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7-2 あっちの悶々とこっちの悶々

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 ディークはセルヴィの顔を見詰め、少し落ち着き出したのか苦痛の表情が治まって来たことに安堵する。そして無意識にセルヴィの頬にすりっと指を這わせた。

「ん……」

 セルヴィはその感触に反応したのか、なにやら色っぽい声を上げ、ドキリとする。ディークは我に返るとガバッと立ち上がり、バスルームから水で濡らしたタオルを持ってくると、セルヴィの汗ばんだ額や首を拭いていった。

 そのたびになにやらセルヴィからは色っぽい声が漏れ、ディークは必死に聞こえないふりをした。

(く、くそっ。なんなんだよ、この王子! 無駄に色気を振り撒きやがって! 別に俺は男なんか好きじゃねー!)

 悶々としながら、最近はめっきりご無沙汰になっている下半身が疼き出しそうなことに焦る。男に反応しそうな己に茫然としつつ、ディークは冷静さを取り戻そうと必死だった。


 朝方までセルヴィの傍にいたディークは、己の下半身と戦い勝利した。

(やりきったぞ、俺は! 自分に勝利した! ……て、アホか、戻ろ……)

 危うく自ら男を捨てるはめにならずに済んで良かった、とげっそりしながらディークはセルヴィの落ち着いた寝顔を見届け部屋をあとにした。





 セルヴィは朝陽が瞼を照らし、眩しさで目が覚める。いつもよりも身体が重く、気だるげにベッドからから身体を起こす。なにやら酷く身体が疲れている、と自身の腕を触るとぎょっとする。

(昨夜の服のままだ)

 慌てて自身の姿を確認すると、昨夜仕事を終えたときのことを思い出す。

(昨夜はいつもよりも痛みが強くて……そうか倒れ込んだ…………ディーク!?)

 ぼんやりと思い出したディークの顔にセルヴィは慌てて顔を触った。そして仮面が自身の顔にあることに安堵する。

(あれは、夢か? 確かディークがいたような……)

 苦しみのなか意識が途切れ途切れとなり、はっきりと思い出せない。服を着たままベッドにいるということは自分で潜り込んだのか、それともディークに運ばれたのか、セルヴィは不安になった。

(あの無礼なやつなら勝手に仮面の下を覗こうとしそうだ……見られたのだろうか……誰かに言うだろうか……)

 セルヴィは自身のあやふやな記憶の通り、ディークが昨夜現れたのか、仮面の下を覗かれてはいないか、それが気になった。

 なんとか重い身体を動かし、風呂へと入り着替える。そして朝食のため食堂へ向かったが、使用人たちがディークからなにか聞いていないかと不安になる。顔には出さないが内心緊張しながら食堂の席へと着く。

 しかし、トルフもロイスも普段となにも変わることなく給仕していく。もしやあれは夢だったのか、とディークがいたことを否定しようとしていた。

「トルフ……」

 セルヴィに呼ばれたトルフは驚いた顔をしたが、特に変わった様子もなく返事をした。

「いかがされましたか?」
「な、なにかディークから報告はあったか?」
「? ディーク様からですか? いえ、なにも……」
「そうか、ならいい……」
「なにかありましたか?」
「いや、なにもない」

 セルヴィは怪訝な顔のトルフに悟られないよう、知りたいことだけ問うと、すぐさま食堂をあとにした。

(なにも話していないのか? あいつはいなかったということか? いや……しかし……)

 ディークはいなかった、と断言出来るだけの自信がなかった。

(なぜかあいつに触れられたような気がする……)

 痛みと苦しみのなか、なぜか途中から少し楽になったような気がしていた。普段ならば一度痛み出すとしばらくは治まらない。それをセルヴィは不思議に思った。ディークが傍にいたのではないか、という考えが、どうしても頭から離れない。

(ディークが傍にいたからといってあの症状が治まるわけではないはずだ……しかし……なぜこんなにも気になる……)

 セルヴィは昨夜のことを問い質そうとディークを探しに行ったのだった。


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