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中学最後の決意3
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その後真希は私以外から見ればいつも通りに戻ったかのように振る舞っていた。
私はそれが強がりであることは見抜いていたし、相変わらず真希の傍にい続けた。
帰り道、一緒に歩いていると真希が、都道府県対抗大会のメンバー入りを辞退したと教えてくれた。毎年冬に各都道府県から代表を選び、都道府県単位で試合を行う。真希と莉菜は当然のように選ばれていた。
「今の私じゃ、莉菜とバレーできる気がしないから」
私はそう、としか返せなかった。今でも真希は落ち込んだままだ。私が真希を見るときは常に考え事をしているのか、上の空だ。今の真希の頭には莉菜のことしかない。
「いろいろな人にもったいないって言われた。奈緒はどう思う」
「それは真希が決めることだよ」
私は隣を歩く真希を見上げた。おそらく真希は私に肯定してほしいのだろう。
「でも、真希が辛いなら無理する必要はないと思う。真希がこれ以上苦しそうなところを、私は見たくない」
それからも私は普段通り、真希と毎日帰るようにした。やはり真希が元気になる様子はない。
「まだバレーは好きだと思う」
ある日の帰り道、真希が脈絡もなく喋り始め、私は黙って聞くことにした。
「気分転換、と思って後輩たちに顔を出そうとするんだけど」
真希の声はそこで途切れ、声を震わせながら続けた。
「シューズを見るたび、ボールを見るたび、莉菜のことを考えちゃう。あのときの莉菜の顔を、目を、言葉を。私はもうバレーができなくなっちゃった」
真希は今にも泣きそうな顔をしていた。私は何とか慰めようとするが言葉が出てこない。
「バレーができなくなってから気がついたんだけど、私には他に何もない。バレー以外でやりたいことが何もないんだよ」
そう言うと真希が私に抱き着き、泣き始めた。私は突然のことで慌てふためくしかなかった。
「ま、真希。落ち着いて。とりあえず、私の家近いから行こう、ね」
私は真希の背中をさすり、落ち着かせた。
私は真希の手を引いて、私の部屋に招き入れた。真希が家に来るのは、小学生以来か。あのときはいつも莉菜もいたなと、私もまた少し泣きそうになりながら思い出に浸ってしまう。
真希は座布団の上で足を抱え座った。
「ごめん、奈緒。最近すぐに泣くんだ。こんなんばっかでさ」
私は真希と向かい合うように座った。
「しょうがないよ、大事な友達を一人失ったんだから」
その言葉に真希がまた泣き出しそうになった。私は慌てて床の上に平積みにされた文庫本の中から一冊を取り出し、真希に差し出した。
「これは」
「私のお薦め。読んでみて」
真希がパラパラと本をめくって、分厚い、と呟いた。
「気分転換になるよ。それに、何もない、なんて言わないで。それはこれからいろいろ試して探せばいい。これはその一環」
真希はありがとう、と言って本を鞄にしまった。
「本の感想を言い合える友達が欲しかった。だからちゃんと読んできてね」
私は真希に弱々しく微笑んだ。
真希が帰った後、私は机に向かい勉強を始めたが、すぐに集中力が途切れてしまった。
私は無力だ。私までが泣きそうになってしまう。真希は何度も試合中私を助けてくれた。真希がいたからこそ私はバレーを続けてこられた。
でも私は真希に対して何もしてあげられない。私は持っていたシャーペンを机に放り投げた。真希と莉菜の間を取り持つことも、真希を励ますこともできない。できることなど、精々一緒にいるようにし、話を聞き、気分転換と言いながら本を貸すだけ。
こんなもの真希の助けになんかならない。大事な友達が傷つき、落ち込んでいるのに、私が弱いせいで真希は今でも落ち込んだままだ。
バレーも弱い、真希の友達として何もできない弱い自分。私は自分が嫌になり頭を掻きむしった。
月日は流れ、元旦、真希と私は近所の小さな神社に初詣に来ていた。莉菜と顔を合わせる可能性を考慮し、毎年三人で行っていた神社には行かないようにした。
人はだれもおらず、真希と私だけ。私たちは自販機で買った温かいお汁粉を飲みながら、境内の椅子に並んで腰かけた。
「こんなに静かな初詣初めてかも」
いつもなら莉菜も一緒で賑やかだったのだが……。
「真希はどこ受験するのか決めた?」
あの日以降進路について話を避けてきたが、ずっと気になっていた。
「いや、全然」
真希は温かい缶を両手で包みながら俯いた。
「どこ行っても一緒かなって思うと、どこでもいいかなって」
きっと真希は高校でバレーを続ける気はないのだろう。だからどこ行っても一緒と、言うのだと私は気がついた。
「私と同じ金倉にしない?」
真希が驚いたように私の顔を見た。
「奈緒は、白峯じゃないの?」
「言いそびれてたね。私は白峯には行かない。医者になりたいから、その可能性を少しでも広げるため進学校の金倉に行く」
私はすっかり冷えたお汁粉を飲み干した。
「私と一緒なら、どこ行っても一緒とは言えなくなるでしょ。それに私はまだ真希と一緒にいたい」
真希はバレーばかりで勉強はからっきし駄目だと思われがちだが、そんなことはない。それなりの成績なのだ。莉菜こそからっきしだ。
「そっか。奈緒がいるなら私もそうしよう」
それから真希は少し躊躇うように口を開いた。
「バレー部ってあるの」
私は驚いて真希の横顔を見つめた。やはりバレーを続けたいのだろうか。てっきりバレーはもうやらないのだと思っていた。それと莉菜との間にあったことはもう乗り越えたのだろうか、私は少し期待して答えた。
「同好会があったよ。大会とかは出てないみたいだけど」
「よかった。強引に勧誘とかされることはなさそうだね」
私はがっくりと肩を落とした。真希はもうバレーを続ける気はないとはっきりした。楽しそうにプレーする真希も、頼もしい背中を見せる真希も、もう見ることはない。
真希はバレーと同じだけ大事な友達を失い、同時にバレーまでも失われた。私は無性に寂しさを感じた。
「奈緒は、私がバレーやめるのどう思う。やっぱりもったいない?」
いろいろな人から、それこそ面識もない人たちから将来を渇望されている真希がバレーをやめるかもしれないと、聞いた人たちが懸命に説得しているのだろう。進むも留まるも真希の意思だというのに。
「もったいない、とはちょっと違うけど、残念だと思う」
真希が、何か違うの、と言いたげな目で私を見てくる。
「私は真希がバレーを楽しそうにプレーするのを見るのが好き。真希が試合に勝って喜ぶ姿を見るのが好き。真希がどんどん強くなる姿を見るのが好き。私の大事な、大好きな親友がバレーでどこまで登りつめるのか密かに楽しみにしていた。それが見られなくなるのが残念」
これは私の偽らざる本心だ。そしてそれはもう見ることはできない。
「真希が辛いなら無理して欲しくない。無理に続けて苦しむところは見たくない」
本当は真希にバレーを続けて欲しい。莉菜のことを乗り越え、私の想像も及ばない場所まで登りつめる真希を見たい。私の親友が、私の親友らしくあって欲しい。それを言えば真希はさらに苦しむ。私のわがままで苦しむ真希は見たくない。私が自分を押し殺せばいい。だから私は最後に少しだけ嘘をついた。
「真希と親友でいられれば私はそれで充分」
私はそれが強がりであることは見抜いていたし、相変わらず真希の傍にい続けた。
帰り道、一緒に歩いていると真希が、都道府県対抗大会のメンバー入りを辞退したと教えてくれた。毎年冬に各都道府県から代表を選び、都道府県単位で試合を行う。真希と莉菜は当然のように選ばれていた。
「今の私じゃ、莉菜とバレーできる気がしないから」
私はそう、としか返せなかった。今でも真希は落ち込んだままだ。私が真希を見るときは常に考え事をしているのか、上の空だ。今の真希の頭には莉菜のことしかない。
「いろいろな人にもったいないって言われた。奈緒はどう思う」
「それは真希が決めることだよ」
私は隣を歩く真希を見上げた。おそらく真希は私に肯定してほしいのだろう。
「でも、真希が辛いなら無理する必要はないと思う。真希がこれ以上苦しそうなところを、私は見たくない」
それからも私は普段通り、真希と毎日帰るようにした。やはり真希が元気になる様子はない。
「まだバレーは好きだと思う」
ある日の帰り道、真希が脈絡もなく喋り始め、私は黙って聞くことにした。
「気分転換、と思って後輩たちに顔を出そうとするんだけど」
真希の声はそこで途切れ、声を震わせながら続けた。
「シューズを見るたび、ボールを見るたび、莉菜のことを考えちゃう。あのときの莉菜の顔を、目を、言葉を。私はもうバレーができなくなっちゃった」
真希は今にも泣きそうな顔をしていた。私は何とか慰めようとするが言葉が出てこない。
「バレーができなくなってから気がついたんだけど、私には他に何もない。バレー以外でやりたいことが何もないんだよ」
そう言うと真希が私に抱き着き、泣き始めた。私は突然のことで慌てふためくしかなかった。
「ま、真希。落ち着いて。とりあえず、私の家近いから行こう、ね」
私は真希の背中をさすり、落ち着かせた。
私は真希の手を引いて、私の部屋に招き入れた。真希が家に来るのは、小学生以来か。あのときはいつも莉菜もいたなと、私もまた少し泣きそうになりながら思い出に浸ってしまう。
真希は座布団の上で足を抱え座った。
「ごめん、奈緒。最近すぐに泣くんだ。こんなんばっかでさ」
私は真希と向かい合うように座った。
「しょうがないよ、大事な友達を一人失ったんだから」
その言葉に真希がまた泣き出しそうになった。私は慌てて床の上に平積みにされた文庫本の中から一冊を取り出し、真希に差し出した。
「これは」
「私のお薦め。読んでみて」
真希がパラパラと本をめくって、分厚い、と呟いた。
「気分転換になるよ。それに、何もない、なんて言わないで。それはこれからいろいろ試して探せばいい。これはその一環」
真希はありがとう、と言って本を鞄にしまった。
「本の感想を言い合える友達が欲しかった。だからちゃんと読んできてね」
私は真希に弱々しく微笑んだ。
真希が帰った後、私は机に向かい勉強を始めたが、すぐに集中力が途切れてしまった。
私は無力だ。私までが泣きそうになってしまう。真希は何度も試合中私を助けてくれた。真希がいたからこそ私はバレーを続けてこられた。
でも私は真希に対して何もしてあげられない。私は持っていたシャーペンを机に放り投げた。真希と莉菜の間を取り持つことも、真希を励ますこともできない。できることなど、精々一緒にいるようにし、話を聞き、気分転換と言いながら本を貸すだけ。
こんなもの真希の助けになんかならない。大事な友達が傷つき、落ち込んでいるのに、私が弱いせいで真希は今でも落ち込んだままだ。
バレーも弱い、真希の友達として何もできない弱い自分。私は自分が嫌になり頭を掻きむしった。
月日は流れ、元旦、真希と私は近所の小さな神社に初詣に来ていた。莉菜と顔を合わせる可能性を考慮し、毎年三人で行っていた神社には行かないようにした。
人はだれもおらず、真希と私だけ。私たちは自販機で買った温かいお汁粉を飲みながら、境内の椅子に並んで腰かけた。
「こんなに静かな初詣初めてかも」
いつもなら莉菜も一緒で賑やかだったのだが……。
「真希はどこ受験するのか決めた?」
あの日以降進路について話を避けてきたが、ずっと気になっていた。
「いや、全然」
真希は温かい缶を両手で包みながら俯いた。
「どこ行っても一緒かなって思うと、どこでもいいかなって」
きっと真希は高校でバレーを続ける気はないのだろう。だからどこ行っても一緒と、言うのだと私は気がついた。
「私と同じ金倉にしない?」
真希が驚いたように私の顔を見た。
「奈緒は、白峯じゃないの?」
「言いそびれてたね。私は白峯には行かない。医者になりたいから、その可能性を少しでも広げるため進学校の金倉に行く」
私はすっかり冷えたお汁粉を飲み干した。
「私と一緒なら、どこ行っても一緒とは言えなくなるでしょ。それに私はまだ真希と一緒にいたい」
真希はバレーばかりで勉強はからっきし駄目だと思われがちだが、そんなことはない。それなりの成績なのだ。莉菜こそからっきしだ。
「そっか。奈緒がいるなら私もそうしよう」
それから真希は少し躊躇うように口を開いた。
「バレー部ってあるの」
私は驚いて真希の横顔を見つめた。やはりバレーを続けたいのだろうか。てっきりバレーはもうやらないのだと思っていた。それと莉菜との間にあったことはもう乗り越えたのだろうか、私は少し期待して答えた。
「同好会があったよ。大会とかは出てないみたいだけど」
「よかった。強引に勧誘とかされることはなさそうだね」
私はがっくりと肩を落とした。真希はもうバレーを続ける気はないとはっきりした。楽しそうにプレーする真希も、頼もしい背中を見せる真希も、もう見ることはない。
真希はバレーと同じだけ大事な友達を失い、同時にバレーまでも失われた。私は無性に寂しさを感じた。
「奈緒は、私がバレーやめるのどう思う。やっぱりもったいない?」
いろいろな人から、それこそ面識もない人たちから将来を渇望されている真希がバレーをやめるかもしれないと、聞いた人たちが懸命に説得しているのだろう。進むも留まるも真希の意思だというのに。
「もったいない、とはちょっと違うけど、残念だと思う」
真希が、何か違うの、と言いたげな目で私を見てくる。
「私は真希がバレーを楽しそうにプレーするのを見るのが好き。真希が試合に勝って喜ぶ姿を見るのが好き。真希がどんどん強くなる姿を見るのが好き。私の大事な、大好きな親友がバレーでどこまで登りつめるのか密かに楽しみにしていた。それが見られなくなるのが残念」
これは私の偽らざる本心だ。そしてそれはもう見ることはできない。
「真希が辛いなら無理して欲しくない。無理に続けて苦しむところは見たくない」
本当は真希にバレーを続けて欲しい。莉菜のことを乗り越え、私の想像も及ばない場所まで登りつめる真希を見たい。私の親友が、私の親友らしくあって欲しい。それを言えば真希はさらに苦しむ。私のわがままで苦しむ真希は見たくない。私が自分を押し殺せばいい。だから私は最後に少しだけ嘘をついた。
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