【完結】呪われ王子は生意気な騎士に仮面を外される

りゆき

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28-1 ディークの願い

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 翌日、ディークはセルヴィの執務室にいた。真面目な顔付きのディークにセルヴィは怪訝な顔をする。

「ど、どうした?」

 ディークは笑顔を向ける。しかし、なにやら眉を下げ複雑そうな笑顔でもある。セルヴィはそんなディークがなにを言おうとしているのか不安になった。

「殿下の痣も全て消えたようですし、今日からしばらく触れ合わない期間を設けてみましょう」
「え!?」
「一週間ほど触れ合わない日を設けて、完全に呪いが消えたのか、痛みや痣が再発しないかを確認するんです」
「ディークは……私と触れ合うのは嫌になったのか……?」

 しゅんとした態度でセルヴィは上目遣いにディークを見た。そんなセルヴィの姿に苦笑する。

「そんな訳ないでしょ。俺は殿下のことが好きだと言いましたよね? 好きな相手と触れ合いたくないとかある訳ないでしょ」

 ディークがムスッとした顔をするとセルヴィは焦る。あわあわと焦っているセルヴィにディークはプッと噴き出し話を続けた。

「永遠に触れ合っていないと呪いを抑えられないのでは意味がない。完全に呪いが消えていないと意味がないんですよ。今後触れ合わずとも過ごせるかどうかの確認のためにも必要です」

 ディークはセルヴィの頬に手を伸ばそうとしてハッとする。そしてグッと手を握り締め、その手を下ろした。

(フッ、俺のほうが我慢出来るのかが問題だな)

 俯くセルヴィにディークはからかうようにニッと笑って見せた。

「寂しいですか?」
「!? さ、寂しくなんか……!」
「俺は寂しいです」
「!?」

 セルヴィは一気に顔を赤くし、そんなセルヴィの姿にディークは笑う。

 ディークのからかいにセルヴィがムッとしていると、部屋の扉を叩く音がし、ロイスが声を掛けてきた。
 いつもの仕事を持って来たようだ。

「では、俺はちょっと外しますね」
「え?」

 外へ出ようとしたディークの服の裾を掴んだセルヴィは不安気な顔で見詰めていた。

「どこへ行くんだ?」
「んん!? え、いや、トルフさんにちょっと用事があるだけですよ。すぐに戻ります」

(な、なんだ、この可愛いの! キスしたくなるだろうが! 嫌がらせか!? 嫌がらせなのか!? 触れ合いをやめようって言ったことに対する嫌がらせか!?)

 ディークは自身の服を掴むセルヴィの天然魔性さに心の中でつい悪態をつくのだった。「うぐっ」という変な音を喉で鳴らし、乾いた笑いを浮かべながら、セルヴィの縋るような目に後ろ髪を引かれるまま部屋をあとにした。

 ロイスと入れ違いに部屋を出たディークはトルフを探す。城のなかを歩くディークは自身の手を見詰め握り締めた。にぎにぎと何度か握り締め、そして一息吐くと、顔を上げ決意を固めるような表情を浮かべた。

 そしてトルフを発見すると、二人きりで話せるところへ移動し、そしてトルフにあることを頼む。トルフは驚いた顔をしたが頷き、真剣な目を向けた。そしてそのまま二人で再びセルヴィの部屋へと向かった。

 セルヴィの部屋で対面したディークとトルフ。セルヴィは怪訝な顔。トルフは胸に手を当て、頭を下げた。ベテラン執事らしい、綺麗なお辞儀。

「殿下、トルフさんに少しお願いしたいことがありまして、何日か不在を許してもらいたいのです」
「トルフに?」
「はい」
「トルフは大丈夫なのか?」

 セルヴィはトルフに向かって聞いた。頭を下げていたトルフは顔を上げ、姿勢を戻すとニコリと微笑んだ。

「私の問題は全くありません。毎日の仕事もロイスが最近は頑張ってくれていますし、大丈夫でしょう。ディークさんからのご依頼の仕事を優先させてください」
「…………」

 トルフの発言に、なにやら訝し気なセルヴィだが、チラリとディークを見ても微笑むだけ。内容を聞いてもおそらく答えないのだろう、ということは容易に想像がつく。セルヴィは溜め息を吐きながらも頷いた。

「分かった」
「ありがとうございます」

 ディークとトルフは顔を見合わせ、意思を確認するように頷いた。



 そうして何日もディークとセルヴィは触れ合わない日々が続く。毎日顔を合わせ、体調の変化はないかの確認はある。しかし、ディークは一切セルヴィに触れることはなかった。話はするが、手にすらも触れない。
 セルヴィは自身の呪いが消えたことが信じられなくもあり、しかし、今まであれほど苦しんでいたのが嘘のように、今は全く何事もないことに不思議な感覚となっていた。

 しかし、夜一人で眠るベッドは冷たく広く、そして、寂しい。身体を小さく縮め、丸くなって眠る。そんな日が続いた。

(寂しい……ディークがいないとこんなにも寂しい……私は……ディークのことが……)

 泣きそうな気分になりながら眠りに就く。呪いが消えても独りでは意味がない。セルヴィはディークのことを想うと胸が締め付けられるのだった。


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