三人の精霊と俺の契約事情

望月 まーゆ

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三人の精霊と悪魔教団の書・序

潜入捜査

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 異様な雰囲気が漂う街中、白装束姿の人々は皆、列に並び礼拝堂へ入って行きしばらく経つと出て来る。 


 ゾロアスター教の毎朝恒例の儀式、礼拝堂の中には一体何があるのだろうか。

アーサーとキルケーは白装束姿に扮して街に潜入して列に並ぶ。

 それほど大きくない街にこれだけの人々が並んでいるという事は街の人全員が漏れなく並んで参拝していると言う事だろう。

 人々の顔は真顔で目は死んだ魚のように光がないように感じた。

 誰一人として言葉を発しない。

 お互いの顔も目も合わせることなく参拝を終えるとそのまま家へと戻って行く。

「キルケー、街の人達のこの異様な雰囲気はどういう事だ」

 アーサーが誰にも聞き取れないほど小さな声でキルケーの耳元で囁く。

「ああ、 操られているのか? しかし、魔力は感じ取れないな」

 アーサーに視線を合わせず、正面を向いたまま小声で囁く。

「魔法ではないのか?  これほどの人数の人間をどうやって操っているんだ」

「あの礼拝堂の中に何か秘密が隠されているのかもしれないな」

 陽が頭上にまで登り、例は徐々に進みいよいよアーサーとキルケーが緊張な面持ちで礼拝堂の中へと進むーー

★  ★  ★

 礼拝堂の中は、異様な雰囲気が漂っている外は真昼だというのに中は夜のように暗い。

 ステンドグラスから伸びる光の柱が数本足元を照らしている。

 白装束のゾロアスター教の幹部らしき人間が二人、礼拝堂の奥の両隅に立っているのが確認出来る。

 キルケーは、礼拝堂の手前でアーサーが帰ってきてから交代で進むので待機している。
 
アーサーは、ゆっくりと奥に進む。

 奥に進むに連れてだんだんと異様な物が見えてきた。

  それは、翼の生えた人型の銅像が建っていた大きさは大体アーサー位だろうか。

 額には宝石が編み込まれている。

 その宝石は、見惚れてしまうほど美しく一度見つめたら心まで吸い込まれてしまうような気さえする。

「何て美しい宝石何だ・・・」

 アーサーの心は、宝石の虜になっていた。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

「コレは、魔石ですわ」

「ませき?」

「ええ、人間の生命力や気力を吸い取り魔力に変え、石に魔力を蓄えておく危険な物よ」

「街の人達に異常があったのもこの魔石が原因だったのね」

「精霊も人間の生命力や気力を魔力に変えて魔法を使うのと同じ原理ですわ。毎朝少しずつ人間から生命力や気力、精気を集めていたのですわ」

「アーサーさまも大変なの」

「早く正気に戻さないとーー」

「でも、私たちが飛び出してしまえばゾロアスター教に気付かれてしまいますわ」

「そんなこと気にしてたらアーサー様が手遅れになちゃうよお」

「なのなの!」

「騒ぎが大きくなればアーサー様やキルケーさんも捕まってしまう可能性もあるのよ」

「じゃあ、どうすれば・・・」

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

「遅いと思ったら何ボーッと立ってるだ?」

  待ちくたびれたキルケーが何も知らずにやって来た。

  アーサーの中に居る精霊たちはナイスタイミングと笑顔でガッツポーズを見せた。

 しかしーー 、

「オイ、まだお前の順番ではないぞ。何勝手に入って来ている戻れ」

「堅い事言うなよ。参拝するのにそんなに時間かからないだろ、少しフライングした位で何がどう変わるんだよ」

 白装束たちの雰囲気が変わるーー

 アーサーの中に居た精霊たちは皆、ため息をつき肩を落とし顔を手で覆った。

「貴様、何者だ! 何の目的でここに来た?
ここの秘密を見た限りタダでは帰れると思うなよ」

「ここの秘密?  何を言っている」

 白装束二人はナイフを取り出しキルケーに向ける。

 アーサーはまだ固まったままボーッと動かないでいる。

「オイ、オイ、物騒な物を取り出すなよ。
それよりアーサー何やってんだよ?」

 精霊たちは、もう見てられないと覚悟を決めてアーサーの中から飛び出した。

「おっ! おチビちゃんたち」

「もう! キルケーさん何やってるんですか?目的を忘れてしまったんですか? 相手にバラすような発言してどおするんです」

「ハハ、悪い悪いついね」

「アーサーさま、ませきにやられたの」

「魔石・・・ アレか」

 キルケーの表情が変わる、先程までのおチャラけていた表情とは打って変わり険しく厳しい表情になる。

「ほう、お前らコレをどうするつもりだ? 
この魔石どこで手に入れた?」

 白装束の顔被りを投げ捨て前に出るキルケー。

「貴様に話すことなどない。お前らはここで消えてもらうのだからな」

 白装束の二人が一斉にキルケーにナイフを突き立て襲いかかる。

 「ナイフ如きでこの天才魔導士キルケー様を倒せると思っているのか?」

 キルケーは、 目を閉じ集中し心を例えるーー目を開け目の前に襲いかかる白装束に右手を差し出しパチンと人差し指と親指を弾いた。

その直後、白装束の二人は銅像の下の石の台座まで吹き飛んだ。

白装束の二人は、そのままピクリとも動かず倒れ込んでいた。

「今のは、風の魔法 アサルトショット・・・演唱無しで魔法を使うなんて」

 キルケーは、振り返りながらーー

「おっ、メガネちゃんは風の精霊か? よく分かったね。 感心 感心」

「アーサーさまを治してほしいの」

「そうだったな、魔石の幻惑効果にやられてるな。人間には、絶大な効果があるのから厄介なんだよね」

 アーサーの目の前に立つと白装束の羽織りの背中から杖を取り出した。

 目を閉じ集中力を高めてるーー目を開けアーサーの頭をコツンと杖で叩く。

するとーー アーサーの顔色が徐々に戻っていく。

「あれ? 俺は今まで何を・・・ここは」

 アーサーは、何が何だか分からずキョロキョロと周りを見渡す。

「アーサー様、元に戻ったんだね。良かったあ」

「アーサーさまあ」

「良かったですわ。正気に戻られて」

 アーサーに抱きつきホッと胸を撫でおらす精霊たち。

 その最中、白装束の一人が意識を取り戻し隠し持っていた笛をチカラいっぱい響かせるーー

「ちぇっ、もう意識を取り戻したか。退散するぞ、面倒くさいのはゴメンだ」

 キルケーは、素早く移動し銅像にはめ込まれている魔石を取り出した。

「き、 貴様・・・それを返せ・・・」

「ふふふ、やなこったアカンベーっだ」

 小悪魔スマイルを見せて下をペロッと出して白装束を挑発するキルケー。

「さあ、 逃げるぞ! 野郎ども」

 先頭を切って走って行くキルケー、それに続くようにアーサーと精霊たちは礼拝室を後にする。


 廊下を走り抜けていく窓の先には既に沢山の白装束たちが礼拝堂を包囲していた。

「キルケー、ヤバイぞ。囲まれている」

「見たいだな」

「どうする? この数相手にするには厳し過ぎるぞ。 裏口や抜け道を捜すか?」

「そうだなあーー」

 キルケーは、顎に手を置き少し考え、パチンと人差し指と親指を弾いた。

するとーーどこからとも無く箒が飛んで来た。

「箒?」

  アーサーは、目を丸くしている。

「ああ、 箒で空から逃げるんだよ」

  平然と箒に跨りながら答えるキルケー。

「どうやって? 出口なんか無いじゃないか」

 あたりをキョロキョロと見回しながら言うアーサー。

「無ければ作れば良いだろ?」
 
 キルケーは、箒に跨り体を宙に浮かすと礼拝室まで戻ると天井に向かって杖を構える。

キルケーの後を慌ててつけて戻るアーサーは嫌な予感がしていた。

「まさかーー」

 キルケーの杖が光り輝くと、天井に向かって魔法を放つーー。

「咲き誇れ炎の華よ! エクスプロージョン 」

 凄まじい爆発音が街中に響き渡る、天井は粉々に吹き飛び真昼の青空が覗いた。

「ーーーー」

  言葉を失うアーサーと精霊たち・・・。

「さっ、帰るぞ。 乗れ」

 言われるがままにキルケーの後ろで箒に跨るアーサー。

 もう何が正しくて何が間違ってるのか訳が分からなくなっていた。

 白装束の街の人たちはただ呆然と箒に跨り飛んで行く影を見つめていた。

 メイザースの予想通り、潜入捜査にならなかったアーサーとキルケーだった。




ーー 良いんですか?コレで ーー
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