だ耳鳴りの様な感覚があるが、それは俺の意識の果てに追いやられていた。
 手を振るアインの背景に、釘付けになっていたからだ。

「──まぁ、少なからずこの星の重力圏は飛び出したな。
 今のお前でも、改善を重ねりゃ同じ事が出来る筈だぜ」

 アインの台詞に、静かに息を飲む。
 いつの間にか鼓膜が治っていた事にも気付かず、俺は光景に前のめりになった。
 遠い筈の地平線。その先の雲に、円形の穴が空いている。
 アインの一撃が通過した事実を示すかの様に、その穴はゆっくりと広がり続けていた。

「どうだ、参考になったか?」
「な、なってたまるか⋯⋯」
「あぁン? 俺の実演に不満があるってのかよォ~??」

 バックチョークを決める様に、アインは俺に抱き着く。
 一瞬、締め上げられるのではと警戒した俺だったが、今回は免除された様だ。助かったぜ。

「⋯⋯はぁ。にしても、本当に魔力の差ってデカいんだなぁ」
「ば~か。さっき言ったろ? 『使用する魔力はお前に合わせる』ってな。コレは、技術の差だぜっ」
「ドヤ顔で言うな。コッチの劣等感がヤバすぎるから」
「あァ? ドラゴンの表情筋でドヤ顔なんて出来てんのか?」
「この俺を見ろ。表情豊かだろ?」

 グダグダと駄弁(だべ)り、完全回復を持つ。
 まぁ大して傷も付いていないし、回復魔法を掛けられる必要もあんま無いんだが。
 くっちゃべるのは好きだし、こうしてリラックス出来んなら悪く無いぜ⋯⋯って、ん? なんだ?
 なんか、やたらアインが俺の顔を覗いてきてるが⋯⋯

「──お前って、雌か?」
「⋯⋯は? フツーに雄だよ、雄」
「ほぉん? なんか、イケるかもしれねぇ」
「え"っ」

 な、なんだって? 今、コイツなんてった?
 『イケる』⋯⋯? はて、ドコにいけるんだろうなぁ⋯⋯
 なんて、云ってる場合じゃあねえ!
 グレイドラゴンの俺って雌っぽいのか?! 前世での俺は中性的だったし、たまに女に間違われる事もあったが!
 もしかして、転生者って肉体が変わっても前世の姿の影響を受けるとか!?
 ⋯⋯はっ! そういえば、前に幼女の力で人の姿になった時も、前世の格好だった気がする!!
 ちょ、ちょ待てよ! いや、多様性は大事にしたいけども!
 
「ちょっと俺に身を委ねろよ~、エェ?」
「や、やめろ! アンタそんな趣味があったのか!?」
「グレイドラゴンの生態の調査だ。知的好奇心ってヤツだぜ」
「ひっ! 股間をケツに打ち付けるなバカっ!」
「ギャハハハハ!」

 揉み合いになり、2人で転げ回る。
 アナが無くて良かったぜ⋯⋯と言いたい所だが、この光景を誰かに見られたら死ぬ。
 こんな、犬の交尾みたいな──

「アインへルム⋯⋯」
「ハッ!?」
「おぉ、魔王サマ。いつからそこに」

 いつの間にか居たゼルは、俺達へ視線を送る。
 なんかもう、複雑そうな表情だが⋯⋯。コレ、俺まで誤解されてないだろうな?

「いや⋯⋯まぁ、そうだなぁ。好みはそれぞれだもんなぁ。
 ウン、邪魔した。俺の事は気にせず、存分に続けてくれ」
「ま、待ってくれ。待ってください、魔王ゼル様! これは、ちょっとした誤解でですね⋯⋯」

 その後、日が暮れるまでゼルに説明を繰り返した。
 隣のアインがずっとニヤニヤしてせいで、誤解が加速したのは言うまでも無いだろう。
 最終的に、『他の連中には言わないでおくから』と俺の肩を叩いたゼルの視線は、深く心に突き刺さったのだった。
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