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過去編③ 同棲

第十一話 俺様なあいつ

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「姫さん、機嫌なおしてや。ほんま悪かったって」
「啓の反応が面白すぎて、つい調子乗っちゃって。ごめんね、姫」

セフレの共有だの複数プレイだのは行き過ぎた冗談で、揶揄って悪かったって煌と瑠偉は言うけど、今もにやにや笑う二人が反省してるとは到底思えない。

とはいえ、二人が揶揄って遊んでるのは啓であって、俺じゃないってことはわかった。寝室で一方的に失礼なことを言われてムカついてたせいで邪推しちゃってたけど、二人は悪ノリが過ぎるだけで悪いやつらではなさそうだ。

それに俺もあれは本気じゃないってわかってたし。冷静になって考えると、二人に揶揄われてると勘違いして怒って出て行こうとしてた俺ってガキっぽくね? てか俺、三人がすごく仲良くて……それでちょっと拗ねてたのかも……ああ……まんまガキじゃん。恥ずい。

「もう、いいよ」 

てかこれまでのことは全部忘れて欲しい。

その後はとにかくバツが悪くて、三人の会話を大人しく聞いてるだけだったんだけど……

「実は今日来たんは、啓に頼みたいことがあってん」
「俺に?」
「せや。うちのおかんが、」
「やだ。絶対」
「まだなんも言うてへんがな」
「どうせろくでもないことに決まってる。またCMに出ろとかなんとか……」
「はい、大正解!」
「え、CMってあの?」

渋谷のスクランブル交差点で啓の載った広告を見たときの衝撃がフラッシュバックして、俺は思わず会話に割って入った。俺が知る限り、啓が出てるCMはあれだけだ。

「え、幸、もしかして見た?」
「そりゃ、あんだけばんばん宣伝されてりゃ誰だって見るよ」
「そっか……、見たんだ。それなのに……うん、いや、わかってたけどさ……」

啓がぶつぶつ言いながら、肩を落としてがっくりと項垂れる。

「え、俺、見たよ? 渋谷の超でっかいポスター。CMもよくテレビでやってたし」
「うん、わかった……、ハァ……」

見たことないって言われてガッカリするのはわかるけど、見たって言ってんのに……なんで?

「姫さん、啓のことは気にせんでええから」
「え、けど……」

項垂れたまま動かないんだけど……

「大丈夫大丈夫。ほっとけばそのうち復活するから」
「姫さんかて弱ってるとこ見られたないときあるやろ?」
「う、ん……そうだよね。わかった」

啓がなんで落ち込んでるのか気になるし心配だけど、俺は啓のことよく知らないし、なんて声をかけていいかもわからない。啓のことをよく理解してる二人の言う通りにするのが一番なんだろう。

「姫はあのCMのブランドのことどこまで知ってるの?」
「どこまでって……確かフランス人の元スーパーモデルが社長やってるってテレビで見たけど」
「それ、俺のおかんやねん」
「ええ! お母さん? フランス人のスーパーモデルが?」

まじか、本物のセレブじゃん。

「瑠偉んちのおばさん、あ、本人の前でおばさんって呼ぶと超怒られるんだけど、東京に支店出すって決まったときから啓に広告モデルやってくれって口説いてたんだ。けど啓はずーっとそれ断ってて。それが今年に入って急にやるって言いだしてさー」
「まあ、啓の健気な努力は報われへんかったけど」
「でも結果オーライじゃない?」
「せやな。ちょお、啓、ヘタレとってもええから聞くだけ聞けや。うちのおかん怖いねん、知ってるやろ? おかんからの伝言で『啓、夏休みに琉偉と煌と一緒にうちの別荘に遊びに来てね、絶対よ』やて」
「別荘ってどこのー?」
「サントロペや」

サントロペって世界中のセレブが集まるとかいうフランスの避暑地だよな。
この前テレビでやってた。

「へえー、改装工事終わったの?」
「やっとな。改装祝いにぱーっと騒ご思てるんちゃう?」
「いいねー、久しぶりにヨットパーティやろうよー」

すげえな。
なんか世界が違いすぎる。

「幸も行く?」
「はあぁ? 俺ぇ?」

驚いたのは唐突に啓が復活したからでも、いきなり啓に話を振られたからでもない。突然自分とは次元もスケールも違いすぎる話の登場人物にされたからだ。

「うん。幸が行くなら行こうかな、俺」
「は? やだよ。なんでだよ」
「姫さんも来たらええやん。四人で一緒に行こや」
「行かねえし」
「えー、なんで?」
「なんでって……」

俺がこの三人と一緒にフランス旅行とか、行く理由がねえし、それに第一……

「そんな金ねえもん」
「大丈夫だって。旅費なら俺が出すし。幸は金の心配なんて、」
「い・や・だ。金出してもらう理由ねえし」

貧乏人に金を恵んでやるってか。
これだから金持ちの坊ちゃんはいけ好かない。

「えー、幸が行かないなら、俺も行かない」
「啓が行けへんかったら、うちのおかん絶対こっち会いに来るで?」
「それってやっぱりCM絡みってこと?」
「おかんの会社な、来年あたりメンズも売り出すんや」
「それでそのメンズのCMをまた啓に?」
「前のがどえらい評判良かったからな。けど今回はCMの内容が問題やねん」
「なにが問題なの?」
「それがな、男と絡むねん」
「うわー、それは……」
「ムリ! ぜってームリ! 絶対やだかんな、俺は。男と絡むなんて」

俺もやだ。

咄嗟にそう思った。

啓が女と絡むのも嫌だけど、男と絡むのなんてもっと嫌だ。
それが例えCMの仕事でも、絶対に見たくない。

「まあ気持ちはわかるけど、うちのおかんも絶対諦めへんで?」
「俺も絶対諦めねえし……あ、けど、幸が相手ならやってもいいかも」
「……は?」

冗談でもそんなこと言わないで欲しい。笑えないから。

「あ、それええかもな」
「いいねー。姫ならぴったりじゃない?」
「はあ? なに言って、」
「せやな、おかんに話してみるか」
「なんか面白いことになりそー」

揶揄うのもいい加減にしろと怒るべきか。
それとも無視して聞き流せばいいのか。

俺が葛藤しているうちに、啓が「やっぱダメ!」とストップをかけた。

「やっぱ今のなし。やっぱ幸はダメ」
「なんでやねん」
「俺がダメって言ったらダメなんですー」
「啓、横暴ー、俺様ー」
「そうです。俺は横暴で俺様なんでもう決めましたー。俺も幸もサントロペには行かないし、CMにも出ません。ってことで、この話は終了ー」

変なテンションの俺様モードで強引に会話を終わらせた啓に、これ以上何を言ってもて無駄だと思ったんだろう。煌と瑠偉の二人はそのあとすぐに帰っていった。

「ハァ…………」

どっと疲れた俺は、ソファーに沈み込んだ

半日一緒にいて、煌も瑠偉も結構気のいいやつらだってことはわかったけど、なんか超疲れた。啓とは初対面のときから緊張せずに話せたし、一緒にいて居心地いいんだよな。なんでだろ?

「幸、疲れた?」
「昨日ヤりすぎたせいかもな」

隣に座った啓を見上げてにやりと笑った俺に、啓はすっと目を眇めた。

「誘ってんの?」
「なわけねえだろ」
「誘ってくれてもいいけど?」
「ムリ。誘わない」
「じゃあ俺が誘う。ヤろうぜ」
「ヤろうぜって……ムードねえな」
「ムードあったらいいわけ? じゃあ、」
「ムリだって。今日はムリ。もうヤんない」
「ええー。なんで? 夜も? 夜になってもダメ?」

煌や瑠偉と一緒にいるときのちょっとガキっぽいモードのまま、啓が口を尖らせる。そんな啓のことをちょっと可愛いと思ってしまう自分自身に苦笑しつつ、ここは断固としてノーと言わないとと真顔を作る。

「だーめ。んな四六時中突っ込まれてたら、体持たねえって」
「じゃあ突っ込まねえから。それならいい?」
「啓お前、まじで性欲強すぎじゃね?」

瑠偉を真似て揶揄えば、「当たり前だろ」と返ってくる。

「目の前に幸がいんのに我慢できるわけねえだろ」
「ちょ、け……、んんっ」

いきなり野獣モードになった啓が俺の唇を塞ぎ、下着の中に手を突っ込んでくる。

「幸の、すげえ可愛い」

萎えた俺のものをくにゅくにゅと弄びながら啓が嬉しそうに言う。

「可愛い言うなっ」
「いやサイズ的な意味じゃなくて」
「うるせえよ」

ふんっ、どうせ俺のは小さいよ。
啓のでかすぎんのと比べたらかなり小さいだろうよ。

「拗ねてる幸も可愛い」
「うっせー」
「あ、勃ってきた。幸、性欲強すぎじゃね?」
「ちげえよ。誰だって擦られりゃ勃つだろ」
「舐めてやろうか?」

啓の口の中の熱い粘膜を思い出し、体の奥がずくりと疼く。素直に頷けば、「じゃ俺のも舐めて?」と仰向けに転がされた。

シックスナインの体勢になり、早業で俺の半パンを下着ごと脱がせた啓が「ほら幸も」と催促する。俺の上に跨る啓のパンツを下せば、マックスに勃起した啓のでかいのが勢いよく顔を出す。

「いつの間に……」
「幸が煽るからだろ」
「煽ってねえし。あ、……っぁ、はっ……」

そのままフェラで一回イかせ合った後、確かに突っ込まれはしなかったけど……てか突っ込まれなかっただけで体中を舐められ弄られ喘がされた。俺はさらに二回イかされて、頭の中までどろどろのぐちゃぐちゃで、啓が何回イったか余裕なんてこれっぽっちもなかった





「なあ、幸」

啓の腕の中でまどろんでいる俺の耳に、ちょっと掠れた啓の声が心地よく響く。

「夏休み、一緒にどっか行かね?」
「あいつらも?」
「は? なんであいつらと? 幸はあいつらと一緒がいいのかよ」
「や、そういうわけじゃ……」

むしろ、その逆なんだけど。

「俺と幸の二人だけに決まってんだろ」
「……けど俺バイトあるし」

大学に入って初めての夏休みだし、俺だってどっか行きたいって思ってた。まさか啓と一緒に行けるなんて期待してかなったし、啓に誘われてすごく嬉しいのに、素直に口にできない俺は天邪鬼な意地っ張りだって自覚はある。

「バイトっつっても毎日じゃねえだろ?」
「ほぼ毎日シフト入れられそうなんだけど……」
「けど一週間くらい休み入れられんだろ?」
「や、一週間はムリかも」
「じゃあ三、四日?」
「うん……、まあそんくらいなら……たぶん」
「じゃ決まりな。やった。幸とどっか行くの、すげえ楽しみ」

破顔する啓の素直さが眩しくて、俺は目を細めた。
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