【完結まで毎日更新】籐球ミットラパープ

四国ユキ

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 七月に入り蒸し暑さも増す中、去年お姉ちゃんに買ってもらったインナーの効果を今年も実感し始めていた。
「阿河先輩が着ているそのジャージ、買いに行ったら平気で五〇〇〇円とかするから諦めました」
 練習前にストレッチをしていると北原さんがあたしに話しかけてきた。
「高いよね。あたしはお姉ちゃんが買ってくれたけど、自分じゃ買えないね」
「私にもそんなお姉ちゃんほしい」
 あの一件以来、北原さんがあたしにあからさまに対抗してくることはなくなった。それどころか、懐かれた気さえする。練習前はよく話しかけてくるし、居残り練習でもあたしと千屋さんを閉め出すことはなくなった。
 北原さんが立ち去ると入れ替わりで宮成先輩がやってきた。
「彩夏ちゃんはすごいね。全員を懐柔してるよね」
「してないですよ、人聞きの悪い」
「いやいや、してるって。最初に茜でしょ、私でしょ」
 そう言いながら宮成先輩は右手の指を一本一本折り曲げていった。
「さらには唯ちゃんも。ついこの前は明日翔ちゃん。ほら全員」
「懐柔なんてされてませんけど」
 知らぬ間に千屋さんが宮成先輩の後ろにいた。宮成先輩は小さく跳ねて逃げ出し、千屋さんはあたしを鋭く睨んだ。

 七月の下旬に夏休みに入った。テストの成績がギリギリだったのはあたしだけで、他の人たちは危なげなく夏休みに突入した。
 千屋さん主導の下さらに練習を重ねる中、八月に入ると大会の組み合わせが決まった。明賀先輩の高校最後の大会だ。
「これ要項と組み合わせね」
 練習前に部室に全員集められ、二枚の紙が明賀先輩から配られた。まだ午前中にも関わらず汗が噴き出してくる。クーラーなどなく、窓を開けているだけだから当然だ。
「去年と同じで、会場は東京。大会は四ブロックに分かれて勝ち抜いたブロック代表が総当たりで順位を決める。一日目は二試合でブロック代表を決めて、二日目に優勝を争うことになるわ」
 去年と同じだから明賀先輩の言葉は半分くらい耳から耳へ抜けていく。主に北原さんのための説明だ。
「参加校が二校増えてるわね。そのせいか去年の優勝校と準優勝校がシードね」
 去年の二日目の試合は千屋さんが怪我で欠場したせいで悲惨で、あたしは全然覚えていない。どこが優勝したのかさえ、だ。
 組み合わせ表をじっくり見ていると、名凜高校の名前がないことに気がついた。名凜高校は去年の二回戦の対戦相手で、千屋さんが中学時代の同級生たちのチームだ。去年はその名凜高校の選手が千屋さんにわざと怪我を負わせた。去年の相手チームの様子を思い出し、空中分解しててもなんの不思議もないな、と一人で納得した。
「一回戦は東谷高校。去年二セットとも21対0で勝ったところね。二回戦もたぶん大丈夫でしょう。最大の関門は二日目の銀渓高校。仙台の高校ね」
 仙台、という単語に北原さんがピクリとしたように見えたが明賀先輩は気にすることなく続けた。
「目下三連覇中の強豪よ。私たちを含めベスト4他三校は毎年入れ替わっているけど、銀渓高校だけは勝ち続けている。今年も強いとみて間違いないわ」
 その後、明賀先輩が試合当日の流れをいくつか説明してから練習に取りかかった。北原さんが怪我をさせてしまった幼馴染みは仙台の銀渓高校にいるのだろうか。
 説明が一通り終わり部室から体育館へ行く途中で思い切って北原さんに声をかけた。
「仙台の銀渓高校って、もしかして北原さんの幼馴染みがいるんじゃ」
「そうかもしれませんね」
「……平気?」
「さあ。そのときになってみないとなんとも」
 北原さんは変わった様子もなくいつも通りで、その胸中は推し量れなかった。

 お盆に入り、大学生たちと二泊三日の合宿を行った。明賀先輩が一年生だったときの三年生、つまり明賀先輩の幼馴染みの伝手で実現した合宿だ。大学生は他競技から転向してくる人もいるらしく、体ができあがっている人が多い。今回の合宿は技術を身につける練習よりは試合のみを延々と行った。時折北原さんと交代しながら試合と勝ちを積み重ね、最後の大会へ弾みをつけた。
 八月最終土曜日、最後の大会へ挑む。
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