サプレッション・バレーボール

四国ユキ

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インターハイ予選1

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 合宿後のチーム全体の士気が高まっているのを私は肌で感じていた。全員体力も技術も上がっている。今の自分に足りないものは何か、どうすればいいのかを考えながら取り組んでいる。当然私も。
「奈緒、ちょっといい」
私がアタックをレフトからクロス方向に決め、着地したと同時に真希に声をかけられた。
「どうかした」
「気になってたんだけどね、ストレートは苦手?」
「苦手、というよりは決定率がイマイチで」
 さすが真希、お見通しか。
「とりあえず、次、打ってみて」
 私は言われた通り、レフト側からストレートへ普段と変わらぬ高さから、エンドラインとアタックラインの中間くらいにボールを打ち込んだ。
 悪くないと思うけど、試合だとどうも決まりにくい。
「うん、駄目だね」
「どうすれば」
「奈緒が今打ったところは、本来人がいるはず。セッターがいる場合は少し前気味で構えているから取りづらいし、セッターのトスを封じる、という意味ではいいと思う」
 後衛でレシーブをするセッターはトスをするために相手のアタックと同時にネット際まで移動しなくてはならない。守備位置が後ろ過ぎるとトスに間に合わないから少しだけ前進位置にいる場合が多い。
「でもそうじゃない場合。ちょっと深めにレシーブを構えている人からすると、いかに早くて力強くても所詮は真正面のボール。簡単に取られる」
 私は力強く何度も頷いた。
「狙いはさらに奥。サイドラインとエンドラインが交わるギリギリ。普段クロスに打つのと同じ要領だね」
 真希は私の反応を見ながら続けた。
「ストレート側を守る人にとってはオーバーハンドでレシーブしないといけなくなって非常に取りづらい。真ん中で広くレシーブしないといけない人も移動が大変で非常に取りづらい」
 自分がいかに雑なのか思い知らされる。真希は普段からさまざまなことを考えてプレーしているのか。
「というわけで、今日からずっとストレートの練習ね」
 私は言われた通りに練習を始めた。
 ボールがエンドラインを越えたり、サイドラインを越えたりと上手くいかない。
 でも弱音を吐いている場合ではない。真希を勝たせるためには必要なことだから。

 インターハイ県予選までちょうど一か月の五月中旬、組み合わせ抽選会が行われた。
 部長の私が顧問と同行し、組み合わせ結果が印刷された紙を練習前に全員に配った。
「顧問の先生と一緒に組み合わせ抽選会に行ってきた」
「顧問いたんだ」
 真希が驚いたように呟いた。部や同好会には必ず顧問の先生がつくことになっている。もっとも、三年間で一度も練習に顔を見せたことはないが。
「まず日程。六月第二土曜日に女子予選リーグを行い決勝に出る二チームを決める。ちなみに日曜が男子予選リーグ。そして一週間後の土曜日が決勝。そこでインターハイ出場の一チームを決める。試合は三セットマッチで、一日目は三試合」
 福岡のようにチームが多いとこから来ている春日さんには意外かもしれないが、田舎でチーム数が少ないから地区予選とかはない。
 日程に関してはありがたい。仮に一日で試合を全部消化しようとすると、最悪の場合、星和、白峯と連戦することになる。白峯など、消耗した状態で勝てるはずがない。
「で、肝心の組み合わせだけど」
 私は紙に印刷された組み合わせ表を見ながら説明を始めた。
「二ブロックに分かれて決勝に進むブロック代表を決める。最大の敵、白峯とは反対ブロック、決勝で戦うことになる」
 私は一拍置いて続けた。
「ただし、毎年県二位の星和とは同ブロック。勝ち進めば一日目の最後に戦うことになる」
 抽選結果もかなりいい。緒戦で緊張をほぐしつつ一日目最後に星和と戦い、そこで勢いに乗り、自信をつけることができる。翌週には万全の状態で白峯に臨める。
「私からは以上。真希から一言ない?」
「合宿後から皆いい雰囲気で練習できているし、上達している。残り一か月、この調子でいくよ」

 練習を積み重ねていく。
 私と真希は普段から居残り練習をしていたが、そこに良子も引き入れた。真希が新たに身につけようとしている技にはどうしてもセッターが必要だった。
さらに一週間が経ち、昼休みに違うクラスの真希がわざわざ私のところにお弁当持参でやってきて、私の机に広げ始めた。
「練習試合の相手がいない」
 私はいつも食べている友達に断りを入れ、真希と食べることにした。
「星和と練習試合やりたくて打診してるんだけど、いつも断られる」
 星和の部長と連絡先でも交換したのだろうか。そういうところには抜け目がない。
 真希が練習試合をしたがる理由は分かる。大きく分けて二つ。一つは実戦経験。私たちのチームは結成から日が浅く、チームとしての経験値が圧倒的に足りていない。もう一つがモチベーションの維持。普段の練習だけでは成果が実感しにくい。練習試合で成果が発揮できればさらに練習に力も入る。
「白峯は」
 私はありえないだろうと思いながら、とりあえず提案してみた。
「いや、あのチームこそやってくれないでしょ」
 真希は笑いながらお弁当のおかずを口に放り込んだ。
 莉菜に連絡すれば、すぐにでもやってくれると思う。でも……。
「私は真希が一番心配だよ」
「私が心配ってどういうこと」
 私は言おうか躊躇したが、心を鬼にした。
「真希が白峯と、いや、莉菜と戦えるのかってこと」
 真希の咀嚼していた口の動きが止まり、しばらくしてから嚥下し、口を開いた。
「大丈夫だと思う、たぶん」
 私の唯一の心配だ。真希はだれよりも強い。近い将来世界で一番強い選手になる。ただそれは右原莉菜との苦い思い出を乗り越えない限り訪れない。莉菜と直接対決できるほどの覚悟が真希にあるのか。
「大丈夫だと思う」
 真希はもう一度繰り返した。
「奈緒がいるから。奈緒が、莉菜のことじゃなくて私のことを見て、って言ったくれたから」
 あのときは必死だったから何とも思わなかったが、その台詞だけを聞くと、私は急に小恥ずかしくなった。顔に血が集まり、熱くなるのがはっきりと感じ取れた。
「奈緒がいてくれれば大丈夫」
 真希は私のことなどお構いなしに続ける。
「真希、ストップ」
 私は恥ずかしさのあまり、真希の顔の目の前に掌をかざした。
「ちょっと恥ずかしい」
 真希は一瞬固まり、私の反応で自分が少し恥ずかしいことを堂々と言っていると気がついたのか顔を赤くした。
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