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6.新派閥旗揚げ編

4.未知との遭遇の際は心を整理することのススメ

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 ジェシカパパは、官僚のトップらしく、慎重に、俺らがどこまで魔技省の窮地を把握しているか確認してくる。俺は、ここ数日で、第一王子、公爵だけでなく魔技省までローラー探知大作戦をエクスと強行していたので、おおよそは理解しているつもりだ。

 「慎重になる気持ちはわかるが、胸襟を開いてもらわんと話がすすまんぞ。卿たちの残された時間は、あと1年と少しじゃと理解しておる。魔技省での人事異動という名の実質解体も近いということもすでに耳にしておる」

 「そこまでお耳に入っておいでとは。試すような真似をして失礼しました。何分、我が身の恥となります事柄ですので、平にご容赦を」

 「まぁよい。我が「お節介」をやいたのは、第二王女を担ぎ上げたからには、今更、魔技閥は、第一王子派には尻尾は振れんじゃろう、と思うてな。我は、卿の魔法技術の産業化、という壮大な夢に人生を注ぎ込んできた生き様に共感しておる。これでも我も魔法師を自認している一人じゃからのう。それで卿が知りたがっておる「新技術」の内容にうつるかのう」

 と俺は言い、ここ数日で調べたジェシカパパのこれまで経歴、実績及び性格から、心に刺さるような言い回しで共感を演出する。魔法技術の産業化という共通の目標をもっている、技術屋出身の内官と魔法師はきっと相性がよいはずだ。

 俺は、魔石化した黒色の鉱石を3つ、ジェシカパパとアリアさんの間のテーブルの上に置く。

 「これらは、ブラックストーンという魔石じゃ」

 ジェシカパパとアリアさんが手に取ってよいか?と目で訴えてくるので、了承の意図で俺はうなずく。俺は魔法師であるアリアさんへはブラックストーンの取り扱いに注意を与える。

 「殿下よ。それは魔素に反応する性質があるのじゃ。下手に魔素を活性化せぬようにな」

 二人がそろそろ種明かしをするように表情で催促してくれため、ネタばらしをする。

 「それは、元々は特殊な鉱石だそうな。その鉱石は自動制御を施した魔法を記憶させることができる。一定の法則で制御された魔素を浸透させると魔石化され黒く変色する。そのため「ブラックストーン」と言われておる」

 ジェシカパパが急に立ち上がり、前のめりになり、ツバを飛ばしながら興奮した口調で、質問をぶつけてくる。

 「ゲファルナ卿!!こ、この魔石は、一定の法則性を持った魔法の元、つまり、時間軸で制御された魔法がはいっている魔法具の核ということですか!!」

 「その通りじゃ。もし、その魔石、「ブラックストーン」を発動できれば、誰でも魔法具と同等、またはそれ以上の魔法を使えるようになるという訳じゃ」

 あれ?ジェシカパパが急に天井を向いて、「信じられない」とつぶやいている。

 ジェシカパパが、ブラックストーンをみて、なぜこんなに衝撃を受けているかというと、以下の事情があるからだ。

 現在の魔法は、五行説などの縛りがあるものの、非常に有用な技術と認識されている。火魔法では、炎が出せるし、土魔法ならば、大型の建造物から、細かい細工を形作ることができる。しかし、魔法師の人口比率は世界的に非常に低く、当然、希少な魔法師がいないと魔法の恩恵にあずかることはできず、その用途は、国の優先順位の高い、軍事目的にしか活用されていない。

 一方、魔法具という魔法を発動できるデバイスも存在している。以前フーバを拘束した「待針」も魔法具の一つだ(注:魔法具「待針」は俺が遊びで作った「人工」の魔法具だけど)。

 しかし、魔法具は古代遺跡で発掘された実績しかなく、遺跡発掘の際、みつけることができるかどうかは、偶然に頼るのみとなっている。しかも、魔法具を仮に発見しても、どんな魔法の効果があるのかは、魔法具を使ってみないと分からないというギャンブルの要素もある。しかし、その希少性から、使い道が微妙な魔法具であっても、王族、大貴族の蓄財用につかっている白金貨がでてくるほど、非常に高価な価格で取引されている。

 今回、俺が見せたブラックストーンは、二重の意味で、ファンタジーな技術となっている。

 一つは、ブラックストーンをつかって、魔法具を人工的に製作できる可能性があることだ。量産できれば誰でも魔法がつかえるようになり、軍事目的以外の用途も期待できる。

 そして、もう一つは、魔法の効果をあらかじめ、設計し、時間軸で制御することで、複数の動きを組み合わせることができることだ。言い換えると、魔法具の込める魔法に、時間という概念を組み込んだ発展版である点だ。

 例えば、通常の魔法具に火魔法「ファイヤーボール」が組み込まれているならば、魔法具を発動すると、単に火の玉が飛ぶだけだ。

 一方、ブラックストーンの場合、火魔法「ファイヤーボール」の火力を、15分程度引き延ばし、かつ一時的に弱めることをインプットして、魔素を浸透させれば、強い火力の火の玉が飛ぶ代わりに、弱火力で15分間持続燃焼し、その後は強火力の炎に戻すことが可能となる。

 もちろん、一定レベルの魔法師ならば、ファイヤーボールを発動する際、ブラックストーンと同じような火力と時間調整が理論上はできる。それは、魔法師の魔素量と魔法制御技術次第ではあるが。

 つまり、ブラックストーンの登場は、古代遺跡で偶然に頼って発掘されていた魔法具が人工的につくれるようになる可能性があることと、同時に、魔法具の魔法の効果を制作者が用途に応じてある程度チューニングができるようになる、ということを意味している。

 『主殿よ。この人間は今、未知との遭遇してしまい、心の整理をしておるようじゃ』

 ジェシカパパは、今、俺がエクスと初めて会った時と同じ心境なのだろう、とエクスの言葉で想像した。
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