奇妙な魔術師の放遊録 ~ゆかいな仲間たちは今日も我が道を進む?~

遊爆民。

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第二章 魔法と剣と

第一話 魔法の理論

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 エゼルバルドは誕生日を迎え、十二歳となった。
 年少学校の六年間が終わり、年が明けて中等学校の三年間が始まる。
 中等学校までは国が定めた義務教育の為、試験も無くそのまま進むのだ。

 その後の教育として高等学校等へ進むには、入学試験突破と、かなりの学費がかかるため、王族や貴族などしか進まない。その中でも、専門性のある騎士養成学校などは別枠で一般市民からも進む者達が沢山いる。

 その、中等学校が始まってからすぐ、スイールはエゼルバルドの練習を新たな段階へと引き上げようとしていた。



 ここはスイールがいつも早朝に魔法の練習をしている、近くの沼。スイールのあばら家からは徒歩で十分程の場所だ。湖と呼ぶには小さく、池と呼ぶには大きい。
 遮るもののないこの場所は、時折風が吹きすさび、防寒対策をしていなければ体力を消耗させ、下手をすれば命の危険さえあるのだ。
 厚手の手袋をしているが、風により魔石の付いた杖を握る手もかじかむほどである。

 そんな場所へエゼルバルドを連れてきて、魔法の練習を始めるのだった。

「さて、今日からは戦闘魔法の練習を始めるぞ。今まで、散々、生活魔法を使ってきたから魔法の発動は慣れただろう。まず、魔法の概念から始めるぞ、いいか?」
「はい!!」

 エゼルバルドが発する力強い返事と共に目を輝かせるのは昔から変わっていない。魔法の練習、いや、魔法を発動させるのがとても好きだと一目でわかる。

「まずはおさらい。魔法の発動は、体内にある魔力を集めてイメージ通りに制御して発動させる。大雑把な説明だとこうなる、ここまでは良いよね」

 スイールの言葉に”うんうん”と頷く。魔法の練習時にいつも気にしている事だからだ。

「なら、体内にある魔力って何かを考えてみよう。魔法を発動する時には、精神力を体外に集めながら変換された精神力がその素となる。要するに精神力を体の外に集めたものが魔力と呼ばれるんだ」

 わかりやすく説明したつもりであったが、エゼルバルドは首を傾げて難しい表情をしている。何となくわかるが、頭の中で考えると、理解が追い付かないらしい。
 実際、十二歳の子供に理解を求めるのが少し早いのが実情なのであるが。

「それで、魔法の素となる魔力をイメージ通りに具現化した現象、それを魔法と呼んでいる訳だ」

 スイールがここまで説明すると、何となくわかったようと返事をする。理論的に考えてもわかりにくいので、説明はここまでにして、先に進むことにする。

「威力を求めず、発動する事だけに絞った魔法を生活魔法と呼び、威力を求め殺傷能力や効果範囲、そして傷などを癒す、その様な魔法を戦闘魔法と呼んでいる。二つに分類されているのはそれだけが理由だ」

 エゼルバルドは”うんうん”と頷いている。ここは何となくわかるようだ。
 スイールはさらに続けて説明をする。

「一応、二つに分類されているけど、魔法はすべて同じ原理で発動する。エゼルが練習していた生活魔法の種火ファイアと私が得意な火球ファイヤーボール、実は根幹は同じなんだ」
「ん?それって、種火ファイアが使えれば、戦闘魔法がすでに使えるって事?」
「それは正解でもあり、不正解でもある。これから練習の中で教えるから頑張ってね」
「大丈夫かなぁ……」

 少し不安を感じるエゼルバルドであるが、初めての練習であるから”上手く行かなくても大丈夫だ”と不安を払拭させる様に言葉を選びながら話しをする。
 そして、スイールは一度、火球ファイヤーボールを沼に向かって放ち、”これが基本の火球ファイヤーボールだ”とエゼルにお手本を見せた。

「基本だけで魔法は完結しないから、先に説明をしちゃうね」

 魔法を放ち終え、エゼルへと向き直り、今度は魔法の応用を説明し始めた。

「最初は魔法の威力の上げ方。まず、集中し魔力を溜める。この時点で魔法が発動するけど、さらに魔力を注ぎ込んで魔力を溜める。要するに、魔法発動までにどれだけ魔力を一か所に溜められるかが鍵となるんだ。だから、威力を上げようとすれば、それだけ発動させるまでに時間がかかる。単純に二倍の威力にするには二倍の時間、魔力を集める必要がある」

 エゼルバルドは”威力が二倍?時間が二倍?”と首を傾げる。頭で考えてもわからないだろうと、実際にお手本を見せる。

 スイールは一秒間、集中し魔力を集めて火球ファイヤーボールを沼に向かって放った。真っ直ぐ二十メートル先に着弾し炎が弾けて水蒸気が舞い上がる。
 次に三秒間、魔力を集めて同じように火球ファイヤーボールを沼に向かって放つ。だが、二回目に放った火球ファイヤーボールは一目見て大きくなっており、着弾した時の威力も音も、そして水蒸気の立ち上る量も段違いだった。

「これが威力を上げる方法だ」
「おおぉ~~!」
「ちなみに、この魔力を溜めて、飛距離を伸ばす事も出来るよ。その時は威力は据え置きだけどね」

 同じ魔法でもここまで威力が変わるのかと、エゼルバルドは驚いた表情をしている。思わず拍手をしてしまいそうになっていたが、杖を握っているので出来なかったみたいだが。
 ついでにスイールが話した、飛距離も魔力の溜めと関係すると告げられ、魔力の溜めは、いろいろと使い方があるとエゼルバルドは難しく感じてしまった。

「続いては、発動する範囲だね。例えば、ある程度溜めた魔力を小さく圧縮することで一点に威力が集中する。また、それを広範囲に展開することで威力が拡散して、ダメージは小さいが目くらましなどの効果が得られる、と言う風にね」

 スイールは再度、火球ファイヤーボールを沼に向かって放った、連続して二回。
 一回目はエゼルバルドが知る火球ファイヤーボールよりも放った火の球が小さかったが集中的に当たったので、命中した場所だけ水蒸気が立ち上った。
 そして、エゼルバルドが目を見開いていた、二回目の火球ファイヤーボールだ。同じだけの魔力を込めたはずなのに、火の球の大きさが四倍程の大きさとなっていたが、威力は水蒸気が立ち上る事無く、たいしたことが無かった。

「驚いたかい?同じ魔力量でも一点に集中させれば威力が大きくなり、広い場所に拡散させれば威力は弱くなる。同じ魔力量でも使い方によっては威力に幅が出るから使い方が難しい」
「たくさん魔力を集めるよりも、こっちの方が難しそうだね」

 魔力を集める事は簡単そうに見えた様だが、スイールは逆にそうは言わなかった。

「でもね、今までの練習を思い出してごらん。小さい火を長時間発動させてたりしたよね。あれは集中と拡散を練習させるための前準備みたいな練習だったんだよ。だから、エゼルにはこっちの方が簡単に出来るはずだよ」
「え?そうなの」
「後で練習してみればわかるよ。それじゃ、最後の説明をするよ」

 少し違う魔法を使うから少し離れてねとエゼルバルドに告げると、火の魔法であるが火球ファイヤーボールとは違う魔法を沼に向かって放った。

 一回目は火球ファイヤーボールに良く似た魔法であるが、鋭く尖った槍の様な形状で回転しながら沼に向かって飛んで行った。
 二回目は飛び出した時は火球ファイヤーボールと似ていたが、着弾した場所で炎の竜巻が巻き起こり、数秒間その場に留まっていた。
 三回目も火球ファイヤーボールに似た火の球が飛び出していったが、着弾すると横に広がり炎の壁を作り出していた。

「これらの魔法は難易度が上がっているから、火球ファイヤーボールが十分にできる様になってからだ」

 そして、先程の魔法の説明と名前を告げて行った。
 一つ目は難易度二の魔法で。火槍ファイヤーランス
 二つ目も同じ難易度二で火嵐ファイヤーストーム
 三つ目は難易度が上がって三の火壁ファイヤーウォール

 これらは火球ファイヤーボールの応用になるので、初歩の火球ファイヤーボールが出来る様にならなければ手を出してはいけないと、スイールは注意をすると、素直にエゼルバルドは頷いた。

「戦闘魔法、例えば、火の魔法だが、火を起こし、それを飛ばすだけなら簡単だ。その魔法を渦巻き状にする、壁状に広げる、となれば難易度、つまりは魔法のイメージが難しくなり、それだけ魔力を消費するようになる。その他に武器に纏わせるって魔法もあるらしいが、私は今まで見たことが無い。当然、出来ないけどね」
「スイールでも出来ない魔法なんてあるんだぁ」

 ”そりゃあるさ”とエゼルバルドに向かって話した後、小声で”見せられない魔法もあるけどね”と遠い目をしながら呟いた。

「ん?スイール、何か言った」
「何も言って無いよ」
「聴こえた気がしたんだけどなぁ……。ま、いっか!」
「それじゃ、今までの事を纏めるよ。威力を上げるには魔力を溜める必要があり、時間がかかる。範囲を狭くすれば威力は増し、広くすれば威力は拡散される。そして、魔法には難易度による違いがある。なんとなく、わかる?」

 先程までの魔法の練習ができるとキラキラ輝いていた顔から、こんなの出来るわけがないと、暗い顔になりかけていた。だが、エゼルバルドの表情を読み取りスイールはなだめる様に話を続ける。

「まぁ、最初から出来る人はいないから安心していいよ」
「う、うん……」
「それに、使える元素魔法の属性、火球ファイヤーボールが属する火と、その他に水土風雷の五種類が属性として分類されている。まぁ、回復魔法とか別なのもあるけどね。で、練習しながら、五種類の中から得意な魔法を伸ばしていくといい」

 その言葉を聞いて暗い顔は姿を消し、少し明るい顔が覗いていた。

「まぁ、まずは火を撃ち出す魔法かな。これが一番簡単だからそこから練習しよう」

 長い説明と蘊蓄が終わり、やっと練習が始まるとエゼルバルドは喜んだ。
 だが、練習の前に、吹きすさぶ寒い風によって固まった体をほぐすように体操を始める。厚手の外套や手袋を身に着けていたとはいえ、この寒さでは体温が下がるのはしょうがない。
 二人で温める様に体を動かし、ガチガチになった体をほぐし終える。

 体が温まった所で、エゼルバルドは魔法を発動させるために集中し始める。握った杖の魔石が黒から青く変色し、一秒もしないうちに左手に集めた魔力が火の塊となり、水面へ向かって飛んで行く

火球ファイヤーボール!」

 二十メートル程飛んで水面へと着弾すると、”ボウッ!”っと燃える音と共に火が弾ける。威力はスイールの火球ファイヤーボール程は無いが、一先ず火球ファイヤーボールを撃ち出す事に成功した。

「うん、初めてにしては良いね。もうちょっと魔力を圧縮してみようか」

 スイールに初めての戦闘魔法を褒められ、にやけるエゼルバルドだが、注意点を聞きもう一度、魔力を集め出す。
 先程と同じ一秒ほどで、左手に集まった魔力が火の塊となり、水面へと飛んで行く。

 先程の火球ファイヤーボールと同じように着弾し弾けるが、今回は威力が上がっておりうっすらと水面から湯気が立ち上っていた。

「うん、その調子だね。でも、集中すればもっと小さくできる。ただ、今はその位が限界だと思った方がいい。それ以上負荷をかけると、魔法を撃ち出す回数が少なくなる。少しずつ慣れていくといい。今は撃ち出すことに慣れる事が先だよ」

 エゼルバルドはスイールの的確な指導に大きく頷くと、さらに火球ファイヤーボールを撃ち出す練習をして行く。
 それから十回も撃ち出すとエゼルバルドは”ゼーゼー”と肩で息をするようになった。

「はぁはぁ、なんで…集中しているだけで息が……」
「それが精神力が無くなった現象、魔力枯渇状態だ。今日は疲れて限界だろうから、練習は終わりだ。さぁ、帰ろう」

 魔法を十数回打ち出しただけで、肩で息をするとは思ってもいなかったエゼルバルドは不思議そうに口を開いた。剣術の訓練ではかなりの時間打ち合って、初めて息が上がるのだが、と。
 それをスイールが答えて疑問を解消すると、二人は疲れた体に鞭打って帰路に着いたのである。

「でも、スイールは魔法をバンバン撃ってたけど、疲れたりしないの?」

 そう言えばとスイールに率直な疑問を向けた。
 魔法を放った数からすれば、スイールとエゼルバルドはほぼ同数、いやスイールが数では勝っていた。それなのに、疲労している様子を微塵も見せていない。

「いや、疲れるぞ。だけど、魔法を使って魔力枯渇状態にすると、何故か体内で使える魔力量が増えるんだよ。それに得意な魔法を使えば少ない魔力で魔法を使えるようになるのさ。だから、まだまだ使える魔力が少ないから練習を沢山すると、だんだん疲れなくなるし使える魔力量が増えるよ。これから、毎日練習して沢山使って、魔力枯渇状態にしてごらん。一か月もすれば効果がわかるからね」
「う~ん。やっぱり、毎日練習しかないんだ……。でも孤児院じゃ毎日練習できないよ。沼まで来るの大変だし……」

 今までの生活魔法では、孤児院の裏手の広場で練習が出来たが、攻撃魔法では
着弾時に音が出て迷惑も掛かれば、燃え広がって火事になる可能性もあった。魔法の練習が好きなエゼルバルドはどうすれば良いかと、頭をひねるのだった。

「それは練習のやり方次第だな。例えば、火球を撃ち出さずにその場で留めてごらん。それでも練習になるんだよ。他の元素でも一緒だ。でも、雷の魔法だけは注意するんだぞ」
「なんとなくわかった。よし、これから頑張るぞ!!」

 明日からも同じように魔法の練習をして、スイールに”近づいてやる”と固く決意するのであった。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ちょっと~!二人で何処へ行ってたのよ!を置いて酷いじゃない!」

 スイールのあばら家へ帰ると、怒りながら近づく人影が見えた。”か弱い乙女”と聞こえ、耳がおかしくなったのかとエゼルバルドは思った。

「えっと、って誰の事だ?」
「そんなの決まってるじゃない。わたしの他に誰かいる?」

 エゼルバルドにふくれっ面でヒルダが怒りを向けている。両手を腰に当てて、少しだけ攻撃的な姿勢を見せて。

「いつも、シスターと重い獲物メイスを振り回して、回復魔法も教えて貰ってる誰が、なのかな?」
「あ、あれは……。シスターとの約束で教えて貰ってるだけなのよ、もう~!!」

 ふくれっ面をさらに膨らまして、プンプンと可愛く駄々をこねて怒っている。その姿を見て、まだまだ子供だなぁ、とスイールは微笑むのであった。

「まぁ、いいわ。今まで何処へ行ってたのよ!」
「スイールと魔法の練習」
「そう、魔法の練習を教えに」
「私に黙って?」
「自称”か弱い”誰かさんは、いつもシスターに教えてもらってて時間ないだろ?」
「シスターに教えて貰っているなら、私からは無用でしょう」

 ヒルダの問いかけに、エゼルバルドとスイールそれぞれが口を開いて答える。
 エゼルバルドやスイールの言う通り、半年ほど前から回復魔法や打撃武器の訓練をシスターから教わり始めていた。その為に、攻撃魔法主体の練習は必要ないと考え、ヒルダを誘わなかったのだ。

「シスターからの教えに加えて、私の練習を増やすのは詰め込みすぎで良くありません。シスターもかなりの使い手ですから、それだけの方が練習になりますよ」

 スイールはさらに一言付け加えてヒルダに説明するのだが、ヒルダの機嫌はますます悪くなっていった。

「それはそれ!これはこれ!!」

 余計な一言はヒルダの怒りに油を注いだだけであった。
 さらに怒りを露にしたヒルダの機嫌を何とかしつつ、その日は過ぎて行くのであった。
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