猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第154話・滾る炎

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「あっ」

 ギルルが、僅かに声を漏らす。
 その眼前で交差する、俺とギルルの右腕。
 そして、彼の右腕に絡み付く俺の尻尾──。

──とんっ。

 軽やかな音を立て、俺の拳がギルルの頬に触れる。
 直後。湧き上がってくる歓喜と共に、俺は地面に大の字で倒れ込んだ。
 
「当てたあァァ──────ッッッ!!!」

 右拳を天に突き上げ、思い切り叫ぶ。
 遂に。遂にギルルヘ一発当てる事に成功したのだ。
 左腕が消し飛んだ激痛も、殆どの骨が砕けた苦痛も、全身に鮮明に残る痣の鈍痛も。
 何もかもが、余りに巨大過ぎた課題を突破した事実、その歓喜に打ち消された。

「えーっ。今の当たってたー?? ⋯⋯なんちゃって。
 凄いね、紅志。当たってあげる気は、全然無かったんだけどな~」

 珍しく、ギルルが褒めてくれた。
 胸を張って返事をしたかったが、凄まじい疲労と倦怠感によって上手く声が出せない。
 仕方が無いので、右腕をギルルへと掲げて笑顔を作る。
 思いを汲み取ってくれたのか、ニッと笑った彼が俺に手を差し伸べた。

「──やったね! 紅志!」

 その時、幼女が拍手をしながら現れる。
 ギルルに手を借りながら立ち上がると、彼女は俺の顔を腹に埋(うず)めて撫で回した。
 普段なら嫌がるトコだが、今は成長を褒められるのが最高に気分良いぜ。

「ほんっとうに! 君ってコは!」
「ね、ね、僕も頑張ったよ?」
「ギルルもお疲れ様! よしよしヨシヨシ!」
「えへへぇ」

 いやん、なにソレ尊い。
 さっきまで、ザ・魔王幹部みたいな雰囲気で戦ってたのに、人が変わり過ぎだろ。
 少年と少女の遣(や)り取りみたいで癒されるんだが? まぁ実際に片方はロリなんだけども。

「──ぶっちゃけると、今の君がギルルに一撃でも当てるのは不可能だと思ってたんだ。
 最低でも三ヶ月。長くて半年くらい鍛錬を積んで、ようやく本番。って流れを想定していたんだけど⋯⋯」
「いいや。ボロボロになって、最後の力を振り絞って、やっとの思いで当てたのが、跡にもならない一発だ。
 まだまだ鍛錬は足りないし、甘やかさないでくれ、幼女」
「⋯⋯ふふ、そっか。紅志らしいね」

 幼女は、俺の頬に手を当てる。
 それと同時に、全身の傷が一瞬にして回復。無くなっていた左腕さえ、いつの間にか再生していた。
 まるで母親の様に暖かな目で、幼女は優しく微笑む。
 ⋯⋯あ。なんか、不意に実際前世の母親を思い出しちゃったな。
 小さい頃、良い事をした時はこんな風に顔を撫でられたっけ。

「うおーん、オカーチャーン」
「えっ!! お母ちゃん!? 私が!?」

 動揺しつつ、どこか満更でも無さそうな幼女。
 それを見ていたギルルが『ママぁ~』と言って覆い被さった事で、その表情は満面の笑みへと変わった。
 少年の様に甘える俺達に、幼女は小さく唸り声を上げる。
 キュートアグレッションを起こしたらしい幼女だが、その様子で俺にも同じ現象が起きそうだぜ。

「ははっ。アホやってんな~俺達」
「ね~。僕もソレ思ってた~」
「いやもう、全ッ然良いよ~♪ カワイイ坊や達~!」
 
 団子状態のまま、幼女が俺とギルルを撫で回す。
 いや~ホント、こういうバカなコトしてる時が1番楽しいんだからなぁ。
 今日も、魔王城は平和だぜ。

 さて、閑話休題。
 ここらで、今後の俺がやるべき事を見直しておこう。
 最重要課題をクリアし、炎装の出力制御も順調で、ゼルに教わった技術も習得中。オーガに直接触れる手段も確率した、と。
 後は、まぁ今まで身に付けた能力・技術の洗練と、基礎身体能力の強化に重きを置くって所か。
 強いて云うなら、そろそろ回復能力も欲しくなってきた感じだな。
 毎度毎度 幼女やアインに治してもらって、流石に情けなさを覚えているし。

「──今日は私がご馳走作っちゃうよー♪」
「わーい!! アリアの料理好きー!!」
「⋯⋯⋯⋯。」

 盛り上がるギルル達を見て、少し無言になる。
 なんか、ふと、幸せそうだなと思った。
 微笑ましい遣り取りだとか、俺の成功を祝ってくれているんだとか、そういうのじゃない。
 ⋯⋯俺が難しく考え込むのは、弱者の立場にいるからだ。
 強者であれば、ゴチャゴチャした考えなんて持たなくても、幼女達みたいに生きられるんだろうなぁ。

「「──紅志!」」
「⋯⋯ん? なんだ?」
「なんか、」
「すごく、」
「「ニヤけてる!!」」

 ⋯⋯。あぁ、やっぱり。
 こういう時の俺は、いっつもそうだ。 
 とんでもなく強い奴と会った時、大きな壁にぶつかった時、自分の弱さを実感した時。──堪らなくなる。
 強くなりたくなる。壁を壊したくなる。強い奴を⋯⋯

「なぁ。アリア、ギルル」
「「??」」
「──いつか、絶対に越えてやるぜ」

 俺の台詞に、二人は笑う。
 愉快そうで、それでいて獰猛に。
 
 俺が、この星に生まれた日から。
 全ては決まっていたのかもしれない。

 焔。
 心で滾るそれが、俺の行く道を照らす事を。
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