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インターハイ予選決勝4
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真希が足首を抑え、その場に蹲った。
「真希!」
私の叫びがどこか遠くから聞こえる。
「タイム!」
蹲り足首をさすっている真希の元に駆け寄った。
「真希、とりあえずベンチに」
春日さんも駆け寄り、二人で真希を支えながらベンチに移動し真希を座らせた。
「見せて」
私が足首まであるシューズとサポーターを脱がせた。
真希が愛用しているシューズとサポーターのお陰か、見た目に異状はない。
「大丈夫。驚いただけ。痛みもない」
真希は何ともなさそうに言ってのけるが真希のことだからやせ我慢をしている可能性が高い。
私は真希の顔を見つめた。確かに見た目に異状はない。ただ痛みに関しては今は感じていないだけなのかもしれない。痛かったらごめんと、私は心の中で謝りながら真希の右足首を触った。
真希が小さく声にならない呻き声を上げた。
「真希」
「くすぐったかっただけ」
真希が強がっているのは明らかだ。
私はもしものときのためにベンチに置いていた救急箱からコールドスプレーを取り出し、患部に噴射した。
「私たちの負けだね」
私は真希の足首を見つめながら声を絞りだした。真希の顔を見ることができなかった。真希の顔を見れば、自分の決意は揺らいでしまう。
「奈緒、何言ってるの」
真希が驚いたような声を上げた。
「私は大丈夫、痛くない。ネット際の接触なんて、よくあること」
真希の言う通り、よくある怪我の内の一つだ。だからこそ普段からネット際のプレーが多い真希は、足首まであるシューズ、サポーターを使用している。普段の真希なら相手の足を避けて着地することができたはずだが、疲労がそれを許さなかった。
「私たちのうちだれか一人でも怪我をすれば、試合はできなくなる。真希のせいじゃない。真希が気に病む必要はない」
大会のルールではいかなる理由であろうとコート内が六人未満になった場合その試合は負けとなる。
「残り五点、サクッと決める」
真希はなおも食い下がる。
「ジャンプサーブとバックアタックで? 悪化するよ」
私は我慢ができず、真希の顔を睨みつけた。
「一人でも怪我をしたら、それは私たちの負けなの。分かるでしょ」
「痛みはない。後少しくらいなら動ける。奈緒は大げさだよ」
真希も私を睨みながら反論してくる。
「さっき触ったら痛そうにしていたのに?」
「だから、くすぐったかっただけだって」
真希が立ち上がろうとした気配を感じ、私は慌てて立ち上がり、真希の肩を上から抑えた。
「だれか怪我して試合ができなることを予測して、部員をもう一人用意しなかった私の責任。結局真希に頼り切っていた。三年前と何も変わってない、私の責任」
私は真希を抑える手に力を込めた。
「奈緒、どいて。テーピングで固めれば今日は問題ない。軽傷だから来週には治る。だから、どいて」
真希がむりやり立ち上がろうとするが、私はそれを許さない。
「無理をして怪我が悪化すれば、真希の将来にも影響がある。だからどかない。そして試合もこれで終わり」
この試合で無理をして重症化した場合、夏のインターハイは絶望的だ。それに捻挫は癖になる。真希の才能が怪我で奪われるなんてことはあってはならない。
私は悔しさのあまり、真希を抑える手にさらに力が入る。
「私の将来? そんな先のことなんかより、今の勝利のほうが大事だよ!」
真希が怒気を含ませ叫んだ。
「私は今の勝利なんかより、真希の将来のほうが大事だって言ってるの!」
私も気がつけば叫んでいた。インハイ優勝もかかっていない試合での勝利より、近い将来世界一の選手になる真希のほうが大事だ。
「真希はそのうち日本一の選手になる。そしてさらには世界一の選手になる。そんな真希をこんな試合で無理はさせない」
「奈緒、訳の分からないこと言わないで。これ以上邪魔するなら奈緒でも許さないよ」
「許さない?」
私はさらにヒートアップし叫んでいた。
「皆から恨まれてもいい。真希が一生口をきいてくれなくてもいい。真希に一生恨まれてもいい。真希に殴られたって構わない。その程度のことで真希の将来が守られるなら」
しばし私たちは睨み合った。
「奈緒、私はまだ諦めてないよ」
諦めていない? こんな状況で? 私は真希の力強い目に吸い寄せられ、目を逸らせなくなってしまう。真希は諦めていない、目を見れば一目瞭然だ。
真希はどうして諦めない。その理由はもう分かっている。真希がどこに勝機を見出しているか分かっている。だって私は真希のことなら何でも分かるから。でも真希の口からでは駄目だ。私が、私の意思でそれを口にしないといけない。
緊張で体が強張るし、心臓も早鐘を打つ。どうにか落ち着けようと深呼吸をした。
「残りの試合、私がエースだ」
もう後戻りはできない。いや、弱気になるな、胸を張れ。
「私がこのチームを勝たせる!」
「真希!」
私の叫びがどこか遠くから聞こえる。
「タイム!」
蹲り足首をさすっている真希の元に駆け寄った。
「真希、とりあえずベンチに」
春日さんも駆け寄り、二人で真希を支えながらベンチに移動し真希を座らせた。
「見せて」
私が足首まであるシューズとサポーターを脱がせた。
真希が愛用しているシューズとサポーターのお陰か、見た目に異状はない。
「大丈夫。驚いただけ。痛みもない」
真希は何ともなさそうに言ってのけるが真希のことだからやせ我慢をしている可能性が高い。
私は真希の顔を見つめた。確かに見た目に異状はない。ただ痛みに関しては今は感じていないだけなのかもしれない。痛かったらごめんと、私は心の中で謝りながら真希の右足首を触った。
真希が小さく声にならない呻き声を上げた。
「真希」
「くすぐったかっただけ」
真希が強がっているのは明らかだ。
私はもしものときのためにベンチに置いていた救急箱からコールドスプレーを取り出し、患部に噴射した。
「私たちの負けだね」
私は真希の足首を見つめながら声を絞りだした。真希の顔を見ることができなかった。真希の顔を見れば、自分の決意は揺らいでしまう。
「奈緒、何言ってるの」
真希が驚いたような声を上げた。
「私は大丈夫、痛くない。ネット際の接触なんて、よくあること」
真希の言う通り、よくある怪我の内の一つだ。だからこそ普段からネット際のプレーが多い真希は、足首まであるシューズ、サポーターを使用している。普段の真希なら相手の足を避けて着地することができたはずだが、疲労がそれを許さなかった。
「私たちのうちだれか一人でも怪我をすれば、試合はできなくなる。真希のせいじゃない。真希が気に病む必要はない」
大会のルールではいかなる理由であろうとコート内が六人未満になった場合その試合は負けとなる。
「残り五点、サクッと決める」
真希はなおも食い下がる。
「ジャンプサーブとバックアタックで? 悪化するよ」
私は我慢ができず、真希の顔を睨みつけた。
「一人でも怪我をしたら、それは私たちの負けなの。分かるでしょ」
「痛みはない。後少しくらいなら動ける。奈緒は大げさだよ」
真希も私を睨みながら反論してくる。
「さっき触ったら痛そうにしていたのに?」
「だから、くすぐったかっただけだって」
真希が立ち上がろうとした気配を感じ、私は慌てて立ち上がり、真希の肩を上から抑えた。
「だれか怪我して試合ができなることを予測して、部員をもう一人用意しなかった私の責任。結局真希に頼り切っていた。三年前と何も変わってない、私の責任」
私は真希を抑える手に力を込めた。
「奈緒、どいて。テーピングで固めれば今日は問題ない。軽傷だから来週には治る。だから、どいて」
真希がむりやり立ち上がろうとするが、私はそれを許さない。
「無理をして怪我が悪化すれば、真希の将来にも影響がある。だからどかない。そして試合もこれで終わり」
この試合で無理をして重症化した場合、夏のインターハイは絶望的だ。それに捻挫は癖になる。真希の才能が怪我で奪われるなんてことはあってはならない。
私は悔しさのあまり、真希を抑える手にさらに力が入る。
「私の将来? そんな先のことなんかより、今の勝利のほうが大事だよ!」
真希が怒気を含ませ叫んだ。
「私は今の勝利なんかより、真希の将来のほうが大事だって言ってるの!」
私も気がつけば叫んでいた。インハイ優勝もかかっていない試合での勝利より、近い将来世界一の選手になる真希のほうが大事だ。
「真希はそのうち日本一の選手になる。そしてさらには世界一の選手になる。そんな真希をこんな試合で無理はさせない」
「奈緒、訳の分からないこと言わないで。これ以上邪魔するなら奈緒でも許さないよ」
「許さない?」
私はさらにヒートアップし叫んでいた。
「皆から恨まれてもいい。真希が一生口をきいてくれなくてもいい。真希に一生恨まれてもいい。真希に殴られたって構わない。その程度のことで真希の将来が守られるなら」
しばし私たちは睨み合った。
「奈緒、私はまだ諦めてないよ」
諦めていない? こんな状況で? 私は真希の力強い目に吸い寄せられ、目を逸らせなくなってしまう。真希は諦めていない、目を見れば一目瞭然だ。
真希はどうして諦めない。その理由はもう分かっている。真希がどこに勝機を見出しているか分かっている。だって私は真希のことなら何でも分かるから。でも真希の口からでは駄目だ。私が、私の意思でそれを口にしないといけない。
緊張で体が強張るし、心臓も早鐘を打つ。どうにか落ち着けようと深呼吸をした。
「残りの試合、私がエースだ」
もう後戻りはできない。いや、弱気になるな、胸を張れ。
「私がこのチームを勝たせる!」
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