義妹に婚約者を奪われて国外追放された聖女は、国を守護する神獣様に溺愛されて幸せになる

アトハ

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婚約破棄

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「偽聖女エリーゼ! 第一王子の名のもとに貴様との婚約を破棄して、貴様を国外追放処分とする!」

 それは突然のことだった。
 大切な話があると婚約者のイディル王子に呼び出され、王宮の広間に向かった矢先のこと。
 大勢の貴族が集まっている中、まるで晒し者にするように私の婚約者ことイディル王子が声を張り上げた。


「偽聖女とはどういうことですか?」
「しらばっくれるな! 貴様は不正で聖女になったのだろう? 本物の聖女は、貴様の妹のスールだ!」

 私とイディル王子は、いわゆる政略結婚であった。
 聖女の権力を手にして、第一王子の権力を盤石にするための婚姻関係だ。

 イディル王子の背中に隠れて、義妹のスールがおろおろとこちらを窺っている。
 しかし目が合うなり、一瞬だけニヤっと意地の悪い笑みを浮かべた。

 私とスールは、辺境の農村で生まれ育った義理の姉妹だ。
 今から数年前、教会の「どちらかが聖女である」というお告げにより王宮に連れて来られたのだ。


「私の祈りで【紫紺の枝】は白い花を咲かせました。不正などしておりません!」

 聖女の役割は、国に加護を与えてくださる神獣様に祈りを捧げることだ。
 この国は、聖女の祈りと神獣の加護により栄えて来たのだ。

 教会から与えられる「紫紺の枝」に真っ白な花を咲かせることが、聖女として認められる条件である。
 そこには神獣の意思が大いに反映されており、神獣に祈りが届いたとき何人たりとも不正は不可能だ。

 私の育てた紫紺の枝は美しい真っ白な花を咲かせた。
 一方、スールは花を咲かせることすら出来ず、私が聖女に選ばれた。
 そこに不正の余地など無いことは、イディル王子が一番分かっているはずなのに。


「お姉さまは、私が咲かせた純白の花をへし折りました。それだけでなく、どす黒い花を、魔力で白く染め上げたのです。そのようなこと……私、怖くて、怖くて──!」
「よくぞ勇気を持って告発してくれた。エリーゼ、申し開きはあるか?」

「申し開きも何も、まったくもって事実無根です!」
「黙れ! ならば私の愛するスールが、嘘を吐いているというのか!? 国を守るべき聖女が不正などとは許しがたい。恥を知れ!」

 婚約者のあまりの言い草に、私は思わず言葉を失った。

 私の義妹は、とにかく愛想が良い。
 ニコニコ笑みを絶やさず、庇護欲をそそる愛らしい顔をしている。
 女らしさが足りない、可愛げがない、などと面と向かって言われる私とは正反対だ。

 でも大切なのは実直さだ。
 義妹がふわふわとダンスに興じる間、私は必死に聖女としての修行に臨んだ。
 聖女として相応しいあり方を、行動で示してきたつもりだった。
 どんな些細な儀式でも、決して手を抜いたことなど無い。それなのに──


「さらに貴様は変な宗教を、国内で広めたらしいな? この国を破滅に導く魔女め!!」
「……まさか、そのような戯言を信じるのですか?」

 スールが、私をおとしめる噂を広めていたのは知っていた。
 私が邪教に手を染めている、などという否定するまでもない馬鹿らしい噂だ。
 少しでも調べれば、事実無根であることは分かるだろうに。


 しかし王子は、スールの言葉を鵜呑みした。
 愛らしい容姿だけで、スールは王子の心を鷲掴みにしたのだ。
 さらには口先1つで思うままに王子を動かしてみせたのだ。

 スールは涙ながらに訴える。

「お姉さまは、邪教に手を染めています。このままお姉さまが聖女で居ては、国が滅んでしまいます」
「大丈夫だ。こいつの企みも、ここまでだ! ここで引導を渡して、俺は新たな婚約者としてスールを迎え入れる!」

「まあ……イディル王子! 素敵なお話ですわ」

 スールを安心させるように微笑む王子。
 熱く見つめ合うスールとイディル王子。

 ああ、そういうことですか。
 とっくの昔に、2人は心を通わせていたのでしょう。
 私が聖女として国のために働く傍ら、イディル王子は私を裏切って義妹と愛情を深めていたのでしょう。


「分かりました、国外追放を受け入れましょう。……ですが私が神獣に祈ることをやめれば、この国の結界は薄まります。農作物の実りも悪くなるはずです」
「ふん。我が国には、真の聖女たるスールが居る。無用な心配だな」

 心の底からの忠告だが、イディル王子はバカバカしいと笑うのみ。


「おい、衛兵! 罪人に堕ちた元聖女のエリーゼを辺境の開拓村に連れて行け!」
「は? ですが……」

「貴様ら! 俺の命令が聞けないというのか!」

 衛兵たちは、信じられないと王子を見返した。
 しかし王子の視界には、もはやスールしか視界入っていないようだ。
 そうして私は、あっさりと国外に追放されることとなった。


「さようなら、お姉さま。これに懲りたら、少しは女としての魅力を磨くことね」

 私が最後に目にしたのは、王子にしだれかかり勝ち誇った笑みを浮かべるスールの姿。
 ──そうして私は、辺境の開拓地に追放されることになった。
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