サプレッション・バレーボール

四国ユキ

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合宿2

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 もう一度軽く準備運動をし、本格的に練習が始まった。
「じゃあ、まずレシーブ練習ね。レシーブが弱いと、なーんにもできないで負けるからね」
 不動さんはボールが入ったキャスター付きのカゴをコート中央に移動させた。カゴを相手コート側に置いて、ボールを片手で一つ掴み、コート中央に立った。
「ボール投げるから一人ずつレシーブね。落とすなよ」
 そう言うと同時にボールをその場で軽く投げ、小さく放物線を描きアタックライン上に落ちた。
「ちょっと、ちょっと。落とすなって」
 不動さんの声に怒気が含まれている。
「ボールが床に落ちたら相手に一点。逆に言えば落とさなければ負けないんだよ」
 無茶なこと言うなと、私が思うと同時にボールがすでに小さく投げられていた。
 それを見て真希が走りだし、床ギリギリに片腕を滑り込ませ拾った。
 さすが真希は反応がいい、私が目で追っていると、真希がレシーブし終わらないうちに次のボールが投げられていた。
 今度は私が反応し、全身で飛び込みながら片腕で拾う。その間もコート上にボールが投げられ、次々と走り回っていた。
「自分でレシーブしたボールは自分で拾ってカゴに入れて。人数足りないからね」
 不動さんは指示を出しながらもボールを出す手を止めない。
 しばらくボールを出すことに専念していた不動さんが動きを止めた。
「君たち、ボールを簡単に落としすぎだよ。超高校級スーパーエースの真希ちゃんが、ミラクルアタックを華麗に決めた一点は、つまらないレシーブミスで相殺されるんだよ。身に覚えはないかい」
 不動さんの言葉に私は先日の星和戦を思い出してしまった。真希に上がったトスはすべて決まっていた。しかし相手も即座に取り返してきた。それはひとえにレシーブが弱かったからだ。真希があっという間に後衛になり、そこから点を思うように取れずズルズルと負けていった。
「どうやらあるようだね」
 不動さんが全員の表情を見て頷いた。
「分かったら、体を張ってボールを上げな。続けるよ」
 午前中はレシーブ練習だけに費やされ、全員がヘロヘロになったところで休憩となった。
「じゃあ、休憩。一時から再開ね」
 そう言うと不動さんはそそくさと体育館を出ていった。
 一年生は全員座り込み、春日さんに至っては大の字になって天井を見上げている。
「キッツいんですけど。天井グルグルしてますよ」
「喋れてるし余裕ありそうだね」
 真希もまた息を切らしながら冗談を飛ばした。私もその場に倒れ込みたかったが、一年生の手前それだけは我慢した。
 昼食を食べると休憩はすぐに終わり、練習が再開された。
「皆、疲れるの早いよ。体力面も不安だねえ」
 不動さんは全員の疲れ切った顔を見て嘆いた。
「引き続きレシーブ練習だよ。午前中見てて思ったけど、腰の位置が高いよ」
 そう言って不動さんは近くにいた双海さんの両肩を手で掴み、下に向けて力を入れた。双海さんが低く構えたところで、そのまま、と言い掴んでいた肩を離した。
「こんなふうに膝を曲げて、腰を落とす。ボールは床ギリギリで取るんだ」
 それから一時間近く全員がレシーブに走らされ、しばし休憩となった。
 全員が喋る余裕がなくなり、黙って座り込んだ。
「はい、始めるよ。今度はブロックね」
 十分ほどして不動さんに声をかけられ、全員がやっとの思いで立ち上がった。
「アタックの練習にしようかと思ったけど、点は真希ちゃんが取るから、弱いとこから補強していこうか。疲れ切っていないうちに頭に叩き込みな」
 不動さんが、真希ちゃん、と言いながら手招きをした。
「セッターは」
 良子がはい、と手を上げた。
「じゃあトスよろしく。私が打つから真希ちゃんはブロックの見本ね」
 そう言うが早いか、不動さんはレフトと言いながら良子にボールを放り投げた。良子はそれを綺麗にレフト側へ上げた。
 ジャンプトスできるんだねえ、と言いながら不動さんは助走をつける。大股に足を踏み出し、地面を強く蹴る。元日本代表の実力とはどんなもんか、と全員が固唾を呑み見つめる。不動さんが最高到達点三メートルほどの高さから真希の左手に向け力強くボールを叩きつける。
 ボールが手に当たる音が二回響き、ボールは真希の頭上を越え山なりにエンドライン際に落ちた。真希は不動さんのアタックの威力により着地と同時によろめき二歩後ろに下がった。
「とまあ、こんな感じで、完全に止められなくても、今みたいに山なりのボールになればレシーブもしやすいでしょ。レシーブしやすければ、セッターにちゃんとボールが返って攻撃の選択肢が増える」
 私はまた先日の星和戦を思い出した。真希以外のブロックは機能せず、むしろいいように利用され点を取られ負けた展開を。
「ブロックは、相手の動きとトスを見て打つコースを塞ぐように飛ぶ。トスが近い場合には、上からボールを掴むイメージね」
 不動さんは最低限のコツを伝え、真希、春日さん、双海さんのグループと、私、北村さん、良子、不動さんのグループに分かれた。
「真希ちゃん、トス上げて。で陽菜ちゃんが打つ。一人がブロック。こっちは私が打つから、二人でブロックね。じゃあ、やろうか。ちゃんと指先に力入れなね。下手なブロックすると怪我するよ」
 元日本代表が言うと洒落にならない。
 ブロックの練習も一時間ほど続けたのち、休憩となった。私も北村さんも途中から腕がまともに上がらなくなり、強烈なアタックを受け続けた手の感覚が失われている気さえする。
「皆少しずつジャンプが低くなっていくねえ」
 不動さんからの感想に対して、私はこんなに跳び続ければ当たり前でしょ! と突っ込みを入れたかったが口を動くのすら億劫で黙って聞き流すことにした。
「はい休憩終わり。次もレシーブ練習ね。ただし、サーブレシーブ」
 不動さんはそう言うとボールの入ったカゴを反対コートのエンドラインまで持っていった。
「私がサーブ打つから、一人レシーブ。一人がアタックね」
 良子はトスを上げるためにコート中央に移動し、真希がレフト側へ移動した。
「じゃあ、いくよ」
 順番待ちの間少しくらいなら休めるかと、私は楽観的に思っていたがそれがすぐに間違いだと気がついた。アタッカーがジャンプするのと同時にサーブが打たれ、自分で打ったボールを自分で拾い、コートに戻る頃にはすぐに自分がレシーブする番となる。
 人数が少なく、テンポが速い。全然休む暇がない、と私は疲れ切った体に鞭を打ちながら動き続けた。そろそろだれか倒れるんじゃないかと、朦朧とした意識の中で考えていたところで、
「最後はサーブ練習」
 と不動さんの声が響いた。
 不動さんはカゴをひっくり返しボールをすべて転がした。
 コート端に三人ずつに分かれ本日最後の練習が始まった。
 しばらく様子を見ていた不動さんが、「ストーップ!」と声を張り上げた。
「君たちさあ、山なりのチャンスボールを相手に献上してどうすんのさ」
 不動さんはボールを片手で掴み、エンドラインまで移動すると、低くトスを上げサーブを打ち込んだ。ボールはネット上スレスレを飛び、空中で不規則な軌道を描いてサイドライン際に落ちた。
「サーブってのはこういうふうに狙いをつけてそこに鋭く打ち込むんだよ。サーブで相手のレシーブを崩せば相手の強打を必死にレシーブしなくて済んで楽できる。点を取れればもっと楽ができる。もっと言えばサーブで一人四点取ればそれだけで勝てるんだ。点を取るサーブを身につけな」
 五時になり、練習は終了となった。
「じゃあ、今日は終わりね。後は自由時間だよ、自由」
 不動さんは、自由、と強調してから、さっさと体育館を出ていってしまった。その様子を見送った後、一年生全員がその場にへたり込んだ。
「終わったー。もう動けないです」
 春日さんが力なく呟いた。他の二人も同じようで、小さく頷くだけだった。
「泊りの意味が分かりました。これは帰れないですね」
 双海さんがぼやいた。
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