三人の精霊と俺の契約事情

望月 まーゆ

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三人の精霊と悪魔教団の書・魔導武闘会編

父と母

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その後の予選は順調なものだったーー

Eグループは、ヴァニラが開始三十秒程で勝利し続くFグループもメーディアが開始一分程で勝利した。

波乱もなく全て円卓の魔導士が勝利を収めていた。

「アーサー快勝だったな」

「見事な勝利だったわ」

「さすがです」

キルケー、メーディア、リリスが笑顔で試合を終えたアーサーを迎える。

「楽勝だったの。もっと強い人でもやっつけてやたの」

エルザが「えっへん」と得意げに腕を組み自慢する。

それを見てみんな大笑いしていた。

コツコツと選手控え室には似合わないハイヒールの音が響き渡るーー

アーサーは聞き覚えのあるその音に身震いがしたーー恐る恐る振り返るとゆっくりと高価なアクセサリーを身にまとい魔法武道会とは無縁のドレスを着たミランダがアーサーを睨みつけながらやって来たーー

「どう言うつもりかしら? 私の忠告が聞けなかったのかしら」

顔を思いきっり近づけ睨みつけるミランダ。

「姉さんの言いつけを破るつもりはなかったんだけど・・・成り行きで」

「ミランダ何だい急にーー」

キルケーがミランダを止めようとするがーー

「他人は黙ってて。 これは身内の問題よ」

キルケーを振り払うかのように制止した。

「何であなたがアヴァロンにいるの? それも大会までエントリーしてそんなに私を困らせたいの?」

「ーーだから、全て成り行きで自分の意思じゃないって言うか・・・」

おどおどしながら話すアーサー。

「ーーっ、だからアルファと関係をもつなと言ったのよ。メイザースならきっと面白がってアヴァロンや円卓に連れ出すと思ったのよ。そうでしょーーメーディア」

ミランダはメーディアを睨みつけたーー

「誤解よミランダ。 全て偶然よ」

「偶然? そんな訳ないでしょ。 メイザースがアーサーに手紙を出さなければ始まらなかった話でしょ。 惚けないでくれる」

凄い剣幕で怒鳴りつけるミランダ。

控え室の他の選手たちは皆静まりかえっているーー

「ミランダ落ち着こうよ。 ここでは話にならないから一旦外に出ましょうよ」

リリスがミランダをなだめてみんなと一緒に外に連れ出した。


★  ★  ★


コロッセオの個室の休憩所にみんなで入りひとまず人目を気にせず話が出来る空間を確保したーー

「アーサー、私がなぜ怒っているか分かってるの」

コの字型に並んだソファーに腰かけ足組みをしているミランダ。

それぞれみんなソファーに腰掛けている。

「姉さんの言うことを聞かずにペンドラゴンの名を世に出してしまったからかな? 」

自信なさげに答えるアーサー。

「ーー私たちの苦労をこの二十年余りずっと守ってきた時間をあなたは一瞬で終わらせてくれたのよ」

何のことを言っているのか全員が分からなかった。

「どう言うこと? 」

キルケーがたまらず尋ねた。

「あなた達みたいなアホと付き合うなって事よ」

「何だとこの天才に向かってーー」

顔を真っ赤にして立ち上がるキルケー

「本気にしないの、冗談に決まってるでしょ。安い挑発にいちいち乗らないの」

メーディアが落ち着かせる。

「まあ、こうなってはもう手遅れだから真実を話しておくわね。アーサー知りたいでしょ? 何で魔力がなかったか。 母や父の事もーー」

ミランダは足を組み替えてアーサーに微笑んだ。

アーサーは逆にミランダを金色の瞳で睨んだーー

「その瞳を見るとやはり父に似てるわね。この会場のどこかにいる人にーー」

「何をどこまで話してくれるんだよ」

「ふふ、まずはあなたの魔力を奪ったのは父よ」

休憩所に居た全員が驚いたーー

「な、何で父さんが魔力をーー」

「あなたを守る為よ。私もフレディも開眼しなかった金色の瞳エンペラーアイを持った子供を他の人や悪魔から守る為にわざと魔力を奪った。魔力がない人間がまさか金色の瞳エンペラーアイの持ち主だとは誰も思わないから」

なるほどと言えばそうだがそのせいで俺は壮絶な人生を送ってきた。

「それが分かっていてなぜ俺を罵ったり罵倒してきたんだよ」

「優しくされたかったの? 魔力がなくて可哀想ねとか言われたかった? 魔力のないあなたは、この先何の努力をした。無くてみんなからチヤホヤされたらこの先何を目標に生きるの? だからあえてみんなであなたに厳しく接してきたのよ。私達が好き好んで弟を虐めたりする訳ないでしょ。 どれだけ苦しかったかあなたが街で虐められてるのを影から見ているだけで助けられない自分がどれほど悔しかったかーー」

静まり返りみんなミランダの涙ぐんだ瞳を真っ直ぐに見れずにいた。

「父はいずれ自分が倒れたり王を退く時にあなたに全てを譲るつもりでいたのよ。しかしあなたは自力で封印を解き金色の瞳を開眼させ更にペンドラゴンの名を世にさらけ出してしまったーー」


反省し顔を上げられないアーサー。

「ーーだけど、アーサーさんが居なければホーエンハイムは今頃、落城して悪魔たちに私は命を奪われていたかも知れませんでした」

リリスがアーサーをかばうように口を開いた。

「私はパートナーを亡くし契約が切れてしまい消えてしまいそうな所でしたが、アーサー様の金色の瞳エンペラーアイがあるおかげでこうしてこれからもお友達と過ごせるのです」

ルナが笑顔を見せて精霊たちと微笑んだ。

「私たちもこの前アーサーに助けられたんだ。 まさかの竜退治だったけどな」

キルケーがメーディアと目を合わせて微笑んだ。

「わたしもアーサーさまと出会えすごくうれしかったの」

「アーサー様との出会いがなければ今頃私たちは消えていましたわ」

「あの時ーーアーサー様との出会いで私たちは運命を変えることが出来たのです」

みんなそれぞれ熱い思いを吐き出した。

「みんな・・・」

アーサーは、人の優しさがこんなにも嬉しい何て初めて思った。

思わず涙が溢れそうになったーー

「アーサー、良い仲間に恵まれたね」

アーサーは顔を上げたーーそこには初めて見たミランダの優しい笑みがあった。

姉ながらその美しい顔に見惚れそうになった。

「みんなこれからも弟を宜しく頼む」

ミランダは頭を下げたーー

素直なミランダを初めてみたキルケー、メーディア、リリスは驚きの表情を見せた。

「ーーいえ、こちらこそどうぞよろしく」

キルケーは訳の分からない言葉を言ってミランダに頭を下げていた。

「姉さん、母親のことも教えてほしいーー今どこで何をしてるの? 俺は記憶にないんだ顔も分からないし写真もない、なぜ? 」

ミランダの表情が曇ったーー

「母はもうこの世にはいないーー帝国によるクリスタルパレスの魔女狩りは知ってわよね。 その時に亡くなったらしいわ」

リリスの顔が青ざめたーー彼女もまたクリスタルパレスの出身であの時の生き残りだ。


「ーー亡くなったらしいってどういうこと」

アーサーは身を乗り出しミランダに食いついた。

「母はアヴァロンから出ることは許されなかったので私も母には数回しか会った事はなかった。  母はとても綺麗で美しくそしてとても素敵な歌声をしたマーメイドでした」

「ーーーー」

アーサーは言葉が出なかったーー

「満月の夜にだけ人の姿になれる母はその時にだけ父に会っていたようです。 マーメイドの母はいつも水槽の中で会いに来てくれる父を待っていたそうですが、父はあの性格ですから自分からは決して会いに行かなかったそうです。 満月の夜だけが母にとっては唯一愛してもらえる時間でしたーー

母は自分がマーメイドだから会いに来てくれないのだと思うようになり水槽を抜け出しクリスタルパレスに人間になれる魔法を使える魔女を捜しに出たと聞きました。

人間になれた母はアヴァロンには戻らずクリスタルパレスに留まったのです」

「なぜ? 人間になれたのにーー」

「父が心配して捜しに来てくれると信じていたのです。 しかしーーその後何年経っても父は母を捜しに行かなかったそうです。
そしてーー魔女狩りにより亡くなったと聞いてます」

アーサーは、父親に対して怒りが込み上げてきたーー

「姉さんはその話を聞いてどう思ったんだよ」

アーサーは机をバァンと叩き立ち上がった。

「あなたと同じ気持ちになったわよ。 そしてこのアヴァロンに乗り込んだ事もあったわよ」

ミランダは溜め息をついて落ち着いた表情をしたーー

「ーーだけどね、アーサー。 父は父でやらなければならない事や国を離れられない理由などたくさんあるのよ」

「自分の愛した人が居なくなって探さない人がいるのかよ。 全てを犠牲にしてでも探すだろ? 俺なら絶対捜す、見つけ出すよ必ず! 」

「じゃあ何万人の命がかかっていても犠牲に出来るの? 今みたいに円卓会議もなければ円卓の魔導士もない魔法騎士団も設立されてない時代に父がアヴァロンを抜ければ国は滅びてしまうかもしれない。 帝国や悪魔族の標的にされていてとても捜しに行ける状況ではなかったそうよ。それでも懸命に居場所だけは突き止めいたーーいつか必ず迎えに行く、それまで待っていてくれと伝言を伝えて」

「迎えに行く前に魔女狩りーー」

アーサーは、顔を歪めたーー

「そうよ。 父は今でも帝国に復讐を考えているわ」

足を組み替えて溜め息をつくミランダ。

「第一次悪魔大戦で帝国の依頼を受けてデーモンズゲートを封印したのにも関わらず帝国は恩を仇で返す形でクリスタルパレスで魔女狩りを行う暴挙に出たーーこれにより父は本格的な武力化を図りにきたのよ。それが魔法学校の設立や魔法騎士団の設立、全ては帝国復讐の為の武力の底上げ」

静まり返りる休憩所ーー

「本当の真実は本人にしか分からないわ。知りたければフリーバトルトーナメントで優勝して直接本人に聞きなさい。ほとんど表に顔を出さない人だからチャンスはそこだけと思った方が良いわよ」

ミランダは立ち上がると振り返らず手を振りながらそのまま休憩所を出て行ったーー

まだ話の整理がいまいちつかないまましばらくみんな黙って座っていたーー

その間にフリーバトルトーナメントグループ予選はIグループリリスの出番となっていた。

アーサーはリリスに話かけようと思ったが既に彼女は予選出場のため姿を消していたーー



ーー シーサーの思惑を知ったアーサーは ーー
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