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2.王都書生編

10.歳の差があっても、ありはありのススメ

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 魔女姉さんが泣き止みようやく落ち着いた、と思ったら、それ以来、俺との距離が近い。
 物理的な距離の意味で。
 
 俺の身体のピッタリと身体を寄せてきて、体重も軽くかけてくる。俺より10cm近く身長が高いから、むしろ俺が寄りかかりたい。

 それと、まだ名を名乗りあってから、2時間ほどしか経っていないのに、いつの間にか「アルフレッド殿」から「アルフ君」に呼び名がかわっている。自分のことも「シルフェさん」か「シルフェちゃん」と呼ぶように指定してきた。さすがに歳の差を考えると「ちゃん付け」はできないよね。

 「パルスキーの雇われ代官の不正問題口外無用及びお漏らし隠匿盟約」が無事両者の全面的な合意で締結されたため、心を開いてくれたようだ。

 それに、結局、貴族の誓いを信じてくれたようで、魔法で契約を縛ることも要求されなかった。

 川辺で火を囲みながら、二人で、俺の持っていた干し肉とトウモロコシ粉のスープといった簡単な携帯食で夕食兼夜食を食べながら、なんの脈絡なく、シルフェさんが聞いてくる。

「アルフ君は、歳はいくつなの?」

「12だけど」

 正直に答える。シルフェさんが小声でつぶやく声が聞こえた。

「4, 5歳差か。そのくらいだったら、ありよね。」

 う、うん。そういう意味だよね。
 俺もどちらかというと年上好きだし、隣に座るシルフェさんから良いニオイがするので、俺にとって幸(さち)をもたらす人物だと鼻が告げている。もちろん、もう洗濯済みだから、アンモニアの残り香はない。残念。

 いやいや。そうはいっても俺はまだ書生で、学生にもなっていないので、今すぐどうということはないのだけど。


 

 少しして、お茶を飲み終えたところで、シルフェさんが、急にまじめの顔をしてくる。

「アルフ君、それで、パルスキーの町で、黒幕の御用商人と犯罪組織の獅子の牙をどうやって、一掃するつもりなの?」

 しばらくは仲間として一緒に行動するので、シルフェさんが、第三王女に報告するための土産として、俺の「表の作戦」ぐらいは伝えておこう、と思い今後の方針を説明する。

「シルフェさん、御用商人が黒幕と言っただけど、本当の黒幕は別にいると思う。御用商人も単なる使い走りの一人にすぎないよ」

「でも、御用商人が中心となって、獅子の牙に指示して犯罪行為を行い、口止めのため、代官へ多額の賄賂を贈っている証拠がここにあるわ。御用商人の家へ忍び込んで裏帳簿の一つを盗んできたもの」

シルフェさんの口調がさらに女性らしくなり、俺に心を許してくれているのだなと感じて、うれしくなった。

「本当にずるがしこい奴は、自分の手を汚さず、表にも出てこない。俺の師匠によると、そういうやつは、進退窮まった時の逃げ道や言い訳を少なくとも3つは、用意しているものだそうだよ」

もちろん師匠とは、愛読書「小役人のススメ」の一説のことだ。

「黒幕は、別の人物だとすると誰になるの?ひょっとして、獅子の牙の頭目?」

「いや、雇われ代官が黒幕だよ」

 シルフェさんは納得しない。

「でも、代官は私が調べた限りだと、賄賂を懐にいれているだけで、自分から悪事にはかかわっていなかったわ」

「御用商人と代官の利益の取り分は、6対4。一見御用商人の取り分が代官より多いように思うけど、商人は、その後、獅子の牙へ、拠点の維持費用や構成員の人件費を定期的に支援している。獅子の牙の頭目の取り分も多くて1割ほど。結局御用商人の手元に残るのは、儲けの2割しかない。だから、代官が4割、御用商人が2割、獅子の牙の頭目が1割、という配分になっている。これがやつらの中の力関係なのさ」

シルフェさんは、それでも、納得していない顔をしているので、さらに続ける。

「実際の兵力を考えると、獅子の牙の構成員は約50名。対して、代官所兵士は70名ほど。装備も違えば、訓練の熟練度でも獅子の牙は大きく劣る。本気の戦いになれば、代官所の圧勝だよ。それがわかっているから、御用商人も利益の取り分について、自分の手を汚していない代官へ文句を言い出せない。それと、代官はいつでも言い逃れできるようにちょっとした小細工をしている。懐にいれた御用商人からの賄賂を、ほんの少しだけ、町の運営費用に意図的に混ぜているんだよ。もし悪事が発覚した場合は、御用商人にすべての罪をかぶせて、自分は逃げおおせるつもりだ。きっと、御用商人に税収や町への商品の物流を抑えられ、住民生活を人質に取られていたから、やむを得ず悪徳商人に手を貸した、というシナリオで逃げるつもりだね。代官自ら住民へ圧力をかけて、御用商人に対する訴えを出さないようにしているくせに、「住民から訴えがないから動くに動けなかった」と言い張る準備も万端な状況だよ」

「あ、あなた、どうやってそこまで調べたの?」

 シルフェさんが目を丸くして、俺が説明した内容に驚いている。もちろん、全部、エクスとの探知魔法ローラー大作戦で代官所、御用商人の屋敷の会話を遠隔で盗聴して集めた内容だ。情報の出どころは、魔法が使えることがバレるので言えない。
 俺は、曖昧に笑ってごまかす。

「それで、攻める順番だけど、代官を最初に問い詰めても、やむを得なかったと言い訳され、せいぜい代官職を辞任して、幕引きを図ると思う。あとは蓄えた賄賂を抱えて、どこかへ高飛びするだけだ。あと、御用商人を攻めても、獅子の牙の兵力を使ってくるから鎮圧するまでに、長引くと思う。だから、まずは獅子の牙をつぶして、その後、御用商人、そして最後に代官の順番でいくつもりだ」

 推薦状のために、町の再建の道筋をつけるための時間を考えると、あと1-2週間ほどで、代官まで落とさないとならない。俺一人では時間が足りないので、助っ人を呼んでいることもシルフェさんへ説明した。
 
 実は、シルフェさんが洗濯中に、シンバへ急ぎ手を借りたいというメッセージを送った。エスクに使い魔を出してもらい、招集すると同時に、シンバとアーチャー家のいつもの護衛のうち2名を、今いる川辺の近くまで転移魔法で呼び寄せていた。シルフェさんに転移魔法のことを気付かれないよう、この川辺から少し離れた場所へ転移させ、使い魔の先導で、徒歩で移動してきている。
 
 おそらく、あと30分ほどで3人と合流できる予定だ。

 それはそうと、シンバはエクスのことや俺が魔法を使えることを知っているからよいけど、護衛2名に転移魔法のことが、今回の件でバレてしまった。2名とも、俺が小さいときから顔も知っており、シンバが重用しているので、おそくら信用できる。今後、この2名は、俺の手駒として動いてもらうことにしよう。そのため、この辺で俺の秘密を共有すると覚悟を決めた。シンバもうまく言い含めてくれるだろう。

 予想通り、30分後に、シンバとアーチャー家3名が俺たちに合流した。

 シルフェさんからの裏帳簿の情報もあわせて、今後の作戦の打ち合わせを3時間ほどして、俺、シルフェさん組、シンバと護衛2名組の二手に分かれた。俺とシルフェさんは、夜明け前にパルスキーの町へ闇にまぎれて、再度潜入することにした。
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