義妹に婚約者を奪われて国外追放された聖女は、国を守護する神獣様に溺愛されて幸せになる

アトハ

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開拓村

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 私が送り込まれたのは、辺境にある開拓村。
 罪人が流れつく流刑地だった。

「これは……。ひどい有り様ですね」

 まさしく荒れ果てた不毛の地。
 人々は暗い顔で、畑を耕していました。
 土地が死んでおり、作物の実りもなく苦しんでいる様子。
 おまけに結界も薄く、現れたモンスターに自力で対処する必要がありそうだ。

 今まで王宮でぬくぬくと育ってきた貴族令嬢には、あまりにも過酷な地。
 大方、イディル王子とスールは、私がここで野垂れ死ぬと思ったのだろうが……


***

「狩りの時間じゃああああ!」

 開拓村で暮らしはじめて1週間後。
 私は、すっかり辺境での暮らしに馴染みきっていた。
 ちなみに王宮に慣れるまでは、丸一年かかった。
 やっぱり私はこちらの方が性に合っているらしい。

 そう。私もスールも、元はと言えばただの田舎娘。
 おまけに私は、故郷では山にこもってサバイバル生活を楽しんでいた田舎娘だ。
 王宮で慣れぬダンスに興じるより、野山を駆け回っている方が100倍楽しい。

「エリーゼ! そっちに行ったぞ!」

 私の目の前には、まっとうな貴族令嬢なら悲鳴を上げそうな牛型モンスター。
 凶悪そうな角を構えてまっすぐこちらに突っ込んでくるが、私の目には美味しそうなお肉にしか見えない。


「おまかせを……! セイントプリズン!」

 私とて一応は聖女だ。
 この程度のモンスターは、相手にもならない。
 私の魔法を受けて、牛型モンスターはバタリと倒れた。

「何度見てもエリーゼちゃんの魔法は凄まじいな!」
「さぞ名のある術者なんだろうな! それなのに、こんなところに送り込まれるなんて……。いったい何をしでかしたんだい?」

「だから聖女だったって、何度も言ってるじゃないですか!」
「はっはっはっ。聖女様といえば、吹けば飛ぶような華奢な少女だって話じゃないか。『晩飯じゃああああ!』ってモンスターに飛びかかるエリーゼが名乗るには、ちょ~っとばかし無理があるんじゃないか?」

 別段隠すことでも無い。
 正直に「私が聖女なんですよう!」と主張したが、まるで受け入れられる様子がない。……解せぬ。


「今までならビーストボアが相手なら、犠牲者を覚悟するほどだった。それを、こんなにアッサリと倒せるようなるとはなあ──」
「みなさんがうまくこちらに誘導して下さったおかげですよ!」

「可憐な嬢ちゃんにモンスターを押し付けるなんて、普通だったら許されない行為だとは思うんだが……」
「まあエリーゼちゃんは例外だろ。可憐な女の子は、モンスターを一撃で仕留めたりはしねからな」
「ははっ。違いねえ」

 随分と失礼な会話だ。
 まあ下手に距離を取られるより、この距離感が心地よいのだけど。


「こう見えて私、元・聖女ですからね! その程度の相手なら、じゃんじゃん任せてください!」
「はっはっは、まだ言うか。こんな辺境に流されて目を輝かせるようなたくましい女が、可憐な聖女様である訳あるか!」

 聖女というイメージが独り歩きして、すっかり色々な人を騙しているみたいですね。
 ……残念ながら中身、私なんですけどね。

「それでは畑の方で、豊作の祈りを捧げてきますね。ああ、新鮮でみずみずしい果物の美味しさたるや! 来年の収穫が、今から待ち遠しいです!」
「ま~たそんなに無茶をして。魔力はもうすっからかんだろう?」

「薬を飲めばへっちゃらです!」

「それは大丈夫って言わないんだ。いいから今日はもう休め!」
「まったく、油断もすきもあったもんじゃない。エリーゼは気を抜くと、ぶっ倒れるまで魔法を使っちまうんだからな」

 王宮で聖女として働いていた日々を思えば、まだまだ楽勝なんですけどね?
 過保護な村の住人たちは「いいからもう休め!」と私を食事処に連れていく。

 むう。まだまだ信頼には程遠いということか。
 開拓村の人に認められるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。
 もっと頑張らないと……私は内心で、えいえいおー! と気合を入れるのだった。
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