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ある夫婦の日常

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「体の具合、どうだい?」

寝込んでいる私を見て、心配そうな彼。

私たちは同棲を始めて半年が経つが、子供の頃に比べて少食な私はあまり食事を摂ることが出来ず、衰弱した私は風邪をひいてしまい、布団の中にいた。

熱があり、体が気だるい私は仕事から帰って来た彼の姿を見て、少し元気になった。

「…ううん、あまり変わらないけど、あなたの顔を見たら、何だか力がわいた感じがする」

彼は、そうか、良かった!と笑顔で言ってくれた。

私はよいしょと言って、起き上がり、食事を作ろうとしたが、俺がやるよという彼の一言が嬉しかった。

「待ってろな」

彼はニコニコ笑いながら台所に立ったが、料理が得意では無い彼がフト心配になった。

やがて、鼻についたにおい…うわー、くさ…くは無かった。

このにおいは私が子供の頃からよく嗅いでいる食事の時のものだ…しかし、彼には一度も我が家の料理を食べて貰ったことは無いし、私も味のことを話した覚えも無い。

ということはたまたまなのだろうか、やっぱり彼とは相性がいい…またもや嬉しくなった私はウキウキしながら、待っていた。

すると、心なしか少し回復したように感じた私は、どれどれと思い、ドキドキしながら、そっと彼の背後から近付いた。

すると…これはやっぱり我が家と同じにおいのする料理ではないか!

熱々なシチューも、ハンバーグも、串焼きも…有難う!

そっと私は後退りして、布団の上に座り、知らない振りをした。

気付くと彼はいつの間にかマスクを着けていた…あ、私も着けなきゃと思ったが、これから食事だものね。

彼は笑顔…では無く、苦み走った顔で簡易テーブルまで運んでくれた。

「あのさ、体調が悪いから、こういった物は食べたくないだろ…良ければ、フルーツも買ってきたから、それを食べ…」

「頂きまーす!」

私は体調のことはすっかり忘れて、彼が話し終わらぬうちにムシャムシャと食べ始めた。

彼は唖然としていた。

きっと私がかなり早いペースで食べていることに驚いているのだろう。

しかし、彼からは思いも寄らない言葉が発せられた。

「そ、それ、美味しいの?」

「うん、何で?」

「いや、何でもない…」

私は口の周りを汚しながら、凄く美味しいよ!と言うと、彼はトイレに駆け込んだ。

やがて、トイレから青ざめた顔で現れた彼を問い詰めた。

彼は病院勤務で、物凄くイタズラ好き。

何と、今日亡くなった患者を内緒で解体し、持ってきたらしいのだが、私が肉は食べないと思って、油断していたらしい。

ん、そうなると、この肉は…。

ということは私、子供の頃からずっと食べてたんだ…。

じゃあ、お父さんもお母さんも苦労して用意してくれたんだね…私は感動で涙が出そうになった。

あ、すっかり体の調子は良くなったようだ。

「あなた、いらないの?」

今度は彼が寝込むことになったが、彼は料理は作らなくていいよと念を押したのだった。


「お、うまいじゃん!」

「でしょう!」

あれから3ヶ月が経ち、妻となった私は夫たる彼に懇願して、無理矢理食べさせたら、何と彼も気に入ってしまったのだ。

彼はニコニコして言った。

「…で、この肉、どこで手に入れたの?」

私は少し膨れっ面をした。

「そんな野暮なこと聞いちゃ駄目よ!…私の両親もたいへんな思いをして、私のために…」

私は自然と涙が出た。

彼は、ごめんと謝って、ゆっくりと言った。

「…だけど、食べられない部分をゴミに出すのはまずいから、どこかの焼却炉に捨てような…本当、節約出来るし、良かったよ!あ、そうそう、さすがに職場には持って行けないので、仕出し屋の弁当を食べてるんだけど、この味を知っちゃうと食べられたもんじゃないね…これからはお歳暮に贈れるね。ま、ハムとでもしておけば分からないよ」

何て素晴らしい人なんだ!

私はたまらなくなって抱き付いたが、彼のにおいを嗅いで、感動した。

「あなたの肉って、凄く香ばしいにおいがする…ねぇ、もしあなたが死んだら、私、食べていい?」

「もちろん!君のも美味しそうだから、僕もいいかな?」

「当たり前よ!これがお互い様の精神てやつかしら…あ、そうそう、前にも言ったけど、女の私だと、眠らせないと車まで運んで来れないから、また病院から睡眠薬の拝借、お願いしていい?」

「もちろん、だけどさ、無理すんなよ。俺がやるからさ」

「大丈夫!…ただ、レンタカー代、上がっちゃったから、お小遣い、減らしていいかな?」

「…分かった、いいよ!」

優しいな…私たちは夫婦の日常会話を終えると、物置きから彼が出して来た「肉の塊」を細かくするため、風呂場に入ろうと、服を脱いだ。

息がピッタリな私たち…これからも仲良くやっていけるに違いなかった。


(*Prologueに投稿したものです)
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