奇妙な魔術師の放遊録 ~ゆかいな仲間たちは今日も我が道を進む?~

遊爆民。

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第一章 魔術師と血の繋がらぬ子供

第八話 学校のある生活が始まる

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 エゼルが孤児院で生活するようになって無事に一年が過ぎた。さらにスイールやシスター等からも祝われた五歳の誕生日も無事に過ぎる。
 あと二か月もすれば年が明けて、エゼルの楽しみにしている学校生活が始まる。

 この一年間、六日に一、二回ずつ、スイールを先生とした魔法の練習が続いた。”変り者”と呼ばれるスイールだったが、エゼルに魔法を教えるときだけは常識人になった。
 魔法の練習は常に小さな魔法を出すように練習をさせ、微小な魔力の制御を練習させ続けた。
 魔法の練習で大きな魔法を出して精神力だけを鍛える方法は、まだ小さいエゼルには逆効果で、もう少し精神が成長してからでよかったのだ。

 そして、スイールとエゼルの魔法の練習風景をよく覗き見ている神父とシスターは、常に最小の魔法を出させている光景を目の当たりにして安堵の表情を見せていた。

 さらに、最小の魔法を出させる練習をした事により、物事に対する集中力が高まり、一年前のわんぱくぶりが嘘のように性格が変わって行った。それは、学校に入る前に教えている読み書きや計算などの勉強に発揮され、短時間でかなりの成績を上げるまでになっていった。



 エゼル達が間もなく幼年学校に入学する準備に忙しくなる十一月に、ある一つの変化が起きた。
 もう子供を預かる気は無いと言っていたシスターの下へ、一人の女の子が預けられたのである。
 明るい茶髪でストレートヘア、黒目で整った顔立ちをしている。可愛くもあり、将来的に有望なその容姿は、そのまま育てば、世の男共の振り向く様が脳裏に浮かんでくるようであった。

 その子は両親が場外の馬車事故で亡くなり、その親類も経済的に不安で育てる事が難しいと感じ、知り合いからこの孤児院を紹介され、藁をも掴む思いで頼み込んできた。本来なら、エゼル等が最後に孤児を預かるのを止めようと考えていたが、どうしてもと頼み込まれたので、仕方なく引き受けたのだ。

 仕方なくとは言え、引き受けたからには立派に育てる事を誓い、その子を引き取るのであった。

 その子は入った日から、積極的に子供たちの遊びの輪に入り、すぐに仲良くなって、一緒に駆け回ったりしていた。

 ただ、不思議な事が有り、なぜか、エゼルがお気に入りの様子だった。たまの雨で孤児院の中で大人しく遊んでいるときは、エゼルの側にいる事が多いのだ。なんとも不思議な光景であると、シスターはスイールに報告をしている。

 親類は養育権を放棄しその子を手放したが、最後の義務をと思ったのか身分証カードの発行までは行ったようで、その子の正確な名前が後日判明した。

 その子の名前は【ヒルダ=オーウェン】と言うのであった。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 エゼル達の幼年学校への入学が秒読み段階に入った十二月。スイールは新年を祝う準備で忙しい合間を縫って、エゼルを含めた子供達、--ヒルダも含めてである--を、連れて、孤児院の裏手にある広場で、魔法の練習相手をしていた。
 ちなみに、スイールはこの一年で孤児院の子供達と仲良くなった。良く街中を子供達を連れて散歩する姿が目撃され、”変り者”ではなく”未婚の父親”と呼ばれたりと評価が若干だが変わった。さすがにスイールとしては”未婚の父親”はないだろうと、思っていたが、その呼ばれ方に悪い気はせずただ頬をかくだけだった。

 スイールは目の前で騒ぐ子供達を眺めては、”仲良きことは美しきかな”と微笑ましい気持ちになっていた。既に年少学校に進んでいる子供が年下の子供達を見てもいるので、単純に仲が良いわけでは無い。年上の子が面倒を見ていて纏め役を自ら買って出ていた。
 それでも、学校に通うのが最後となるヒルダが、一人残ってしまうと思い少しだけ心配するのだが、そこはシスターにお任せするしかないだろう。

 スイールも”シスターが居るから心配はしてないけど”と思うほどにシスターを信頼しているのだ。

 さて、今日は、子供達と魔法の練習だ。

「ほら、魔法の練習を始めるぞ。騒いでると教えないぞ」
「「「「はぁ~い!」」」」

 手を打ち鳴らし、子供たちに練習開始の合図を送ると、騒いでいた子供たちがスイールの前に一列に並んだ。生活魔法の練習だとは言っても、十歳に満たない子供たちが半年以上も練習をしていると、その楽しさに気付いたらしい。

 その中でも、得手不得手はあるようだが、皆、生活魔法を杖の補助無しに使うまでになっていた。大人顔負けの上達ぶりにスイールの顔は緩みっぱなしである。
 だた、エゼルの魔法は他の子供達、いや、大人達に比べても異様で、魔法の発動、大きさ、精度は群を抜いていた。

 スイールの横で初めての魔法練習の風景を見ていたヒルダが、”自分もやりたい”とスイールに懇願しだした。エゼルが練習を始めたのと同じ年齢だった事もあり、ヒルダにはマンツーマンで初歩を教える事にした。

 生活魔法用の杖をヒルダに渡して右手で握るように指示する。エゼルに教えた様に左手を前に出して開かせ、そこに火が起こるイメージを思い浮かべる様に教える。
 お手本としてスイールが手の前に小さな火を起こして見せる。それを真似する様にヒルダも力を入れるが、慣れていないのか発動するそぶりさえ見せないでいた。

 ヒルダはしばらく練習していたが、その日はとうとう魔法を発動させることは出来なかった。杖の先端についている魔石群も青く変色していないのが証拠であろう。
 ヒルダの年齢で一時間程の練習でできる事が稀であり、練習次第で出来るようになるよと励ますのである。
 出来ないのが気に食わないのか、”ぷすっ”と可愛らしい頬を膨らませて悔しがっていた。

 その日の練習はそこまでで終わりにしたのだが、それから数日後、スイールが孤児院を訪ねると、孤児院の裏手にある広場では、ヒルダが杖を握りしめ、魔法を発動させる姿が見えた。
 杖の力を借りているとは言え、連続で”ボッ!ボッ!”と、スイールでも驚く速さで火を手の前に出したり、消したりしていた。あれからわずか数日で魔法が使える事にお驚くが、大人でも出来ぬ連続発動速度にもさらに驚いていた。

(エゼルが何処まで魔法を扱えるか楽しみだったが、この子も魔法のスペシャリストになりそうだな)

 ニヤリと笑う彼の内心には、どれだけの事が出来る二人が育つのかと、メラメラと野心が燃え盛る音が聞こえるのであった。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 年が明けると、各学校の入学式が行われ、エゼル達も学校に通うようになった。

 ブールの街は城壁内で四万人、その周辺までも含めると合計で六万人程の人口を擁する都市圏である。その中に、複数の学校が設けられ、一番近くの学校へ子供たちは通う事になる。
 エゼル達は複数ある学校の中から、孤児院のすぐ側にある学校へと通う事になる。

 トルニア王国の国民が無償で通う学校には、年齢順に幼年学校、年少学校、中等学校と徐々にステップアップする仕組みで、それぞれ、一年、六年、三年の合計十年だ。
 授業の時間は家庭の事情もかみして午前中のみで設定されている。

 授業内容は、幼年学校は読み書きと簡単な足し算、引き算が主であり、年少学校へ通う前の準備期間と言った所だろうか。
 年少学校に入れば、読み書きと四則計算に加えて、歴史、植物学、生物学が加わる。
 そして、中等学校では読み書きと四則計算、歴史、植物学、生物学に加えて、複雑な計算、マナー、防衛術が加わる。

 植物学、生物学は、城壁の外での食料確保を目的とした授業で、毒の有無を教えていた李、小動物の捌き方などを教える。尤も、小動物を裁くのは年少学校でも五年次以上となっている。
 マナーはその名の通りで、王族や貴族の前にでて最低限の礼を教えてる。
 防衛術は剣や弓などを使用しての訓練だ。場外に出れば、野生の獣に襲われる可能性があり、最低限の自己防衛手段を教えているのだ。防衛術で好成績を修めた学生には、学費は自費となるが騎士養成学校に進む場合もある。

 中等学校を卒業すれば、晴れて成人の仲間であるが、仕事に就かずに高等教育を受けたり、専門の学問を続けたりとさまざまであるが、それらの学校は決まって王都アールストにあるので、辺境出身だと敷居が高いのである。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 エゼル達が無事に幼年学校から年少学校へと進めば、当然ヒルダが幼年学校へと入学する。後追いであるが、学校を楽しみにしていたヒルダはエゼル達と共に学校へ通うのであった。

 その頃からエゼルにはスイールから学ぶことが一つ増えた。それは剣術である。
 城壁の外に家を持つスイールは剣を使い、野生の獣を仕留める事が多々ある。魔法で仕留めるには骨が折れるとか、下手に魔法で吹き飛ばさない方が良いとか、いろいろと理由があるのだが。

 ただ、スイールにはそれが普通であるが、魔術師の中には魔法に頼りっきりで剣の腕を磨く事を止める者が多く、一般的な魔術師と言えば、剣を扱えないイメージが定着してしまった。

 そんな彼は、子供になら、すぐに追い抜かれる事は無いだろうとの思い込みから、手ずから剣を取り、エゼルに教えようとしたのだ。

 だが、そんな思いとは裏腹に、エゼルの剣術はすぐに上達してしまった。
 教え出してから半年もすれば、スイールが守勢に回る事がおおくなり、隙を突いての反撃が行えない程になった。これは子供の体重や筋力に合わせて軽く作られている剣を使っているからなのだが、さすがのスイールもこれには冷や汗を垂らす事になる。

 剣術を教えると言い出した手前、どうするかと考えた所で、ぴったりの人物を頭に思い描いたのである。

『俺にエゼルを教えろって?いいぜ、ビシバシ鍛えてやるさ』

 スイールの要望に即答で返したのは、この街の守備隊隊長を務める、ジムズであった。
 色々と見返りを求められたが、そのうち、精神的にと返すだけでそれ以上は言わなかった。

 子の思い付きは本当に正解であった。
 守備隊隊長の肩書は伊達でなく、ジムズの剣術の腕前はさすがに高かった。数日に一度の練習だったが、エゼルの腕前はメキメキと上達していった。

 剣術の上達ぶりを見て、弓をも教える様になるが、エゼルには合っていないのか、ある程度まで出来る様になってからはあまり上達はしなかった。

 だが、弓を教えた意図としては、もう少し大きくなったら一緒に仮に行こうとの魂胆が見え見えだった。



 ヒルダが幼年学校へ入ったと同時に、通学時に見慣れぬ光景が見え始めた。
 通学時のたった五分の間であるが、エゼルと共に並んで歩く、嬉しそうなヒルダが一緒に歩く光景である。

 エゼルが誘っている訳でも、シスターから言われたでもなく、何故かエゼルにぴったりとくっついているのである。
 少し早めに出ても、遅くなってもなのだ。

 一人での通学が寂しいのか、理由を知りたくてエゼルが聞いた事がある。

「なんで、学校へ行くときに待ってるの?」

 だが、ヒルダはそれに答えることなく、ただニッコリと笑みを返しただけだと言う。
 シスターにも一度、相談をした時に、アドバイスに一言貰ったらしい。

「気にしないで好きなようにさせておくんだよ。エゼルは男の子なんだからね」

 こんな言葉を返されただけらしいが、この時のエゼルには何が何だかわからなかったそうだ。
 そのうちにエゼルも諦めたのか、それが当然の様になるのである。



 エゼルの話を聞いたシスターは、ヒルダが内包している気持ちに少しだけ気付いたらしい。

「青春かねぇ……」

 そんな言葉を漏らしたらしいが、その夜、夢の中で神様からお告げを聞いたという。

(まだ、青春と呼ぶには早い年齢ですよ)
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