意地っ張りな俺とヘタレなあいつ

ちとせ。

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過去編③ 同棲

第十話 紹介するあいつ

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夢から覚醒する一歩手前。

程よくクーラーの効いた寝室で、俺は布団に包まってまどろんでいた。てかクーラーじゃなくて、セントラルなんとかって言ってたっけ。いつでもどこでも快適な気温で過ごせるなんて、まじで超贅沢。ベッドもふかふかで寝心地いいし、羽毛布団もふわふわで気持ちいい。腹は減ってるけど、まだ起きたくない。このまま、まったりごろごろしてたい。

ふんわり柔らかい枕を抱き締めて、また眠りそうになってたのに。

「おーい、啓、おるんやろー」

マンションのドアを開ける音と同時に男の声がして、途端にばっちり目が覚めた。

え? 
誰か来た?

「お前なあ、昨日あれから携帯の電源切ってたやろ? 連絡くらいせえっちゅーの」

でかい声がこっちへ近づいてくる。

まじ? こっち来る?
てか俺、マッパじゃん。
ど、どうしよう。

すぐそこまで迫っている足音にどうすることもできず、とりあえず布団を頭から被って枕をぎゅっと抱きかかえた。

バンッ

寝室のドアが乱暴に開く音がして、俺は布団の中でびくりと身を縮めた。

「なんや、まだ寝てんのか。啓、もう昼やで。起きろって」

おらっ。という掛け声とともに、布団を引き剥がされてた。

「ちょ、まっ、」
「おわっ!」

咄嗟に布団の端を引っ張ろうとしたけど、時すでに遅し。俺はベッドの上で大事なところだけ辛うじて枕で隠した情けない状態で、ベッドの傍らに立つ男を呆然と見上げた。男は憎らしいくらい彫りの深い整った顔立ちに困惑の表情を浮かべている。

「おまえ誰や?!」

それは俺のセリフだし。

「「…………」」

しばし無言で見つめ合う、そいつと俺。

啓のダチ?
いや、恋人とか?
もしかして修羅場?
俺、やばい立場?
逃げる?
謝る?

どうするよ、俺。

「姫に決まってるじゃーん」

答えを出せずに固まっていると、ちょっと間延びした別の声が割り込んできた。

げっ。もう一人いたんだ。
って、こいつ。この前、啓と一緒にいた、人形みたいに綺麗な顔したやつだ。

「はあ? 姫さん? けどこいつ男やで?」
「うん。どう見ても男だよねー」
「まじか。姫さんって男やったんか」
「あれ? 瑠偉には言ってなかったっけ?」
「煌、お前とぼけんなや。わざと黙ってたやろ」

てか姫って……
やっぱ啓のセフレのことなのかも。

「だって面白いかなーと思って」
「もうええわ。なんや、こいつが姫さんか」
「そういうこと。啓のベッドで寝てるってことは、姫しかいないでしょ?」
「確かにな。せやけど、えらいぶっさいくやな。想像してたんと全然ちゃうわ」
「そういえば、前に会ったときとちょっと違うような……。あっ、目が腫れてる! へえー、そっかー。昨日の夜は啓に相当泣かされちゃったみたいだねー」

二人の不躾な視線と会話にむっとしつつも、とりあえず何か着るのが先決だと思い、辺りを見回す。ベッドの脇にバスローブが落ちているのが目に止まり、二人が話している間にそれを拾おうと腰を上げかけたとき。

「わーお」
「おおー」

二人の声がして、俺は思わず振り返った。

「すっごーい」
「めっちゃ付いてんな」

二人は呆れ顔で肩をすくめ、お互いに視線を交わすと、まるで俺を憐れむかのような目を向けた。

え? な、なに?
ついてるって、なにが?

「凄いことなってんで、自分」
「え?」

なに?
どこ?

「背中や。背中」

振り返って背中を見ようとしたけれど、見えるはずもなく。

「おおー、首んとこもすげえな。ってことは前にも付いてるな、絶対」
「たぶんねー。姫ってば色が白いから目立つよねー」

だから、なにが?

「ほんまやな。姫さん、えらい色白いな。てかきれいな肌や。腰も細うて……。それにその背中のライン。なんちゅーか……、エロい体してんで、ほんま」
「確かに。姫の体ってすごく、そそるよねー」
「せやな。顔はぶさいくやけど、体は極上や」
「や、目がこんなに腫れてなきゃ、顔も結構可愛いってばー」

失礼極まりないことを言い合う二人を、俺は無言で睨みつけた。

超が付くイケメン二人に比べたら確かに俺はブサイクかもしんないけど、面と向かって貶される謂れはない。俺を値踏みするような二人の視線も気に入らない。

「ほー、ええ目しよるやん、自分」
「なんか余計に苛めたくなるよね」

そう言って、二人が俺に近付いてくる。

「これ。邪魔じゃない?」
「せやな。どうせやし、全部拝まして貰おか?」
「え? や、……ちょ、まっ……」

俺の体を隠している唯一のもの―――枕を二人に取り上げられそうになって、俺は必死になって枕をぎゅっと抱き締めた。

「やだっ!」
「『やだ』って。姫、可愛いねー」
「姫さん、掠れた声もエロいな」
「や、やめっ!」

にやりと意地悪な笑みを浮かべた二人に両側から囁かれて、もう終わりかと覚悟したときだった。

「幸に触んじゃねえっ」

啓が来てくれた。





「こいつら俺のダチで、こう瑠偉るい

遅い昼食を取りながら、俺は改めて啓に二人を紹介された。

「煌はこの前、つっても去年の夏の話だけど、俺と一緒にいたやつ。覚えてる?」
「あー、うん」
「また会えたね、姫」

にこりと笑ってウィンクを寄こす煌に、無言でぺこりと頭を下げる。昼の光の下で会う煌はこの前よりも五倍増しくらいキラキラ眩しい。

「で、もう一人の変な大阪弁のやつが、瑠偉」
「変は余計やで、啓。ま、よろしくな、姫さん」

片手を軽く上げて人好きのする笑顔をみせる瑠偉にも、俺は同じように無言でぺこりと頭を下げた。

「俺ら三人とも幼稚園んときからインターで一緒でさ。大学も一緒なんだけど、こいつらは一年先輩。俺、高三の途中からアメリカに一年留学してっから」
「へえ」

素っ気ない返事しかできないのは、俺だけ場違いなこの場の雰囲気に気後れしてるからだ。元々人見知りなせいもある。

インターってのがなにかはわからないけど、三人は幼稚園からの付き合いで、タイプこそ違えど揃いも揃ってイケメンで、身に着けてるもんや立ち居振る舞いから察するにみんな金持ちの坊ちゃんなんだろうってことはわかった。

「なあ姫さん自分、名前なんっちゅーの?」
「え、っと、……幸」

俺が啓に本名を名乗らなかったことはうやむやになっていて、俺の口から本当の名前を告げる機会を逃してしまった。それなのに啓のダチに言うのもなんだし、と考えて途中まででやめておく。

「もしかして雪か? 姫さん色白いし、ぴったりやな。雪ちゃんって呼んでええ?」
「あ、いいねー、それ。雪ん子の雪ちゃん、可愛いー」

これも類友っていうんだろうか。二人は啓と同じ思い違いをしているらしい。ユキの字が違ってそうだ。それを指摘しようかどうしようか迷っているうちに、啓が横から口を挟んだ。

「ダメ。絶対ダメ。幸って呼んでいいのは俺だけなの」
「ええやん、名前くらい。減るもんちゃうし」
「ムリ。減る」
「なんだよ、それ。啓ってばほんと姫に関しては余裕ないよねー」
「ほんまや。啓お前いつもは俺様のくせに。姫さん限定でヘタレすぎや」
「ほっとけよ」
「いやー、今日はおもろいもん見せてもうたわ。啓が焦ったとこなんか初めて見たで」
「啓ってばずぶ濡れでシャワーから出てくんだもん。血相変えてさー。超面白かったー」
「お前ら鍵返せ。もう二度と来んなっ」

そうか。鍵が開いてたのかと思ったけど、二人は合鍵を持ってんのか。
へえ、そんくらい啓と仲いいんだ。

「てか、啓、晩飯食うてないてほんまか?」
「それって姫とずっとヤりまくってたってこと?」
「は? だったらなんだよ」
「がっつきすぎー。また姫に逃げられちゃうよ?」
「せやで、啓。キスマークめっちゃついてたけど、独占欲も性欲も強すぎや」

そうそう、キスマーク。あのあとシャワーを浴びたときに確認したら、キスマークが体中にあってビックリした。背中とか首にもいっぱいあったけど、特に内股が凄かった。昨日の夜は俺も乱れまくってたし、いつの間にそんなに付けられたのかあんま記憶にないけど。

あっ、けど、あんとき……

啓が俺の足の付け根に吸い付いたときのピリリとした痛みと、啓の飢えた眼差しを唐突に思い出した。途端に体の奥が疼いてしまい、それをやり過ごすためにそっと息を吐き出した。

「おいおい。うまそーやな」
「うん、おいしそー」
「は? ちょ、どこ見て言ってんだよ」
「啓、俺にも味見させろや」
「俺も、食べたーい」
「はあ? 誰が食わせるかっ。てか想像すんなっ! 見んなっ!」
「ええやん一回くらい」
「みんな一緒でもいいしー」
「な、なに言ってんだよ、お前らっ! 幸はそんなんじゃねえっ!」
「え?」

俺?

急に出てきた自分の名前に、頭の中にはてなマークが浮かぶ。首を傾げて啓を覗うと、啓がはっと目を見開いて俺の両肩をがっちりと掴んだ。

「幸、まじで違うから。俺そんなことしねえし。いや、させねえし」
「啓、なんの話?」

焦ったように捲し立てられても、俺には啓が何を言わんとしてるのか意味がわからない。

「うっひゃっひゃっひゃ……、むっちゃおもろい」
「あはは……、啓、焦りすぎー。かっこわるーい」
「うっせー。お前らもう二度と来んなっ! 早く帰れっ! とっとと帰りやがれっ!」

いや待てよ。
味見とか食うとか一緒とかって、もしかして俺のこと?
え? それってセフレの共有? 複数プレー? 

「最低……」

軽蔑の眼差しを向けた俺にますます焦った声で啓が言い募る。

「違う、幸。誤解だって。こいつら俺のこと揶揄って遊んでるだけだから」

二人はどっちかっていうと俺のことを揶揄ってるんだろう。
さっきの寝室でのことといい、冗談にしても性質が悪い。ムカつく。

無言で立ち上がろうとしたところを、啓に腕を掴まれた。

「ちょ、どこ行くつもりだよ、幸」
「前も言ったけど、俺そういうの無理だから。わりぃけど、他当たってくんね?」
「や、まじで違うから。俺、そんなことするつもりねえし」
「ふーん。するつもりはないけど、したことはあるんだ?」
「や、ないない。ないから。まじでそんなことしたことねえから。な? 信じて?」
「どうだか」
「お前ら、笑って見てねえでなんとか言えよっ。誤解だって言ってくれよ」

必死な形相の啓の目線の先では、煌と瑠偉の二人が腹を抱えて笑い転げていた。
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