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7.フロンティア開発編

5.気まぐれから生じた掘り出し物を探すことのススメ

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 俺は、エクスとゲファルナート島の首都エクスをつくりながら、自分の配下の組織改編案を考えていた。いつかはやらないと、と思ってはいたのだけど,,,,,,。

 赤獅子会とノーフェースの把握について、アリア派の参謀業務やシルフェさんの世話やら、エクス・ゲファルナート魔法王国建国準備などで後回しになってしまっていた。

 首都エクスの整備は、昨日まででおおよそ終わったので、あとは、エクスの土ゴーレムたちに任せてきた。数日後に念のため様子を見に行こうと思い、その間は少し手が空いた。

この機会に配下組織について考えようと決めた。

 ・パルスキーの赤獅子会
 ・王都の暗殺組織のノーフェース

 赤獅子会の13名の小汚い凶悪な顔は全員覚えている。毎晩、シルフェさんと一緒に寝るため、俺はパルスキーに毎日顔を出しているから、嫌でも名前と顔を覚える。

 一方、ノーフェースは、オーファと名前をつけた幹部4名まではいいけど、後の構成員は記憶にない。どんな構成員がいるかというのがわからないと、組織改編案をつくることはできない。

 『あやつら似たような仮面をつけているから、まったく印象に残らんな。主殿よ』

 そうなんだよ。よく考えたら、ノーフェースはオーファの方針で、全員仮面をつけていた。だから、名前と顔を覚えられなかったんだよな。そう思い、構成員にマスクを外させ、名前と顔を覚えるために、王都のスラム街にあるノーフェースのアジトで数日過ごすことにした。

 「主様。ようこそお越しくださいました」

 「ようこそお越しくださいました」

 俺がアジトに行くと、オーファと幹部4名が全員そろって慇懃に挨拶してくる。もちろん、全員仮面装着済みだ。これがいかん。仲間内にも普段顔をさらさないとはどんなテレやさんなんだ。

 「オーファ。2-3日ほど滞在する。構成員にマスクを外すよう命令をだせ。考えてみれば、オーファと幹部4名以外の名前と顔を俺は知らないから、それはよくないと思ってな」

 「承知いたしました。確かに、敵地や護衛地で主様とバッタリお会いした際に、名前と顔を覚えていただけていない構成員は、全員始末されてしまいますからな。これはうっかり気がつかぬことで失礼しました」

 俺は、オーファの返事に、「なんでバッタリ会ったやつを殺す前提なんだ!どんだけ物騒で危険なヤツなんだよ。俺は!」と思ったが、面倒なので、言葉にはしない。

 オーファの命令がすぐさまノーフェースのアジト中に伝わり、全員が仮面をはずす。

 俺はアジトの隅から隅までみせてもらい、構成員たちに話をきき、名前と顔を覚えていくつもりだ。俺の後をオーファがついてくる。

 俺の視察に、オーファだけでなく幹部4名も従ってくるつもりだったようだが、視察が大げさになり、構成員たちと気軽に話せないため、オーファの同行のみ許した。

 幹部たちはあからさまにがっかりした顔をしていたが無視する。

 ノーフェースは70名ほどの組織で、現在、アジトには40名ほどの構成員がいる。ほとんどが暗殺や護衛任務を行う実働部隊だが、構成員の食事の準備、アジトの掃除や維持などの雑用をこなす下男、下女が数名いた。その中の一人で、俺と同い年くらいの栗毛の女の子が俺の目にとまった。

 『これは。掘り出し物じゃな』

 エクスも彼女の魔素の濃さに反応する。

 栗毛の女の子の魔素は、暗殺集団の実働部隊の構成員のそれよりも格段に濃い。

 人を含め、すべての生物は魔素を体内に持っている。だが、多くの人は、魔素の多さや濃さ、つまり量が足りず、魔法という特定事象を発現できることはない。その栗毛の女の子は、魔素が濃く、訓練すれば、かなりの魔法師になれると思ったので興味をもった。

 「オーファ。あの栗毛の娘は誰だ?」

 「お目に留まりましたか。彼女はリーゼといいます。1年ほど前に、暗殺対象の者と一緒にいたところ、連れて行ってほしいと懇願されまして。それ以来、仕方なく雑用係として組織においています」

 オーファの話によると、ある娼館の主が阿漕をしすぎて大勢の恨みを買った。そのうちの一人が、ノーフェースに暗殺依頼をしてきたそうだ。オーファと部下数人が娼館主を暗殺した場で、このリーゼが娼館主の相手をさせられていて、勢いあまって助けてしまった、ということだった。

 娼館主がリーゼの上で腰を振っているとき、オーファが気配を消して後ろから忍び寄り、娼館主の首を切り裂いた。娼館主の下にいたリーゼは、突然、娼館主の鮮血で全身赤に染まったが、驚いた事に声をあげなかったそうだ。

 その際、彼女は、自分は孤児で行くところもない。娼館主が殺されたのに、自分だけおめおめ生き残ったりしたら、きっと、娼館中の男たちから嬲り殺される。この場で殺してほしいと懇願してきた。オーファは、今のうちに逃走するように勧めたそうだが、それでも、逃げる宛もないので殺してほしい、もし殺すにも値しないというならば、どうか一緒に連れて行ってほしい、なんでもするから、と縋り付いてきたそうだ。

 オーファ自身も孤児だったため、同情から気まぐれを起こし、リーゼを連れ帰った。その後、ノーフェースに雑用係としておいているとのことだった。スパイの可能性もあるため、監視を1年あまりつけていたが、これまで怪しいところもなくまじめに食事の世話など雑務に励んでいるということだった。

 なかなか、壮絶な人生だな。

 でも、この世界は人の命が軽い。
 
 オーファの気まぐれがなければ、孤児だった元娼婦の命など、簡単に消えていたはず。

 左目でこの栗毛の娘をみたが、悪意の色は全く見えなかった。
 おそらくスパイなのではなく、本気でオーファに助けを求めたのだろうと思った。

 俺は、オーファにリーゼと二人で話をしたいので手配するように伝えた。

 『主殿よ。人間しては、なかなかの魔素の濃さ、気になるな。魔女っ娘と同じくらいの手練れに育つやもしれんな』

 リーゼは、国中から選りすぐられた才能が集う、魔術大学校で主席だったシルフェさんくらいの魔法師になるかもしれない逸材だ、と思った。
 エクスもまさに俺と同じ意見をもったようだった。
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