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20-2 秘密の地下室

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 ディークは改めて階段を降り、セルヴィの元へと戻った。

「なんなんですかね、この部屋……初代王妃ってこんな凄い仕掛けが出来る人だったんですか?」

 ディークは階段を降りながら、眼下に見えるセルヴィに向かって聞いた。

「初代王妃は、名前以外はなにも残されていなくて、よく分からないんだ。どこの出身なのか、元々貴族なのか、平民なのかすら分からない」
「え、そんなことあるんですか?」

 王妃にまでなった人物なのに、なにも記録が残っていないなんていうことがあるのだろうか。ディークは訝しむ。

「国王が記録を残さないように指示したのか、それとも本当にただの平民だから記録しようがなかったからなのか……」

 ふむ、とディークは顎に手をやり考え込む。

(こんな凄い仕掛けを造る人間がただの平民とは思えないしな……)

「この部屋も調べてみて良いですか?」
「そうだな、調べてみよう」


 そうやって頷き合ったところで、上からなにやら声がした。

「殿下、ディークさん、ここにおられますか? 昼食のお時間ですがどうされますか?」

「あ、トルフさん」

 そうディークが口にすると、慌てて階段を駆け上がる。

 扉の外でトルフが待機してくれていた。

「トルフさん、すまない。殿下は今行く。俺のはすまないがここに持って来てもらえないだろうか?」

 そう言ったそばからセルヴィが現れ、ディークの肩を掴む。

「ディークも共に昼食へ向かう。二人分用意を頼む」
「え!?」

 ディークはガバッとセルヴィに振り向くが、セルヴィはしれっとしている。
 トルフもそんなセルヴィに目を丸くしたが、そこはベテラン執事、すぐさま平常に戻る。

「かしこまりました。先に戻って用意をしておりますね」
「あぁ。頼む」
「え、ちょっ」

 ディークはセルヴィとトルフを交互に見るが、なぜか二人は何事もなかったかのように、すんなりと会話終了し、トルフは去って行った。

「え、あの……殿下? 俺はこのまま地下を調べようかと……」
「私と食事をするのが嫌なのか?」
「え、いや、そういう訳じゃなく……」

 じとっと上目遣いに睨むセルヴィにたじろぐ。

(な、なんで一緒に食事をする必要が……)

 そんなディークの心境を察したのか、セルヴィはディークの腕を掴み引っ張った。

「行くぞ。食事くらいゆっくり摂れ」

 そう言ってずんずん進むセルヴィに引き摺られる形で引っ張られるディークは小さく溜め息を吐いた。

(な、なんか皆に言われそうだから嫌なんだよ……とは言えない……)

 セルヴィの手を振り払う訳にもいかず、仕方がないので引かれるままに付いて行くディーク。
 案の定、ディークとセルヴィ、二人の姿を目にした使用人たちは驚きの顔となり、メイドたちは声にならない悲鳴を上げた。

 いつもセルヴィが食事をする食堂になぜかディークも共に座り、食事をする。トルフは終始にこにことし、嬉しそうな顔。ロイスは終始、目が零れ落ちそうなほど見開いたまま、給仕するたびにちらちらと二人を見比べる。
 イアンやノア、さらにはメイドたちにダンやザックまでもが厨房からこっそりと覗き、終始にやにやとしていることにディークは冷や汗を流しつつ、居心地の悪さを感じる昼食となった。

 セルヴィは分かっているのかいないのか、平然としたまま食事をしている。しかしずっと耳が赤いことに、この場にいる全員が気付いていたのだった。

「この後、また私も一緒に戻る」
「え、仕事は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」

 ディークはちらりとロイスを見るが、ロイスはトルフを見た。伝言ゲームのように繋がれた視線は、トルフの満面の笑みで終了した。
 トルフは頷き、なにやらやたらと嬉しそう。ディークは苦笑しつつ、あちこちからのなにやら嫌な視線がグサグサと突き刺さっていることに気付いたが……気付かないふりをした。

 食事を終え、二人で席を立つと、堪え切れていないメイドたちの声が聞こえ、さらにはニヤニヤと見詰められている視線を背中に感じながら、ディークはセルヴィと共に食堂をあとにした。

(あぁ……このあときっと厨房では大盛り上がりなんだろうな……)

 そんなディークの予想通り、食堂を出た瞬間になにやら騒がしい声が背後から聞こえて来たのだった。

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