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7-1 あっちの悶々とこっちの悶々
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慌てて駆け寄ったディークは、セルヴィの様子を確認する。よろけて机の上に手を付いたのか、書類が床に散らばってはいるが、セルヴィ自身には見たところ怪我はないようだ。
周りを見回しても窓が破られたりはしていない。賊が入った訳でもなさそうだ。ディークは一通り確認すると、セルヴィをそっと仰向けにし、上半身を抱き起した。
「殿下、大丈夫ですか?」
セルヴィは苦しそうに脂汗をかきながら呻いている。セルヴィは薄っすら意識を取り戻し、目を見開いた。そしてディークの姿を目にすると、ディークを思い切り突き飛ばす。
「で、出ていけ!!」
必死に自身の身体を支えながらそう叫ぶセルヴィ。体調が悪いだろうということは一目瞭然なのに他人の手を拒む。誰も呼ぼうとしないということはいつものことなのか。ディークは溜め息を吐く。
「はいはい。殿下が無事ベッドへ入るところを見届けたら出て行きますよ」
呆れるようにそう言ったディークは、セルヴィが睨もうが気にしない。セルヴィはなんとか立ち上がろうとするが、苦痛に顔を歪め、再び倒れ込む。
仕方なくディークはセルヴィを抱き上げた。驚き目を見開いたセルヴィは暴れるが、ディークの力に勝てる訳もなく、がっしりと抱えられ運ばれる。
「私に触るな!!」
泣きそうな表情で叫ぶセルヴィにディークは怪訝な顔をする。
(そこまで嫌か?)
そんなにも嫌われているのか、とディークは溜め息を吐いた。人嫌いとは聞いているが、それにしてもこの過剰なまでの拒絶。自身の体調が悪いときも他人の手を借りようとしない。なぜそこまで他人を拒絶するのか、ディークは気にはなったが、しかし他人に深入りするとロクなことにならない、と無理矢理にでも考えることをやめた。
セルヴィを横抱きに抱えたまま、ベッドルームへと運ぶ。最初は抵抗しようと暴れていたセルヴィだが、敵わないと思ったのか、それとも苦痛の表情の通り、身体が言うことを利かないのか、抵抗することをやめた。
ディークはそんなセルヴィを見下ろし、薄っすらと額に汗が浮かぶ姿を見ると思わず緊張する。セルヴィの汗ばんだ額がディークの頬に触れる。力が入らなくなってきたのか、セルヴィはディークの首元に顔を埋めた。熱い吐息が首元にかかりびくりとする。
(男のくせに軽いな。しかもなんか良い匂いが……)
騎士として筋肉質なディークと比べ、圧倒的に柔らかい。女性よりは明らかに男の身体付きなのは分かるのだが、ディークよりも背も少し低く、騎士と比べ明らかに筋肉量の少ないセルヴィは、ディークからしたら女性とさほど変わらないな、という認識だった。
中性的な美しい顔と予期せぬ良い香りが鼻孔を擽り、セルヴィが自分の腕のなかに収まっていることに対して妙な気分になりそうでディークは慌てた。
急いでベッドルームに運び、ベッドへと横たわらせる。
「トルフさんを呼んで来ますね」
苦しむセルヴィが聞こえているのか分からなかったが、そう言い部屋をあとにしようとすると、セルヴィはディークの服を掴んだ。
「やめろ……」
小さく力なく呟くとセルヴィはディークの服を掴んだまま意識を手放した。
どうしたものかと思ったが、トルフには知らせたくないのだ、と理解したディークは仕方なく自身でセルヴィの様子を見守った。握られた服をそっと離し、額の汗を拭ってやるとセルヴィは呻きながら横を向いた。
苦しそうな姿に思わず仮面に手を伸ばす。
(仮面を外したらさらに神々しいのだろうか……)
普段ならそんなことを考えるような人間でもないディークが、このときはまるで魅入られたかのように思考が働かず、ぼんやりと無意識に手を伸ばしていた。
指先がほんの少し仮面に触れ、ビクッと手を止めた。急激に冷静さを取り戻し、焦って頭を振る。
(な、なにやってんだ! 勝手に仮面に触れた挙句、勝手に外すとか絶対駄目なやつだろ!)
本来なら倒れた人間を少しでも楽にしてやるのならば、仮面など取ってしまうのが一番だろう。しかし、セルヴィの仮面にはおそらく意味がある。頑なに人前で仮面をしているのには、なにか理由があるのだろう。それならば他人が勝手に外して良いものではない。
誰にでも知られたくないこと、隠したいことはあるだろう……。ディークはグッと拳を握り締め、自身の頬を殴った。
「痛っ……俺にだって……」
(他人に知られたくないことくらい……ある)
周りを見回しても窓が破られたりはしていない。賊が入った訳でもなさそうだ。ディークは一通り確認すると、セルヴィをそっと仰向けにし、上半身を抱き起した。
「殿下、大丈夫ですか?」
セルヴィは苦しそうに脂汗をかきながら呻いている。セルヴィは薄っすら意識を取り戻し、目を見開いた。そしてディークの姿を目にすると、ディークを思い切り突き飛ばす。
「で、出ていけ!!」
必死に自身の身体を支えながらそう叫ぶセルヴィ。体調が悪いだろうということは一目瞭然なのに他人の手を拒む。誰も呼ぼうとしないということはいつものことなのか。ディークは溜め息を吐く。
「はいはい。殿下が無事ベッドへ入るところを見届けたら出て行きますよ」
呆れるようにそう言ったディークは、セルヴィが睨もうが気にしない。セルヴィはなんとか立ち上がろうとするが、苦痛に顔を歪め、再び倒れ込む。
仕方なくディークはセルヴィを抱き上げた。驚き目を見開いたセルヴィは暴れるが、ディークの力に勝てる訳もなく、がっしりと抱えられ運ばれる。
「私に触るな!!」
泣きそうな表情で叫ぶセルヴィにディークは怪訝な顔をする。
(そこまで嫌か?)
そんなにも嫌われているのか、とディークは溜め息を吐いた。人嫌いとは聞いているが、それにしてもこの過剰なまでの拒絶。自身の体調が悪いときも他人の手を借りようとしない。なぜそこまで他人を拒絶するのか、ディークは気にはなったが、しかし他人に深入りするとロクなことにならない、と無理矢理にでも考えることをやめた。
セルヴィを横抱きに抱えたまま、ベッドルームへと運ぶ。最初は抵抗しようと暴れていたセルヴィだが、敵わないと思ったのか、それとも苦痛の表情の通り、身体が言うことを利かないのか、抵抗することをやめた。
ディークはそんなセルヴィを見下ろし、薄っすらと額に汗が浮かぶ姿を見ると思わず緊張する。セルヴィの汗ばんだ額がディークの頬に触れる。力が入らなくなってきたのか、セルヴィはディークの首元に顔を埋めた。熱い吐息が首元にかかりびくりとする。
(男のくせに軽いな。しかもなんか良い匂いが……)
騎士として筋肉質なディークと比べ、圧倒的に柔らかい。女性よりは明らかに男の身体付きなのは分かるのだが、ディークよりも背も少し低く、騎士と比べ明らかに筋肉量の少ないセルヴィは、ディークからしたら女性とさほど変わらないな、という認識だった。
中性的な美しい顔と予期せぬ良い香りが鼻孔を擽り、セルヴィが自分の腕のなかに収まっていることに対して妙な気分になりそうでディークは慌てた。
急いでベッドルームに運び、ベッドへと横たわらせる。
「トルフさんを呼んで来ますね」
苦しむセルヴィが聞こえているのか分からなかったが、そう言い部屋をあとにしようとすると、セルヴィはディークの服を掴んだ。
「やめろ……」
小さく力なく呟くとセルヴィはディークの服を掴んだまま意識を手放した。
どうしたものかと思ったが、トルフには知らせたくないのだ、と理解したディークは仕方なく自身でセルヴィの様子を見守った。握られた服をそっと離し、額の汗を拭ってやるとセルヴィは呻きながら横を向いた。
苦しそうな姿に思わず仮面に手を伸ばす。
(仮面を外したらさらに神々しいのだろうか……)
普段ならそんなことを考えるような人間でもないディークが、このときはまるで魅入られたかのように思考が働かず、ぼんやりと無意識に手を伸ばしていた。
指先がほんの少し仮面に触れ、ビクッと手を止めた。急激に冷静さを取り戻し、焦って頭を振る。
(な、なにやってんだ! 勝手に仮面に触れた挙句、勝手に外すとか絶対駄目なやつだろ!)
本来なら倒れた人間を少しでも楽にしてやるのならば、仮面など取ってしまうのが一番だろう。しかし、セルヴィの仮面にはおそらく意味がある。頑なに人前で仮面をしているのには、なにか理由があるのだろう。それならば他人が勝手に外して良いものではない。
誰にでも知られたくないこと、隠したいことはあるだろう……。ディークはグッと拳を握り締め、自身の頬を殴った。
「痛っ……俺にだって……」
(他人に知られたくないことくらい……ある)
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