猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第157話・話にならない

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 ──風がなびく。 
 晴れ渡る空の下、足元の草が細波さざなみの様にそよぐ。
 見渡す限りの草原。その中心にて、俺は“その時”が来るのを待っていた。

「皆んな、少しいい?」

 周囲を包む静寂を、幼女が破る。
 何か考えがある様子の彼女は、俺ではなくゼル達へと向いて言葉を続けた。

「オーガと話したい事がある。姿が見えても、攻撃しないで」

 幼女の台詞に、魔王幹部達は顔色を変える。
 特に、やる気満々でこの場へ来たティガやアインは、不満をあらわに大股で幼女へと歩み寄った。
 しかし。2人が幼女に突っかかる直前、行く手を阻む様にとある男の腕が現れる。
  ピタリと歩みを止めたティガとアインは、驚愕を表情に腕の主へと目をやった。
 何を隠そう、その腕は魔王ゼルのモノであったからだ。
 表情と手を使って『だって!!』やら『いいのかよ!?』やらを表現するティガ達だが、相手は自分らのボスである。
 『まぁまぁ』というジェスチャーをするゼルに返せる言葉も無く、不満げな顔で引き下がるのだった。

「「⋯⋯来る」ぞ」

 静かに、幼女とゼルが口を揃えて言った。
 俺はオーガの力を感知出来ないが、それでも2人の台詞には疑いも無く頷ける。
 言葉で形容するのは難しいが、“大きな何か”が高速で迫って来る感覚があるのだ。
 ここ魔王城に⋯⋯。いや、もっと言えば、俺に目掛けて。

「──貴様の幸運もここまでじゃな、アルノヴィア」
 
 嗄(しゃが)れた声が、天空に響き渡る。
 次の瞬間。待ち構える俺達の上空に、眩い金色こんじきの光が出現した。
 直径にして約10メートル。太陽の様に輝く巨大なその光は、次第に中央へと収縮してゆく。 
 そして、光が全体の三分の一程度にまでしぼんだ頃であった。
 ──1つの人影が、金の光の中から現れたのは。

「⋯⋯ふむ。勢揃い、といったところじゃの」

 此方を見下ろすオーガは、長い白髭を撫でながら言う。
 ⋯⋯思えば、こうして姿を見るのは もう3回目になるのか。
 相も変わらず元気そうで嬉しいぜ。まぁ嘘だけど。

「で、何しに来たの? 白旗を振りにでも来てくれた?」
「ウン? 貴様らの方こそ、必死に命乞いでもすると考えていたのじゃがな?」

 ひ、ひいい!! ここで口論すんなよ!!
 幼女は兎も角として、オーガ!! お前が煽るのは俺かアリアだけにしてくれ頼むから!!
 見ろよ俺の後ろを!! 俺なんて見なくても分かるわ!! 
 グレンデルがブチ切れながら やべぇ殺気を放ってるの!!
 死ぬて!! 殺気の余波で、俺死ぬて!!

「おい、人前でごちゃごちゃ言い争うな。2人纏めて殺すぞ。
 アリア。幹部共コイツらにストップを掛けたのはお前だ、さっさと要件を済ませろ。さもないと⋯⋯」
「はいはい、『殺すぞ』ね。分かってるから、ゼルもその殺気を片付けてくれない?
 隣を見てみてよ、ホラ。貴方のせいで紅志がさぁ」
「あン? ⋯⋯ありゃ、」
「──うぅ~⋯⋯!!」

 死ぬ死ぬ死ぬ。やばいコレ死ぬ。
 グレンデルのそれが比べ物にならないレベルの殺気だ。
 全身の震えが止まらないし、なんか意識が遠ざかっている気もする。
 ⋯⋯あ、そうか。呼吸するの忘れてた。死にそうヤバい。
 これなら、人魔会議の時みたいに気絶してた方が楽だったかもしれない。

「フーッ! フゥ"ーッ!!」
「なんかウケる。見て、瞳がめっちゃ細くなってる」
「うわホントだ。ガンギマリだな、紅志」

 怯えてうずくまる俺を、ギルルとアインが覗き込む。
 心配してくれないのは悲しいが、今はそれどころじゃ無いので別に気にしないぜ。
 ⋯⋯にしても、ヒトを殺気で半殺しに出来るって何事だよ。
 恐怖を感じる反面、ちょっとカッコイイから俺も真似したいんだが。
 
「──ふん、その男は変わらぬなぁ。あまりに弱い。
 そんな物を利用したところで、儂を殺せると本気で考えているのか?」 
「お生憎様。もうコッチの手筈は整っているんだよね~」
「⋯⋯なんじゃと?」

 幼女の台詞に、オーガは眉をひそめる。
 どうやら想定外の言葉だった様子だが⋯⋯。ううむ、幼女はどうしてそれを言ってしまったんだ?
 会話の流れからして、アリアが言う“手筈”が俺を指す事であるのはオーガも察せる筈だ。
 確かに今の俺は、オーガの能力を無効化して直接触れる事が可能な状態ではある。
 だが、俺の鍛錬は未だに完了していないし、このタイミングで言ってしまうのは不味い気がする。
 結局 俺がオーガに勝てないのであれば、能力を無効化したところで意味が無い訳だし⋯⋯。
 ここでオーガが俺を殺す事に全力で徹し、そして成し遂げれば、その時点で世界は終わりだ。
 わざわざ“ネタばらし”をして、幼女は一体何を考えているんだ⋯⋯?

「オーガ、私から一つ提案がある。聞く気はある?」
「下らんな。貴様の話になぞ、塵程の興味も無いわ。
 ──ついでに言っておくが、使える手札があるのが貴様だけとは思わない事じゃな」

 ⋯⋯!! なんか、来るな。
 オーガと違って、僅かだが明確に魔力感知に反応がある。
 数は⋯⋯そうだな。恐らく、4ってところか。

「──フワーッハッハッ!! オイ、醜い闇の眷属共!!
 この我が、直々に相手になってやろうぞーーッ!!」

 喧しい高笑いをしながら、赤毛の坊主が現れた。
 オーガと同じ様に登場したソイツは、紅白の独特な衣服を身に付けている。
 紅色と金色の稲妻模様が入った袴という、お坊さんにしては随分と品が無く見える格好だ。
 所々に見える素肌は真っ黒な色をしているが、恐らくあれが『神将しんしょう』と呼ばれる者なのだろう。
 目の前のヤツは、雰囲気だけでは武闘派といった感じだな。
 こちらの武闘派で、アイツとの比較対象になるティガとは大きく違う見た目だ。主に身長が。
 ティガも180cm程と中々の背丈だが、あの坊主は目測でも3メートル程の大きさがある。
 それに加えて、迸る様な闘気はティガのそれとも遜色の無いレベルだ。
 ⋯⋯成程。オーガはオーガで、優秀な戦力を持っているって訳か。

「──図に乗るなアルマ。ここはまず、俺から行こう。
 まぁ、俺の神速を持ってすれば、貴様の出番も無くなるだろうがな」

 赤毛の坊主──アルマ──と同じく、紫髪の青年が現れる。
 上裸である点は気にしないとして、目がいくのは下半身の方だな。
 正確には、同じ下半身でも膝から下に掛けて特徴がある。
 鎧というよりは⋯⋯箱? 塊? まぁなんとも言えないが、円錐台(えんすいだい)の形をした物体を装備をしている様だ。
 パッと見だと、細かく枝分かれした亀裂が装備の全体に入っている様に見えるが⋯⋯
 戦闘で生まれた亀裂と考えるには、妙に縦に整っていて違和感もあるな。
 
「やだやだ、男って。事ある毎にすーぐ競い合うんだもの。
 オーガ様に仕える者として、皆が連携して効率的かつ迅速に敵の殲滅にあたり、一刻でも早く新たな世の到来を実現するべきではなくて?」

 ⋯⋯おっと、女性の神将もいるとは想定外だった。
 先程の男達とは違い、どうやら真面目なタイプらしい。
 敵としては有り難くない存在だが、その嫌悪感が吹き飛ぶくらいには美しい容姿だ。
 純白を基調とした、薄い桃色のラインが入った羽衣を纏い、深く濃い青の髪は、腰の下まで伸びて風に靡かせている。
 そして、上品で端麗な顔立ち⋯⋯。正しく天女という表現が似合う神将だな。

「──それで全員か?」

 3人の神将が揃った時だった。
 ふと、グレンデルが口を開いたのは。

「なんだ、何か用か? 魔王の雑兵如きが」

 グレンデルの質問に、アルマが答えた。
 いや、答えと呼べる返しでも無かったが⋯⋯。そんな事は、この際どうでもいい。
 俺が引っかかっているのは、罵倒されたグレンデルの反応が妙に静かである点だ。
 普段のコイツを思い出せば、今のアルマの煽りには大きな反応を見せる事は容易に想像出来るんだがな⋯⋯?
 
「──貴様らで全員か。そう聞いている」
「フハハッ!! そうか!! 本来なら、貴様らにとっては我一人でも十分な脅威!!
 それが他に2人も現れた事で、『これ以上いるのか』と恐れているのだなッ!!?」
「好きに捉えろ。⋯⋯で、それで全員か?」
「執拗い奴だ!! だが答えてやる!! あと2人、我と同格が存在する!!
 ギオスとセラフ!! どちらも貴様ら如きでは太刀打ち出来ぬ!!」

 どうだ参ったか!! という表情で、アルマはグレンデルを指差す。
 対して本人は、どこか不満気な顔をしつつ口を開いた。

「じゃあ、さっさと、そこに、並べ」

 グレンデルの一言一言に、恐ろしい重みを感じる。
 彼の魂胆は分からないが、何か派手な事をしようしているのだけは察しがついた。

「──さえずるな、魔王の手下よ。望み通り出てきてやったぞ」

 現れたのは、純白の髪を持つ青年だった。
 他の神将と違って、何か特筆する様な見た目はしていないが⋯⋯
 強いて云うなら、白いキャソックを身に付けていて、髪の艶がめっちゃ良い点があるか。
 エンジェルリングだっけか? 髪の艶が良いと見えるアレ。

「もう1人はまだか?」
「そいつは来ない。不完全なのでな。
 貴様らとて、そんな相手に始末されるより、我の様な武人の手によって屠られたいであろう?
 せめてもの慈悲だ。有り難く受け取るがよい」
「そうか⋯⋯分かった」

 溜息をする様に言い、グレンデルは僅かに俯く。
 そして、

──ゴウッ!! 

 凄まじい音と共に、風が荒れ狂う。
 その中心に立つグレンデルは蒼黒の魔力を身に纏い、表情をいつもの──若しくはいつも以上の──怒り顔へと変化させていた。

「やるかッ!! では我が相手をして──」
「死ね。消えろ」

 アルマの言葉を斬り捨て、グレンデルが動く。
 右足で一歩踏み出し、姿勢を僅かに低くした──その直後。
 彼は、大きく口を開いた。

「はア"ッッッ!!!」

 蒼い閃光が、世界を包んだ。
 グレンデルが、口から魔力攻撃を放った。それは分かる。
 ⋯⋯だが、なんだ今のは? アイツの攻撃から、ぞ?
 魔力攻撃であるのは確かなのに、その攻撃から魔力を感じない⋯⋯?
 いや、そんな訳が無い──事も、無いか。
 そういえば、魔力感知で認識出来るのは、魔力の質=魔力の密度がある程度近しい相手だけだ。
 そしてそれは、感知の対象が魔力そのものであっても同じ事がいえるだろう。
 つまり、グレンデルの攻撃の魔力の密度があまりに高かったが故に、俺の魔力感知の精度では⋯⋯
 って、まぁこうやって言葉にするは簡単なんだがなぁ。
 やれやれ。世界は広いし、上には上がいるし、やってらんねーぜマジで。
 ⋯⋯さて。それはいいとして、あんな攻撃を受けた神将達はどうなっただろうか。
 当然、オーガは転送能力によって無傷だろうが⋯⋯

「──文句無いな? アルノヴィア」
「まぁね。私は、『オーガと話したい事がある』としか言ってないし。
 “その他”については、好きにしてもいいよ。別に」

 グレンデルとアリア。淡白な言葉を交わす2人。
 会話から考えると、グレンデルははなから幼女の台詞の真意を正確に捉えていた様だ。
 ⋯⋯あぁ、成程。ようやく合点がいった。
 グレンデルはあの時、神将達を脅威と感じたから不満気な顔をしたのではない。
 
 ──皆殺しにするから、早く一箇所に集まれ雑魚共──

 そんな思考があったからこそ、あんな表情だったのだろう。
 そう考えれば、グレンデルの台詞や態度にも納得がいく。

「──なッ、中々やるではないか!!」
「えぇ、確かに⋯⋯。けど、今の攻撃で仕留められなかったのは失敗だったわね⋯⋯!!」

 上空に立ち込める黒煙。その中から声が響く。
 アルマとあの女黒異人コクトの声だろう。まさか無事だったとは。
 しかし、2人の声には明らかに動揺と困惑が混じっている。
 どうやってグレンデルの攻撃を凌いだかは知らないが、流石に無傷では──

「⋯⋯あ"ァ"?」

 黒煙が晴れた瞬間、グレンデルが片眉を吊り上げた。
 ティガとアインとギルルも、上空の光景に疑問を浮かべている様子だ。
 かくいう俺も⋯⋯。というか、俺が一番驚いていると思う。
 俺の魔力感知で認識出来ない程の、グレンデルの魔力攻撃。
 それを真正面から受けた筈の神将達が、まさか──

「成程。魔王幹部、そう呼ばれるだけはあるな」
「しかしッ!! 我らがオーガ様から授かった“この力”!!
 敵の攻撃の一切を無と帰し、こうして皆 意気軒昂いきけんこうッ!!」
「最早、私達に敵うものなど存在しないわ!! 覚悟なさい、闇の下僕共!!」
「今の攻撃が、俺達の命に届きかけた唯一の攻撃だ!!
 二度と幸運は訪れない!! 神の力の前に散れッ!」

 ⋯⋯無傷、か。
 そりゃあ、テンションも上がるわなぁ。
 考えてもみなかったぜ。クソ厄介なオーガの能力が、まさかその手下にまで備わっているなんて⋯⋯
 
「──言ったはずじゃ。使える手札があるのは、貴様だけではないと。
 悔いるがいい、アルノヴィア。貴様の敗因は、儂より優秀な手札を持っていなかったが故なのじゃ」
「あ、そう。私はまだ、“切り札”を出していないんだけど?」
「強がるな。貴様らは⋯⋯」

 ピタリ。オーガは口をつぐんだ。
 理由は、更なる攻撃を放つべく構えたグレンデルを見て──彼の肩に添えられた手に気が付いたからだろう。

「かかってくるがいい!! この力がある限り、我らは無敵!!
 どんな者が相手であれ、決して──」
「そうか? そりゃ見ものだな」
 
 興味無さげに、“男”が動いた。
 一歩、前に出る。右手をオーガ達へと掲げる。
 それだけの動きだったが、その瞬間に俺は確信した。
 その動作の後に繰り出される攻撃が、神将達を必ず消し飛ばす一撃になると。

「じゃ、試してみるか」

【“魔王”・ゼルリウス・ティグロクス】
・歴代最強の魔王。
 高い魔力出力による攻撃が主な攻撃手段である。

「⋯⋯フッ」
 
 黒と紫。二つが交わる閃光が炸裂した。
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