ショートショートホラーミステリー小説集

キタさん

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2人の女

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まず、真っ赤なコートを着た30代の女が口を開いた。

「……あなた、彼が妻子持ちだと知ってたの?」

次に、ベージュのコートをまとった20代女が答えた。

「……はい、立場上、知っていましたが、ズルズルと……あなたはどうだったのですか?」

30女は軽く笑い、唇を噛み締めた。

「……私も知ってたけど、あいつは女たらしだったから、妻子がいようと、全く関係無かったわね。私の周りの水商売仲間もたらし込まれてたわ。しかも1度切りでポイ捨てよ。だから、私はまだましだった訳なのよ」

20女は頷いた。

「……そうですか。あ、ところで、私があの人と一緒にクラブへお邪魔した時は、あなたがママさん顔負けの身のこなし、気配りをされていたのを見て、私、凄いなぁと思いましたわ。それで、ママさんが引退するから、次のママさんにあなたを推薦していたことをあの人から聞き、なるほどと頷きましたよ。それなのに、あの人ったら、あなたのような女性を邪険に扱って、ひどい話です……」

30女はまた笑った。

「有難う。率直に嬉しいけど、ママにしてやるって言ったのは、私に対するエサだったのよ。そうそう、あなたこそ、あいつとクラブへ来た時、若いのに、そつの無さや立ち回りに感心したものよ。やっぱり社長秘書ってこういう人がならなくちゃ、私には到底無理だって思ったもの。でも……」

20女は少し照れながら、言った。

「有難うございます……でも、まさか私たちがあの人の囲われ者だったなんて、お互い、考えもしなかったですよね」

30女は大きく頷いた。

「私が言いたかったのもそこよ。大会社の社長だから、愛人の1人や2人いてもおかしくないと思ってはいたし、その1人が私だった訳だけど、まさか、あなたもとはね……」

20女も頷いた。

「私、あの人を信じていましたから、私以外にはいないと思っていましたけど、あなたもそうだったと知った時は正直、驚きました……だってあの人、ホステスとは付き合わないって言っていましたしね」

30女はフーンと言った。

「あいつ、そんなこと、言ってたんだ……夜の世界に足しげく通っていたくせに、そんな嘘ついて、本当、馬鹿にした話よね。ま、あなたも騙されていたことになるけど、あなたみたいな純粋な人を騙すなんて、あいつ、本当、外道ね。急に私のことで呼び出された時は驚いたでしょ?」

20女は恐縮した。

「……その通りです。あの人、奥さんに知られそうになったから、仕方無かったって言っていましたけど、本当、身勝手な話ですね。私、あなたに申し訳ないことをしましたわ……」

30女は否定した。

「いいえ、あなたは立場的にするしかなかったのよ。でも、私よりあなたにひどいことをしたわ、あいつ……あなた、びっくりしたでしょ?」

20女は少し顔をうな垂れた。

「……まさかと思いました。でも、自業自得です。私が拒否すれば良かっただけの話でしたから……」

30女は首を横に振った。

「ううん、やっぱり秘書としても出来なかったはずだし、私と同じくあいつに丸め込まれていた訳だから……」

20女はさらにうな垂れた。

「……でも、私、少しホッとしたかも知れないんです。あなたがいなくなって、あの人を独占出来るって……でも」

30女はすかさず言葉を突っ込んだ。

「あなたもあいつの手の内にあったって訳よね……とにかくひどいわ、鬼畜よ」

20女は軽く頷いた。

「……確かにそうですね。だけど、元はと言えば、あの人があなたにあんなことをしなければ、こんなことにはならなかったはずですから……」

30女も頷いて、キッパリと言い切った。

「……まぁ、そうね。いずれにしても、あなたも私もあいつのせいでこうなったのだから、もっととっちめてやりたいわね……」



婿養子であった会社社長の男は、金持ちの妻に浮気がバレそうになったため、離別されて、文無しになるのを恐れ、愛人だった高級クラブのホステスをホステスが住むマンションの一室で殺害した。

その後、1人で処置するのはたいへんだと考え、やはり愛人だった秘書を呼び出し、車でやって来た秘書にホステスの遺体を片付けるのを手伝わせた。

社長は絞殺したホステスを自分の車のトランクに乗せ、あたかもホステスが失踪したかのように見せかけるべく、秘書にホステスの衣服などをバッグに詰めさせて、遺体と一緒にバッグを山林に埋めるべく、車を走らせた。

やがて山林に着き、秘書に持って来させたスコップを使い、ホステスの体を埋めるべく、社長と秘書は穴を掘った。

掘り終わると、社長はトランクから運び出したホステスを、秘書はホステスの衣服などが入ったバッグをそれぞれ穴に放り込んだが、その直後、社長はやはり愛人だった秘書をも絞め殺し、ホステスとともに穴に埋めた。

どうやら社長は、愛人だと発覚するのを恐れただけで無く、殺人の後処理まで手伝わせたため、秘書もホステスとともに始末しようと思っていたらしい。

そして、何食わぬ顔をし、社長は帰宅したが、翌朝、寝床で死体、しかも殺害されたと見てまず間違いない姿となって発見された。

その殺され方は無惨で、首が完全に胴体から切り離されていた。

しかし、首を刃物で切断した形跡は全く無く、解剖などの結果、凄まじく強い力で絞めたため、もげたらしいという衝撃的な事実が浮かび上がったのだった。



30女のホステスはウフフと笑った。

「……あいつの驚きよう、見た?まさか、あなたと私がよみがえったなんて、思いも寄らなかったでしょうからね……でも、疲れたわね。あなたがいなかったら、あいつの首は取れなかったわ……」

20女の秘書も笑みを見せた。

「……ええ、とくと拝見しましたわ。この世のものとは思えない顔をしていました……あ、私たちもこの世にはいないんでしたね。首が取れたのは、私たちの力強い怨念の成せる技だったのかも知れませんね」

2人は顔を見合わせて、再び笑った。

「……じゃあ、今度はあの世であいつを苦しめてやりましょ」

「あ、でも、あの人、私たちと違って、地獄に行ったかも知れませんわ……ん、私たちもあの人を殺したから、地獄行きなのかしら?」

「それなら好都合よ。今度はあいつの体をバラバラにしてやりましょ……」

そう言って、2人は何処へと姿を消して行った。
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