猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

文字の大きさ
159 / 195
1章【暗黒討伐編】

第158話・意外な提案

しおりを挟む
「──ねー、お父さん早くー!」
「おう、分かった分かった。引っ張るな、紅志」
「お母さんもー!」
「はいはい。手、お父さんから離しちゃダメだからね?」
「はーい!!」

 5歳になった頃だったな。
 父と母と俺。家族3人で、新しく出来た遊園地に行ったの。
 真夏でめちゃくちゃ暑かったし、人の多さで蒸し上がる程の日だった。
 売店で買ってもらった、容器にキャラクターが印刷してあるフルーツサイダーが美味しかったのを覚えている。
 ⋯⋯あぁ。そういえば、結局はしゃぎすぎて迷子になったんだっけ?
 園の従業員に保護された後、大泣しながら待機所で座っていた気がする。
 俺を見つけた時の、酷く慌てた両親の顔⋯⋯。未だに忘れられないなぁ。

「──うい!! 紅志、遊ぼうぜ!!」
「佐々木、勝手に他人の部屋に入るなよ⋯⋯。不法侵入って知ってっか?」
「勝手じゃねぇよ? ちゃんとおめーの母ちゃんにOKもらったし」
「何してんだ母ちゃん」

 中学生になると、友人が頻繁に家に来る様になった。
 佐々木 和威かい。流石に面と向かっては言えないが、俺の中では⋯⋯まぁ親友ってやつだ。
 図々しいトコや、たまに面倒な事に付き合わされる時もあったが、アイツに振り回れた日々も今となっては良い思い出だ。
 ⋯⋯あ、そうだ。そういえば俺が死んだ日も、アイツと会ってたな。
 全く。いつもなら真っ直ぐ帰って、そのまま風呂入って飯を食って次の朝が迎えられてたってのに。
 なんやかんや、佐々木には最期まで振り回されちまったな。
 まぁぶっちゃけ、俺は今の世界で楽しくやれてるし、そういう意味では結果オーライな気もするけど。
 ⋯⋯いや、しっかしなぁ。なんで死んだんだっけか?
 確か、包丁で刺された⋯⋯んだっけ? 記憶が曖昧だ。
 強いて云うなら、なにか、どうしようも無い程に──。

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
 
 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 ⋯⋯ん? ちょっと待てよ?
 俺、今何してるんだったっけ?
 魔王城で鍛錬してたら⋯⋯えーと、オーガに見つかって⋯⋯
 で、幼女やグレンデル達と一緒に待ち構えてたら、オーガと4人の神将が現れて⋯⋯
 グレンデルが攻撃したけど効かなくて、それで⋯⋯
 
 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
 
 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
 
 ⋯⋯あ。⋯⋯あ! あ!!!
 ゼルが攻撃して⋯⋯!! あぁっ!! そうか!!

 これ走馬灯だわ!!!!

──キィ────⋯⋯ンンン──⋯!!

 真実を思い出すと同時に、耳鳴りの様な音に気が付く。
 一瞬遅れて、目の前で炸裂した黒紫の光にも意識が向いた。
 ようやく事態を飲み込めた俺だが、目の当たりにした光景に思わず絶句した。
 ゼルの攻撃が、攻撃だと認識出来ないのだ。
 グレンデルの魔力攻撃の様に感知不可であるのは無論だが、俺が云いたい事はそうでは無い。
 台風とか、地震とか、火山の噴火とか、若しくは隕石とか。
 自然的な大災害が、突如として発生した様な感じだ。
 もし、この瞬間の出来事を俺が語る日があるなら。その時の俺は、必ずこう言うだろう。

 ──世界が終わるかと思った──

  と。

「──生きてるか?」

 攻撃を終えたゼルが、振り返りざまに聞いてくる。
 黒紫に染まった空に姿を影らせる彼は、暗がりの中で紫瞳だけを妖しく輝かせていた。
 その様相は、まさに魔王と呼ばれるに相応しく──。
 いや若しくは、彼こそが神であるかの様な圧倒的な存在感を放っている。
 ⋯⋯敢えて付け加えるとすれば、神は神でも邪神や破壊神といった方面の神なのだが。

「相変わらず、ゼルは魔力の出力はとんでもないねぇ⋯⋯。
 流石の私も、今の攻撃を食らったら死んじゃうかも。久し振りにちょっとビビっちゃった」

 幼女が、らしくない事を言う。
 冗談の様にも聞こえる台詞だが、彼女の頬をつたる一筋の汗を見ると、本心から出た言葉なのだと理解出来た。
 そして、直後に俺は気が付く。
 俺を護っていた3重の結界が残り一枚になり、尚且つその一枚には亀裂が生じている事に。
 ドクンと心臓が跳ねる音がして、今の俺の命が紙一重で存在する事実に震え上がった。

「さて、どうなったかね」

 ゼルが、再び前を向いて言う。
 釣られる様に、黒紫が未だ晴れぬ空を俺も見上げた。
 魔王の攻撃の残滓ざんし。真っ黒な煙の様なそれが、静かにゆっくりと霧散してゆく。
 ──そして、全貌が明らかになった時。俺は再び絶句した。
 
「ぬ、うう⋯⋯!!」
 
 恐怖を顔に浮かべ、オーガは大きく目を見開く。
 以前のアリアとの戦闘と同様、突き付けられた絶対の“死”のイメージに怯える奴の姿があった。
 極限まで小さくなった瞳孔、歯を剥き出しにしたままの口、額を滑り落ちる大粒の冷や汗──。
 絶望というものを表情のみで表現するとしたら、あれが最適解かもしれない。そう思わせる程の有様だ。
 ⋯⋯が、しかし。今の俺の目は、その点には向いていない。

「──莫迦な⋯⋯。オーガ様と同じ能力が与えられていたアルマ達が⋯⋯!?」

 キャソック姿の神将が、周囲を見渡して驚愕する。
 当然だろう。無敵に思える能力があった筈の神将が、跡形も無く消え去っていたとなれば。
 だが、。俺はてっきり、神将達は全滅しているものと思っていた。
 結果からして、オーガと神将達の能力には性能に大きな差があるのは予測出来る。
 そしてその点に関しても、大した疑問が浮かぶ事ではない。
 ⋯⋯しかし、あの生き残った神将は一体なんなんだ?
 アルマ達とあの神将の間にも、能力の性能があったのか?

 ──いや、違う。

 やはり、俺が疑問に思った点はそこでは無い。
 肝心なのはあの神将自体では無く、ゼルが攻撃を放った際にオーガが見せた動きだ。
 俺も、一連の全てを目撃していた訳ではないのはあるが⋯⋯
 ただ、はっきりと言える事がある。
 ゼルが攻撃を放つ放つ直前、オーガがあの神将の正面に移動した様に見えた、という事についてだ。
 まるで⋯⋯そう。言い方を変えるなら、あの神将をオーガが“庇った”。そんな風に見えた気がした。

「⋯⋯オーガ様」
「セラフ、貴様は撤退しろ」
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯承知致しました」

 手短に会話をして、セラフと呼ばれた神将が光に包まれる。
 光が消えると、そこにはセラフの姿は無く、此方を無言で見下ろすオーガだけが残っていた。
 ゼルの攻撃への対応と、そして今のセラフへの台詞⋯⋯。
 オーガ。お前は、まさか⋯⋯

「オーガ、改めて聞かせてもらっていいかな」
「⋯⋯何じゃ?」
「私の提案。それを、ちゃんと聞いてくれるかどうかだよ。
 もしも聞く気がないなら、今すぐここで──」
「⋯⋯⋯⋯くっ」
 
 俺の洞察を他所よそに、幼女とオーガは話を進める。
 そういえば、幼女は初めから『提案がある』と言っていたが、どんな話をする気なのだろうか。
 
「──二週間!! 私も、私側の転生者達も、ゼル達も!!
 貴方と貴方の軍勢に対して、一切の干渉をしない!!」
「「「「「ッッ!!!?!?」」」」」

 ピッタリと、この場の全員の表情の動きが一致する。
 魔王ゼルだけが、やんちゃそうに大きく笑っているが⋯⋯
 何を言い出すかと思えば、無茶苦茶な提案をして幼女は何を企んでいるんだ??

「──ふむ、成程な。⋯⋯それで、儂に求める見返りは?」
「いやぁ、そんな大した事じゃないよ? “私達は何もしないから、貴方達も何もしないで”って話だ♪
 二週間後。お互いに万全の状態でやり合おうじゃないの」
「⋯⋯⋯何を言い出すかと思えば」
「貴方は決戦の準備がしたい。私は決戦の準備がしたい。
 この提案、お互いに利害は一致している筈だ。呑まない手は無いんじゃないの?」

 ふわり。幼女は空中に浮き上がる。
 オーガの目の前にまで近付いた彼女は、両手を腰に当てつつ胸を張って返答を待った。

「ふん。お人好しめ。貴様は何も成長しない愚か者じゃ。
 ここで要求を飲むふりをして、今後の貴様にとって最悪の瞬間で儂が裏切る事も──」
「しないね、絶対に」
「なに⋯⋯?」
「貴方は、優秀な部下を失ったばかり。そして、ゼルの強さを目の当たりにしたばかり。
 14日という時間を、一切の邪魔をされる事が無く、丸々戦力の増強に専念出来るんだ。
 わざわざ裏切るより、素直に私の提案を受けた方が圧倒的に利益になる。
 ⋯⋯貴方は、いつだって利益と損益を天秤に掛ける性格だ。
 ここで得られる利益を最大限に活かすのが、神であるオーガという男でしょ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ふん」

 オーガの表情が変わる。
 幼女の見透かした台詞に悔しさはあるが、それとは別に何か思う所がある様な⋯⋯。そんな感じだ。

「──いいじゃろう。貴様の提案、受けてやる」
「そう言うと思った♪」

 交渉成立、という訳らしい。
 地上に降りてきた幼女は、『やりぃ』とガッツポーズをして俺とゼルに笑顔を見せた。
 ティガやグレンデルは不服満々といった様子だが、ゼルが幼女を許した事で強く言えない様だ。

「⋯⋯アリア。5万年前から、お前は何も変わらないな。
 後悔しろ。お前の愚かな提案によって、この世は終焉を迎えるのだ」

 セラフと同様に、オーガの全身が光に包まれてゆく。
 眩い光による影のせいで上手く見えないが、僅かに口角が上がっている様にも⋯⋯

燗筒かんとう 紅志あかし!! アルノヴィアの意志に囚われた奴隷よ!! 
 貴様は思い知る事になるぞ!! その命の灯火が、誰の役にも立たずに燃え尽きる定めである事を!!」

 天空に、オーガの声が響き渡る。
 金色の光が一層強まった時、俺は思わず笑っていた。
 神に言い渡された運命。それを真正面から打ち砕いた日が、本当の意味で俺が生まれた日だと云えるだろう。
 ⋯⋯下らない運命なんか、俺の形に捻じ曲げてやるぜ。
 
「──上等だ! 俺の灯火を舐めんじゃねえ!」

 前に踏み出し、思い切り叫ぶ。
 ありがとう、オーガ。
 お前のお陰で、言いたい事が全部言えた。

「ひひっ」
「ハッ!! よく言ったァッ!!」
「紅志!! 今のお前、漢だぜ!!」
「⋯⋯⋯⋯。」

 ギルル、ティガ、アイン。──グレンデル。
 踏ん切りがついた。強い仲間がいる。時間は出来た。
 負ける気は、しない⋯⋯!!

「これから忙しくなるね。⋯⋯紅志、心の準備は?」
「決まってるよ、そんなの。とっくのとうにな」
「ホント良い男だぜ、お前は。マジで魔王軍ウチに来いよ、紅志」
「考えとくぜ。オーガを倒すまでには、答えを出しとく」
「あァ~? 長ぇなぁ、気が遠くなっちまうよ」

 ポンっとゼルに肩を叩かれ、俺は笑った。
 金色の光が消えた空は、どこまでも晴れ渡っているのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...