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③十年越しの涙。そしてまた俺たちは歩き出す。
十年越しの涙。そして俺たちはまた歩き出す。3
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なんでモヤッ? 有難い話じゃないか。世話をする必要がなくなるんだ。別に友達でなくなる訳でもない。幼馴染であることには変わりはないんだし、隣の家だ。大人になろうが、おそらく実家へ戻ったり、とか会う機会はいつまでもある。うんうん、良い距離感になるんじゃないか? そうだよ。ただ……ただ少し一緒にいる時間が減るだけだ……。
そんなことを考えながら教室へと戻り、しかし、なにやらソワソワとしながら次の授業の準備をした。
琉人はなかなか帰って来ず、次の授業の鐘が鳴る直前に帰って来た。先程のことを知っているクラスメイトは皆がソワソワとし、琉人を目で追っていた。俺もチラリと目で追ってしまう。琉人の表情はいつもと変わりがなかった。相変わらずの無表情のまま席へと着いていた。
授業が終わり休憩時間へと入ると、皆が一斉に琉人の席へと群がった。矢継ぎ早に先程のことを聞いている。しかし普段琉人を怖がって近寄って来ないやつらまでもが集まって来たことに不快に思ったのか、琉人はガタッと立ち上がる。皆はビクッとし、顔を引き攣らせていた。
琉人はスタスタと俺の傍までやって来ると、俺の前の席へとドカッと座った。前の席だった奴はその様子を見ながら「お、俺の席……」と呟いているのが聞こえたが、琉人の黒いオーラにビビり、目が泳いでいた。
「だ、大丈夫か?」
「…………」
完全にムッとしてしまった琉人は不機嫌そのものだった。
「そ、その……ごめん、俺もお前が告白されてるって聞いて、ちょっとだけ姿を見た……」
相変わらず不機嫌なままの琉人は俺をチラリと見た。琉人のその視線は睨むような、しかし困っているかのような複雑な表情だった。
「どうすんの? あの子と付き合うのか?」
「……断った、んだけど……」
「だけど?」
「お試しで良いから付き合ってって食い下がられて……」
「お、お試し……?」
俯きぼそぼそと話していた琉人は、チラリと上目遣いに俺を見た。
「うん……一ヶ月で良いからお試しで付き合ってから判断してって……自分のことを知ってもらってから、それでも駄目なら諦めるからって」
お、おぉ……かなり強気な子なんだな……。
「で、でもいつもみたいに「好きな子がいる」って断ったんだろ?」
「うん……それでも良いからって。その好きな子とまだ付き合う予定ないんでしょ?って」
深い溜め息を吐きながら項垂れた琉人は俺の机に突っ伏しながら、横目でチラリと俺を見上げる。そのなんとも言えないアンニュイな姿に女子たちがキャイキャイ言っているのが聞こえる。周りでは明らかに皆が聞き耳を立てているのが分かるし、このままここで話して良い内容なのか心配になってくるが……でも、俺も気になるんだよな……。
「で? そのお試しとやらで付き合うのか?」
「んー…………」
肯定なのか否定なのかよく分からない返事のまま、琉人は再び机に突っ伏したままくぐもった声で言った。
「蒼汰はどう思う?」
「えっ……どう思うと言われても……」
俺がどうこう言える問題ではないような……。そう考えあぐねていると授業の鐘が鳴ってしまった。俯いたままむくりと立ち上がった琉人は、俺の顔を見るでもなく自分の席へと戻って行った。顔を背けられその表情は見えず、なんだか怒っているようにも思えて……俺はどう返事をするのが正解だったのかと、去って行く琉人の背中を見詰めるだけだった。
今日最後の授業が終わり、慌てて琉人の元へと駆け寄ろうとすると、ひとりの女子に呼び止められる。
「あ、春野くん、今日実行委員会あるからね! 帰っちゃ駄目だよ」
「えっ、あっ! 忘れてた!」
「ちょっとー、忘れないでよ。連帯責任になるんだからね!」
本気で怒っている訳でもないだろうことはすぐに分かる。言葉は怒っているような台詞だが、表情は呆れたように笑っているだけだ。佐々木加奈。秋に行われる学祭、体育祭と文化祭の実行委員。半ば無理矢理に決定された俺と佐々木さんは、学祭の実行委員として会議やらに参加するはめになっている。
うちの学校は一日目に体育祭、二日目三日目に文化祭、という特殊な日程で行われる。そのせいでかなり忙しい実行委員のため、クラブに所属している奴は無理だろうということで帰宅部の奴が無理矢理させられるというのが通例らしい。なんともはた迷惑な。
佐々木さんに「行くよ」と腕を掴まれ促される。俺は慌てて琉人の姿を探した。さっきの話の続きをしたかったんだよ!
しかし、琉人はもうすでに鞄を持ち、教室を出ようとしていた。
「りゅ、琉人!! 後で家に行くから!!」
琉人の背中にそう叫ぶと、琉人はチラリと俺を見たが、しかし、すぐさま顔を逸らし帰って行ってしまった。な、なんなんだよ……なんか怒ってる? いや、怒られる意味は分からんし……。
「ほら、春野くん!!」
「あ、あぁ、ごめん」
腕を引かれ、佐々木さんに引き摺られるように廊下を歩いた。
「ちょ、いい加減離してくれよ。自分で歩けるから」
いつまでも腕を引っ張られ続けて、なんだか連行されている気分になるっつーの。
「あ、あぁ! ご、ごめん!」
佐々木さんはなにやら顔を赤くし、慌てて手を離した。あわあわとしている姿にクスッと笑い、他愛もない話をしながら会議室へと向かう。
そんなことを考えながら教室へと戻り、しかし、なにやらソワソワとしながら次の授業の準備をした。
琉人はなかなか帰って来ず、次の授業の鐘が鳴る直前に帰って来た。先程のことを知っているクラスメイトは皆がソワソワとし、琉人を目で追っていた。俺もチラリと目で追ってしまう。琉人の表情はいつもと変わりがなかった。相変わらずの無表情のまま席へと着いていた。
授業が終わり休憩時間へと入ると、皆が一斉に琉人の席へと群がった。矢継ぎ早に先程のことを聞いている。しかし普段琉人を怖がって近寄って来ないやつらまでもが集まって来たことに不快に思ったのか、琉人はガタッと立ち上がる。皆はビクッとし、顔を引き攣らせていた。
琉人はスタスタと俺の傍までやって来ると、俺の前の席へとドカッと座った。前の席だった奴はその様子を見ながら「お、俺の席……」と呟いているのが聞こえたが、琉人の黒いオーラにビビり、目が泳いでいた。
「だ、大丈夫か?」
「…………」
完全にムッとしてしまった琉人は不機嫌そのものだった。
「そ、その……ごめん、俺もお前が告白されてるって聞いて、ちょっとだけ姿を見た……」
相変わらず不機嫌なままの琉人は俺をチラリと見た。琉人のその視線は睨むような、しかし困っているかのような複雑な表情だった。
「どうすんの? あの子と付き合うのか?」
「……断った、んだけど……」
「だけど?」
「お試しで良いから付き合ってって食い下がられて……」
「お、お試し……?」
俯きぼそぼそと話していた琉人は、チラリと上目遣いに俺を見た。
「うん……一ヶ月で良いからお試しで付き合ってから判断してって……自分のことを知ってもらってから、それでも駄目なら諦めるからって」
お、おぉ……かなり強気な子なんだな……。
「で、でもいつもみたいに「好きな子がいる」って断ったんだろ?」
「うん……それでも良いからって。その好きな子とまだ付き合う予定ないんでしょ?って」
深い溜め息を吐きながら項垂れた琉人は俺の机に突っ伏しながら、横目でチラリと俺を見上げる。そのなんとも言えないアンニュイな姿に女子たちがキャイキャイ言っているのが聞こえる。周りでは明らかに皆が聞き耳を立てているのが分かるし、このままここで話して良い内容なのか心配になってくるが……でも、俺も気になるんだよな……。
「で? そのお試しとやらで付き合うのか?」
「んー…………」
肯定なのか否定なのかよく分からない返事のまま、琉人は再び机に突っ伏したままくぐもった声で言った。
「蒼汰はどう思う?」
「えっ……どう思うと言われても……」
俺がどうこう言える問題ではないような……。そう考えあぐねていると授業の鐘が鳴ってしまった。俯いたままむくりと立ち上がった琉人は、俺の顔を見るでもなく自分の席へと戻って行った。顔を背けられその表情は見えず、なんだか怒っているようにも思えて……俺はどう返事をするのが正解だったのかと、去って行く琉人の背中を見詰めるだけだった。
今日最後の授業が終わり、慌てて琉人の元へと駆け寄ろうとすると、ひとりの女子に呼び止められる。
「あ、春野くん、今日実行委員会あるからね! 帰っちゃ駄目だよ」
「えっ、あっ! 忘れてた!」
「ちょっとー、忘れないでよ。連帯責任になるんだからね!」
本気で怒っている訳でもないだろうことはすぐに分かる。言葉は怒っているような台詞だが、表情は呆れたように笑っているだけだ。佐々木加奈。秋に行われる学祭、体育祭と文化祭の実行委員。半ば無理矢理に決定された俺と佐々木さんは、学祭の実行委員として会議やらに参加するはめになっている。
うちの学校は一日目に体育祭、二日目三日目に文化祭、という特殊な日程で行われる。そのせいでかなり忙しい実行委員のため、クラブに所属している奴は無理だろうということで帰宅部の奴が無理矢理させられるというのが通例らしい。なんともはた迷惑な。
佐々木さんに「行くよ」と腕を掴まれ促される。俺は慌てて琉人の姿を探した。さっきの話の続きをしたかったんだよ!
しかし、琉人はもうすでに鞄を持ち、教室を出ようとしていた。
「りゅ、琉人!! 後で家に行くから!!」
琉人の背中にそう叫ぶと、琉人はチラリと俺を見たが、しかし、すぐさま顔を逸らし帰って行ってしまった。な、なんなんだよ……なんか怒ってる? いや、怒られる意味は分からんし……。
「ほら、春野くん!!」
「あ、あぁ、ごめん」
腕を引かれ、佐々木さんに引き摺られるように廊下を歩いた。
「ちょ、いい加減離してくれよ。自分で歩けるから」
いつまでも腕を引っ張られ続けて、なんだか連行されている気分になるっつーの。
「あ、あぁ! ご、ごめん!」
佐々木さんはなにやら顔を赤くし、慌てて手を離した。あわあわとしている姿にクスッと笑い、他愛もない話をしながら会議室へと向かう。
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