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4.行政大学校イベント編
1.分厚い眼鏡は努力の証と思うことのススメ
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行政大学校に入学してから、4か月が経過した。
その間に、同学年の魔技研究会(魔技研)の連中とつるむようになった。いつもの日課として、午後の講義が終わった後は、週に一度程度、魔技研究会のサロンに顔を出しに行くのが日課になっていた。
「おい、アルフ。そういえば、ジェシカ様に、午後の講義が終わった後、サロンに顔を出すように、という伝言を頼まれた」
いつもつるんでいる仲間の一人、魔技研究会の同級生、エンローキが、代表のジェシカさんから今朝、伝言を頼まれたとランチを食べながら説明してきた。
「今日はサロンに顔を出す日ではないんだけど、なにかあったのか?」
「詳しくは知らないが、お前に用事があるそうだぞ。ジェシカ様に名指しで指名されるなんて羨ましいよ。俺もルートン家のご令嬢に呼び出されたい」
「用件もわからず、単純に喜べるか!!」
エンローキのアホは無視して、ジェシカさんは何の用事だろうか。呼び出されたのは今日が初めてだ。悪さをした心当たりがないため、財務閥絡みの面倒事でないといいけど、と一抹の不安を抱える。
午後の講義が終わったのち、魔技研究会のサロンへ顔を出す。
ジェシカさんサロンの談話室の中に見当たらないので、サロンにいた魔技研の先輩にジェシカさんに呼ばれたことを告げ、居場所を知らないかと聞くとサロンの隣の応接室へ行くように指示される。
「今まで気が付かなかったけど、魔技研に応接室なんてものがあったんだ」
と、不思議と感心した。
応接室のドアをノックすると、愛想のない、見知らぬ出っ歯の分厚い眼鏡をかけたメガネ女子が対応してくれた。俺は、魔技研究会ではまだ新参者なので、印象をよくするため丁重に挨拶をする。
こういう日ごろの配慮と努力が狭い官僚世界では大事なのだ。
「小役人のススメ」でも、「越することより、和することを貴ぶ」という一説がある。成果を出して目立つことよりも、敵をつくらない事の方が大事という意味だ。いかにも官僚らしい考え方だけれど、俺は、入学してからこの教えを行動原則にしている。
「お初にお目にかかります、アルフレッド・プライセンと申します。ジェシカ・ルートン様に呼ばれ、参上いたしました。ルートン様へお取次ぎを願います」
眼鏡出っ歯女子も名前を名乗ってくる。
「リアナです。2回生で、魔法技術研究会の執行委員をしています。代表を呼びますので、どうぞおかけの上、お待ちください」
あれ? 家名を名乗らない、ということは、平民出身ということか?
と俺が疑問に思っているのが伝わったのか、出っ歯眼鏡女子が、さらに説明してくる。
「私は平民出なので、家名はありません。無作法なため、ご無礼がありましたら平にご容赦を」
あ、そうだ。思い出した。リアナという上級生の事を。
入学してからの4か月で、校内の目立つ人は大体調べつくしたからね。
情報は官僚にとって命綱だ。
眼鏡出っ歯女子ことリアナさんは、確か、平民出だが、人並み以上の努力で、成績上位を維持している一人だ。
中央政府の内官の家の出身で派閥の伝手があれば、試験の過去問や参考図書といった情報が自然と回ってくる。そのため、事前に傾向と対策を立てやすく効率的に準備ができる。ただ、そういう貴重な情報は、不正を疑われるため、同じ研究会に所属していても、よほど個人的な信頼関係がないと、お互いに情報共有はしないのが暗黙のルールだ。
リアナさんみたいな平民出身者は、校内で、数も少なく協力しあえる者もいない。内官出身の同級生との元々の情報格差や参考図書を買う経済余裕もない不利な状況にもかかわらず、成績上位者を維持しているということは、よほどの努力がないとできないことだ。
分厚い眼鏡は伊達ではなかったな、と非常に感心した。
「リアナ先輩は、入学以来、常に結果を出されていると耳にしています。私は地方の田舎貴族の出のため、内官家のような伝手はありません。リアナ先輩の実績は私にとって大いに励みになりますし、敬服いたします」
こういう工夫と努力を体現している人に俺は尊敬と好感をもってしまい、つい本音を口にしてしまった。フランド王国は王族をトップとした階級社会であるため、上級生と言えども、貴族が平民に下出にでて称賛する行為はタブーだ。
言われた方もバツが悪いだろうと思い、非礼を詫び、丁寧語のみで敬語はやめることにする。
「失礼した。つい、本音を口にしてしまったようです。私もまだ研鑽が足りないですね。先ほどの発言は、どうぞ聞き流してください」
リアナさんは、俺が称賛した時に、一瞬驚いた顔をしたがその後は、デフォルトの愛想のないというか無表情な顔に戻った。
「代表をよんできます。そのまま、少々お待ちください」
といい、部屋を出ていった。
『なかなか興味深い人間模様であったぞ。主殿よ。人間社会の面倒くささもまた面白いものだな。実に興味深い。クァハッハッハッハ』
なぜかわからないが、人間社会の珍しいものがツボにはまったのか、エクスだけはご満悦だった。
その間に、同学年の魔技研究会(魔技研)の連中とつるむようになった。いつもの日課として、午後の講義が終わった後は、週に一度程度、魔技研究会のサロンに顔を出しに行くのが日課になっていた。
「おい、アルフ。そういえば、ジェシカ様に、午後の講義が終わった後、サロンに顔を出すように、という伝言を頼まれた」
いつもつるんでいる仲間の一人、魔技研究会の同級生、エンローキが、代表のジェシカさんから今朝、伝言を頼まれたとランチを食べながら説明してきた。
「今日はサロンに顔を出す日ではないんだけど、なにかあったのか?」
「詳しくは知らないが、お前に用事があるそうだぞ。ジェシカ様に名指しで指名されるなんて羨ましいよ。俺もルートン家のご令嬢に呼び出されたい」
「用件もわからず、単純に喜べるか!!」
エンローキのアホは無視して、ジェシカさんは何の用事だろうか。呼び出されたのは今日が初めてだ。悪さをした心当たりがないため、財務閥絡みの面倒事でないといいけど、と一抹の不安を抱える。
午後の講義が終わったのち、魔技研究会のサロンへ顔を出す。
ジェシカさんサロンの談話室の中に見当たらないので、サロンにいた魔技研の先輩にジェシカさんに呼ばれたことを告げ、居場所を知らないかと聞くとサロンの隣の応接室へ行くように指示される。
「今まで気が付かなかったけど、魔技研に応接室なんてものがあったんだ」
と、不思議と感心した。
応接室のドアをノックすると、愛想のない、見知らぬ出っ歯の分厚い眼鏡をかけたメガネ女子が対応してくれた。俺は、魔技研究会ではまだ新参者なので、印象をよくするため丁重に挨拶をする。
こういう日ごろの配慮と努力が狭い官僚世界では大事なのだ。
「小役人のススメ」でも、「越することより、和することを貴ぶ」という一説がある。成果を出して目立つことよりも、敵をつくらない事の方が大事という意味だ。いかにも官僚らしい考え方だけれど、俺は、入学してからこの教えを行動原則にしている。
「お初にお目にかかります、アルフレッド・プライセンと申します。ジェシカ・ルートン様に呼ばれ、参上いたしました。ルートン様へお取次ぎを願います」
眼鏡出っ歯女子も名前を名乗ってくる。
「リアナです。2回生で、魔法技術研究会の執行委員をしています。代表を呼びますので、どうぞおかけの上、お待ちください」
あれ? 家名を名乗らない、ということは、平民出身ということか?
と俺が疑問に思っているのが伝わったのか、出っ歯眼鏡女子が、さらに説明してくる。
「私は平民出なので、家名はありません。無作法なため、ご無礼がありましたら平にご容赦を」
あ、そうだ。思い出した。リアナという上級生の事を。
入学してからの4か月で、校内の目立つ人は大体調べつくしたからね。
情報は官僚にとって命綱だ。
眼鏡出っ歯女子ことリアナさんは、確か、平民出だが、人並み以上の努力で、成績上位を維持している一人だ。
中央政府の内官の家の出身で派閥の伝手があれば、試験の過去問や参考図書といった情報が自然と回ってくる。そのため、事前に傾向と対策を立てやすく効率的に準備ができる。ただ、そういう貴重な情報は、不正を疑われるため、同じ研究会に所属していても、よほど個人的な信頼関係がないと、お互いに情報共有はしないのが暗黙のルールだ。
リアナさんみたいな平民出身者は、校内で、数も少なく協力しあえる者もいない。内官出身の同級生との元々の情報格差や参考図書を買う経済余裕もない不利な状況にもかかわらず、成績上位者を維持しているということは、よほどの努力がないとできないことだ。
分厚い眼鏡は伊達ではなかったな、と非常に感心した。
「リアナ先輩は、入学以来、常に結果を出されていると耳にしています。私は地方の田舎貴族の出のため、内官家のような伝手はありません。リアナ先輩の実績は私にとって大いに励みになりますし、敬服いたします」
こういう工夫と努力を体現している人に俺は尊敬と好感をもってしまい、つい本音を口にしてしまった。フランド王国は王族をトップとした階級社会であるため、上級生と言えども、貴族が平民に下出にでて称賛する行為はタブーだ。
言われた方もバツが悪いだろうと思い、非礼を詫び、丁寧語のみで敬語はやめることにする。
「失礼した。つい、本音を口にしてしまったようです。私もまだ研鑽が足りないですね。先ほどの発言は、どうぞ聞き流してください」
リアナさんは、俺が称賛した時に、一瞬驚いた顔をしたがその後は、デフォルトの愛想のないというか無表情な顔に戻った。
「代表をよんできます。そのまま、少々お待ちください」
といい、部屋を出ていった。
『なかなか興味深い人間模様であったぞ。主殿よ。人間社会の面倒くささもまた面白いものだな。実に興味深い。クァハッハッハッハ』
なぜかわからないが、人間社会の珍しいものがツボにはまったのか、エクスだけはご満悦だった。
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