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2.王都書生編

7.情けが仇のススメ

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 おっさんAが泣きながら、仲間を助けてくれと頼んでくるので、致し方ない。
 自力で立ち上がれるくらいまで他の5名のおっさん、兄ちゃんを回復魔法で治療してやった。
 
 でも、欠損部位は直してやらないよ。これに懲りて、自分の行いを反省するがよいさ。

『主殿は、甘いのう。まったく』

 エクスは悪人面から眼球が取れなかったからか、俺に苦情を言ってくる。

 聞きたい情報も聞けたので、おっさんたちを放置して、誘い込まれた路地から大通りへ戻り、宿の区画へ向かう。あとはおっさんAの話の裏をとるだけだ。






 とりあえず、旅人のふりをして、宿をとる。

 宿の値段は、、、、、えーー、マジで本当に高い。
 
 1泊銀貨3枚。

 行政大学校へ入学したあかつきに、父上と約束している仕送りは、月に銀貨20枚しかもらえないに、1泊で銀貨3枚だと!王都の同じくらいのグレードの宿と比較して、1.5倍の価格設定じゃないか。

 ちなみに、近隣の宿もすべて同じ値段だった。
 おまけに、部屋の掃除も雑で、従業員の愛想も悪い。ぼったくり感満載だ!
 
 やばい、この値段だったら、ここに1週間もいたら、破産してしまう。

 破産を防ぐため、2日目と3日目の昼までエクスと24時間体制を組んだ探知魔法ローラー大作戦を発動。終日、宿の部屋にいながら、代官所と御用商人の館の会話をすべて盗聴できた。作戦が無事功を奏し、路銀が尽きる前に代官、御用商人が真っ黒であることが確認できてよかった。

 3日目の晩、どうやって、不正を暴くか策を練ろうとベッドに寝ころびながら考えを巡らせていたら、俺の左目に、悪意のある集団が見えた、というか悪意の色を感じた。どうやら宿が囲まれたらしい。面倒なことになる前に、転移魔法で、宿から少し離れたところへ退避しよう。





 宿から、大通りを挟み、少し外れた住宅地の通りへ転移した。

『宿を襲ってきたのは、おっさんAの関係者「獅子の牙」だな。他に俺と会話をしたのは宿の従業員くらいしかいないはずだ。従業員には怪しい動きはなかったし、嫌なニオイもしなかった』

『大方、王都の密偵と勘違いされたのであろうな。主殿よ。歳の割にひねくれていると思ったが、まだまだ甘いのう。あの時やつらを助けてやったのはやはり失敗じゃったな。これを期に「情けが仇」という諺を覚えるがよいぞ。』

「くっ」

 この幼女声で説教されると余計に腹が立つが、おっさんAとその仲間たちをあの時、葬っておけば確かに、宿を襲われることもなかったので、言い返せない。

 ん?ふと、違和感に気が付いた。

『あれ?少し離れたところに魔力を感じる。弱っているみたいだ』

『ふむ。確かにのう』

 誰かに見られないとも限らないので、転移魔法を使わず、走って魔力の持ち主の方へ向かう。走りながら、魔力の持ち主が、複数の追手に追われているのを探知した。

『少し離れて様子をみよう』

 とエクスへ提案する。
 遠目でみると、小柄な魔法師が、複数の追手を退けながら、逃げていていた。

『人間にしては、なかなか練度が高い魔素じゃな。だが、追手が多い。どうするのじゃ。主殿よ。』

 とエクスが問いかけてくる。

『ピンチになったところで助けに入るか』

『タイミングをみて、恩を高く売るつもりとは、主殿も小者感が半端ないのう。それと、「情けは仇」の教訓をもう忘れたか?』

 自分でもピンチのところで助けに入る英雄感満載のベタな演出に羞恥心を抱いていたので、エクスにハッキリ言われて、余計に恥ずかしい。

『初対面は、信頼感が大事だから助けるタイミングが大事なんだよ。それと追手は間違いなく御用商人の護衛か犯罪組織の構成員。「敵の敵は味方」かもしれないから、なにか情報が得られるかもしれないだろう』

 魔法師が追手の一人にわき腹を切られ、倒れこんだところで、俺は、魔法師と追手の間に颯爽と現れ、助けに入る。風魔法を使い、つむじ風を起こし、追手の目をくらました。その間の隙を突き、小柄な(俺よりも身長が高いが)魔法師を抱え、街はずれまでダッシュで連れ出した。

 街はずれで、魔法師を地面にそっとおろすと、魔法師は、警戒してか、這って俺と少し距離をあける。さきほど切られたわき腹以外にも、両足、両腕、左肩を少なくとも切られており、ローブがところどころ切り裂かれ、血でにじんでいる。魔法師は、魔素も残り少なく、満身創痍で立ち上がれないようだった。

 ローブのフードを着て顔を隠していたが、若い女のようだった。といっても俺よりも年上のようだが。匂いフェチの俺にはニオイでなんとなく歳がわかるのだぞ、と、しょうもないことを考えていたら、魔法師が質問を投げかけてきた。

「何者だ?なぜ助けた?」

 やっぱり、若い女の声だ。俺の匂いフェチも捨てたものでもないな。そういえば、魔法師を抱えて逃げるとき、魔法師から、アンモニア臭を感じた。先ほど追手に切られる瞬間に、ひょっとして魔女っ娘ちゃん、ビビって濡らしちゃったかな、と妄想をしてしまう。

 エクスのため息が聞こえるが、聞かなかったことにしよう。

「少し調べものをしていてね。敵の敵は味方かもしれないと思って助けた」

 と返答をしつつ、エクスに魔女っ娘の思考を読むように頼む。

「あんたこそ、御用商人の館を調べて何を探っていたんだ?」

 とっさに町の地図を思い出し、魔女っ娘が逃げてきた方向に御用商人の屋敷があったので、カマをかける。魔女っ娘がローブの中から、一瞬、苦い顔をしたが見えたので、当たっていたようだ。

『主殿よ。こやつは、御用商人の裏帳簿か代官との癒着の証拠を探していたようじゃ』

 エクスが魔女っ娘から読み取った思考を教えてくれた。その情報を頼りにさらに魔女っ娘へ問いかけていく。

「御用商人の不正の証拠と代官との癒着の証拠を集めてなにをするつもりだ。お前の飼い主はだれだ?」

 魔女っ娘は言葉を発しない。

『こやつは、王族の娘っ子が主のようじゃ。第三王女といっておる。この町の代官や商人の不正の証拠を集めるように命令されたようじゃ』

 エクスのヒントで、カラクリがおおよそ読めた。いや、読めてしまった。

 王族もすでにこの町の状況に目をつけていて、相当やばい状況であることを悟った。下手したら、エクリン家、お取りつぶしの憂き目にあうな。

 エクスの言う通り、魔女っ娘を見捨てて「情けは仇」を実践しておけばよかったな、と今更ながら後悔した。
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