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インターハイ予選2
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結局インターハイ予選の日まで練習試合の相手が見つかることなく、当日を迎えた。
私の目から見て、チーム全体のモチベーションに影響はないどころか、日に日に高まっていることを感じていた。実戦経験の少なさには目を瞑るとして、戦えるチームに仕上がっている。
大会は県立体育館で行われ、普段練習している学校の体育館よりも明るく広い。競技場にはコートが二面設営されており、コート同士は優に二十メートル以上離れている。エンドラインから体育館の壁までも十メートル以上はある。体育館二階は観客席となっていて、各チームのスローガンが掲げられていたり、応援の保護者が集まっていた。
私たちは第一試合ということもあり、コートに入って準備運動を始めた。
「緊張してる? 雰囲気に呑まれないでね」
真希は少し緊張気味の双海さんと北村さんに声をかけた。春日さんはそれなりに場数を踏んでいるからか、普段と変わらない様子で頼もしい。
「一回戦、二回戦は準備運動みたいなもの。緊張を解す、くらいの気持ちでね」
真希としては不本意な言葉だろう。高校生同士の試合など、何が起こるか分からない。自分たちが圧倒的格上を倒そうとしているのと同じで、自分たちが格下だと思っている相手に負ける可能性もあるのだ。それでも二人のプレッシャーを和らげるための言葉としてはこれが最適だと思う。
真希がふと、自分たちがいるコートの真後ろに目をやりそのまま固まってしまった。私もその視線を追うと観客席に白峯がいるのを見つけた。
離れていても分かる体格の良さ、纏っている自信と雰囲気。そのすべてが会場にいるチーム全体の中で跳び抜けている。
自分たちのブロックのチームを見ていればいいものをと、私は半ば呆れながら見ていたら、その中に見覚えのある顔を見つけてしまった。真希が固まったのはこのためか。
向こうもこちらに気がついたのか、少しの間目が合った気がした。
莉菜。
真希の表情からは何も読み取れない。それでも莉菜のことで頭がいっぱいになりつつあるのだけは分かる。
私は真希の背中を強く叩いた。
「あれは来週の相手。今の相手はネット向こう側のチーム」
真希が頷く。
「目の前の相手に集中できないようじゃ、足を掬われるよ」
両チームが準備運動を終え、試合が始まる。
「正直今日は星和以外敵なしと思っている」
試合開始前最後のミーティングで真希ははっきりと言い切った。
「そうでないとインハイ制覇どころか出場すらできない」
私は緊張気味の北村さんと双海さんを見て後を継いだ。
「まず二人の緊張を解す。良子、クイックを多めに使って。皆レシーブよろしくね」
全員がコートに入り、審判によってポジションチェックが行われた後、相手のサーブから試合が始まった。
最初こそぎこちなかったが、徐々に普段通りの動きに戻ってきたと私は安堵した。レシーブも一年生の攻撃も良子のトスも、普段通りだ。
第一セットを25対7で圧勝し、続く第二セットも終始私たちのペースだった。
マッチポイントとなったとき、私はうずうずしている真希に気がつき、良子にこの日最初のトスを上げるように頼んだ。
真希はそれを一撃で決め、私に向かって親指を立てて、絶好調と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。
私も笑顔で親指を立ててそれに答える。
次の試合まで空きができたため、観客席に移動し試合を観戦することにした。一日目の最大の敵である星和の試合はまだで、その代わり白峯の試合が始まろうとしていた。
「あれが県内最強、全国トップレベルのチーム。私も試合は見たことないから、どれほどのものか見てみようか」
真希がチームを引き連れ、白峯側のコート真後ろ、一番前の観客席に座った。
私は真希の右横に座り、ちらりと顔を伺った。
本当に真希は、莉菜との間にあった過去を乗り越えることができるのだろか。もし真希がガタつけば、大黒柱を失ったこのチームは一瞬で崩壊する。
私の目からは普段通りの真希にしか見えない。真希のことは何でも分かるが、その胸中だけは推し量ることができない。
試合開始の笛が吹かれ、白峯のサーブから試合が始まった。
ジャンプフローターサーブが不規則な軌跡を描きながら、相手コートに落ちる。
立て続けにサーブだけで得点を重ね、6対0となったところで白峯の相手チームがタイムを取った。
「合宿で不動さんが、サーブで崩せば楽に勝てる、って言ってたのはこういうこと。まだ皆何もしてないでしょ」
真希は一年生たちを見ながら解説していく。
サーブだけで25点取って、何の情報も得られない、なんてことにはならないで欲しい、と考えているうちに試合が再開された。
サーブが走る。10対0になるまで、白峯はサーブしか打っていない。
まさかこのまま25点取る気かと、本気で心配したところで、相手がようやくボールをつなぎ、緩い山なりのボールを返した。
白峯はそれをAクイックに変え、あっさりと点を取る。
結局第一セットはサーブとAクイックだけで点を重ね、25対0で終わった。
「25対0なんて初めて見ましたよ!」
春日さんが口をぽかんと開け呆然としている。
私もそれは初めてだった。バレーは一度でもボールが床に落ちると相手に一点が入る性質上、たとえどんなに力の差があっても、無得点はそうそう起こらないスポーツだ。
コートチェンジが行われ、第二セットが始まった。
第一セットと同様にサーブとクイックで点を重ね、マッチポイントとなったところで、白峯のエース莉菜が決め、25対1で試合終了となった。
アタックを決めた莉菜がふと観客席に顔を向けるのが見えた。真希と莉菜はしばし視線を合わせ、どちらも微動だにしない。
真希は今何を思っているのか、私は普段通りの真希を見つめた。莉菜と目が合ってもここまで普段通りだと逆に心配になる。
結局真希と莉菜との間にあったことは、真希だけでなく私自身も捕らわれているのか、私は暗澹たる気持ちになった。
この後すぐに、本日最大の相手星和の試合が始まるとのことで、私たちは移動し、星和戦を観戦することにした。
私たちとはコートを挟んで反対側の観客席に、先ほど試合を終えたばかりの白峯が集まっていた。
試合が始まり、終始星和が速い攻撃で攻め、得点を重ねていった。
「星和の攻撃は速い。セッターが後衛のとき、攻撃は三パターンあるから奈緒の負担は大きくなるけどブロック食らいついて」
真希は星和の試合を見ながら、星和戦をどう戦うか指示を出していく。
「セッターが前衛のとき、クイックに一人、セミかバックセミには二人。これは必ず守って。そのためにも、相手のポジションを必ずチェックすること」
全員が試合を食い入るように見つめ、実際の動きを頭の中でシミュレーションする。
「相手のトスは低い。ネットに近いトスが上がってきたらボールの上から打つコースを塞ぐように覆う。不動さんに言われたことを忘れないで」
試合はあっという間に終わり、私たちの第二試合が近づいていた。
「次勝つと、今日最後はおそらく星和。とはいえ、負けたら終わり。目の前の試合に集中するよ」
真希が最後にそう締めくくり、全員でコートへ向かった。
続く試合にも勝利し、星和、白峯もまた試合に勝利し、今日最後の相手は星和と決まった。
私の目から見て、チーム全体のモチベーションに影響はないどころか、日に日に高まっていることを感じていた。実戦経験の少なさには目を瞑るとして、戦えるチームに仕上がっている。
大会は県立体育館で行われ、普段練習している学校の体育館よりも明るく広い。競技場にはコートが二面設営されており、コート同士は優に二十メートル以上離れている。エンドラインから体育館の壁までも十メートル以上はある。体育館二階は観客席となっていて、各チームのスローガンが掲げられていたり、応援の保護者が集まっていた。
私たちは第一試合ということもあり、コートに入って準備運動を始めた。
「緊張してる? 雰囲気に呑まれないでね」
真希は少し緊張気味の双海さんと北村さんに声をかけた。春日さんはそれなりに場数を踏んでいるからか、普段と変わらない様子で頼もしい。
「一回戦、二回戦は準備運動みたいなもの。緊張を解す、くらいの気持ちでね」
真希としては不本意な言葉だろう。高校生同士の試合など、何が起こるか分からない。自分たちが圧倒的格上を倒そうとしているのと同じで、自分たちが格下だと思っている相手に負ける可能性もあるのだ。それでも二人のプレッシャーを和らげるための言葉としてはこれが最適だと思う。
真希がふと、自分たちがいるコートの真後ろに目をやりそのまま固まってしまった。私もその視線を追うと観客席に白峯がいるのを見つけた。
離れていても分かる体格の良さ、纏っている自信と雰囲気。そのすべてが会場にいるチーム全体の中で跳び抜けている。
自分たちのブロックのチームを見ていればいいものをと、私は半ば呆れながら見ていたら、その中に見覚えのある顔を見つけてしまった。真希が固まったのはこのためか。
向こうもこちらに気がついたのか、少しの間目が合った気がした。
莉菜。
真希の表情からは何も読み取れない。それでも莉菜のことで頭がいっぱいになりつつあるのだけは分かる。
私は真希の背中を強く叩いた。
「あれは来週の相手。今の相手はネット向こう側のチーム」
真希が頷く。
「目の前の相手に集中できないようじゃ、足を掬われるよ」
両チームが準備運動を終え、試合が始まる。
「正直今日は星和以外敵なしと思っている」
試合開始前最後のミーティングで真希ははっきりと言い切った。
「そうでないとインハイ制覇どころか出場すらできない」
私は緊張気味の北村さんと双海さんを見て後を継いだ。
「まず二人の緊張を解す。良子、クイックを多めに使って。皆レシーブよろしくね」
全員がコートに入り、審判によってポジションチェックが行われた後、相手のサーブから試合が始まった。
最初こそぎこちなかったが、徐々に普段通りの動きに戻ってきたと私は安堵した。レシーブも一年生の攻撃も良子のトスも、普段通りだ。
第一セットを25対7で圧勝し、続く第二セットも終始私たちのペースだった。
マッチポイントとなったとき、私はうずうずしている真希に気がつき、良子にこの日最初のトスを上げるように頼んだ。
真希はそれを一撃で決め、私に向かって親指を立てて、絶好調と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。
私も笑顔で親指を立ててそれに答える。
次の試合まで空きができたため、観客席に移動し試合を観戦することにした。一日目の最大の敵である星和の試合はまだで、その代わり白峯の試合が始まろうとしていた。
「あれが県内最強、全国トップレベルのチーム。私も試合は見たことないから、どれほどのものか見てみようか」
真希がチームを引き連れ、白峯側のコート真後ろ、一番前の観客席に座った。
私は真希の右横に座り、ちらりと顔を伺った。
本当に真希は、莉菜との間にあった過去を乗り越えることができるのだろか。もし真希がガタつけば、大黒柱を失ったこのチームは一瞬で崩壊する。
私の目からは普段通りの真希にしか見えない。真希のことは何でも分かるが、その胸中だけは推し量ることができない。
試合開始の笛が吹かれ、白峯のサーブから試合が始まった。
ジャンプフローターサーブが不規則な軌跡を描きながら、相手コートに落ちる。
立て続けにサーブだけで得点を重ね、6対0となったところで白峯の相手チームがタイムを取った。
「合宿で不動さんが、サーブで崩せば楽に勝てる、って言ってたのはこういうこと。まだ皆何もしてないでしょ」
真希は一年生たちを見ながら解説していく。
サーブだけで25点取って、何の情報も得られない、なんてことにはならないで欲しい、と考えているうちに試合が再開された。
サーブが走る。10対0になるまで、白峯はサーブしか打っていない。
まさかこのまま25点取る気かと、本気で心配したところで、相手がようやくボールをつなぎ、緩い山なりのボールを返した。
白峯はそれをAクイックに変え、あっさりと点を取る。
結局第一セットはサーブとAクイックだけで点を重ね、25対0で終わった。
「25対0なんて初めて見ましたよ!」
春日さんが口をぽかんと開け呆然としている。
私もそれは初めてだった。バレーは一度でもボールが床に落ちると相手に一点が入る性質上、たとえどんなに力の差があっても、無得点はそうそう起こらないスポーツだ。
コートチェンジが行われ、第二セットが始まった。
第一セットと同様にサーブとクイックで点を重ね、マッチポイントとなったところで、白峯のエース莉菜が決め、25対1で試合終了となった。
アタックを決めた莉菜がふと観客席に顔を向けるのが見えた。真希と莉菜はしばし視線を合わせ、どちらも微動だにしない。
真希は今何を思っているのか、私は普段通りの真希を見つめた。莉菜と目が合ってもここまで普段通りだと逆に心配になる。
結局真希と莉菜との間にあったことは、真希だけでなく私自身も捕らわれているのか、私は暗澹たる気持ちになった。
この後すぐに、本日最大の相手星和の試合が始まるとのことで、私たちは移動し、星和戦を観戦することにした。
私たちとはコートを挟んで反対側の観客席に、先ほど試合を終えたばかりの白峯が集まっていた。
試合が始まり、終始星和が速い攻撃で攻め、得点を重ねていった。
「星和の攻撃は速い。セッターが後衛のとき、攻撃は三パターンあるから奈緒の負担は大きくなるけどブロック食らいついて」
真希は星和の試合を見ながら、星和戦をどう戦うか指示を出していく。
「セッターが前衛のとき、クイックに一人、セミかバックセミには二人。これは必ず守って。そのためにも、相手のポジションを必ずチェックすること」
全員が試合を食い入るように見つめ、実際の動きを頭の中でシミュレーションする。
「相手のトスは低い。ネットに近いトスが上がってきたらボールの上から打つコースを塞ぐように覆う。不動さんに言われたことを忘れないで」
試合はあっという間に終わり、私たちの第二試合が近づいていた。
「次勝つと、今日最後はおそらく星和。とはいえ、負けたら終わり。目の前の試合に集中するよ」
真希が最後にそう締めくくり、全員でコートへ向かった。
続く試合にも勝利し、星和、白峯もまた試合に勝利し、今日最後の相手は星和と決まった。
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