奇妙な魔術師の放遊録 ~ゆかいな仲間たちは今日も我が道を進む?~

遊爆民。

文字の大きさ
9 / 78
第一章 魔術師と血の繋がらぬ子供

第七話 初歩の魔法、生活魔法の練習

しおりを挟む
 教会の裏手の広場に、姿を現したスイールとエゼルの二人。それぞれの手に杖が握られ、いつでも魔法の講義を始める準備をしていた。

 早速、スイールの魔法の講義が始まるのであった。


「まず、魔法には生活で使う生活魔法と、戦い等で使う戦闘魔法に分けられる。戦闘魔法はまだえぜるには無理だから生活魔法から始めるね」

 そして、愛用の杖を右手で握り、コツンと杖で地面を叩く。

「まず魔法の使い方だけど、頭の中に描いた事が魔法として使うことが出来る、って覚えておいて」

 自らのこめかみを左手の人差し指で指して、うんうんと頷くエゼルに説明を始める。
 そして、杖の先端の黒い透明な石をエゼルに見せながらさらに口を開く。

「この杖には、集中力を高めるための”魔石”ってのがついてる。集中力……、って言ってもわからないよね。そのうち分かるから説明だけね。まず初めに右手に杖、左手を広げて前に出してみて」

 スイールはなるべくわかりやすい様にと、杖を前に出し、左手を開いて、言葉通りの恰好をエゼルに見せる。エゼルもスイールを真似して同じような格好をする。
 右手に杖を握り、左手は手の平を前に押し出すような格好を二人でする。傍から見れば少し間抜けな格好に見えるのだが。

「そう、そして、杖のその膨らんでるところを見ながら、左手の前に小さな火が燃えるように頭の中で考えるんだ。どう?出来そう。それともお手本を見せようか?」

 エゼルは首を横に振ると、杖に向かって集中し始める。
 エゼルの頭の中には、大道芸人の手から火を出している所を鮮明に覚えていたのだ。そう、今のエゼルにははっきりと、大道芸人の姿がイメージ出来ていたのだ。

 エゼルが目を閉じて集中力を高めると、杖の先端の黒い魔石がゆっくりと青く変色して行く。エゼルの握る杖の先端には、戦闘魔法で使われるほどの上質な魔石ではなく、生活魔法を取得するための練習用の低質な小さな魔石が幾つも入っているだけ。
 その青さはさらに深くなり、スイールでもしっかりと色の変化を確認できるほどになる。そして、エゼルの左手の前には、”火”と表現するには大きすぎる”火”が、否、”炎”が生み出されたのだ。

 スイールの眼前に、四歳になったばかりの子供がこれほど大きな”炎”を出すなど信じられなかった。だが、現実に起こった事を幻想などと思うなど無理であった。
 エゼルの左手の前に現れた”炎”から出る熱を受ければ現実だと無理にでも引き戻される。
 それに、この年齢で、これだけの能力を持った魔術師などスイールでも見たことが無かった。
 もしかしたら、スイール自身を抜くほどの大魔術師が誕生するかもしれない、その瞬間に立ち会えたことで久しく忘れていた野心が芽生え始めてきている。

「ちょっと、待て待て待て!!もういい、もういいよ!!」

 さすがにこれ以上続けると周囲に被害を出さないか、エゼル自身が火傷を負いかねないと初めての練習に待ったをかけた。
 慌てたスイールの声を聞いて集中を解くと、エゼルの左手の前に出ていた”炎”が霧散し、何もない空間へと戻った。
 握っていた杖の魔石が、深い青から元の黒い魔石へゆっくりと戻る。
 そして、瞑っていた目を開け、スイールの顔を覗き込んで不思議そうに声を掛けた。

「え?どうしたの、おじちゃん」
「いや、物凄い”火”が出てたんだけど、気が付いた?」
「そんなにおおきな”火”だったの。もっと”おおきく”できそうだったけど?」

 スイールの脳裏から、初めての練習だったとすっかり頭から消え去ってしまったようだ。
 そして、次の段階に進ませたい。どこまで伸びるのか見て見たい。そう思うようになったのだ。

 エゼルが作り出した”火”、否、今、眼前でしっかりと見た”炎”など、生活魔法では考えられなかった。それが戦闘魔法を扱ったどうなってしまうのかと不安に思うようになった。
 そして、子供のエゼルには、魔法を使うための基礎的な力を身に着けるさせる事に特化するべきじゃないかと考えるのだった。

 スイールの脳裏を様々な憶測が飛び交い、そして、危険を伴わぬ練習をさせるべきだと
頭を切り替える。

 先程とは恰好を変え、左手の人差し指を目の前に出し、”ポッ”と小さな”火”を出す。

「エゼル君、まず練習だから小さな”火”でいいんだよ。大きな”火”はもっと後で大丈夫だよ」

 小さな小さな”火”をエゼルに見せ、この大きさの”火”で構わないと続ける。

「ごめんね。正直、エゼルがあんなに凄い”火”を出せるとは思わなかったよ。杖がなくても出来そうだから、今度は杖を置いて、さっきと同じ様に左手を前に出して、右手を重ねるようにして、同じ事が出来るかな?」

 エゼルは頷くと、スイールが説明したと同じ恰好を取る。

 そして、エゼルは最初の練習と同じように集中し始めた。今度は杖を持ち合わせていないので集中先は左手である。
 先ほどは杖が手助けをしたが、二回目はその道具が無い。しかし、あっさりとエゼルの左手の前には”火”が生み出された。先ほどは”炎”だったが、今回はしっかりと”火”の大きさだ。

 わずか四歳の子供が、魔石の手助け無く成功させてしまった。
 この世界で道具に頼らず魔法を使うのはかなり高度で、生活魔法といえども成人するまでに、道具無しで出来るようになる、そんなレベルである。

 ちなみにこの世界の成人は十五、六歳辺りで厳密な成人の定義は無い。社会に出て働く事で成人とみなされる。

「おぉ、すごい。あっさりと出来ちゃうなんて、才能あるんじゃない?」

 スイールは心で思った事を思わず口に出してしまった。
 エゼルは”すごい”の所だけを聞き、そのあとの言葉を聞き逃したのだが、スイールに笑顔を向けた。

「へへへ~」

 エゼルは自慢気に頭をかく。

「今日はここまでだ。でも、自分でも練習できるからいろいろ試してみてね。大きな”火”は危険だから、どれだけ小さな”火”が出せるか。そして、どれだけ同じ大きさの”火”を続けられるか。それを練習するんだよ。部屋の中は練習はダメ。練習は人が近くにいないお外だけ。どう、守れる?」

 エゼルはおとなしくスイールの話しを聞くと、素直に「うん!!」と返事をした。

(あれ?ほんとに大丈夫かな?一応、シスターには話をしておこうか)

 エゼルの素直な返事に、一抹の不安を覚えるのであった。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 エゼルとの魔法の練習を終え孤児院に戻ると、シスターが怪訝そうな顔をスイールに向けて来た。

(あれ?何かあったかな?)

「シスター、今後の事なんですけど……」
「スイール!アンタは何て事を教えてるんだ?危ない魔法はダメだって行っただろう。裏を見てたら、この子が魔法で大きな”炎”を出していたじゃないか?なんで戦闘魔法なんて教えてんのさ?」

 シスターは、先ほどの練習の一部始終を覗いていたようだ。
 確かに、教会の裏手の窓からは広場が見えるようだが、それほど心配なら、一緒に来て観ていたらよかったのではないか?スイールの脳裏にシスターの血圧が上がりそうな事が思いつかれたが、喉まで出ていた言葉を飲み込んだ。

「シスター、誤解ですよ。戦闘魔法なんて教えてませんって。小さな”火”が出せる初歩的な魔法を、それを教えただけです。それにほら、エゼルの持ってる杖、生活魔法の練習用ですよ。見ていただければわかりますって」

 そんな事ある訳がないだろうにと、顔に出ていたシスターだったが、エゼルの握っている短い杖を見て、その考えは吹き飛んでしまった。

「はは、は、はぁ。なんですかぁ、これは!!」

 シスターが混乱しかけ、頭の回転が追い付かなくなり声を上げてしまった。

「なので、今後の事を話しておきたいのですが……」

 混乱しかけの頭を何とか元に戻そうとして、頭を抱えてうずくまり、

「うわわわぁぁぁぁ~~~!!」

 急に立ち上がると天井を見上げて大声で叫んだ。

(あれ、シスターが壊れた?)
(あ、シスター、おもしろい)

 ”変り者”と揶揄されがちなスイールと、初めての生活魔法の練習で有りえない大きさの”炎”を出した常識のない二人が、人を育て続けている常識の塊であるシスターを非常識な人として見ていた。

「わかった、わかったよ。もうね、その二人、常識人として扱わないから、そのつもりで!!」

 目の前の似たもの親子を諦めた顔で見つめる。シスターの常識から見れば二人は十分、非常識の塊として目に写る。
 その二人を見ていれば、シスターが混乱するのも納得がいくのである。

 だが、シスターの言葉に納得いかないスイールが反論するのだが……。

「あのぉ、二人って事は無いでしょう。エゼルも常識がないってのはどうかと。それで、今後の事なんですけど……」
「はぁ?!なんだって!?」

 シスターは混乱したままで怒り口調をスイールに向ける。そして、”ビクッ”と体が反応すると半歩後ずさりしてしまった。
 それを見たエゼルは、シスターだけは怒らせないようにしようと心に誓った。

 シスターの息が整うのを待ち、エゼルのこれからをお願いする。

「まず、エゼルに魔法の練習をさせてください。できれば屋外で。火の魔法でいいので、出来るだけ小さい火を出すように。毎日です。杖が無くても大丈夫です。他の魔法は私が教えますので、練習だけで大丈夫です」

 それを聞いたシスターは、”はぁ”と重い溜息を吐いた。

「はぁ、わかったよ。他の子供たちも一緒に練習させるようにしとくよ。お前にかかわるとほんとに常識知らずができるから、それ以外はこちらで常識の範囲で教えておくよ」
「すみません。あ、あと、この身分証を渡します。エゼルの正式な身分証です。このカードがあれば何かと役立つはずです。彼の正式な名前をエゼルバルド=メイヤーとしました。後見人は私、スイールです。ご迷惑をおかけしますが何とぞ、よろしくお願いします」

 シスターに深々と頭をさげ、その後エゼルに向き直る。

「今日はお誕生日おめでとう。また来たときは一緒に魔法の練習をしよう。それと、シスターの言うことをよく聞くんだよ。言うことを聞かないと、私がここに来れなくなって、魔法の練習ができなくなっちゃうからね。それだけは忘れないでね」

 約束だよ、とエゼルの頭をなでながらやさしく話す。

「まほうのれんしゅう、できなくなっちゃいやだ!ぼく、いうこときくから、また、まほうをおしえて!!」

 少し意地悪を言いすぎたかなとスイールは思うが、魔法の練習が好きになったエゼルの為に何か用意しようと心に思うのであった。

「じゃ、シスターの言うことを守って、ちゃんと小さな”火”で練習するんだよ。また来るからね。それと、今日あげた杖だけど、一度預かっておくよ。ちゃんとした戦闘魔法用の杖に変えておくからね」

 その後、スイールはシスターとエゼルに幾つかの話をしてこの日は帰っていった。

 荷車を曳きながら変えるスイールは嬉しそうだった。自分より凄い魔術師が生まれるかもしれない。そんな現場に立ち会ったのだ。
 しかも、まだ四歳だ。魔法だけじゃなく、剣もできるかもしれない。

 スイールはエゼルの将来を思い描きながら、顔が笑みを浮かべるのを感じるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...