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フィアナ、ボス部屋へ
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「えいっ!」
「えいやぁ!」
ボコッ! グシャッ!
その後もダンジョン攻略は、順調に進んでいました。
エリンちゃんが前衛としてモンスターを次々と撲殺し、主に私は素材集め、時々、魔法でエリンちゃんを支援する形です。
クラス本来の役割とは正反対ですが、このパーティーとしては、この形がしっくりきます。
「そういえばエリンちゃんは、ビッグバンの魔法にこだわりがあるの?」
地下3階に入った頃、私はエリンちゃんに気になっていたことを聞きます。
「え、どうして?」
「だって、明らかに難易度が高いのに、授業で使おうとしてたからさ」
ビッグバン――第5冠魔法に属する魔法です。
第5冠の魔法は、儀式魔法に片足を突っ込むとエルシャお母さんが言っていました。
正確に発動させるには大規模な魔法陣をまず描き、複数人の術者が協力して、ようやく発動できるという難易度の魔法らしいのです。
(まあ、エルシャお母さんは指パッチンで発動させてましたが……)
あの場で、アドリブで発動するには無理があると思うのです。
「こだわりもなにも、学園で見つかってるのが、あの魔法ぐらいしかないんです」
「え!? そんなことあり得るんですか?」
エリンちゃんの答えを聞いて、私は驚きを隠せません。
「いいですか、エリンちゃん。光属性の本質は、癒やしと支援のはずです。攻撃に転用するのは、どうしようもない強敵に抗うための最終手段。まず最初に覚えるべきは――」
ちなみに私が光魔法についてそこそこ詳しいのは、ルナミリアで元・聖女のナリアさんに教わったおかげです。
「癒やしと支援? でも……、伝説の大聖女さまは、神聖な魔法で邪悪なモンスターを次々と浄化していったって聞きました」
腑に落ちなそうな顔で、エリンちゃんは首を傾げます。
「フィアナちゃんは、その話、誰から聞いたの?」
「ナリアさんっていう昔はせい――」
「せい……?」
(ッと、危ない!)
(ナリアさんからは、聖女が生きてるってことは内緒にしておいてって言われてました!)
「えーっと……、故郷で知り合いの光属性が使える魔法使いさんから――」
こほんと言葉を濁す私に、
「フィアナちゃんの故郷、凄いんだね!」
疑う様子もなく、エリンちゃんは目を輝かせるのでした。
***
ダンジョンに潜り始めて1時間ほどが経ちました。
今いるのは、ちょうど地下4階――すなわちボス部屋前の休憩スペースです。
「光魔法の本質は、癒やしと支援……、ですか。想像も付かないですね」
エリンちゃんが、困った顔でそう言いました。
エリンちゃんが言うには、そもそも光魔法は使い手が少なすぎて、まとまった文献は数えるほどしかないそうです。
「光の魔導書――平民差別をどうにかしたいって、シリウス先生が取り寄せてくれたんです。そこに唯一載っていた魔法がビッグバンでした」
「なるほど……」
よりにもよって、ビッグバンか――と私は頭を抱えたくなりました。
資料が少なすぎて、魔法の難易度すら分からなかったのでしょう。
実際、初級の癒やし魔法である治癒の光も、もっとも単純な筋力増強魔法《シャープネス》も、その資料では触れられてすらいなかったそうですから。
「エリンちゃん、もし良かったら私が教えようか? もしかするとこれまで信じてきたものとは全然違うやり方になるかもしれないけど――」
「是非ともお願いします。少しでも可能性があるなら――」
私がそう尋ねると、エリンちゃんは食い気味にそう返してきました。
悲壮感すら感じさせる必死な表情で、
(私がナリアさんから教わっていたのは、この日のためだったのかも)
光魔法に適性のない私が教えるなんて、まるで説得力はないけれど。
それでも、エリンちゃんの真っ直ぐな視線には、どうしても応えたいと素直に思います。
「えっと、詠唱はこんな感じで――」
――万物に宿りし癒やしの力よ。
私は、ナリアさんに教わった詠唱を思い出し、口ずさみます。
手掛かりがない時、詠唱はたしかにイメージの固定化に役立つのです。
「えっと、万物に宿り癒やしの力よ」
「私の知る限り、詠唱っていうのはイメージを具現化するためのキーフレーズに過ぎません。それより大事なのは、行使したい現象を具体的にイメージする力」
「具体的にイメージ……」
むむむ、と眉をひそめるエリンちゃん。
ビッグバンという超大規模魔法に、癒やしという得体の知れない力。やっぱり光魔法は、発動難易度が群を抜いて高いと思います。
「それと――何より大事なのは信じる心。奇跡を起こすのは、いつだって人の願いです――まあ全部、受け売りなんですけどね」
ペロッと舌を出す私。
「信じる心、ですか……。それは――何よりも難しいですね」
「私は信じてるよ、エリンちゃんのこと。あの魔法が、あそこまで形になってたんだもん――並外れた努力をしてきたんだと思う」
「そう……、なんでしょうか――」
真剣な表情で悩んでいたエリンちゃんでしたが、
「そろそろ行きましょうか」
ボス部屋に突入するべく、そう腰を上げるのでした。
***
ボス部屋は、ひと言でいうと巨大な闘技場といった風貌でした。
大理石でできた直径数十メートルはあろうかという巨大な部屋で、中央には石造りの戦闘スペースが鎮座しています。
戦闘台の上では、鎧を来た騎士が佇んでおり、まるで挑戦者を待ち受けているよう。
「あいつに勝てばクエストクリアですね!」
「はい。まさか私が、ここまで来られるなんて――」
エリンちゃんが、感極まったようにそんなことを言いました。
――和やかな空気は、そこまででした。
グギャァァッァア!
地下深くから、唐突に鳴り響く地響き。
続いて背筋を凍らせるような咆哮が、地の底から響き渡ります。
「い、いったい何が!?」
「フィアナちゃん!」
怯えたエリンちゃんが、ギュッと私に抱きついてきます。
次の瞬間でした。
「あれは――ドラゴンブレスッ!」
感じたのは、魔力の本流。
突如として眩いレーザー光が地面を貫き、空を穿つように放たれていったのです。
戦闘スペースと思わしき石畳は、今やブレスで完全に消滅していました。
生み出されたのは、さらなる地下へとつながる巨大な穴。
ばさり、ばさりと音を立て、そこからのそりと姿を表したのは漆黒の巨体――ドラゴン。
「そ、そんな――」
鋭い眼光を受け、エリンちゃんはぺたんと座り込んでしまいます。
ギシャァァァアアア!
こちらを威嚇するような鋭い咆哮。
――それが開戦の合図となりました。
「えいやぁ!」
ボコッ! グシャッ!
その後もダンジョン攻略は、順調に進んでいました。
エリンちゃんが前衛としてモンスターを次々と撲殺し、主に私は素材集め、時々、魔法でエリンちゃんを支援する形です。
クラス本来の役割とは正反対ですが、このパーティーとしては、この形がしっくりきます。
「そういえばエリンちゃんは、ビッグバンの魔法にこだわりがあるの?」
地下3階に入った頃、私はエリンちゃんに気になっていたことを聞きます。
「え、どうして?」
「だって、明らかに難易度が高いのに、授業で使おうとしてたからさ」
ビッグバン――第5冠魔法に属する魔法です。
第5冠の魔法は、儀式魔法に片足を突っ込むとエルシャお母さんが言っていました。
正確に発動させるには大規模な魔法陣をまず描き、複数人の術者が協力して、ようやく発動できるという難易度の魔法らしいのです。
(まあ、エルシャお母さんは指パッチンで発動させてましたが……)
あの場で、アドリブで発動するには無理があると思うのです。
「こだわりもなにも、学園で見つかってるのが、あの魔法ぐらいしかないんです」
「え!? そんなことあり得るんですか?」
エリンちゃんの答えを聞いて、私は驚きを隠せません。
「いいですか、エリンちゃん。光属性の本質は、癒やしと支援のはずです。攻撃に転用するのは、どうしようもない強敵に抗うための最終手段。まず最初に覚えるべきは――」
ちなみに私が光魔法についてそこそこ詳しいのは、ルナミリアで元・聖女のナリアさんに教わったおかげです。
「癒やしと支援? でも……、伝説の大聖女さまは、神聖な魔法で邪悪なモンスターを次々と浄化していったって聞きました」
腑に落ちなそうな顔で、エリンちゃんは首を傾げます。
「フィアナちゃんは、その話、誰から聞いたの?」
「ナリアさんっていう昔はせい――」
「せい……?」
(ッと、危ない!)
(ナリアさんからは、聖女が生きてるってことは内緒にしておいてって言われてました!)
「えーっと……、故郷で知り合いの光属性が使える魔法使いさんから――」
こほんと言葉を濁す私に、
「フィアナちゃんの故郷、凄いんだね!」
疑う様子もなく、エリンちゃんは目を輝かせるのでした。
***
ダンジョンに潜り始めて1時間ほどが経ちました。
今いるのは、ちょうど地下4階――すなわちボス部屋前の休憩スペースです。
「光魔法の本質は、癒やしと支援……、ですか。想像も付かないですね」
エリンちゃんが、困った顔でそう言いました。
エリンちゃんが言うには、そもそも光魔法は使い手が少なすぎて、まとまった文献は数えるほどしかないそうです。
「光の魔導書――平民差別をどうにかしたいって、シリウス先生が取り寄せてくれたんです。そこに唯一載っていた魔法がビッグバンでした」
「なるほど……」
よりにもよって、ビッグバンか――と私は頭を抱えたくなりました。
資料が少なすぎて、魔法の難易度すら分からなかったのでしょう。
実際、初級の癒やし魔法である治癒の光も、もっとも単純な筋力増強魔法《シャープネス》も、その資料では触れられてすらいなかったそうですから。
「エリンちゃん、もし良かったら私が教えようか? もしかするとこれまで信じてきたものとは全然違うやり方になるかもしれないけど――」
「是非ともお願いします。少しでも可能性があるなら――」
私がそう尋ねると、エリンちゃんは食い気味にそう返してきました。
悲壮感すら感じさせる必死な表情で、
(私がナリアさんから教わっていたのは、この日のためだったのかも)
光魔法に適性のない私が教えるなんて、まるで説得力はないけれど。
それでも、エリンちゃんの真っ直ぐな視線には、どうしても応えたいと素直に思います。
「えっと、詠唱はこんな感じで――」
――万物に宿りし癒やしの力よ。
私は、ナリアさんに教わった詠唱を思い出し、口ずさみます。
手掛かりがない時、詠唱はたしかにイメージの固定化に役立つのです。
「えっと、万物に宿り癒やしの力よ」
「私の知る限り、詠唱っていうのはイメージを具現化するためのキーフレーズに過ぎません。それより大事なのは、行使したい現象を具体的にイメージする力」
「具体的にイメージ……」
むむむ、と眉をひそめるエリンちゃん。
ビッグバンという超大規模魔法に、癒やしという得体の知れない力。やっぱり光魔法は、発動難易度が群を抜いて高いと思います。
「それと――何より大事なのは信じる心。奇跡を起こすのは、いつだって人の願いです――まあ全部、受け売りなんですけどね」
ペロッと舌を出す私。
「信じる心、ですか……。それは――何よりも難しいですね」
「私は信じてるよ、エリンちゃんのこと。あの魔法が、あそこまで形になってたんだもん――並外れた努力をしてきたんだと思う」
「そう……、なんでしょうか――」
真剣な表情で悩んでいたエリンちゃんでしたが、
「そろそろ行きましょうか」
ボス部屋に突入するべく、そう腰を上げるのでした。
***
ボス部屋は、ひと言でいうと巨大な闘技場といった風貌でした。
大理石でできた直径数十メートルはあろうかという巨大な部屋で、中央には石造りの戦闘スペースが鎮座しています。
戦闘台の上では、鎧を来た騎士が佇んでおり、まるで挑戦者を待ち受けているよう。
「あいつに勝てばクエストクリアですね!」
「はい。まさか私が、ここまで来られるなんて――」
エリンちゃんが、感極まったようにそんなことを言いました。
――和やかな空気は、そこまででした。
グギャァァッァア!
地下深くから、唐突に鳴り響く地響き。
続いて背筋を凍らせるような咆哮が、地の底から響き渡ります。
「い、いったい何が!?」
「フィアナちゃん!」
怯えたエリンちゃんが、ギュッと私に抱きついてきます。
次の瞬間でした。
「あれは――ドラゴンブレスッ!」
感じたのは、魔力の本流。
突如として眩いレーザー光が地面を貫き、空を穿つように放たれていったのです。
戦闘スペースと思わしき石畳は、今やブレスで完全に消滅していました。
生み出されたのは、さらなる地下へとつながる巨大な穴。
ばさり、ばさりと音を立て、そこからのそりと姿を表したのは漆黒の巨体――ドラゴン。
「そ、そんな――」
鋭い眼光を受け、エリンちゃんはぺたんと座り込んでしまいます。
ギシャァァァアアア!
こちらを威嚇するような鋭い咆哮。
――それが開戦の合図となりました。
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◇
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