ねえ、ヒロインちゃんにストーカーされてるんだけど!? アホ王子に婚約破棄されたので冒険者になって自由に生きようと思います!

アトハ

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2. ねえ、ようやく冒険者になれる時が来たんだけど!?

 怒り狂ったセドリック王子により呼び出された私は、アメリアへのいじめについて詰問されていた。

「シャーロットよ。
 何か私に言いたいことがあるのではないか?」
「なにもありませんっ!
 ……ではなくて、理由をお聞かせいただいてもよろしいですか?」


 思わずこぼれ出た本音をどうにか隠す。


「貴様は己の身分を傘に、身分の低いアメリアをいじめたそうだな。
 そのような者は、王妃の器ではない。何か申し開きはあるか?」
「いじめなどという事実はございません。
 ですが殿下の信頼を得られなかったのは事実。
 謹んでその判断に従います」


 私、断罪されてるのね!
 ウキウキした。

 本で読んで以来、ずっと憧れていた光景だ。
 ここまで願ったとおりに物事が進むなんて、と私は感動に打ち震える。
 私は自らの行動で「自由」という権利を勝ち取るのだ。
 

「……いじめを否定はしないのだな。
 言い逃れされることも予想して、証拠も揃えたのだがな」
「殿下の信用するアメリアの発言こそ、何よりの証拠でございます。
 全面的に言い分を呑みますわ」


 否定する悪役令嬢に王子が偽の証拠を突きつけるまでが様式美だが、あいにく私に否定する意志はない。
 にやける頬を必死で抑えて、神妙な表情を作り出す。
 

「アメリア・オルコット。
 私の目の届かないところでの、シャーロット・フローライトによる陰湿ないじめ。
 ここの書状に書かれていることは、すべて真実なのだな?」
「……はい、事実です」

「つらい思いをさせた。
 よくぞ勇気を出して告発してくれた」

 王子の陰で縮こまるアメリアは、小動物のように可愛らしい。
 これから百戦錬磨の令嬢たちを相手に、貴族社会を生きていけるのか不安だ。

「セドリック様。
 すべては平民でありながら、セドリック様を愛してしまった私が悪いのです」

 そう言いながらアメリアは泣きそうな顔を浮かべた。

(まるで物語の中のヒロインと王子みたい!
 その調子よ、ヒロインちゃん!)

 内心で喝采を上げながら、私はのんきに2人の様子を見守っていた。


「シャーロット様は悪くありません。
 だからどうか厳罰は……」
「アメリアは優しいのだな」

 息をするように好感度を稼いでみせるヒロインちゃん。
 ああ――アメリアなら大丈夫ね、そう思わされる圧倒的な演技力。


「アメリアの優しさに免じて、処刑は勘弁しておいてやろう。
 だとしても未来の王妃に対する振る舞いは、許されるものではない。
 よってシャーロット・フローライトから貴族籍を剥奪する」

「どういうことでしょうか?」
「すでに貴様の両親とも話はついている。
 これからはフローライトの姓を名乗ることは許さない。
 今日から貴様は平民だ」


 ついに平民宣言いただきました。
 セドリック王子、本当にありがとうございます。
 生まれて初めて愛してます!


「そしてアメリア・オルコットを新たな婚約者として迎え入れることを、セドリック・エンドルフィンの名の下に宣言する」

 小説ならここがエンディングであろうか。
 力強く宣言してみせたセドリック王子を、アメリアは潤んだ瞳で見上げる。
 そしてこう答えた。



「え、嫌です……」



 はて、何ですと?

「ア、アメリア・オルコット。
 今なんと言ったのかな?」

 一世一代の告白。
 それを容赦なく否定され、セドリックはポカンとしていた。
 私を断罪するために集められた彼の取り巻きも同様だった。


「私はお姉さまについて行きたいのです」

 駆け寄ってきて、とんでもないことをのたまうヒロインちゃん……ことアメリア。
 え、待って? そんなの聞いてな――


「お姉さまは、いつだって私の面倒を見てくださいました。
 王子の隣に立てる立派な淑女になるため、貴族のマナーを徹底的に仕込んで下さいました。
 平民では許されない、王妃教育を受ける段取りまで組んでくださいました」

 たしかにそうだけど、そんなこと暴露しないで!?
 私は物理的にアメリアの口をふさぐと、


「ア、アメリアさんは少々取り乱していらっしゃるみたいです。
 それに――私が罪に問われたら、こう言えと脅していたのです。
 さきほどのアメリアの発言は事実無根です!」

 む~、む~ と腕の中でアメリアがジタバタする。

(ここまで、うまくいっていたのに!)

 最後の最後にとんだ伏兵がいたものだ。
 腕の中でアメリアはまるで納得いかないとでもいうように。
 ぷくーっと頬を膨らませていた。可愛い。


「どうしてしまったのだ、アメリア……」

 アメリアの変わりように、セドリック王子まで困惑していた。
 話を強引にでも進めないとまずい。


「アメリア、本当にどうしてしまったのですか。
 王子と結ばれる、またとないチャンスなのに!」
「チャンスを作って下さったのは、感謝しています。
 そんなことよりも、私はお姉さまの力になりたいんです!」

 小声で説得しようとするも、アメリアは思いのほか頑固。
 どうしようかと頭を巡らせていると、


「アメリア、これが最善だと話し合っただろう。
 シャーロットのためを思うなら。
 それ以上は困らせるだけなのも、分かるはずだ」

 王子の発言。

 どういうことでしょう?
 アメリアはその声を受けてハッとしたように言葉を止めると、


「そうですよね」

 そううなずく。
 そしてしずしずと王子の元へと戻って行った。

 丸く収まった……のかな。


「それでは失礼します。
 醜い嫉妬からアメリアに嫌がらせをしたこと。
 こうして王子のお手を煩わせたことを謝罪いたします」

 私がアメリアを虐めていた、ということを疑われては大変だ。
 念押しの意味も込めてアメリアへの嫌がらせを強調する。


(予想外の展開もあったけど、大筋では予定どおりね!)

 王城を後にしながら、思わず笑みがこぼれる。
 油断するとすぐにでも「やったー!」と叫びだしてしまいそうだった。
 この瞬間のために今日まで生きてきたのだ。
 今日ぐらい浮かれるのは許してほしい。


 それにしても――


(お姉さま。私は諦めませんからね?)

 去り際でのアメリアの様子を思い出す。
 王子の隣で微笑みながら、口だけで伝えてきたそんな言葉。

(ま、まさかね)


 アメリアは念願叶って王子と結ばれるのだ。
 そんな言葉、気のせいに決まっている。


 私のそんな予想が希望的観測にすぎなかったことは、想像よりもずっと早く証明される事となる。
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