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たぶんまだ処女ですよ
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ようやく獣人の子を1人だけ見つけた。
彼女を見つけたのは遠い街だった。
労働力になる獣人のほとんどは王都に行き、女の子だけが性奴隷として売買されたんだと思う。
彼女だけ売れ残り、小さな牢屋の中で丸くなって眠っていた。
ひどく痩せこけ、片手を失っていた。
「明日には処分するところだったんですよ。売れてよかった。片手が無いけど、ちゃんとヤれますよ。たぶんまだ処女ですよ。飽きたら殺して森にでも捨ててください」
と太った奴隷商の男が言った。
俺は奴隷商を睨んだ。
物より酷い。飽きたら殺して捨てる。気分が悪かった。
俺の街なら処罰になるはずの奴隷商。だけど余所の街では奴隷の販売は処罰にはならない。
「……ところで」と俺は話を変えた。「他にも獣人はいないのか?」
俺は魔法で顔も体も変えていた。
今の俺の姿は、どこにでもいそうな20代男性の領民の姿だった。
「お客さん、獣人がお好きなんですか?」
「あぁ」
「獣人は殺しても胸が痛みませんからね」と奴隷商が言って笑った。
「ウチの店では、もうこの子だけなんですよ」
「他の店にも売ってないのか?」
「獣人を殺すのを楽しむ人がいまして、その人がほとんど買ちゃうんです。だからお客さん、貴方はラッキーですよ。獣人が売れ残っているのは珍しいんですよ」
この子は貧相で片手が無いから買われなかったのかもしれない。
「獣人を買った人の名前は?」
「個人情報なんで言えませんよ」
そりゃあそうか。
奴隷契約にサインをして、金貨1枚にも満たないお金を支払った。
牢屋から獣人の子が出された。
獣人の女の子は犬みたいに首輪を付けられ、リードみたいに鎖も付いていた。
犬耳は垂れ、尻尾は雑巾のように汚れている。
牢屋の中にいた時は丸まっていてわからなかったけど、アニーと同じぐらいの身長の高さである。年齢は14歳から16歳ぐらいだろう。
顔の汚れは申し訳程度に拭き取られている。
服は麻袋に穴を開けて工夫して着ているようだった。
片手が無い。
食事もろくにとっていないのか酷く痩せている。
どこかで見たような気がした。やっぱり俺の街の獣人だろう。
何より驚いたのが、彼女は悲しんでいなかった。
今、自分が置かれている状況を悲観していなかった。
奴隷商に捕まった女の子は暗い顔をしている。
だけど彼女には悲観している表情をしていない。ただ自分の置かれている状況を受け入れているだけだった。
俺達の姿が他の人から見えにくくするために、店から出ると認識阻害の魔法をかけた。
リードを付けた獣人を連れて歩くのは俺の趣味ではなかった。
ユニコーンを2体召喚する。名前はフルギとトウモロコシ。もちろん認識阻害の魔法をかけて他の人から見えなくさせている。
それからアイテムボックスの中から馬車を取り出した。
まるで俺ってドラ◯もんじゃん、と思った。
あの便利な青色の猫型ロボットがほしい、と思っていたけど、俺こそがあの青色の猫型ロボットに近い存在だった。
街に戻るようにユニコーンに伝えて、俺達は馬車に入った。
キャンピングカーみたいになっている馬車の中。
俺は彼女をソファーに座らせた。
獣人の子の隣に俺は座った。
変装の魔法を解いた。
一瞬で顔も体も元の姿に戻った。
ヒッピーみたいな服装ではなく、いつも着ている茶色いスーツに変わる。
ヒッピーというのは、俺も見たことがないけど、長髪やヒゲを蓄えたオシャレな人達。イメージだから間違っているかもしれない。この世界では貴族しかドレスを購入することができない。それにスーツも高価で領民たちには手を出せない。だから基本的に古着が出回っている。それを俺はヒッピーみたいな服装と例えたのだ。
獣人の女の子が元の姿になった俺をジッと見た。
俺は彼女の首輪を外す。
「……やっぱり領主様だ」
と彼女が言った。
どうやら俺のことを知っているらしい。
俺のことを知っているって事は、間違いなく街にいた獣人だろう。
「なんで? なんで? 領主様がボクのご主人様なの?」
俺が彼女を買った主人で間違いない。
だけどご主人様と女の子から呼ばれることに抵抗があった。
「そうだよ」と俺は躊躇《ためら》いながら答えた。
「領主様にいっぱい花を売ったから、ボクを買いに来てくれたの?」
花? なんのことを彼女が喋っているんだろう?
彼女が花売りの獣人だと気づく。
いつも俺を見つけて花を売ってくれるボクっ娘である。
しかも貴重な薬草を安く売ってくれていたらしい。
「それは違う」
とキッパリと俺は言った。
花を売ってくれたお礼に彼女を買い取った訳ではなかった。
「獣人を俺は買い取るつもりでいた。それで君を見つけた」
「どうして獣人を買い取るの?」
「街から獣人を追い出したのは領主である俺の責任だからだよ」
と俺は言った。
「君達に辛い思いをさせて、すまなかった」
俺は頭を下げた。
「やめて」と彼女が言う。「領主様が頭を下げないでよ」
「どんな種族でも基本的人権は守られるべきなんだ。なのに君達のことを守ることができなかった。本当にすまない」
「やめてよ。領主様がボクに頭を下げるなんておかしいよ」
俺は顔を上げた。
本当に彼女は困っている様子だった。
だから俺は謝るのをやめた。
「わかった。もう謝らない」
と俺は言う。
行動で示そう。
全ての人間の基本的人権を守る。それは街の課題だった。
「君の名前を聞いてなかったね」
「ボクの名前は……ナナナ」
「ナナナ?」
「ナナナって言うんだ」
「それじゃあナナナ」と俺が彼女を呼びかける。
「手が無くなった方の腕を出して」
と俺が言った。
手が無くなった腕を彼女が俺に差し出した。
「どうして手を無くしちゃったの?」と俺が尋ねる。
「街の人が来てバーーってなって、それで気づいたら手が無くなって痛かった。でもドレイショウの人が傷は治してくれたんだよ」
そうか、と俺は頷いた。
アイテムボックスの中から、再生の泉を手のひらですくって彼女の無くなった手にかけた。
「わぁーーー」
と彼女が驚いている。
手が生えて来たのだ。
「ボクの手が」
彼女は新しく生えてきた手を見つめた。
「お腹は空いているかい?」
と俺は尋ねてソファーから立ち上がった。
「なにか食べさせてくれるの?」
ナナナは尻尾をブンブンと振り回して尋ねた。
「お肉でも焼こうか?」
「お肉?」
お肉と聞いただけでジュルジュルジュルと彼女がヨダレを啜った。
アイテムボックスから取り出した巨大ステーキをキッチンで焼いた。
「これボクの?」
彼女が尋ねた。
「そうだよ」
と俺が答えても、「本当にボクの?」と彼女が何度も尋ねて来る。
「そうだよ」
「全部、食べていいの?」
「そうだよ」
「ボク、領主様に何かしないといけない?」
「なんで?」
「お肉くれるから」
「何もしなくていいよ」
「交尾する?」
俺は吹き出しそうになる。
「しなくていいよ」
「でも、ボクのことを買った人と、交尾するってドレイショウの人が言ってたよ」
「しなくていいよ」
「そうなの? 交尾無しでお肉食べていいの?」
「いいよ」
「やったーーー」
お肉はレアで焼き上げた。
ナナナはヨダレをたっぷり垂らして、熱いお肉をフォークも使わずに手で掴んで噛み始めた。
「おいぃひぃ」
と肉を噛みながら彼女が叫んだ。
「でも、牙が無いから噛みにくいや」
「牙無いの?」
「削られた」
と彼女が答えた。
「治してあげようか?」
「いい。人間といるには牙は不要だって言われた。領主様と一緒にいる」
俺と一緒にいたいから牙は無くていい、と言っているのだろう。
彼女がそう判断するなら無理に治すことは無いだろう。
それより人間といるには、と言葉が引っかかった。それはまるで獣人が人間じゃない存在で、ホモサピエンスだけが人間みたいな言い回しだった。
死に物狂いで肉に齧りついているナナナを見た。残酷なことがあったはずなのに、彼女はお肉を嬉しそうに食べていた。
彼女を買った時も悲壮感はなかった。
まるで不幸を受け入れているように。
どうして街から追い出されて、手を無くして、奴隷商に売られて平気な顔ができるんだろうか?
彼女が歩んで来た人生は、どんなにモノだったのか、俺には興味があった。
彼女を見つけたのは遠い街だった。
労働力になる獣人のほとんどは王都に行き、女の子だけが性奴隷として売買されたんだと思う。
彼女だけ売れ残り、小さな牢屋の中で丸くなって眠っていた。
ひどく痩せこけ、片手を失っていた。
「明日には処分するところだったんですよ。売れてよかった。片手が無いけど、ちゃんとヤれますよ。たぶんまだ処女ですよ。飽きたら殺して森にでも捨ててください」
と太った奴隷商の男が言った。
俺は奴隷商を睨んだ。
物より酷い。飽きたら殺して捨てる。気分が悪かった。
俺の街なら処罰になるはずの奴隷商。だけど余所の街では奴隷の販売は処罰にはならない。
「……ところで」と俺は話を変えた。「他にも獣人はいないのか?」
俺は魔法で顔も体も変えていた。
今の俺の姿は、どこにでもいそうな20代男性の領民の姿だった。
「お客さん、獣人がお好きなんですか?」
「あぁ」
「獣人は殺しても胸が痛みませんからね」と奴隷商が言って笑った。
「ウチの店では、もうこの子だけなんですよ」
「他の店にも売ってないのか?」
「獣人を殺すのを楽しむ人がいまして、その人がほとんど買ちゃうんです。だからお客さん、貴方はラッキーですよ。獣人が売れ残っているのは珍しいんですよ」
この子は貧相で片手が無いから買われなかったのかもしれない。
「獣人を買った人の名前は?」
「個人情報なんで言えませんよ」
そりゃあそうか。
奴隷契約にサインをして、金貨1枚にも満たないお金を支払った。
牢屋から獣人の子が出された。
獣人の女の子は犬みたいに首輪を付けられ、リードみたいに鎖も付いていた。
犬耳は垂れ、尻尾は雑巾のように汚れている。
牢屋の中にいた時は丸まっていてわからなかったけど、アニーと同じぐらいの身長の高さである。年齢は14歳から16歳ぐらいだろう。
顔の汚れは申し訳程度に拭き取られている。
服は麻袋に穴を開けて工夫して着ているようだった。
片手が無い。
食事もろくにとっていないのか酷く痩せている。
どこかで見たような気がした。やっぱり俺の街の獣人だろう。
何より驚いたのが、彼女は悲しんでいなかった。
今、自分が置かれている状況を悲観していなかった。
奴隷商に捕まった女の子は暗い顔をしている。
だけど彼女には悲観している表情をしていない。ただ自分の置かれている状況を受け入れているだけだった。
俺達の姿が他の人から見えにくくするために、店から出ると認識阻害の魔法をかけた。
リードを付けた獣人を連れて歩くのは俺の趣味ではなかった。
ユニコーンを2体召喚する。名前はフルギとトウモロコシ。もちろん認識阻害の魔法をかけて他の人から見えなくさせている。
それからアイテムボックスの中から馬車を取り出した。
まるで俺ってドラ◯もんじゃん、と思った。
あの便利な青色の猫型ロボットがほしい、と思っていたけど、俺こそがあの青色の猫型ロボットに近い存在だった。
街に戻るようにユニコーンに伝えて、俺達は馬車に入った。
キャンピングカーみたいになっている馬車の中。
俺は彼女をソファーに座らせた。
獣人の子の隣に俺は座った。
変装の魔法を解いた。
一瞬で顔も体も元の姿に戻った。
ヒッピーみたいな服装ではなく、いつも着ている茶色いスーツに変わる。
ヒッピーというのは、俺も見たことがないけど、長髪やヒゲを蓄えたオシャレな人達。イメージだから間違っているかもしれない。この世界では貴族しかドレスを購入することができない。それにスーツも高価で領民たちには手を出せない。だから基本的に古着が出回っている。それを俺はヒッピーみたいな服装と例えたのだ。
獣人の女の子が元の姿になった俺をジッと見た。
俺は彼女の首輪を外す。
「……やっぱり領主様だ」
と彼女が言った。
どうやら俺のことを知っているらしい。
俺のことを知っているって事は、間違いなく街にいた獣人だろう。
「なんで? なんで? 領主様がボクのご主人様なの?」
俺が彼女を買った主人で間違いない。
だけどご主人様と女の子から呼ばれることに抵抗があった。
「そうだよ」と俺は躊躇《ためら》いながら答えた。
「領主様にいっぱい花を売ったから、ボクを買いに来てくれたの?」
花? なんのことを彼女が喋っているんだろう?
彼女が花売りの獣人だと気づく。
いつも俺を見つけて花を売ってくれるボクっ娘である。
しかも貴重な薬草を安く売ってくれていたらしい。
「それは違う」
とキッパリと俺は言った。
花を売ってくれたお礼に彼女を買い取った訳ではなかった。
「獣人を俺は買い取るつもりでいた。それで君を見つけた」
「どうして獣人を買い取るの?」
「街から獣人を追い出したのは領主である俺の責任だからだよ」
と俺は言った。
「君達に辛い思いをさせて、すまなかった」
俺は頭を下げた。
「やめて」と彼女が言う。「領主様が頭を下げないでよ」
「どんな種族でも基本的人権は守られるべきなんだ。なのに君達のことを守ることができなかった。本当にすまない」
「やめてよ。領主様がボクに頭を下げるなんておかしいよ」
俺は顔を上げた。
本当に彼女は困っている様子だった。
だから俺は謝るのをやめた。
「わかった。もう謝らない」
と俺は言う。
行動で示そう。
全ての人間の基本的人権を守る。それは街の課題だった。
「君の名前を聞いてなかったね」
「ボクの名前は……ナナナ」
「ナナナ?」
「ナナナって言うんだ」
「それじゃあナナナ」と俺が彼女を呼びかける。
「手が無くなった方の腕を出して」
と俺が言った。
手が無くなった腕を彼女が俺に差し出した。
「どうして手を無くしちゃったの?」と俺が尋ねる。
「街の人が来てバーーってなって、それで気づいたら手が無くなって痛かった。でもドレイショウの人が傷は治してくれたんだよ」
そうか、と俺は頷いた。
アイテムボックスの中から、再生の泉を手のひらですくって彼女の無くなった手にかけた。
「わぁーーー」
と彼女が驚いている。
手が生えて来たのだ。
「ボクの手が」
彼女は新しく生えてきた手を見つめた。
「お腹は空いているかい?」
と俺は尋ねてソファーから立ち上がった。
「なにか食べさせてくれるの?」
ナナナは尻尾をブンブンと振り回して尋ねた。
「お肉でも焼こうか?」
「お肉?」
お肉と聞いただけでジュルジュルジュルと彼女がヨダレを啜った。
アイテムボックスから取り出した巨大ステーキをキッチンで焼いた。
「これボクの?」
彼女が尋ねた。
「そうだよ」
と俺が答えても、「本当にボクの?」と彼女が何度も尋ねて来る。
「そうだよ」
「全部、食べていいの?」
「そうだよ」
「ボク、領主様に何かしないといけない?」
「なんで?」
「お肉くれるから」
「何もしなくていいよ」
「交尾する?」
俺は吹き出しそうになる。
「しなくていいよ」
「でも、ボクのことを買った人と、交尾するってドレイショウの人が言ってたよ」
「しなくていいよ」
「そうなの? 交尾無しでお肉食べていいの?」
「いいよ」
「やったーーー」
お肉はレアで焼き上げた。
ナナナはヨダレをたっぷり垂らして、熱いお肉をフォークも使わずに手で掴んで噛み始めた。
「おいぃひぃ」
と肉を噛みながら彼女が叫んだ。
「でも、牙が無いから噛みにくいや」
「牙無いの?」
「削られた」
と彼女が答えた。
「治してあげようか?」
「いい。人間といるには牙は不要だって言われた。領主様と一緒にいる」
俺と一緒にいたいから牙は無くていい、と言っているのだろう。
彼女がそう判断するなら無理に治すことは無いだろう。
それより人間といるには、と言葉が引っかかった。それはまるで獣人が人間じゃない存在で、ホモサピエンスだけが人間みたいな言い回しだった。
死に物狂いで肉に齧りついているナナナを見た。残酷なことがあったはずなのに、彼女はお肉を嬉しそうに食べていた。
彼女を買った時も悲壮感はなかった。
まるで不幸を受け入れているように。
どうして街から追い出されて、手を無くして、奴隷商に売られて平気な顔ができるんだろうか?
彼女が歩んで来た人生は、どんなにモノだったのか、俺には興味があった。
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