性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万

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たぶんまだ処女ですよ

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 ようやく獣人の子を1人だけ見つけた。
 彼女を見つけたのは遠い街だった。
 労働力になる獣人のほとんどは王都に行き、女の子だけが性奴隷として売買されたんだと思う。
 彼女だけ売れ残り、小さな牢屋の中で丸くなって眠っていた。
 ひどく痩せこけ、片手を失っていた。

「明日には処分するところだったんですよ。売れてよかった。片手が無いけど、ちゃんとヤれますよ。たぶんまだ処女ですよ。飽きたら殺して森にでも捨ててください」
 と太った奴隷商の男が言った。

 俺は奴隷商を睨んだ。
 物より酷い。飽きたら殺して捨てる。気分が悪かった。
 俺の街なら処罰になるはずの奴隷商。だけど余所の街では奴隷の販売は処罰にはならない。
 
「……ところで」と俺は話を変えた。「他にも獣人はいないのか?」

 俺は魔法で顔も体も変えていた。
 今の俺の姿は、どこにでもいそうな20代男性の領民の姿だった。

「お客さん、獣人がお好きなんですか?」

「あぁ」

「獣人は殺しても胸が痛みませんからね」と奴隷商が言って笑った。

「ウチの店では、もうこの子だけなんですよ」

「他の店にも売ってないのか?」

「獣人を殺すのを楽しむ人がいまして、その人がほとんど買ちゃうんです。だからお客さん、貴方はラッキーですよ。獣人が売れ残っているのは珍しいんですよ」
 
 この子は貧相で片手が無いから買われなかったのかもしれない。

「獣人を買った人の名前は?」

「個人情報なんで言えませんよ」

 そりゃあそうか。

 奴隷契約にサインをして、金貨1枚にも満たないお金を支払った。
 牢屋から獣人の子が出された。
 獣人の女の子は犬みたいに首輪を付けられ、リードみたいに鎖も付いていた。
 犬耳は垂れ、尻尾は雑巾のように汚れている。
 牢屋の中にいた時は丸まっていてわからなかったけど、アニーと同じぐらいの身長の高さである。年齢は14歳から16歳ぐらいだろう。
 顔の汚れは申し訳程度に拭き取られている。
 服は麻袋に穴を開けて工夫して着ているようだった。
 片手が無い。
 食事もろくにとっていないのか酷く痩せている。
 どこかで見たような気がした。やっぱり俺の街の獣人だろう。

 何より驚いたのが、彼女は悲しんでいなかった。
 今、自分が置かれている状況を悲観していなかった。
 奴隷商に捕まった女の子は暗い顔をしている。
 だけど彼女には悲観している表情をしていない。ただ自分の置かれている状況を受け入れているだけだった。

 俺達の姿が他の人から見えにくくするために、店から出ると認識阻害の魔法をかけた。
 リードを付けた獣人を連れて歩くのは俺の趣味ではなかった。
 ユニコーンを2体召喚する。名前はフルギとトウモロコシ。もちろん認識阻害の魔法をかけて他の人から見えなくさせている。

 それからアイテムボックスの中から馬車を取り出した。
 まるで俺ってドラ◯もんじゃん、と思った。
 あの便利な青色の猫型ロボットがほしい、と思っていたけど、俺こそがあの青色の猫型ロボットに近い存在だった。
 街に戻るようにユニコーンに伝えて、俺達は馬車に入った。
 キャンピングカーみたいになっている馬車の中。
 俺は彼女をソファーに座らせた。

 獣人の子の隣に俺は座った。
 変装の魔法を解いた。
 一瞬で顔も体も元の姿に戻った。
 ヒッピーみたいな服装ではなく、いつも着ている茶色いスーツに変わる。
 ヒッピーというのは、俺も見たことがないけど、長髪やヒゲを蓄えたオシャレな人達。イメージだから間違っているかもしれない。この世界では貴族しかドレスを購入することができない。それにスーツも高価で領民たちには手を出せない。だから基本的に古着が出回っている。それを俺はヒッピーみたいな服装と例えたのだ。

 獣人の女の子が元の姿になった俺をジッと見た。
 俺は彼女の首輪を外す。

「……やっぱり領主様だ」
 と彼女が言った。

 どうやら俺のことを知っているらしい。
 俺のことを知っているって事は、間違いなく街にいた獣人だろう。

「なんで? なんで? 領主様がボクのご主人様なの?」

 俺が彼女を買った主人で間違いない。
 だけどご主人様と女の子から呼ばれることに抵抗があった。

「そうだよ」と俺は躊躇《ためら》いながら答えた。

「領主様にいっぱい花を売ったから、ボクを買いに来てくれたの?」

 花? なんのことを彼女が喋っているんだろう?

 彼女が花売りの獣人だと気づく。
 いつも俺を見つけて花を売ってくれるボクっ娘である。
 しかも貴重な薬草を安く売ってくれていたらしい。

「それは違う」
 とキッパリと俺は言った。
 花を売ってくれたお礼に彼女を買い取った訳ではなかった。

「獣人を俺は買い取るつもりでいた。それで君を見つけた」

「どうして獣人を買い取るの?」

「街から獣人を追い出したのは領主である俺の責任だからだよ」
 と俺は言った。
「君達に辛い思いをさせて、すまなかった」

 俺は頭を下げた。

「やめて」と彼女が言う。「領主様が頭を下げないでよ」

「どんな種族でも基本的人権は守られるべきなんだ。なのに君達のことを守ることができなかった。本当にすまない」

「やめてよ。領主様がボクに頭を下げるなんておかしいよ」

 俺は顔を上げた。
 本当に彼女は困っている様子だった。
 だから俺は謝るのをやめた。

「わかった。もう謝らない」
 と俺は言う。
 行動で示そう。
 全ての人間の基本的人権を守る。それは街の課題だった。

「君の名前を聞いてなかったね」

「ボクの名前は……ナナナ」

「ナナナ?」

「ナナナって言うんだ」

「それじゃあナナナ」と俺が彼女を呼びかける。

「手が無くなった方の腕を出して」
 と俺が言った。

 手が無くなった腕を彼女が俺に差し出した。

「どうして手を無くしちゃったの?」と俺が尋ねる。

「街の人が来てバーーってなって、それで気づいたら手が無くなって痛かった。でもドレイショウの人が傷は治してくれたんだよ」
 
 そうか、と俺は頷いた。

 アイテムボックスの中から、再生の泉を手のひらですくって彼女の無くなった手にかけた。

「わぁーーー」
 と彼女が驚いている。
 手が生えて来たのだ。

「ボクの手が」
 彼女は新しく生えてきた手を見つめた。

「お腹は空いているかい?」
 と俺は尋ねてソファーから立ち上がった。

「なにか食べさせてくれるの?」
 ナナナは尻尾をブンブンと振り回して尋ねた。

「お肉でも焼こうか?」

「お肉?」

 お肉と聞いただけでジュルジュルジュルと彼女がヨダレを啜った。

 アイテムボックスから取り出した巨大ステーキをキッチンで焼いた。

「これボクの?」
 彼女が尋ねた。

「そうだよ」
 と俺が答えても、「本当にボクの?」と彼女が何度も尋ねて来る。

「そうだよ」

「全部、食べていいの?」

「そうだよ」

「ボク、領主様に何かしないといけない?」

「なんで?」

「お肉くれるから」

「何もしなくていいよ」

「交尾する?」

 俺は吹き出しそうになる。

「しなくていいよ」

「でも、ボクのことを買った人と、交尾するってドレイショウの人が言ってたよ」

「しなくていいよ」

「そうなの? 交尾無しでお肉食べていいの?」

「いいよ」

「やったーーー」

 お肉はレアで焼き上げた。
 ナナナはヨダレをたっぷり垂らして、熱いお肉をフォークも使わずに手で掴んで噛み始めた。

「おいぃひぃ」
 と肉を噛みながら彼女が叫んだ。

「でも、牙が無いから噛みにくいや」

「牙無いの?」

「削られた」
 と彼女が答えた。

「治してあげようか?」

「いい。人間といるには牙は不要だって言われた。領主様と一緒にいる」

 俺と一緒にいたいから牙は無くていい、と言っているのだろう。
 彼女がそう判断するなら無理に治すことは無いだろう。

 それより人間といるには、と言葉が引っかかった。それはまるで獣人が人間じゃない存在で、ホモサピエンスだけが人間みたいな言い回しだった。

 死に物狂いで肉に齧りついているナナナを見た。残酷なことがあったはずなのに、彼女はお肉を嬉しそうに食べていた。
 
 彼女を買った時も悲壮感はなかった。
 まるで不幸を受け入れているように。

 どうして街から追い出されて、手を無くして、奴隷商に売られて平気な顔ができるんだろうか?
 彼女が歩んで来た人生は、どんなにモノだったのか、俺には興味があった。


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