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8.新国家樹立編

3.力関係とキーパーソンを探ることのススメ

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 「た、助かったのか」

 ハンスベーダ王国の使節団団長のバーザ・ピスカ・フェシムは、安堵の声を上げる。

 非常に統率の取れた海賊船4隻の襲撃を受け、最大船速で今回の外交交渉を行う、エクス・ゲファルナート魔法王国へ逃げてきたが、追い付かれる寸前だった。

 突然、死角だったためか、よくわからなかったが、いつの間にか現れた所属不明の軍艦2隻に助けられた。

 あの鮮やかで強力な風魔法と水魔法。
 おそらく、あの軍旗は、エクス・ゲファルナート魔法王国の軍艦であろう。所属を知るため、軍旗を確認すると、「宝石」、「太陽」そして「水」を現しているようで、見たこともない旗を掲げていた。

 エクス・ゲファルナート魔法王国。いつの間にか、国を建国し、そして、手練れの海賊を退ける海軍力を保持している。さらに、魔法師の質が非常に高いことにバーザは驚きを隠せない。

 バーザ・ピスカ・フェシムは、ハンスベーダ王国の前国王の第十子で、中年の域に入ろうとしている。王位継承権の順位こそ低かったが、堅実な人柄で、現国王、兄であるユベンザ・ピスカ・フェシムからの信頼が厚い人物だった。本来ならば、国交もまだ樹立してもいない、建国間もない未開な土地へ使節団団長として派遣される地位ではなかった。

 しかし、国王の強い要望を受け、全権を委任され遣わされてきた。なぜならば、その未開な国は、希少な魔法具の取引を示唆してきたためだ。魔法具取引をハンスベーダ王国の王家がすべて牛耳り、なんとしても貴族の介入を防ぎたい。

 バーザの兄である国王ユベンザから受けた密命は、

 魔法具取引の可能性を探ること 
 その魔法具の詳細を調べ、価値を見極めること。
 そして、
 もし、有用な魔法具が多数ある場合は、その取引を王家で独占するように交渉してくること。

 その道中で、海賊船に襲われるという不運に見舞われたが、幸いにも無事逃げおおせた。しかも、未開の土地と思っていた、交渉相手国の力の一端を知ることができた。魔法師のレベルが高く、軍事力もそれなりにもっていることを交渉前に目の当たりにできた幸運に感謝した。

 未開の土地と侮り、交渉に臨んだ場合、本来取れた利を失うことにつながりかねないと気持ちを引き締める。

 バーザ率いる使節団の船2隻は、エクス・ゲファルナート魔法王国の軍艦1隻に誘導され、ゲファルナート島の入江にある港に到着した。魔法王国のもう軍艦1隻の軍艦は、どうやら海賊船を拿捕し、海賊たちを全員、無力化、拘束しているようだ。その様子を、バーザは、遠ざかる甲板から眺めていた。





 「ハンスベーダ王国の外交使節団の方々とお見受けした。ようこそ、エクス・ゲファルナート魔法王国へ。歓迎いたします」

 港に着くと、事前に早船でも出したのか、魔法王国の官吏たちが出迎えのために待ち構えていてくれた。歓迎されるている雰囲気、そして細かな配慮や手配りがあり、非常に印象がよかった。なんとなく雰囲気がフランド王国に似ている、とそんなことをバーザは感じた

 「ハンスベーダ王国の外交使節団団長バーザ・ピスカ・フェシムです。貴殿は、どなたかな?」

 一番位が上であろう人物に名を尋ねた。

 「エクス・ゲファルナート魔法王国 宰相シンバ・アーチャーと申す」

 出迎えに宰相を差し向けるとは、この国の国王は、人が良いのか、甘いのか。それとも我々は大歓迎を受けているのか。

 早々に、位の高い人物を早々に出すと、その次の奥の手がなくなる。そのため、わが国ならば、こういう場合は実務担当者の上位の者を差し向けるのが通例だ、とバーザは思った。

 「宰相殿のお出迎えとは、恐縮の至りです」

 「いやいや。私など名ばかり宰相ですからな。すべて国王陛下と総督にお任せですよ。ハッハッハッハ」

 バーザは本心を図りかねた。宰相位より軍務を預かる総督職の方が上なのだろうか。それと、この宰相は、文官とは思えない引き締まった身体をしている。まるで軍人のようにみえる。

 そして、もし宰相の話が本当ならば、この魔法王国は、国王自ら政務の詳細までみている。これからあるであろう、短い時間の国王陛下との謁見の間で、兄から指示されている必要な情報がすべて集められるかだろうか、と少し心配になった。





 「ハンスベーダ王国の外交使節団団長バーザ・ピスカ・フェシム殿。遠路はるばるご苦労じゃな。不運にも海賊船に追われ、肝を冷やしたであろう。ゆるりとしていくがよい」

 この方が、エクス・ゲファルナート魔法王国プロト・ゲファルナート国王陛下か。

 小柄な風貌で黒のローブに不思議な仮面をつけているため表情が読めない。

 手にしている魔法杖は、鷲の形をかたどり、豪華な装飾が施され、複数の魔石が埋め込まれる。見るからに高位の魔法師といった雰囲気だ。私は魔法師ではないため、配下の魔法師たちに謁見が終わった後、どの程度の魔法師か確かめないと、とバーザは考える。

 国王陛下の隣には、若い見目麗しい魔法師姿の娘が侍っている。陛下とおそろいの黒のローブを羽織っているため、妻か、または、弟子のいずれかだろう。

 プロト陛下を挟んで、魔法師の娘と反対側には、黒の軍服の銀髪の無表情な男が立っていた。宰相が言っていた総督だろう。そしてその手前にシンバ・アーチャー宰相殿が控えている。こうしてみると、宰相殿が一番普通に見える。どういう力関係なのかさぐらないと国王陛下以外のキーパーソンがわからない。





 陛下への謁見が終わり、一旦、王宮の隣の迎賓館に下がる。急ぎ、側近の配下と魔法師たちを呼び集め、プロト国王陛下、妻か弟子の魔法師、銀髪軍服の総督、宰相殿たちについて感じたことを話しあうことにした。
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